2 臨時会議
「それでは、臨時魔族会議を始めたいと思います。こちら、テーミス殿の後任の・・・」
「あ、ええと」
「二代目テーミスとかでええわ。人間やろ、そいつ。人間の名前のやつにどうこういわれんのなんか癪に障るわ。名乗らんでええで。あんたの名前はテーミスでええ」
関西弁ドラゴンという属性はあまり聞いたことがない。
生粋の関西弁というわけでもなさそうなドラゴンが、冷たく言い放った。感じが悪いと悠介は思った。
だが、意外とこういう第一印象が悪い人物のほうがまともだったりするんだよな、とも思った。
「そうですね。一旦、二代目魔王様とご紹介します。」
「はい。事態がのみこめていませんが、みなさん現状はどうなっていますか?」
ウィズのフォローを受けて悠介は話し始めた。
全体で15,6人ほどの人外が部屋に集まっている。
悠介の言葉の後しばらくの沈黙があり、端の方に座っていた仙人のような老人が挙手した。
悠介が指名すると、老人が話し始めた。
「どうぞ」
「ふむ。5つあるうちのエンドポイントの1つは完全に破壊されとる。今年の勇者は噂通り恐ろしく強い。もう、2つ目のエンドポイントに向かっておる。あの勢いじゃと連中はここまでくるぞ。2つ目まではまあいいとして、どこかで止めねば大変な事になるのう」
(あとで解説しますので)
ウィズが悠介に耳打ちした。
「どこで止めるかという見当はあるのですか?」
悠介はそれっぽいことを言った。
わかっていなくてもわかったような感じを出して自信満々に発言するととりあえず会議の場は収まることがある。その可能性に賭けてみたのである。
「軍を出せばよい。いかに勇者が強いと言えども人間じゃから、中規模部隊を矢継ぎ早に送る事で進軍を遅らせることができる」
「待たんかい。今年の魔王軍にも軍を持つ将官はおるが、そのほかは軍など持っておらんただの魔族じゃ」
「その言い方は失礼だな」
「まあ間違ったことは言うとらんやろ」
魔族が勝手に言い合いを始めた。
集まったメンバーの中でも目を引く鳥人間が広島弁のような話し方だとは思わなかった。
ローブを羽織った鳥の顔の男、見た目こそ文官という感じだが絡み方は文官ではない。ヤ〇ザのそれである。
「軍を持っとる大半は去年とかその前とかの奴らで、軍を出すとなるとそいつらを引っ張り出してこないといけん。どうするんじゃ」
「ベニック、じゃがそうでもせんとエンドポイント防衛はできんというとるんじゃ」
「んなこたぁわかっとるわい。魔王さんや、どうするつもりじゃ」
「検討いたします」
「!」
時の政治家の切り札「検討します」を悠介は使った。
この言葉は魔法の言葉で、否定の意味も肯定の意味も持たない。ただ、考えてまた後で案を再提出します、という古典的で普遍的な返し文句である。
「あの、軍といえばシュネイは?」
「あいつはこんやろ。あいつがおるだけで今年はハズレやで?強いのええことに好き放題するんやからなあ」
最も若そうな、熊のような獣人がシュネイという名前を出し、それにドラゴンが反応した。
目を点にしていると、ウィズが耳打ちしてきた。
「シュネイといって、魔王軍でも最強と言われている猫剣士がいるのです。ですが、会議に出席したことは一度もなく、自分の縄張りだけを徹底的に守っているだけの引きこもり。問題児だから追放すべきという声もあがっている人物です」
悠介は、スーパーの主任をやっていた頃の記憶を思い出した。
「次長!伊藤さんはパートですよ。言い方は悪いですが、なぜパートごときに私らが左右されにゃならんのですか!」
「そうはいってもな浮田君。君は優秀だが、その部下はそうでもない。他の社員よりも伊藤さんのほうが優秀なんだ。確かに彼女は死ぬほど残業するから人件費が馬鹿にならない。だが、それを補って余りある成績を残すのだ。多少わがままだとしても聞かざるをえん」
権限がないはずなのに社員より大きな顔をするパートのおばちゃん・・・そんなところだろうか。
「すみません、そのシュネイというのはどのくらいの強さ、あるいは規模を持っているのですか」
悠介の発言に会議室は黙り込んだ。
しばしの沈黙の後、関西弁ドラゴンが話し始めた。
「強さはトップクラス、軍隊も最大規模。4つ目のエンドポイントのあたりで今頃酒でものんどるんちゃうか?」
「あの、ひとつ提案があるのですが」
魔族たちの視線が悠介に集まる。
「その方に、一帯の統治を任せるのはいかがでしょうか」
主任だった時は、伊藤さんに売り場の一部を任せた。
そうすれば、ひとまずどうにかなったのだ。あの時の成功体験をもう一度、と悠介は意気込んだ。
「あかんあかん。国を持たせるっちゅうことやろ?あんなもん魔王軍に所属しとらんかったら、絶対反乱起こしてこっちくるで」
「じゃがあいつは人の上に立つことも嫌うじゃろう。反乱を起こす利点がないと思うがのう」
「でもそこで好き放題されたら誰が責任を取るんだって感じ」
最後に発言した女性、よく見ると髪の毛が蛇でできている。
メデューサ、そういえば神話にそんなのがいた。だが、悠介は別に石化はしていない。
「何じろじろ見てきてんの?お前、後任ではあるけどどうせ来年辞めるかこの中の誰かにブチ殺されるかしていなくなるんだからさ、シュネイに全部任せるとか適当な事言わないでくれる?尻ぬぐいするのウチらなんだから」
蛇髪ににらまれ、悠介は押し黙った。
「シェ―ちゃん、ワシの尻もぬぐってくれんかのう」
最初に発言した仙人のような男が、蛇髪の女性に蹴とばされた。会議室に穴があき、仙人が退室した。
それはそれとして、仮にも魔王に対してこの言い草。まとまりも何もなかった。
こんな感じの組織だったら普通に人間が徒党を組めば勝てるのではないかとさえ思えた。
ここでウィズが言葉を挟む。
「ひとまず、皆さん持ち場に戻ってそれぞれの地を守りましょう。
シュネイの動きはわかりませんが、わからないからこそ最終防衛ラインを3つ目とするのはいかがかな。シェリアさんが副将、ゴーギャンさんが総大将で3つ目を守り、他がそれをサポート。この魔王城はテーミスを総大将として私が補佐します」
「なんでてめえが仕切ってんだよ」
「まあええやろ。シェリアちゃんサポート頼むで」
「キモ。お前が死んだらエンドポイントとか捨てて逃げるから」
結果、ウィズの言葉で会議はなんとなくおさまり、解散となった。
「お疲れ様でした」
「いや・・・なんかありがとうございます」
「いえいえ。世界の事をわかっていないはずなのに、努力された司会だったと思いますよ。そして、シュネイに何かを一任してみるというのは実は私賛成です。今日からは、テーミス元閣下の家に宿泊してください。道中、送りますので。そこで話しましょう。ミアヌさん、いいですね?」
「はい」
テーミスの妻ミアヌが言った。娘のアミラと、補佐のウィズと4人。
悠介は帰途についた。




