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1 後任

「お前、頭おかしいんじゃねえの」

「悠介は口が災いするからねえ」

「黙ってたらかっこいいのになぁ」


走馬灯というものだろう。思い出されるのは他人のネガティブな評価ばかりか。

自分は死んだのだ。トラックに轢かれて・・・。

悠介はそう思った。しかし、別の思いもよぎった。


(夢?眠りが浅い時、こんな風にぼんやりしていながら、思考を働かせている状態があったような)


明晰夢と呼ばれる、操作できる夢の中に自分がいるという感覚を思い出す。

とはいえ、あの衝撃の後だ。生きているはずもない。

死後の世界というのはあったらしい。そのことを知っている人みんなに伝えてあげたい・・・。

だが、揺られる感覚を感じて悠介はさらに不思議な感覚に陥った。


(誰か揺さぶってる?金縛り?なんだこの感覚)


「・・・もしもし」

「!」


目が開いた。目の前には異形。

女の子・・・だが、明らかに人間でない。角が生えているし羽も生えている。

ここは地球ではない別の世界、いや星だ。

知っている。異世界転生というやつだろう。まさか本当にあるとは思わなかった。


「やっぱりお父さんの言っていたことは本当だったんだ!」

「アミラ、このことをすぐにウィズに伝えてきて」

「わかった」


その後、赤づくめのマントに身を包んだこれまた人外の存在がやってきた。

会話の内容から察するにこの赤マントがウィズという人物だというのはわかった。


「ウィズさん。父が言っていた人物です」

「・・・ふむ」

「あの、僕は・・・?」


悠介がウィズに訊ねた。


「落ち着いて聞いてください。恐らく、あなたの世界では常識でないことです。並行宇宙(アナザーバース)といって、この宇宙には様々な宇宙が点在しています。貴方は恐らく、別の宇宙の別の星で死んだ。それで、ここに飛ばされてきたのです」


およそ寝起きの人間に言う説明ではない、と悠介は思った。とはいえ、言葉が通じることで悠介は一安心した。

同時に仕事をしていた時の記憶がおぼろげによみがえってくる。


「じゃあ、これを読み込んで明日から営業に行ってください」

「ちょっと待ってください、研修は?研修をしてから仕事に入るって募集要項には書いてあったじゃないですか」

「そんなことをしている余裕はないんですよ。お願いしますね」


派遣で行った会社も、何もわからないのに大変な仕事を押し付けてきた。

あれに似ている。


「スーパーの経験あるんだよね?じゃあ、教えることはないね」

「いや、私品出しばかりだったのでレジは・・・」

「わからないことあったら聞いてくれていいから」


アルバイト先でレジの経験はないと言ったのにレジを任された記憶も思い出す。

しかも、わからないと聞きに言ったら明らかに不機嫌な反応をされた事も。

頭の中で記憶が飛び交っている中、ウィズが続けた。


「ここは、魔王軍の会議室です。先代魔王が、不運にも勇者一行に敗北し亡くなってしまいまして。こちらにいる女性たちは、その魔王殿の妻と息子です。どうやら先代は、自身と同じくらいの知性を持った存在を並行宇宙から召喚するという術を使っていたようで」

「それで僕が?」

「はい。すみません、魔王が死んだので今、幹部たちも大慌てなのですが・・・この後ある会議の司会、やっていただけませんでしょうか」


今まで経験した中で最も意味不明な無茶ぶりだった。

だが、拒否権がなさそうだった。特に残された妻と娘という人物、およそ「魔王軍」という組織のくくりからは想像できないほど純粋な目で自分の事を見てきている。これは断れそうにない。


「あの、状況がのみこめるようなのみこめないような、なのですが。一つ質問しても?」

「どうぞ」

「魔王って、王なんですよね。それがやられたら、勇者の勝ちじゃないんです?」


ウィズたちが顔を合わせた。


「その、申し上げにくいのですが。実はウチ、魔王は交代制なんです。今年いっぱいは、先代の任期ということで。私も役員になってしまった以上、自分の時に組織が崩壊するとあとで大バッシングが来るのが怖くてですね」


(町内会と一緒じゃないか)


そうしていると、武装した騎士のような人物が会議室に入ってきた。


「なんだ、テーミスの後任は人間か。人間ごときに魔軍の未来を委ねるとは。世も末だな」

「ブランドさん、こんにちは。はい、私もそう思いますが今は言っていられません」


(そう思うとしても口に出すなよ。こっちも意味がわかってねえんだよ)


「では、私がしっかり支えますので。よろしくお願いします」


ウィズが悠介に触れた。人外の手が触れる経験は初めてだが、とても暖かく、疲れがふうっととれていくようなリラックス効果があった。

そうこうしているうちに続々と「役員たち」が現れた。

妻と娘と呼ばれた人物がせかせかと椅子を用意して準備していた。

自分には、最も中心の椅子が用意された。


(ドラゴンみたいなやつもいるし。怖ええ・・・)


最も激しい無茶ぶりの司会が始まる。

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