ラウンドの守神様
あの年から、15年後。
「さぁ、ミルナーズが先制したまま5回の中盤戦へとこれから入っていくようです。メルトスは後半戦から守ることができるでしょうか。さて、ここまでの試合運び、どうお考えですか?」
「そうですね。ミルナーズの先制は痛かったですね。しかしまだ後半戦があるので、可能性は全然ありますよ。」
「やはり後半戦が鍵になってくるということですね。お送りしてきた試合は、大リーグミルナーズとメルトスの試合でした。さて、ここまでのお相手は」
『実況の日向虎太郎と、』
『解説の佐渡島竜聖でした』
ふぅ、と俺はマイクを切り、そして隣りに座っている日向もマイクを切ってヘッドフォンを外した。
「ふぅ、お疲れだな」とそれぞれの仕事に区切りがついた俺達は一息つく。
「それにしても、まさかここアメリカでお前と仕事することになるとはな、」と俺が笑うと、日向も「それはこっちのセリフでもあるぜ」と笑い返す。
「お前スポーツ実況の仕事に就いたんだな。まぁ、お前にはある意味ピッタリの仕事だと思うよ。」
「まぁな。喋るのが好きだからな。」
「あのときはお前死ぬだ生きるだいいやがってよ、焦ったぜ笑」と俺が言うと、日向は懐かしそうに
「ああいうときも合ったな。あのときはマジでお前とあの試合に生きる気力をもらった。今更だけどありがとな。竜聖。」と言った。「急に何だよ。照れるって」「あはは笑」
まるであの頃に戻ったような会話をして、笑っていた。
「そういえばあいつらは?佐倉と豊島。」
「佐倉と豊島、プラスで二階堂は子どもたち引き連れて家族同士焼肉パーティーだってよぉ。」
「佐倉は女の子1人、豊島は男兄弟二人だっけ?奥さんの体が弱かったらしいけど、全然問題なさそうで良かった。」「そうだな」
そうだ。佐倉は30、豊島は28で結婚して、かわいい子どもたちの写真も送ってくるのだ。
「そういいながらあいつら飲み会したいだけだろ笑」
「まぁいいじゃん。こんど帰国したときに俺らも混ぜてもらおうぜ笑」
だな、とまた俺達の楽しみが増えた。
二階堂は、共働きなどで一人ぼっちが多い子どもたちの野球教室を会社として正式に立ち上げた。
その二階堂の会社には、戸賀、一条が講師として就職兼手伝いをしているらしい。
そしてなんと早坂はなんと警察官になったと連絡が来た。すげぇやつだ。
「で、お前はここでのんびり座って解説かぁ」
「ちがうわ笑ちゃんと仕事してるって」
俺は一昨年から城聖高校野球部の監督を務めているのだ。就いたときは31だったが、監督がいないような野球部だったので、先生たちは俺を歓迎してくれた。
そして監督は本業じゃない。あくまで時間のある放課後見に行って、甲子園前のサポートくらいだ。
肝心の本業は、実は医師なのだ。しかし医師とはいえ、スポーツ専門の医師。だから、オリンピック選手から箱根駅伝の選手、そしてもちろん甲子園の選手たちの臨時ドクターもやっている。
そしてなぜか今回、日向に誘われて監督として、過去の剛速球ストレートピッチャーとして大リーグの解説に急に呼ばれたってわけだ。
「でも、俺達ももう33だぜ。おじさんになったな」「ほんとほんと。」そうだ。もうあれから15年たった。
二階堂たちも32。早坂たちは31だ。
すると、日向が急に何かを思い出したかのように、「あ!!!」と大きい声を出したから、何だと思ったら
「竜聖!!!2月に結婚するんだってな?!おめでとう!今回はこれを絶対に言おうと思ったんだよ。」
「おお、覚えててくれたのか笑 ありがとう、」と俺が照れながら答えると、すかさず日向は
「ったくあんなに女の子が目の前にいるだけで固まってたクソ野郎がまさか結婚するなんてなぁ。奥さん相当いい人なんだろ。大切にしろよな」と活を入れてきた。
「あぁ。すっげぇ俺にはもったいないくらい優しくて可愛い妻だよ」
「うわっストレートに言うんじゃねぇよこの女たらし」
「なっそれは聞きづてならん!!!」
「まぁおめでとうだよ。結婚式、ちゃんと行くからな」
「おう、待ってる」
そう、俺には守りたい人ができた。
「お、そろそろ試合が始まるぜ」「仕事再開だな」そうして俺達は特等席からマイクセットをして、試合を眺めながら声で届ける。日向がマイクを入れ、実況を始めた。
「さて、ここで先制をされてしまっていたメルトスがいよいよピッチャー交代をしそうですね。一方相手のミルナーズの打席には昨年大リーグに移籍した凪野選手が待機しております。」
凪野は茅野とバッテリーで二人で大リーグに移籍したのだ。
「えぇここで、メルトスのピッチャー交代をお伝えします。11番ティネス選手に変わりまして『ラウンドの守神』というあだ名が付いた、世界一と言われるレベルにまで上り詰めた若き日本人ピッチャー」
『1番、瀬尾選手に変わります。』
『1st,REIMA SEO』
俺は名前を呼ばれ、マウンドに立つ。必死に投げてきたら、本場アメリカにまで来てしまった。そして先ほど会場で日本人選手の通訳に小利木さんが就いていたのを見て驚いたばかりだったのだ。
あの人、英語頑張って勉強したのかな、なんて笑ってたらまた怒られそうだった。
そして目の前にはもちろん、交代をしてくれた颯がミットを構えている。俺の舞台が始まる。
いくつもの大切なことを俺は経験したあの高校生活から15年。でも1つだけずっと考えていた事があった。
俺はずっと『ラウンドの守神様』なんて、本当はいないんだと思っていた。正直ずっと信じることができなかったのだ。だって、もしそんな神様が本当にいるのなら、俺の父さんは今頃事故にも合わず、佐渡島さんはあのまま天才ピッチャーとして怪我もなく投げ続けることができてたはずだと思ったからだ。
でもそうじゃなかった。15年、ひたすら自分に向き合いながら投げ続けて、ようやくわかったのだ。
『ラウンドの守神様』は、あくまで、ラウンド上の球児全員を守る、それだけなのだ。
その球児一人一人がラウンド外で何をしようと、何をされようと、どんなに苦痛を味わおうと、守神様には関係ないのだ。そのうえで、ラウンド上ではせめて平等に試合ができるように、そんな神様だったのだ。
俺も、この舞台に立って、もう2年。守りたい大切な人もできて、そして俺は2児の父になった。
そしていつか子どもたちがもし野球をやりたいって言ったのなら、そのときはまた俺が教わったときのように、同じように教えようと思う。
「なぁ。ラウンドの守神様って知ってるか?」
「知らない。お父さんのあだ名じゃないの?」
「そうだけどな。ちょっと違う。」
「じゃあ、どういう神様なの?」
「ラウンド上の球児全員を守ってくれる神様だよ。そして、」
『野球が楽しいってことを、教えてくれる神様のことだ』
ラウンドの守神、完。
ついに…ついに…!!!!!半年間の執筆を終えました!!!ラウンドの守神、ここに完結いたしました。いやぁ、長かったですね。私自身こんなに長いものを書き終えられたのは初めてで、達成感が半端ないです。けど、本当に書いてて楽しかったです。澪馬たちの成長を見守ってくださった読者の方々には感謝しか無いです。ほんとうに、ほんとうにありがとうございました。




