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攻略の先

甲子園、全国大会の第2戦。

第1回から強豪神栖工業高校と戦った城聖、僅差で勝利。


そして2戦目。同じく強豪校の佐賀加唐高校と戦う。


「整列!!」という審判の大きな声とともに、俺達は走って集合した。

そして並ぶ。そして「礼!」と声が響き、「よろしくお願いしゃっす‼‼‼」と帽子をとりお互いに深く礼をした。しかしそこで、神栖工業との大きな違いを思い知ることになった。

加唐高の生徒の声が、柔道部のごとくありえないほど野太く、勢いがあり、そしてなによりも大きかった。

俺達の声がかき消されそうになってその声の勢いに押され、驚いた体がビクッとしてしまった。


「軍隊かよ…」とその勢いに驚いた小利木さんが、ちぇっと悔しそうに言った。

たしかに言われてみれば軍隊のような統一感だった。

神栖工業とは明らかに違う雰囲気を感じた。


先攻はこちら側。まず加唐のピッチャーをどれだけ早く攻略することができるか、それが重要だ。


俺はバッターボックスに立つ。

マウンドに上ったのは11番ピッチャー。驚いたのは、事前に調べて目星をつけておいたピッチャーと名前と番号が違った。直前の情報では1番が3年のエース、そして11番がエースの次の2年とごく普通の並びだった。しかし、いま目の前にいる11番を付けた人物はエースだと言われていた3年の羽角はずみだ。


予測が違う。じゃあ誰が1番をつけている?とベンチ側を目を凝らしてみるも、流石に相手のチームの顔は遠くからでは見分けがつかない。

しかし、その1番をつけたピッチャーはベンチの影からこちら側を腕組みをしながら見ているのがわかった。あいつは、だれなんだ?


今は目の前の羽角を攻略することが最優先。

俺は1番から目を離し、羽角に向き直った。

羽角は背が高めで、表情は先程の柔道部のような勢いとはうらはらに優しそうだった。


羽角が手を大空に振りかぶり、一気に振り下ろした。

スパっと切れのいい音がして、ミットにボールが入る。球速はざっと130ほど。いい球速なはずだが、困ったことに佐渡島さんの速さに見慣れてしまった俺たちは特別速すぎるとは思えなくなってしまった。

そして球種はストレート。真っ直ぐだった。

打てないボールではない。


俺はそう確信した。やはり神栖工業より一人一人のピッチャーの球は甘い。

しかし、反対にこうも簡単に攻略できるだろうか。と疑問も抱いた。

そして次に来たボールに確信を持ち、中学の頃を思い出しながら俺はスイングをした。

「天才」

そう呼ぶだけで、ただ「普通とは違う」という意味だったことは、馬鹿ながら高校生になって気づいた。

その一見素晴らしい意味を含んだ言葉は、妬み、そして皮肉の塊だったのだ。


バットに確かな感触が合った。バンっと跳ね返すと、ボールは低く地面にバウンドした。

内野が抜ける、と思いながら俺は一塁に向かって全力で走った。

しかし、抜けると思ったその時、なんとショートがスッとしゃがみその勢いでミットを前に差し出す。

そしてバウンドしたボールを丁寧に、しかし素早くミットの中に収めると、そのまま一回転でんぐり返しをしてファーストに投げた。


そして俺が一塁を踏むときにはもう、ボールはファーストのミットの中にあった。

完璧な守備だった。


思わずその完璧な守備を見せたショートの方を振り返ってみるも、肩を回しながら何事もなかったかのように自分のポジションに戻り足元を確認していた。

すると、不意打ちで「タイム」という声が聞こえた。城聖側ではない。加唐側だった。


まさかここでか?タイムにしては早すぎだろ。そもそもなんでピッチャーの質は普通なのにショートの守備はぶっ飛んでんだ。あの1番はなんなんだ?

バッターボックスに立ちながら疑問がぐるぐると頭の中を音速で駆け巡っていく。

そして案の定加唐高からタイムがとられ、羽角のところにゆっくりと人物が歩いていった。

その人物は、あの1番だった。





八浦がこちらへゆっくりと歩いてくる。

1番をつけた威圧が少しずつ近づいてくるのがわかった。そして八浦は俺の目の前まで来て止まって、

ゆっくりと口を開いた。


「羽角さん。一発目から、なにしてんの?」


冷たく、思い口調だった。もう、1年後輩の八浦、つまり2年生の彼にタメ口で何かを言われるのも、怒られるのも、慣れてしまったといえば、慣れてしまった。

「ごめん、ただ瀬尾のストレートへの対応が思ったより早くて、そして」

と弁解しようとしたら、遮られた。

「城聖には異次元ストレートの使い手、佐渡島の噂があると共有していたよね。それなのに警戒してなかったの?まさかここに来て、言い訳?」

俺は何も返せない。

「ごめん」というほかなかった。うつむく俺に、彼は容赦はない。

「忘れてないよね?俺と交代の5回までで、1人でもランナーを三塁に置いた時点で、補欠に変わってもらう。内野やみんなを酷使してまで、どうにかして抑えてと、羽角さんに頼んだつもりなんだけどなぁ俺は」

冷たく言われる声が脳の奥に刺さるようだった。


「わかった」


俺は短く答える他なかった。


八浦は1年の新入部員のときから、こんな感じだった。初めは俺も、他のみんなもこの態度にイラつき、そして何度も注意した。それでもあいつの態度は直らなかった。

そして事が進んだのは、新入部員の先発決めの時だった。1年の皆オーディションのように緊張して固まっていたが、八浦だけは違った。

呼ばれると1人でスタスタマウンド上に歩いて来て、フォーム確認をした。 あの態度だから当然皆の視線はいいものではなかった。

そして八浦が1球、球を投げた瞬間にその視線が一気に変わった。

1年とは思えない、下手すると2年の俺達よりも、3年の先輩にも追いつくほどの素晴らしい球だった。

そして投げたあと振り返って一言、こう言った。「俺は勝つから、みんなで。」矛盾してる。

タメ口のくせに名前だけはさん付け。そしてもう一つよくわからない疑問があった。

八浦は好きで独走していそうなのに、何故か「みんな」という言葉を好む。なぜなのかは、多分本人も含めて誰もわからない。


「最後の甲子園をここで終わらせてたまるか」






羽角の近くに1番が来たので、ようやく顔を把握することができた。あいつは確か、八浦真。2年か。

11番予想だったが、まさかのエース逆転ということになっていた。本当にこのチームはよく分からない。

他の選手は動かず、しばらく2人がしゃべったあと、また投球に戻った。

次の打者は4番小利木さん。この人に突破口を見つけてもらうのが一番早いかもしれない。

だから、この人が今は頼りだった。


小利木さんはふぅっと息を吐くと、いつもどおり

なめらかにバットを構えた。

小利木さんも先程の球自体は打てると確信したようだ。あとは小利木さんが強く打って抜けてくれさえすればとりあえず攻略できるはずだ。

羽角が振りかぶる。しかし、


「……小さい?気のせいか?」


こころなしか先ほどと振りかぶり方が違う。そして小利木さんも俺と同じように一瞬の違和感に気がついたのか、バットを内側に寄せ、かつ短く持った。そして羽角がボールを投げる。

羽角はそのボールをリズムよく、反動を使い、投げた。


「……やっぱり!!!」と小利木さんはバットを降るも、そのまた内側に、そしてより深く縫ってボールが入ってきた。


ストライク。


「くっそあのナックルカーブか」と小利木さん、颯、そして俺と佐倉さんが気がついた。


ナックルカーブは異常なほど落ちる、リズミカルに弾くように投げる一流級のボールだ。

まだ完成形ではないが、確かにあれはナックルカーブだった。


最終兵器を序盤に持ってくる、つまりそれはそうでもして前半戦を終えたいということだ。

ということは、いつもの名物ともなっているピッチャーの交代はもしかしたら少ないのかも知れない。


小利木さんでも打てない。ナックルカーブは投げるのも、打つのも本当に難しいのだ。

そして俺達の前の電光掲示板には、いつのまにかスリーアウトの文字が表示されていた。


攻略の先が見えない。

まだこのピッチャーは、11番なのに。まだ、この先に八浦がいるのに。


そうして俺はマウンドに立つ。とりあえず1点もとらせてはいけない。守備から形を作っていかなければ。

ピッチャーというポジションは、守備の中でも責任感が強くないとやっていけない大変なポジションだ。

しかしその反対に、マウンドに立つと一番安心できるポジションなんだ。

だって、前には俺のボールを一番知ってくれているキャッチャーがいるし、後ろにも俺を信じてくれているチームメイトがいる。こんなに心強い眺めはない。バッターが誰であろうと関係ない。


何を賭けても、絶対に打たせない。

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