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自分勝手

「……日向……?」

久しぶりに聞いたが、耳はその声を覚えていた。

電話越しのその相手は、少しだけ黙った後、こういった。

「お前のいるホテルのすぐ近くの駅の待合室にいる。」そういって電話が切れた。

「お、おい日向…!」と言うも、スマホからはツーッツーという規則正しい音しかなっていなかった。

俺は部屋から上着だけ取ると、佐渡島の「おい、どこいくんだよ」という声も構わず、すぐに駅の待合室に行った。近いのに、全力疾走して息を切らしながらつくと、そこには1人しか座っていなかった。


金髪で、ピアスも何個かしていた。そしてその左手には、俺の知っている黄色の腕輪を付けていた。


その人がこちらをゆっくりと振り返った。

そこには、俺の知らない日向がいた。


俺が何も言えず、立ち止まっていると日向はすこし気まずそうに

「よっ」と挨拶をした。


まあ座れよ、というふうに隣の席をとんとんと叩いた。

俺はゆっくりと日向の隣に腰を下ろした。


しばらく沈黙が続いた。そして先に口を開いたのは日向だった。


「久しぶりだな、佐倉。元気だったか?」「おう、お前は?」「俺もこの通り、」

約、2年ぶりくらいか。1年ぶりくらいか。去り方が急すぎたのか、それ以上にやけに懐かしく感じた。


「悪いな、急に呼び出して」「いや別にいいよ」そしてまた黙る。


「今日はさ、お前に許してもらいたくて来たんだ」と思っても見ないことを言われた。

「許すって、お前別に何も悪いことしてねぇじゃん」

「いや、した」


「俺のメンタルが弱いせいで、あんときやめて、お前にも、佐渡島にも、豊島にも、迷惑かけた。

小利木が悪い、みてぇなやめ方しちまった。別にあいつが言ってたのは、正論だったのにな。

『なんで3年に向かって、何も言えなかったのか』小利木に言われて、ずっと考えてんだけどな。

いっつもおんなじ答えにたどり着く。それが嫌で、俺を変えようとしたんだ。

俺を変えたら、答えも変わるかと思った。」

そういいながら、日向は自分のピアスや金色に輝く髪をそっと触る。


「けど、なーんも変わんなかった。ずっと頭の中で鳴り響いてんだよ。『お前が臆病なんだ』って。

『お前が弱い』ってな」


「べつにお前は弱くなんかねぇよ‼」と俺は慌てて反論したが、手で遮られてしまった。

日向は天井を見上げた。

「知ってるか?佐倉。人ってな、誰かに罵倒されたり、なんか言われたりするのは相当きつい。でもな、」

日向は、一瞬寂しそうに笑った。

かつてはバットを握ってたその右手を見ながら、


「自分が自分の弱さに気づいた瞬間が、1番きついんだぜ」と言った。


日向は小利木に責められてやめたんじゃなかった。

自分の弱さに耐えきれなかったのだ。それを思い知ったのだ。


「全部を変えた俺はもう成すすべもなかった。急にやめた俺はおまえたちに合わせる顔もなくて、連絡なんてできなくて、誰にも話せなくて。そんなあるとき、フラッと海にでも行って、そこに飛び込めば全部なくなるんじゃないかと思いついた。いい加減、終わらせたかった」


死ぬまで、終わらせようとしていたなんて。なんでもっと、もっと早く連絡しなかったんだ。

俺は俺を責めた。何度後悔すれば気が済むのか。

やっぱり日向、お前は人一倍繊細で、優しいんだ。だからこそ、傷つきやすい。

日向はなお、話し続ける。


「海に行く途中でな、やめた以来、何を考えたのか久しぶりに城聖のグラウンドを通ったんだよ。

そしたらな、1人のピッチャーがなんか悩んでる様子だったから見てたらまぁ面白くてよ。アドバイスしちまったんだよ。

でも、死のうとしてた俺よりよっぽど前に進んでるやつを見て、

尊敬やら恨むやらでごっちゃごっちゃだったよ笑」


多分、あの日瀬尾のところに来た日だろう。やはりあれは日向だったんだ。

そして日向はこっちに向き直った。そして本題に入った。


「佐倉、俺がお前たちの試合を見に行くこと、許してくれないか。」

日向がめいいっぱい頭を下げた。俺は予想もしなかった願いに驚いてしまった。そのまま固まっている俺に、日向はなおも頭を下げたまま言った。


「俺はお前たちを見捨てて逃げた。そしてなんも連絡せず、ここまで来た。合わせていい顔なんかない。

本当なら、お前にも佐渡島にも豊島にも、小利木にも許してもらえるような価値なんて無い。

お前たちが甲子園出るってどこからか聞いたとき、俺は羨ましいと思ってしまった。そんなこと思う権利もないくせに」

そういいながら日向は自分の拳を固く握りしめ、顔が険しくなってくる。

「日向、もういいから」と俺は日向の肩に手をおくが、その肩が震えていることに気づいた。


「お前たちに許してもらうなら、お前たちのプレーを逃げ出さずこの目で見なけなければと思ったんだよ。

自分への戒めか、楽になりたいのかわからないんだけどさ」

やけに、言葉が難しい。日向、何が合った?何がそんなにお前を苦しめてんだよ。


何を、言っているんだ?


「みたいなら、見てもらって構わない。ただ、見たくないなら見なくていい。」とあくまで冷静を保ちながらと俺が静かに言ったら、途中で遮られ、日向は下をうつむきながら急に大きな声で反論した。


「見なきゃいけないんだよ‼‼」

そして、前髪を揺らしながらふっと笑って言った。 「じゃないと、未練残るだろ?」


最初は何を言ってるのか理解できなかった。

しかし、俺はハッと気がついて慌てて日向の肩をガシッと掴んだ。


「日向、まさかお前また死ぬ気じゃ……‼‼」


頼む。違うと言ってくれ。頼むから…ただ生きて、生きてほしいのに。なんて声をかければいいのか。

「バレちまったか」と笑う日向を、別の声が遮った。


「馬鹿言うなよ‼‼‼‼‼‼‼」

必死にかける言葉を幾千とめぐらしていたら、後ろから急に俺じゃない、日向でもないその声が聞こえた。

その声は、走ってきたのか少し息切れをしていたが、抑えきれない怒りに満ちていた。

この駅の待合室には俺達しかいないはずだったのに。日向も俺も驚いて、バッと後ろを振り返った。


「佐渡島…………」日向のか細い声が聞こえた。

聞いたことのない彼の声だったからわからなかったが、そこに立っていたのは、上着も着ず、ただそのままホテルから飛び出した佐渡島だった。

佐渡島は下を向いた。まだ息切れは止まっていなかった。こころなしか腕を抑えている。無理をしてまで走って追いかけてきたのだろう。


「馬鹿言うなよ…久しぶりに会えて、ただそれだけで嬉しいのに、死ぬ?未練?馬鹿じゃねぇの?

生きているだけで…」その佐渡島の声は少しずつ大きくなっていく。


「生きててくれるだけでどれだけ嬉しいか、生きてることがどれだけ苦しいか、生きていることがどれだけけ尊いか、お前はわかってねぇんだよ‼‼そんなんで死ぬとか、未練とか言うな‼どれだけお前の代わりに生きたかった人がいると思ってんだよ…どれだけお前に生きててほしいって願う人がいると思ってんだよ‼‼」


佐渡島の言葉は、やけに具体的だった。何を根拠に言っているのか、わからない。けれど、なぜかその言葉には何かを思い出すように、過去をたどるような力強さが合った。


そしてキッと顔をあげた佐渡島の顔は、怒りに満ちていた。そして、その目には涙も光っていた。


「勝手に生きんのやめんな‼‼‼‼」


すると、ずっと黙っていた日向が佐渡島の胸ぐらをつかんでめいいっぱいゆらした。

「お前に、お前なんかに何がわかる‼‼‼‼‼」日向も見たことのないような険しい顔をしていた。そして、佐渡島と同じように目からは涙がこぼれていた。

「っざけんな‼‼‼」佐渡島も泣きわめきながら反論する。


完全に高校男子の喧嘩を超えた喧嘩だった。

俺は、過去の小利木と日向のようにならないようにしなければと思い、とっさに二人の間に入った。

「やめろ、っやめろって言ってんだろ!!!!!」


3人で息切れをしながら、しばらく黙っていた。


そして最後に口を開いたのは、竜聖だった。


「死ぬなよ」

シンプルなメッセージだった。


日向は、うんともいやとも言わなかった。

「佐倉、呼び出して悪かったな」とそのまま背中を向けて言ったあと、ホームの方に歩いて行った。

そしてやがてその姿は見えなくなった。


「大丈夫か、」と俺は残った竜聖に聞いた。竜聖はうなずき、「疲れた」と一言だけ言った。

そして一緒に歩いてホテルまで戻った。

あんなに取り乱した竜聖と日向を始めてみた。今はただ、日向が生きててくれればいい。

たとえ甲子園を見に来なくても、生きてさえいればい。

また、メールでも入れておこうかな、と俺は竜聖と歩きながら静かに決めた。


どれだけ悩んでも、時間は止まってくれない。

甲子園の次の試合は、刻々とゆっくり迫ってくる。

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