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30/62

神栖工業高校、そして津軽新浜

朝日が眩しかった。今何時だ‥‥と思いながら俺は目をこすって目覚まし時計を見る。

起床予定は6時。しかし今の時間は5時半を指していた。

30分損したな、なんて思いながらベッドから起き上がる。3人を起こさないように着替えた。

そして何もすることがないからスマホにイヤホンを繋いでしばらくラジオを聴いていた。


ボーっと過ごしてるといつの間にか6時の目覚ましがなり、颯があと1時間だけ‥と駄々をこねながら他の2人と共に起きてきた。


「あれ、瀬尾くん寝れなかったの??」と光哉に心配そうに聞かれたから

「いや、ちょっと早くおきただけ」と答えた。

光哉ももう、俺を怖がることはなくなった。


そして七時に朝食を食べ、朝8時に集合した。

試合は午後2時から始まり、5時ぐらいまでの予定。


「今日の先発はおそらく11番、金森と最後の方でエース板切を登板させてくる。

俺等の先発は二階堂。そして後半瀬尾となっている。二階堂、球数制限も考えて瀬尾は2回戦フルでためておきたいからできるだけ抑えてくれ。」

佐倉さんの細かい指示が入り、「はい!」という声が揃った。

二階堂さんの顔が引き締まる。


そして軽いウォーミングアップをして、俺らは試合より遥かに早めにグラウンドへと入った。

なぜならそこではたまたま1回戦からあの津軽新浜の試合だからだった。


俺達は観客席に並んで座った。

時間も時間なので、8回からしか見られなかった。


そして俺は点数ボードを見て、自分の目を疑った。


そこには「14対1」という絶望を感じさせる数字が対象的に並んでいた。


「13点差…か」佐倉さんは同じように電光掲示板を見ていた。そして、その視線を戦っている選手たちへと移した。俺も同じようにして視線を戦っている選手たちへと移した。


「でもさすがだな」佐倉さんが心からそう思うような口調で静かに言った。俺の視線はバットを構える

津軽新浜の選手へと向く。


「どんなに点差をつけられても、自分たちを信じて最後まで正面向いて戦ってんだよな」

そっちのことか。

その瞬間、俺の視線は必死に守っている選手たちへと向いた。


どんなに後ろめたくても、かっこ悪くても最後までラウンドに立たなくてはならない。

自分が倒してきた今までの敵の思いを背負って、最後まで胸張って戦わなくてはならない。

それがどんなに苦しいか、悔しいか、そして素晴らしいことか、前よりは少しは分かるようになった。

宮峰たちの涙を見たときから、「敗者」という立場と「勝者」という立場の価値なんて、対して変わらないと思うようになった。


結局8回、9回は津軽新浜は1点ずつ入れた。

そして、相手チームは最後の反撃に向かう。正直この点差をひっくり返すのは不可能だと言い切れてしまう。

それでも、戦う。

最後のアウト一つまで戦う。


でもやはり目が行くのは同じ立場のピッチャーであった。

津軽新浜のピッチャー。

大きく振りかぶって投げる、そう予想したのが、まさかの見たことのない投げ方が繰り出された。

高くあげてきた長い腕がそのまま大きく沈み、そのままなんと横からボールが繰り出されたのだ。

希少というか見たことのないタイプのサイドスローのピッチャーだった。

しかも、サイドスローというと出どころが分かりづらい分、球速を出すことは難しいと言われる。

しかし彼はそれを通り越すような速さでインコースにぶっ刺してくるようなボールだった。


相手のバッターのバットは1ミリも動かない。

相手だって県内のチームを蹴散らしてきた強いチームのはずなのに、正直比にならない。


そして一番怖いのは、このピッチャーの背番号が「11」。

つまり、この上がもう一人いる。

津軽新浜の「エース」。もう想像がつかない。


そのまま16対1で津軽新浜が勝利を収めたところで、俺達は控室とベンチに移動した。

誰もが無言だった。


しかし、全員の無言が意味したのは「絶望」ではなく、「闘志」だった。

一人一人の背中から炎が見える。


そして俺たちは神栖工業と向かい合う。

城聖として、初めての景色だった。


礼!

審判の大きな声に合わせて、俺たちは礼をした。


甲子園全国大会第一回戦、

長野県立城聖高校 対 茨城県立神栖工業高校


試合開始。


まずは俺達が先行。

目の前に立ったピッチャーは、予想していた

11番の金森ではなかった。


1番、エース3年板切だった。

スラッとしたスタイルに長い腕がピッチャーとしての良点を揃えたような体格だった。


「なめられてんな俺ら」と隣で小利木さんが板切を睨んでいる。


最初からエースピッチャーで来るということは、完投させると宣言しているに近い。

「板切だけで城聖は抑えられる、」そう思われていてもおかしくはない。


宮峰の時は球速、そして曲がり方を操るめんどうなボールだった。あの時は小利木さんが攻略してくれたから助かったが、今回はそう簡単に行くかわからない。


1番バッターはいつもどおり颯。

そして佐渡島さん、俺、小利木さんと4番につなぐ。


颯がバッターボックスに立つ。その時、颯の顔が今までとは違い、より引き締まっているように見えた。

新田監督が見ているからか。そう予想しながら俺は板切に注目した。


板切がその長い腕で大きく振りかぶる。先程の津軽新浜の10番と姿が重なる。

先程の剛速球を繰り出されたら俺は打てない。

皆が注目しながらその手から離されるボールを見た。


しかし、俺の視線からそのボールが消えた。


遅いのだ。


限りなく遅い。驚くほど遅い。スローボールだ。

踏み切るときの足を気づかないほどの一瞬でブレーキをかけて、球を遅くしているのだ。


颯も1番バッターを務めるだけあって、甘いボールは見逃さない。

今回も一発目から打ってく、と意気込んでいた。

そして颯はバットを振った。しかし当然のようにタイミングが合わない。

颯も驚いたようにバットを振ったままキャッチャーのミットを見る。そして颯はもう一度バットを構え直した。そして板切はもう一度振りかぶって投げた。

やはり遅すぎてタイミングが合わない。

遅い球は打つのが上手い人ほど打てないと言われている。

そのままいつの間にかスリーアウトにされていた。球速とは真逆でアウトを捕るのは速い。


そしてこちら側も二階堂さんも一応安定のピッチングでまずは抑えた。


そして問題の小利木さんの番だ。

ベンチで待機しているときにはすでに「スローボールか」と理解していたようだ。

しかし、理解するのと打てるのは違う。小利木さんの細かい調整の効くスイングは逆に先走ってしまう。

ボールに当てたはいいものの、結局力のないピッチャーゴロとなって板切に討ち取られてしまった。


頭抱えて帰ってきた小利木さんはどかっとベンチに座りボトルの中に入っていたバシャッと水を頭からかぶった。そして下を向いてつぶやいた。

「タイミングが合わねぇ」

上手くタイミングを合わせようとするほどずれる。その悔しさと言ったらただものではない。

そのまま珍しく落ち込む小利木さんを横切るようにマウンドに立った二階堂さん。

この人のボールもいつまで持つかと5回、俺は少しの不安を感じ始めていた。


そしてその不安が事実になってしまったのは、ちょうど神栖工業の主力打撃が2周目に来たときだった。

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