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見えない

あと一人は…誰だ?


後ろを振り返るも、誰もいない。


「どしたー?」と颯に聞かれるも

いや、と答えてすぐにまた歩き始めた。

すると前から一人グラウンドに歩いてくる青年とすれ違った。


しかし、彼は松葉杖をついていた。


しばらく見ていると、彼が物を落としてしまったので俺はついでに、と拾いに行った。

すると彼は俺を制して、「大丈夫」と自力で取ろうとしたらカバンに入っていた別のものを落としてしまった。そしてそれを拾おうとするとまたさっき落としたものを落とした。

2、3回同じことを繰り返してようやく諦めたのか理解できたのかわからないがフリーズしてこっちを見た。

そして俺が拾って渡してやるとすました顔で

「ありがとうございます」と小さく返ってきた。

こいつ、天然か。ただのバカか。


そんなことを考えていると颯が駆け寄ってきて、「もしかして、野球部?」と俺が一番聞きたかったことをサラリと聞いた。

すると彼は「うん」とうなずいた。

松葉杖をついているから遅かったんだ、と俺が気づいたときには彼はもうゆっくり歩きはじめていた。

「名前くらい教えてや」と颯が叫んだ。

すると彼は「早坂成斗はやさかなりと」と答えた。これで今年の野球部新入部員は揃った。

俺らは成斗を心配そうに見ていたがそのまま行っていったのでそのまま帰った。


明日は俺の実力を証明する大事な日だ。

とくにあの佐渡島さん。あの澄ました顔が思い出されて無性にイライラするのをこらえ、眠りについた。


翌日、怪我により練習できない成斗以外の俺ら一年と佐渡島さん、佐倉さん、そしてもう一人3年の先輩の豊島としまさんがグラウンドに集まった。


「今日は皆がどれだけ実践できるか見てみたい。

各ポジションの先輩を集めているからそれぞれに見てもらうように」と佐倉さんが指示を出した。

流石に颯と光哉は緊張したような顔をしていた。

すると佐渡島さんは俺についてくるように声をかけ

俺は従った。

すると投球練習の場所らしき所に連れられて

「あとで10球ほど投げてもらう。本気で投げれるようウォーミングアップをしといて」


やっとだ。やっと投げられる。

弱小野球部に、意味がわからない先輩に、俺の実力見せるときが来たんだ。

俺ワクワクしながら肩の調整をした。

そして軽いランニングで体を整え数球ほど軽く投げた。その間に光哉は豊島さんにフライを打ってもらってキャッチ練習、颯はなにか佐倉さんに説明してもらっているようだった。

するとその佐倉さんに佐渡島さんがなにか話しかけに行った。しばらくすると、佐倉さんと佐渡島さんがこちらへやってきた。颯はその場で待てと言われたようだ。


佐渡島さんが「今から俺の言う通りに投げてみろ」

と言って、佐倉さんが俺の前でミットを構えた。

部長に捕ってもらえるのかと内心少し興奮したが、すぐに冷静に戻った。

絶対に佐渡島さんをあっと言わせてやる。


「まずはカーブだ。」ストレートからじゃないのかと少し意外だったが、すぐに構えた。

そしてバッと丁寧に振りかぶるとそのまま緩急をつけ一気にミットに向かって投げた。

バッターがいないときは、睨まなくて良い。

ボールはバッターが立っていれば内側に食い込むようなカーブがかかって、佐倉さんのミットにきれいに収まった。

いつも通りの投球ができ、颯がこっちをキラキラした目で見てきた。これが望んだ視線だった。

しかし佐渡島さんをみても何も反応はない。

「もう一回投げてみろ」といわれ、俺はカチンと来たがもう一回投げた。先程よりカーブは甘かったものの、球速は十分だった。

そうして他の3種の変化球も同じように2回ずつ投げた。

そして最後に投げろと言われたストレート。

もう変化しないストレートは見てもらう要素などない。

大胆に振りかぶり、そして投げた。

120キロほどのストレートがまっすぐに佐倉さんのミットに飛び込んでいった。

投げ終えたあと、投球して初めて佐渡島さんの口角が上がった。そして

「佐倉、いまのどうだった?」と聞いた。

佐倉さんは「言わなくてもわかるだろ」と苦笑していた。まさか、ストレートが一番評価されたのか?

俺は少し得意げになった。その様子を見た佐渡島さんが呆れたように俺を見ながら遠くで見ていた颯にに声をかけた。

「颯くん、次は君に見せる練習だ。」

「見せる?俺は佐倉さんにとってもらったので、こんどは佐渡島さんのを颯に取ってもらう流れじゃないんすか?」と聞いたら、まあ見てなと押し返されてしまった。

まぁ、ちょうどいい機会だ。佐渡島さんが、彼が

どのぐらいの球種を持っているか、どのぐらいの精度か見ることができる。

すると不意打ちでグラウンドの入り口の方からのんきな声が聞こえた。

「せんぱーい、来ましたよぉ」

小利木こりき遅いわ!!」と佐渡島さんが呆れた声で呼んだ。

「だって部活ないときに呼び出されて来ただけ偉いと思ってくださいよぉ」と駄々をこねていたが、すぐにこちらにやってきて「でも、珍しく佐渡島先輩が真剣に投げるって聞いたで来ないわけにはと」と準備を始めた。

俺たちが誰だ…と戸惑っていると察してくれたかのように陽気な声で「俺2年の小利木塁です。よろしく」と言ってニッと笑ってみせてきた。

そしてバットを持つとバッターボックスに立った。

「さぁ、打ちましょか」と気合を入れる。

俺は混乱して

「まさかバッターありなんですか?!」と聞いたが

「そのほうが楽しいわ」と何の変哲もない答えが返ってきた。


そして謎に小利木さんバッターありの佐渡島さん、佐倉さんバッテリーを見ることとなった。


どんな変化球が、どんな速度が、

俺より上か、下か。佐渡島さんをじっと見た。

颯も同じようにに佐倉さんを見ていた。


長い時間のように感じられた。

佐渡島さんが大きく振りかぶる。髪が揺れる。

そしてその手をめいいっぱい後ろに引き寄せ、その反動とともにボールが放たれた。


バンッ


見えない。投げたボールが、見えなかった。

速すぎる。

ただ佐倉さんのミットにだけ、まっすぐ放たれたであろうストレートのボールがもうそこにあった。


今の感覚は150キロ超えるほどの速さだ。


「まぁ、春休み明けの投球にしてはいいんじゃないですか」と空振りをした小利木先輩が嫌味っぽく言った。

「お前に言われても嬉しくない」と佐渡島さんが返した。


そしてそばにいる颯に佐渡島さんが聞いた。

「俺の球を捕る勇気はあるか?」

颯は呆然と立ち尽くし、「む、無理です」と答えた。すると佐渡島さんはくすくす笑いながら「まぁそう言うと思っていたよ」と答え、また佐倉さんのミットとバッターに向き直った。


もう1球、見えない速度で駆け抜けていくストレートに小利木先輩はまさかの早くも順応し、バットにボールを当ててファールにした。

だからこの先輩が呼ばれたのか。

この速さに素早く対応できる人に。


すると佐渡島さんはちっと悔しそうにするも、

またもう1球投げた。


カンッ


バットに当たった。ボールは打球が強くバウンドして一塁側へ行ったのでいつの間にかいた豊島さんがボールを取り、一塁ベースを踏んでアウトとなった。小利木さんはくーっと悔しそうな顔をして、また佐渡島さんも打たれて悔しそうに顔をしかめた。


「やっぱ、お前には打たれるんだな」と佐渡島さんが言うと、小利木先輩が「俺以外なら多分、打てませんよ」と意味ありげに言った。


球速、正確さ、フォーム、どれも申し分なかった。

ただ1つ、気になったことがあった。

「佐渡島さんのもっている球種って……」

そう。この3球ともすべて、まっすぐとしか見られなかった。まさかとは思って聞いてみたら、佐渡島さんの口から答えが放たれた。



「ストレート一本だ」



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