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予選当日、朝は7時に集合してバスに乗った。

みんな緊張しているのか、ただ考え事をしているのかわからなかったが、黙っていた。

また先生が付き添いをさせられてめんどくさそうな顔をしてバスで寝ていた。


第一回戦の相手は輪中高校というあまり聞かない高校だった。


聞かないとはいえ、俺らの高校のほうがもっと聞かないと思ったから油断はできなかった。

小さな球場に道具を運び入れて、ウォーミングアップをして、全部マニュアル通りに終えた。


すると佐倉さんが試合直前に皆を集めてエンジンを組んだ。

「俺からは、勝つ、以上。佐渡島はなんかある?」と言われて佐渡島が佐倉さんを急にぽんっと叩いた。


「佐倉のバカヤロー。かたまりすぎバカヤロー。」と言ったから少し笑いが起こった。


そして真面目な顔に戻り、佐渡島さんが言った。


「人数も少ないし、1ミリも公式試合に出たことがない城聖が、甲子園を目指すって言うと、必ず誰かしら

無謀だと、無理だと言ってくる。いや、ほとんどがそう思うだろうな」


「名声は無くても練習量は常連校の倍だと思えば良い。俺達は野球しかない。だから」


佐渡島さんが最後に肩を組んで、大きな声を出した。皆の体が震えた。士気が上がる。


『無謀かどうかは俺達が決める。行くぞ城聖!!!』


オォ゙ー!!!と自然と皆の掛け声が合わさり、一つの大きな力となった。


そこからの試合はとても速く感じた。淡々と、そして丁寧な試合運びだった。先発は俺。

佐渡島さんは攻略されたらいけないので、1番エースナンバーをつけるも、最終兵器として登板は先の方にしようということになっているので、どれだけ上まで俺と二階堂さんだけでたどり着けるかが重要になってくる。

すると早くもこちらの小利木さんが無効のピッチャーのかべを崩した。

3回までで2点先取。

俺も合宿の効果があったのか、前より繊細なピッチングができているように感じられた。

甲子園という舞台なのに、いつものチーム内試合と運びが変わらないのを、少し不思議に思った。


そして昼に試合が終わり、6対0で城聖が初勝利を遂げた。

無失点で試合を終える喜びを久しぶりに感じることができた。


そして数日後に予選2回戦が行われ、こんどは二階堂さんが先発を務めた。

1回戦とは違い、次々とピッチャーを変えてくるので攻略の意味がなくなってしまう。

その間に二階堂さんの高めのボールを捉えられ、セーフティーバントでつづけられ1点取られてしまった。

その後アウトを取り、ベンチに戻る二階堂さんは顔を下げていたが、目の前に佐渡島さんが立ちふさがり、二階堂さんの被っていてその顔の影になっていた帽子をさっと取って言った。

「最後まで、お前に頼むよ」

冷たいことを言うのかと見ていたが、案外これでも励ましているのだろうか。

すると二階堂さんははっとして顔を上げ、佐渡島さんから帽子を受けとり、被り直した。

「任せてください」

その声はもう落ちこんではいなかった。

1試合任せられるというのは、かなりの責任となる。そのうえで投げるボールはより一層感触を変に感じてしまう。滑りはしないかと。うまく投げられるのかと。

それでもピッチャーは投げる。自分の役割をまっとうするために。

その役割をまた意識させることによって、佐渡島さんが二階堂さんにもう一度投げる勇気を与えた。

小さな場面の、大きな一言だと思った。


そして最後は3対1で勝利を掴んだ。

終わってからは帰りに部室により、次の作戦会議が始まった。


佐倉さんが言った。

「まずは予選の2勝利、順調に進んだ。初出場にしては流れの良い兆しだ。さて、問題は一気に難易度があがる3回戦。全国への門番だ。」


これで全国の舞台に行けるかどうかが決まる。「長野県代表」という枠をとるために。

すると佐渡島さんが口を開いた。


「3回戦の相手は、諏訪第一高校。そうだ。全国の常連校だ。」

その高校の名前を聞いて、一斉に動揺が湧いた。俺もテレビでも見たし、小さい頃その活躍を見て憧れていたときもあった。

そして中学すべての試合を終えて、最後に来た推薦の話が、その長野球児の夢、諏訪第一高校だった。

結局断ったが、実際1番悩んだ話だったと思い出した。


すると佐渡島さんが作戦会議のための小さい部室のテレビを使い、ある一人のピッチャーのビデオを俺達に見せた。

「こいつは1年。先発ピッチャーだと思われる『宮峰千草みやみねちぐさ』だ。

見ての通り1年ながらさすが諏訪第一、切れのあるピッチングだと考えられる。」


すると隣で成斗が小さな声で、「…ちーちゃん…!」と言った。

するとすぐ近くに控えていた佐倉さんが「早坂、お前こいつ知ってたりするのか?」と聞いた。

自分の声が大きかったことに気づかなかったのか、成斗は驚いていたが、何かを思い出したようにしばらく黙って考えたあと、静かに答えた。


「千草は俺の、俺の元チームメイトです。」


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