第一号アドバイス
部室をノックし、部屋に入ると中に先輩が立っていた。しかし部長の佐倉さんではなかった。
髪はセンター分けで少し長く、茶色がかった色だった。女子でいう触覚みたいになってて不思議な髪型だなと思った。
その顔は微笑んでいるようで、なぜかあまり笑っているようには見えなかった。
「役割分担で俺がいろいろ聞く担当だから」
と俺の心の中の疑問を見透かしたかのように淡々と答えた。
そのまま立ったまま色々聞かれることとなった。
「俺は高3の佐渡島竜聖。
ポジションはピッチャー。よろしく。君は?」
ピッチャー。ポジションが被った。つまり俺はこの佐渡島さんを超えなくては本当の勝利を掴むことはできない。
「高1瀬尾澪馬です。」
「希望ポジションは?」
「ピッチャーです。」
その時初めて佐渡島は口角を上げた。
そしてこっちに来て、俺の腕を見た。
「うん、いい筋肉のつきかただ。良い腕だ」
当然だ。これまでひたすら投げてきたのだから。
「球種は?」
「ストレート、カーブ、フォーク、スライダー、シンカーです。」
「多いね…」と手を顎に当てて何か考えているようだった。が、すぐさま僕に向き直ると
「オッケー、もう外に出ていいよ」と言われた。
俺は驚いてすかさず、「過去の戦勝率とか、参考にしないんですか?」と勢いで聞いてしまった。
すると、「どうして?」と嫌味っぽく聞き返された。
今までは数々の大人にずっと聞かれてきた。
推薦のときもさんざん聞かれた。
どこで勝利をあげたか、何%かなど。
だがそれは必要ないと言われた。
「過去じゃなくて今を見ないと意味がない。
君がいい投手なのも知っている。
名前も聞いたことがある。でもね、」
「俺に同じ質問をする子はだいたい辞めたよ。
なんたって、自分の実力と才能を信じてるからね」
「それっていけないことなんですか?」と、俺は思わず強く聞き返してしまった。
すると佐渡島さんは冷静に答えた。
「悪いとは言っていない。」
俺がなおも不満げな顔をしていたのを見て、つづけた。
「それじゃあ、早速先輩からの第一号アドバイスをあげよう。」
『自分を疑え』
え?
「ピッチャーが1番最初にしなきゃいけない大事なことは、『自分を疑う事』だ。」
どういうことだ。ピッチャーはキャッチャーの指示と自分の投げるのを頼りにしなきゃいけない。
それなのに、なぜ自分を疑う必要がある?
耐えかねた俺は、「失礼します」と言って部屋を出た。
もしかしたら、あの人も球種をたくさん持っているのかもしれないし、球速も死ぬほど速いのかもしれない。
でも、絶対この人に勝たないと俺の勝利は示せない。
険しい顔で戻ってきた俺を見た隣の隣のやつはまた縮こまっていた。
だから僕なりにほぐそうと頑張って「君は?」と聞いた。するとその子は
「僕…?僕は戸賀光哉。よ、よろしく」と言った。
そして颯が部室から出てきて、光哉が部室に入ろうと立った。
座っていたから気づかなかった。
光哉は、背が低いな。
150数センチくらいか…と思いながら俺は視線を空に移した。
そして光哉が入った部室から、佐渡島さんの
「ポジションは」という声が聞こえた。
背が低いから…内野あたりか。
「センターです」
センター?センターは外野で一番広いと見れる守備、しかもそんな中長打球に反応しなければならない。光哉くんが…センター?
「へー、あいつセンターなんだ。やるじゃん」と颯がなぜか嬉しそうにしていた。
そういえばこいつのポジション聞いてなかったな。
「颯、ポジションは?」
「佐渡島さんみたいな聞き方するなよ、ビビるだろ笑」と笑いながら大きい声で答えた。
「キャッチャーだ」
「いつか、お前の球も捕るよ」
俺はめんどくさくなって、目線をそらした。
「捕ってみろよ」と言ったら、颯はまた笑ってた。
そして中から佐渡島さんが出てきた。
さっき反抗的な態度をしてしまったから少し目を合わせるのが気まずかった。が、佐渡島さんは気にしないという感じで淡々と話していった。
「明日どんな感じかゆる~く見てくから一通り必要な道具は持って集合、以上。解散。」
そして俺はさっさと帰ろうとしたが、1つ疑問があった。
そういえば高1って4人って佐倉さん言ってた。
颯と、光哉と、俺と、
あと一人はどこだ?