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反撃開始

翌朝、6時のミーティングにたたき起こされた時は眠すぎて夢か現実かわからなかった。

佐渡島さんは昨日のことがなかったかのように颯爽と前に立っていた。

しかし、佐渡島さんは佐倉さんが意地でも捕ってくれないから今日投げることはできない。


今朝はとことんやって、午後の試合形式の練習に少しでも活かすことができるようにせねばと考えた。


すると颯が佐倉さんに色々聞いているのが見えた。聞こえてきた会話によると、颯がいろいろ佐倉さんに昨日の判断ミスのところを聞いているらしかった。


俺もやらなければ、もう敗北は許されない。


俺はボールを掴み、送球マシーンというボールを勝手に送り出してくれる城聖には名前すら聞かない高性能な機械の隣に立った。

このマシーンの設定速度を145キロにし、配球はスライダーを選択する。

そしてマシーンもボールを一つ救い、ゆっくりとアームが繰り出されて最後には壁に向かって145キロのスライダーが放たれた。次に俺はボタンをすぐに押して、1メートルほど離れて真横に立った。

そして俺もすぐに大きく振りかぶり、マシーンに合わせてスライダーを一本、壁に向かって全力で投げた。


やはりマシーンのような完璧な球は投げることができない。

スピードが少し遅く、曲がりもマシーンよりわずかに浅い。

同じことを繰り返しても、やはりスライダーが問題点だとわかった。

いままであまり打たれることのなかったスライダーもここでは通用しない。


何回投げたか、またマシーンのボタンを押そうと向かったら、マシーンの前に人が立っていた。

佐渡島さんだった。

「見学っつーもんはどうも暇すぎてさぁ。ボタン押すぐらいやらせてよ」


はぁ。と俺は心配2割と呆れ8割の返事をしながらマシーンの横に同じように立った。

そしていくぞーという佐渡島さんの声に合わせて投げた。


やはり目立つだめなところが多い。

佐渡島さんは腕を組んだあと、うーんと言ってからこっちを見た。

「瀬尾はこのスライダー、どうしたいの?」と聞いてきた。俺はしばらく言葉をまとめてから

「もっとスピードを上げて、もっと角度つけたいです」とありのままに答えた。


すると佐渡島さんが「マシーンの球速の設定速度は?」と言われて、「145キロ以上です」と答えたら

「遅いねぇ」と言われてカチンと来たので思わずチッと舌打ちすると佐渡島さんが「聞こえてんぞー」と

笑顔で圧をかけてきたから目をそらしておいた。


「速度は落としていい。その代わりありえない角度をつけろ」


速度を落とす?

何を言ってるんだこの人は。


「速度を落としたものは逆にタイミングが掴みづらいと小利木が言っていたのを思い出した。

130、いや120でもいい。そのかわり角度を限界までつけろ。」


圧倒的4番の小利木さんが言うなら本当なのだろう。でも確かに遅すぎる球は打ちづらい。

速度はなんとか練習すればどうにかなる。いや、試合の中で調整できればもっと面白いのではないか。

いろいろなことが頭を巡って、なぜか自分のストレートの変化の仕方の可能性にワクワクしてしまった。


佐渡島さんは「とりあえず、スライダーの曲がりのコツは俺の専属先生にあとでメールで聞いてみるから」

と言った。


専属先生という言葉に引っかかったが、ふと佐倉さんに初めて佐渡島さんの100球個人練習のことを教えてもらいに講演に呼ばれた時、熱心に佐渡島さんが話を聞いていた、見た感じ佐渡島さんより年下の子がいたのをぼんやりと思い出した。


もしかして、あの人が専属先生?あの人はだれなんだ?

そんな疑問をいだいていると、また佐渡島さんがふてくされたように口を開いた。

「俺変化球細かいとこわかんないし、せっかくだからストレート見せてよ」

「嫌です。大人しくしておいてください。」と過去1と思える速さで返した。


すると佐渡島さんは椅子を持ってきて、俺の目の前で座りながら言った。

「はい。大人しくしとくから投げて」

ぜんぜん大人しくしなさそうな体制でこっちを顔見してきたから流石にどうかと思った。

しかしあまりにも真っ直ぐな瞳でみつめてくるので、ここで投げないとなにか罰が当たりそうだったので

投げることになってしまった。


まず大きくゆっくり息を吐く。そしていままでの、今まで以上のすべての怒りを握る手に込め、球を持つ。


空に届かなかなくてもいい。ただいつかお前が、俺が立っているマウンドを見て後悔すると良い。

俺達を捨てたことを後悔すると良い。守神様に怒られると良い。

瀬尾晴。俺の父親だった人。

いつか、いつかお前を越える。トップに立つ。

大空に手を大きく伸ばし、振りかぶってから思いっきりまっすぐ投げた。

すると佐渡島さんの表情が少し変わった。


今までで1番の球速、そして完璧なインコースギリギリの球が佐渡島さんの前を通り抜けて言った。

今までで1番、たまにいろいろなものを込めた。

思い出したくなかった怒りも引っ張り出して、投げた。

その分、いつも投げるときより数倍の疲れを感じてしまった。

「いいじゃんかよ」と佐渡島さんがつぶやいた。

そして椅子から立ち上がると、俺の方にぽんと手をおいて一言かけた。

「無理するなよ」


あなたがそれをいうと説得力が倍増するんですよ、佐渡島さん。人のこと言えませんよ。

浮かんだ言葉は空気となって届かないまま消えていく。

そのまま佐渡島さんは何も言わず去っていった。


そのまま俺は合宿中、ひたすらマシーンを参考にしながら一通りの球種の精度を確かめ、少しずつ上げていった。ストレートは怖くてこの前のようには投げることができなかった。


そして気がつけば合宿最終日、午後の試合形式の練習になった。

佐渡島さんは佐倉さんから結局合宿中は1日30球のみ投げて良い他、安静命令を食らったらしく、午前中の練習で30球投げきってしまった。それであんなにおとなしかったのだろう。さっきまで勉強のため、と試合を覗いていたが、やはり見ているとやりたくなってしまうと言い、一人でとぼとぼと浜辺に降りていった。

初日とは違う俺の投球を見せつけたかったのに、

それも叶わないまま佐渡島さんは海を眺めているだけだった。

みんなには佐渡島さんの希望もあり何も言わなかったのだが、ただ一人、成斗だけは気付いた。

「佐渡島さん、怪我?」と恐る恐る聞いてきた時は驚いた。

見た目では俺でもわからないと思うのに。「出られない試合を最後まで見るのは、なかなかきついものがあるよ」と、どこか共感するような口調で言っていた。


佐渡島さん抜きの試合はが始まった。

一回0対0となり、二回は小利木さんからの打順となったが、颯がここを申告敬遠という判断を下した。

俺が不満そうな顔をすると、2巡目は当たらせるからと颯なだめるように言った。

そしてそのまま両者0、0。5回、試合が動いた。

なんと成斗が俺のスライダーを捉えた。

セカンドへ転がる打球となったが、セカンドからファーストへの送球が乱れ、セーフとなり出塁させてしまった。


エラーをちまちま言ってもしかたない。そう考え、俺はゲッツー体制を指示し、ストレートを投げた。

いつもならしっかり入るところが、先程のことを思い出してしまったのか少し上ずってしまったところを2年の先輩が捉えた。大きく振られたバットの先を見ながら俺は打球を目で追うしかなかった。

するとその打球はライトへ行き、豊島さんがしっかり掴んでくれた時はホッとした。

しかしなんと成斗がたまたま盗塁体制を取り打つ前から走り出していたため、犠牲フライだったが一気に1塁から3塁まで進塁した。

成斗は本当に足が速い。

1アウト3塁。最悪の状況でバッターボックスに入ってきたのは、2巡目の小利木さんだった。

ここは颯にフォークを指示された。先程のマシーンで極限まで落ちるように何度も投げたフォーク。

まだ完全にはマシーンには追いついていないが、昨日よりは安定していると願いたい。

小利木さんがバットを構えた。俺も大きく振りかぶって、フォークを投げた。

昨日は一発目から打たれたから正直気が気ではなかった。

一発目から打つということは、ピッチャーの心をへし折るのに等しい。

すると、打たれると思ったフォークを小利木さんはバットを動かさず見逃した。

判定はストライクだった。

いける。通用する。


たった一球で、一気に俺は俺自身に自信をつけた。

そのまま高ぶった気持ちのまま、俺はストレートを選択した。さっきの、さっき佐渡島さんに見せられたあの怒りのこもった完璧に近いストレートを小利木さんに試せる。

俺は怒りを思い出そうとしたが、先程のように冷静ではないため、なかなか気持ちを一定にすることができない。

ある程度のところで俺はストレートを投げた。

思いっきり振ってくると思ったら、違った。

小利木さんはまさかのセーフティーバントを仕掛けてきた。

スクイズだ、そう気づいたときにはもう視界を横切って走っていく成斗の姿があった。

颯への送球も間に合わず、成斗はホームに戻ってきて一点追加された。

俺はマウンドからその光景を見ることしかできなかった。

その後はゲッツーを取り、しっかり一点で抑えた。


それでも打たれてから立ち直るには時間がかかるのは同じだった。

打撃に向けて切り替えなければ、と息を吐いて座った。

そしてミットをベンチにおいて、バットの準備をしていると、後ろから肩を叩かれた。

いつの間にか海から戻ってきた佐渡島さんだった。


「打つのは、許可されたから」


冷静な喋りとは反対に少し嬉しそうな顔をしながら、佐渡島さんもバットを持ってきた。


ここから反撃開始だ。

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