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急変

そのまま寮に戻って、ご飯を食べて、部屋にこもった。

何がいけなかったのか、どこを直せばいいのかは考えても考えてもでてくるし、でてこない。

自分の欠点は見ないふりをする。

そうしたらいつか自然となおる、みたいなバカなことを繰り返してきた気がする。

部屋は二段ベッドが2つはいったそれほど大きくない部屋だったが、居心地は悪くなかった。

誰とも話したくなかったから、俺はすぐにベッドに入った。


初めて真正面から負けた。


今まで勝ちつづけることが当たり前だったし、証明するのが当たり前だった。

誰も褒めてくれないし、褒めてもらうために投げているわけではない。

ここまで敗北感を感じたことはなかった。


周りもそれに期待していたし、俺自身もそれに期待していた。


寝ようとしても、寝られないから目を開けたまま横になっていたら、しばらくしてご飯をたらふくおかわりして帰ってきた颯が入るぞーといって部屋に戻ってきた。


ねたふりをしようも、うまく行かない。

「寝れない」とつぶやいたら、颯はお腹を擦りながら「もし不眠症なら、羊を数える努力をすることだな」と笑っていた。

「ほんでもし悔しくて寝られないなら、納得するまで走る」


「走る?」と俺が寝返りをうち、颯の方に向き直りながら聞き返した。

「監督言ってたんだ。『負けた日とか、悔しくてどうにもならなくて寝方も忘れるようだったら

ひたすらやれば良い。』俺の場合は、ひたすら走ってひたすら球捕る。」


そしたら納得して寝方を思い出すよ、と教えてくれた。

俺はそれ以上何も言わず、もぞもぞっとベッドから這い出た。まだ寝間着には着替えていなかったから、外に出ていける格好だったことに気づいた。


そのままドリンクボトルだけ持って、やすい腕時計をつけて、5分かけてグラウンドに行った。

グラウンドからはやっぱり海が見えて、昼間見るのとはまた違った見え方だった。


走った。ひたすら走って、足が止まりかけても、転びかけても走った。

今回負けたのは、たまたまじゃなくて、必然的な敗北だ。

体は心よりそれを早く理解していたから、受け入れられていなかったんだ。

納得はしない。けれど、理解はできる。


どれぐらい走ったかわからないところで、ようやく止まった。

息切れがひどくて、久しぶりにこんな長距離走ったなと思いながらボトルを取りにベンチに行ったところ、下の浜辺に小さい人影が見えた。

先程は気づかなかった。いなかったのかもしれないが、それより海を見ていたから目に入らなかった。


もう寝ていても良い時間に、二人の人影が見えた。

俺は気づかれないようにそっと浜辺に石畳の階段で降りてみた。


そこでは佐倉さんと佐渡島さんが、キャッチボールをしていた。

あぁ。合宿中もやるんだ、100球。


俺だって、毎日やってきた。だから、その成果が返ってくるのが当たり前だ。

やればやった分だけ返ってくる。だからやる。

でも、やった分が返ってこない人がいることを最近わかるようになってきた気がする。

それに耐えられない人が挫折し、

続けるのを諦める。


努力は時に人を裏切る。「努力は裏切らない」なんて言う人は多分、裏切られた人を含めてない。

だからもうあとはどうすることもできないのが止まってしまうようで時に耐えられなくなりそうになるんだ。


この人たちは多分、努力に裏切られた人を見てきた。もしかしたら、この人達自身がそうなのかもしれない。わからないけどわかる。


それらを全部理解して、覚悟した人だけが、「やり続ける権利」を得られるんだろう。


潮の香りと、波の音と、ボールがミットに入るあの心地よい音が頭の中でこだまして、自然と冷静になって息も整ってきた。


やはり近くで見ると、二人は大きく見える。


このままずっと見ていたかったが、そろそろ疲れも見えて明日の練習を考えたら、もう寝た方が良いと判断できた。


明日は、声をかけてみてもいいだろうか。そう考えながら俺は背中を向けてゆっくり石畳を登ろうとしたところ、急にキャッチボールの音が消えた。

そして佐倉さんの「竜!!」と叫ぶ声と、「うっ」という苦しそうなうめき声が聞こえた。


そして振り向いて飛び込んできた光景に理解が追いつかなかった。

そこには佐渡島さんが先程まで投げていた腕を抑えながらうずくまっている姿があった。

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