必要ではないけれど
「あぁー今日も練習つかれたぜぇ」っと大きく伸びをした颯の手が俺の顔面にガンッと直撃した。
「くっそ颯…」と俺は顔面を抑えながら歩くのをストップすると、光哉が心配そうに大丈夫?と覗き込んだ。そのとなりで肩を震わしながら「大丈夫?」と成斗が言っている。
「成斗お前笑ってんじゃん」と颯が笑ってた。
こちらは顔面に攻撃を食らっているというのに何と言う扱いだろうか。
「おい、テスト勉強してるか」と颯が聞くと、みんな黙った。
答えは一つ。やってない。
「じゃさ、今日は午前中の部活だけだったし、午後から駅前のカフェで勉強会しね?」
「え、あそこ!」と急に光哉が嬉しそうな顔をしてきた。3人で驚いていると、
あ、ごめんといいながら光哉が恥ずかしそうに言った。
「あそこのカフェ、今度から新作のパフェでるんだよ!だからいつか食べたいと思ってたんだけどなかなかよる時間無くてさぁ」
「パフェかぁ」と成斗もとなりで目をキラキラさせた。
「よっしゃー!じゃ、駅前のカフェで3時から勉強道具持って待ち合わせな」と颯が言って分かれた。
ただ、俺には一つ問題があった。パフェのお金を母に請求するのがどうもためらってしまう。
ただでさえ朝から晩まで仕事させてるのに。いままでなにかをねだったこともあまりなかったから、なおさら言い出しづらい。
結局連絡できないまま3時になって集まった。
みんながそれぞれ自分の気になっているパフェを頼んでいる中で、俺はアイスコーヒーにした。
「なんだ、澪馬パフェじゃないのかよ」と颯に不思議そうに言われて
「今月の小遣いもうないから」といってアイスコーヒーを受け取って先に席に行った。
しばらくして俺の周りの机の上に3種類のパフェが乗っていた。
成斗と光哉がほわほわと嬉しそうに写真を撮っているのをみて颯が「お前ら女子力たけー組じゃんかよぉ」
と呆れたように言いながらも先にパフェを食べていた。
すると、光哉が少しためらいながらも「瀬尾くん…」と声をかけてきた。
何?と答えると、ビクッとしながらもパフェをこっちに向けて
「一口食べない?」と差し出してくれた。
「え、いいよ。光哉のだよ。」と言ったが、光哉は
「なんだか小遣い不足で買えなかった瀬尾くんの隣でパフェを頬張るのはちょっとなぁと思っちゃってさ」
そういった瞬間、まさにそのちょっとなぁの行動をしていた颯が、やべっという風に食べる手を止めた。
「だから、瀬尾くん一口食べていいよ」とにっこりと言ってくれた。
「僕のもいいよ」と成斗もさしだしてくれた。
「一口だけだぞ?」と颯も悔しそうに差し出した。
ここまできたら断れなくなり、じゃあ、とスプーンで一口ずつ食べた。
どれも違う種類の味のパフェだったが、すべて美味しかった。
パフェなんて初めて食べた。
こんなに美味しいものだったのか。
いや、今この瞬間だからきっと美味しんだ。
このあと、俺らは勉強したが、意外にも颯の頭の回転が早く、いろいろな問題を教えてもらうという屈辱的な事になってしまった。
「確かお前、その頭の回転使って初日俺に変なあだ名つけたよな」
というと、颯は
「あれ、そうだっけ」とかいいながらとぼけている。
光哉と成斗が何の話ー?と興味あり気に聞いてきたので、ほらお前ら勉強勉強!とあわてて取り押さえる颯を俺はアイスコーヒーを飲みながらのんびりと鑑賞していた。
もうパフェは一口ずつ食べてしまったけれど、
まだ口の中にかすかに風味が残ってる気がする。
次の日、合宿前最後の練習に行った。
休憩してると、佐渡島さんが得意げに俺たちに話しかけてきて
「なあなぁ、君たち駅前のパフェ知ってるかい?俺も‥」と言ったところで成斗が
「昨日いきましたよ」と秀逸なタイミングでつっこんだ。
すると佐渡島さんはまじかよ?!と言いながら近くの小利木先輩に
「な、今度いかないっすか」って聴いたが
小利木先輩も
「おととい彼女と行ったんで」
とお手本のような回答をさらりとした。
「ってかお前彼女いたのかよ?!」「てか先輩彼女いたんすか?!」と颯と佐渡島さんの声が重なった。
「一応これでもモテるんで」と目を合わさず苛つくほどの余裕で言ってきた。
たしかに、小利木さんのルックスは一応整っている…とはおもうが、このマイペース過ぎる意味不明な人に彼女ができるのはどうも納得がいかなかった。
「でも、一応小利木がモテんの本当なんだよ」と隣りにいた二階堂さんが俺に耳打ちしてきたが、それを聞いた小利木さんが言った。
「学年で1位、2位を争うほどの人気があるお前に言われると全部なめられてるとしか思えないんだが?」
いや、ルックスも整っててなおかつ性格も温厚でしっかりしているこの二階堂さんなら納得だ。と皆が一斉に納得し頷くと「なんでだよっ」と小利木さんがツッコんだ。
「はぁ、俺の人生はもう甘酸っぱい青春時代とはかけ離れてんのかな」と佐渡島さんがしょげた声を出すと、豊島さんと佐倉さんが笑いながら大丈夫だって、と励ましていた。
佐渡島さんもあまり認めたくないが、ルックスも整ってて性格は全無視したとして、一人や二人からは告白されそうだと思ったんだけどな、と考えていると豊島さんが俺の疑問を察したようで
「こいつ女子の前になるとあがるらしくてカッチコッチに固まっちゃうんだよな」と笑いながら説明した。
バカにすんなよぉ、と言いながら練習に戻っていく3年生達に俺達は自然とついて行った。
前はこんなに話す声も、笑い声もきこえなかった。野球には必要ないと思っていた。
確かに必要はないと思う。
だけど、案外余計でもないと思った。
明日からそんな中での甲子園予選に向けての合宿が、始まる。




