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暮の日記

トマト讃歌ーワインを添えてー

作者: 暮 勇

 これを書いている今、私は強かに酔っている。ワインを3杯店で飲み、今家にて5杯目に入っている。

 そんな状態で書かれた文章であることを、お詫びしなければならない。

 しかし、そうしてでも書かなければ気が済まなかったのだ。

 あの、道端に捨てられたトマトのことを。


 店で食事と共にワインを飲み終え、更に店で買ったワインボトル1本を抱えて上機嫌で帰路についている道中だった。

 街灯少ない道端。暗がりの中。その赤は鮮烈な印象を私に植え付けた。

 立ち止まり、足元にあるそれを見つめる。落ちた瞬間に潰れてしまったのか、汁気の多い果肉が控えめに飛び散っていた。

 暗くとも、それがトマトであることがひと目で分かった。

 それを見た瞬間、私は酷く切なくなってしまった。

 きっと近所に数軒あるスーパーのどこかで買われたトマト。自転車のカゴに乗せられた袋から段差を超えた弾みにこぼれ落ち、気づかれずに放置されてしまったのだろう。

 このトマトには、華やかな未来が待っていたのだ。煮込み料理に使われていたかもしれないし、パスタに和えられていたかもしれない。サラダの色彩を良くする役目だってあっただろう。どのような料理にしろ、その役目は重要なはずだった。

 それが今や地に潰え、実をあらわにし、2度と食卓に並ぶことが許されなくなったのだ。

 いっそ、トマトかどうかも分からぬくらいぐちゃぐちゃになり、カラスや鳩に突かれていれば、まだ救いがあったかもしれない。食物として生まれたその身、例え人間でなくとも喰われれば本望というものだろう。

 それすら叶わぬ半端なその様に、思わず足を止め涙を流そうか、そんな心境に陥ってしまったのだ。

 もちろん、私には世間の目があった。ワインボトルを抱えているだけでも中々な身目なのだから、これに加えて潰えたトマトの前で立ち止まるなど、酔漢の悪癖甚だしいというものだ。

 だから私はそのトマトを跨ぎ、早々にその場を去った。

 そして、この文章を書いているのだ。


 たかがトマト1個に対して、こんなに馬鹿馬鹿しい文章を書くのはどうかと思われるかもしれない。

 しかし、書かずにはいれなかったのだ。

 あぁトマトよ。値をつけられるほど気高き存在よ。

 私は地に付した君を憐れまずには、居れないのだ。

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