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六話 これからのこと



 肉塊はあの後ヨギリの出した炎で灰も残らず燃え尽きた。ヨギリ曰く残しておく価値はないそうだ。

 そして今、別の部屋に移動しエナミヤとヨギリがこれからのことを話し合っている。優弥はエナミヤの隣に座り、精神的にも肉体的にも疲れてしまったのか眠っている玲に膝枕をしている。


 ヨギリとエナミヤの話では、エナミヤの家にいる時に何者かが優弥を連れ去ろうとしていた。それはエナミヤが阻止したようだが、犯人を取り逃がしたため優弥自身を囮にして捕まえようとしたらしい。そのことについて優弥を危険に晒したとして、二人は優弥に謝ってきた。

 だが、玲のことは完全に想定外であるようだ。


「では後処理は私がやっておきましょう。エナミヤ、君が取り逃した者のことを考えると確実に魔道士はアレ以外にも恨みを買っていますね。アレをこちらに転移させた見ていた者らの気配からして多くても五、六人程度でしょうが。ですが、彼女達……失礼、彼らを保護し万が一、安全な地域にいる方々に被害が及ぶことになれば私も君も面倒なことになるのは間違いないでしょう。ですから――」


「くだらねぇ三文芝居に付き合わせた挙げ句、俺に面倒を見ろってか。少しはこっちのことも考えろ、無理に決まってる。流石にそこまではできねえ、つか俺一応仕事あんだけど」


「貴方の職場ならば連れて行ってもさして問題はないでしょう。それにタダでとは言いません。彼らの保護者を買って出てくれるのでしたら、貴方が私にしている借金をなくして差し上げるのもやぶさかではありません。……どうでしょうか?」


「乗った。これからよろしくなお前ら」


 先程までの嫌そうなオーラはどこへいったのか、キラキラとしたオーラを纏い爽やかな笑顔を優弥に向けてきた。

 そんなエナミヤに蔑んだ目を向け、ヨギリは優弥に話しかける。


「天沢君、こちらの勝手な都合であのような者と共に居なければならないのは申し訳ありませんが、残念ながら断っても君たちに何もメリットはありません。ですのでこの話を受けることをおすすめします」


「あ、はい。俺もこの子もそれでいいと思います」


「ご了承ありがとうございます。できるだけ私も協力をしますので。もしそちらの者が君に何かをした場合は私に連絡をください。では、これを渡しておきますね。私の連絡先を追加してあります。使い方は分かりますか?」


「あ、ありがとうございます。使い方は……はい、大丈夫です」


 優弥がヨギリから二つ渡されたものは所謂ガラケーと呼ばれるものだった。小さい頃に親が使っているのを触らせてもらった記憶がある。 

 少しいじってみるが昔の記憶はそうそう消えないのか電話の画面にもメールの画面にもすることができた。だが、優弥は自分は大丈夫でも玲は恐らくこれの使い方が分からないだろうと思う。同年代にもガラケーの使い方を知らない人がいたぐらいなので、十二歳と言っていた玲が知っているとは考えにくい。


 ―――後で教えないとなぁ、まぁこれぐらいの子ならすぐ覚えるか


 そう優弥が思っていると、隣のエナミヤが立ち上がった。


「よし、じゃもう行くわ。ありがとなヨギリ、借金帳消しは取り消すなよ。――あー分かった分かった、嬢ちゃんは俺が運ぶ」


 その場から動こうにも動けない優弥が助けを求める目でエナミヤを見ると、エナミヤは玲をおぶり廊下に出ていく。優弥もその後に続き、扉の前で一礼しヨギリに礼を言うとその場を後にした。



*****



 優弥達はエナミヤの家へ戻るためエナミヤの車に乗っている。『認識阻害』という術を優弥たちに先程かけたらしく余程の者でなければ襲われることはないとヨギリが言っていた。もう空は明るくなっており東の方に太陽が見えた。本当に怒涛の夜だったと優弥は思う。

 ちなみに玲は起きそうもないので優弥の隣に寝かせている。


 優弥は景色を見ていたがある一定の所から、これまでのビルの並び立つ景色から和風な住宅や建造物が並ぶ様になっていった。街の中を歩く人々も元の世界で優弥が見慣れている服装の人もいるが、多くは教科書などで見たことのある大正時代のような服装をしていた。


「驚いたか? 俺らの国――正確にはヴェリード連邦ってんだけどな、小さい国やらがいくつも結合してできたから全然違う国に来たと思うだろ。ここはエンリジってとこだ、俺たちがさっきまでいた首都に近くて結構栄えてる」


「へえ、あ、じゃあエナミヤさんの家ってここにあるんですか? でも行くときってこんな道通ってました?」


「いや、俺の家は此処を超えたとこにあるな。あとお前を見つけたとこは色々あって俺が借りることになった部屋だ。……残念ながらそういうやべぇ事案とかはねぇよ」


 それから色々と他愛のない話をしている間に、いつの間にか景色は見慣れたものに戻っていた。話に夢中になっていた為に気が付かなかったが中心部からは離れているのだろうか。警察署周りのようにものすごく高い建造物はあまりない。

 だが車が更に進んだ辺りで優弥の顔は引きつっていった。 


「……エナミヤさん、あの、此処ってどう見てもラブホ街、ですよね?」


「どっからどう見なくてもラブホ街だろ。後もう少しで家まで着くからそう焦んなよ」


「そういう事じゃないです! 言いましたよね? 玲はまだ十歳ですよ。教育に悪いどころじゃないんですけど! てかアンタ二十七って言ってましたよね! そんだけ生きてたら流石に分かるでしょ!」


「しゃーねーだろ、俺の家この辺にあるし。此処通らないとすげぇ遠回りになんだよ。ただこの辺、小学生っぽいのは流石に居なかったが、此処よりちょっと先に行った所に来る中高生ぐらいの嬢ちゃん達はいるぜ」


「ホスト狂いだろそれは! つか小学生居ねぇって知ってんじゃねぇですか!」


「はっはは。ま、細かいことは気にすんなよ。てかお前そんなに大声出してると嬢ちゃんが起きるぞ。見せたくね―なら静かにしとけって」


 慌てて優弥は口をふさぐ。隣を見ると玲はすやすやと眠っており、起きる心配はなさそうだ。ホッと息をつく。会ってまだ数時間しか経っていないが、それでもこの子供に救いを感じていることは確かなことなのだ。恐らく自分と同じ境遇の者がいるというだけで精神的には随分と楽になる。

 出来ることならば、この子だけでも元の世界に帰してあげたいと優弥は思う。


 ラブホ街から抜け、煌々とした光が遠ざかっていくとだいぶ落ち着いた場所に出た。それでも優弥の住んでいた所と比べれば都会と言っても遜色ないだろう。

 数分ほど走った後、車はマンションの駐車場に止まった。外観からしてあまり高級そうな感じはしない。どこにでもありそうなマンションだ。


「着いたぜ、嬢ちゃんは――起きそうにねぇな。じゃ俺がまたおぶるわ」


「はい、ありがとうございます。じゃあお願いしますね。あの、気になってたんですけど、エナミヤさんの仕事ってなんですか? あ、言いたくないなら大丈夫です」


「いや、別にそういうわけじゃねえが……地下の方でな、キャバクラとホストクラブと風俗をいくつか経営してる。こう見えて結構稼いでんだ」


 思ったより凄い回答が返ってきたので優弥は驚いた。思わず隣を歩くエナミヤの顔を二度見してしまう。失礼かもしれないが、とても三つの店を経営している様には見えない。

 

「マジですか!? ってか結構稼いでるんだったら、もっとすごいとこ住まないんですか? お金持ってる人ってタワマンの最上階に居るイメージがあるんですけど」 


「馬鹿かお前、もったいねぇだろそんなん。雨風しのげて飯が食えるだけで十分だわ」


「そんなもんですかねぇ」


「そんなもんだろ」


 そしてマンションに備え付けられているエレベーターに乗り、あっという間に三階に着いた。少し歩いたところにある扉の前に止まり、エナミヤはかかっていた鍵を開けた。

 それに続いて優弥もその部屋の中に入った。

 


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