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五話 影と炎



「うあああああああああ!!!」


 自分の口からここまでの声量が出せたのかと言うほどの大声が出た。

 この場の視線がすべて自分に集まっているのが分かる。説明しようとするのもつかの間、目の前にあの肉塊が現れ針がこちらに向かってくるのが見えた。


 優弥と玲に針がもう少しで届くという所で、その針は炎に包まれ床へと溶け落ちた。肉塊本体の方にも炎が向かっていくが、肉塊はその針をどうやったのか自ら切り落とし後ろへ飛び退いた。

 そして肉塊はグチャグチャと音を立てながら、大きな一つの目と口の形をしたものを現した。その目は赤く血走りながら優弥を睨みつけ、口からは耳を劈くような悲鳴を上げた。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺おおおおおおおす!!!」


 先程の優弥の周りを狙ったものとは違い、全方位に針を出す。優弥たちの方に向かってきたものはすべて燃え落ちたが、燃えていないものが壁に突き刺さっており、その威力の強さを改めて優弥は実感する。


「お前らはそこから絶対に動くな! つかさっさと燃やせやヨギリ!」


「本体を狙ってもあの俊敏性なら避けられるでしょう、無駄打ちをする気はありません。それに出力の調整も面倒です。ですが、彼女たちは死んでも守る所存なのでご心配なく」


 エナミヤとヨギリは優弥と玲の前方に立ち、肉塊と対面する。エナミヤの手には影から出した銃が握られ、銃口は肉塊の方へと向きその傍らには黒い狼が肉塊に臨戦態勢をとっている。

 ヨギリの周りには赤い火の玉が漂い、本人も仕込み杖から刀を抜きそれを構えている。


「邪魔をするなああああああああああ!!!」


「こいつ殺されると俺の責任になるからやめろ! つかアンタの言ってる奴とこいつは別人だっつーの」


「黙れええええ!! 私を騙そうとしたって無駄ああああああ!! 少し姿を変えたぐらいでえええ!! 間違えるわけないでしょおおおおお!!! 絶対にいいいい殺おおおおす!!」


「そうか、しゃーねーな。じゃ死んでくれや」


 肉塊の背後から狼の鋭利な爪が襲いかかる。その爪で切り裂かれた肉塊の一部がベチャッと床に落ちた。畳み掛けるようにエナミヤが銃を放ち着弾するが、それも構わないというように動き続ける肉塊が狼に食らいついた。頭の部分を食われバキバキと嫌な音が響き体の部分だけが残ると、黒い狼はその場から消え去った。


「マジかよ! げ、やべ、ヨギリ!」 


 肉塊は上に飛ぶと優弥に向けて針を飛ばしてきたが、それはヨギリによって細切れに切り刻まれた。

 肉塊が空中で針を切り落としている間にエナミヤは飛び上がり、空中に留まっている肉塊を剣で真っ二つにした。


「これぐらいでぇぇぇぇえええ!! 諦めるわけないでしょぉぉぉぉおおお!!!」


 真っ二つにされた体の半分の方からグチュグチュを再生をしていった。片方はそのまま床に残っている。

 そして全体を再生した肉塊は針を出しては燃やされるを繰り返すものの、本体に銃弾が迫っても素早い動きでそれを回避していく。また、当たったとしても当たったそばからその傷が再生している。このままではジリ貧となるのはどうやっても確定だろう。


 だがそれも肉塊の動きが初めの頃より遅くなり、肉塊が飛び退き床に着地した瞬間に終わりを告げた。

 

「があああああああああああああ!!!」


 肉塊の影が大きく蠢くと肉塊を包み込み床に押さえつけた。包み終わる前に見えた影にはいくつもの鋭い針がついており、それに閉じ込められたためか溢れんばかりの血が流れ落ちている。肉塊はうぞうぞと動き、針を出そうともしているが影に全身を拘束されているため出すことができなくなっている。


「恐らくはこれで大丈夫でしょう。……君が天沢君ですね? これをお嬢さんにかけてあげてください。これをかければ彼女の視界は私達と同じようになるはずです」


 優弥達のそばにいたヨギリは優弥に眼鏡を手渡してくる。それを優弥が受け取ると、エナミヤの方へと歩いていった。


「あーっと、玲、もう大丈夫みたいだわ。ん、だからちょっとだけじっとしてて。それが終わったら目を開けていい……あ、もう開いとるね」


 優弥は玲に眼鏡をかけた。そしてその瞳が大きく見開かれる。


「え、うわ、へぇええ」

 

 メガネを取ったり着けたりしながら玲は小さく笑っている。

 その様子に優弥は少し苦笑いをする。ヨギリがどうなっているのかは知らないが、エナミヤの姿を見たときはあんなに泣き出すほどだったのに、彼女のこの変わり身の速さは素直に凄いというほかないだろう。


「優弥さん、すごい目であたしの事見るじゃん。だって、あの人達はあたし達を守ってくれたんだよね。だったらさっきほど怖くは無いよ。それにコレくれたりしたから感謝だよ。優弥さんもずっと手を繋いでてくれてありがと。あー……えーっと……狐さんも影さんもありがとうございます」


「いえ、仕事ですから。お気になさらず。ですがその狐さんというのはやめてください、私にはヨギリという名があります」


「しゃーねーだろ、嬢ちゃん俺らの名前知らねぇんだから。つかやっぱすげぇ視えてんな。ああ、俺はエナミヤな」


 いつの間に来ていたのか二人が優弥達を見下げている。

 色々とありすぎて今まで優弥は気が付かなかったが二人ともかなりの高身長だ。エナミヤの方が高いには高いが恐らく二人とも百八十は超えているだろう。


「じゃあ改めてありがとうございます。ヨギリさん、エナミヤさん」


未だにビクビクとしている優弥の隣で玲はにこやかに笑いながら礼を言う。そのメンタルを見習いたいと優弥が思っていると、視界の先の黒く包まれた肉塊がこちらにゆっくりと這って移動してきていた。


「あのすいません、あの人? って何があったんですか? や、多分魔道士の人がなにかしてそれで同じ姿の俺に襲ってきたんですよね。……あの人は大丈夫なんですか?」


「あー、あんだけ短時間で再生繰り返したんだから後もうちょいで死ぬな。で、多分だけどな元は人間だわあれ。魔道士が人体実験してああなるのは別に珍しいことじゃねぇとはいえ、ここまでのは久々に見たな。まぁ安心しろよ、あれはもうせいぜい這うことぐらいしかできねぇから」


 エナミヤの話の気分の悪さに優弥は目眩がする。そしてエナミヤの言っていたマシだと言う意味も、今嫌というほど理解した。人の形を保てているだけ確かに自分はマシだと思った。

 肉塊となってしまったこの人の気持ちもよく分かる。自分を肉塊にした相手が目の前に現れたのなら誰だって憎いと思うだろう。

 

「優弥さん、泣いてるの? でもあいつ別人だって言われてるのにそれを無視して襲ってきたじゃん。そんなののために優弥さんが泣くことなんてないよ」

 

 玲の純粋で正しい、それでいてとても残酷な言葉が優弥に突き刺さる。彼女から見ればいきなり襲ってきた悪者、それ以外の感想は湧きようがないのだろう。だが優弥からしてみれば自分と同じで魔道士の被害者なのだ。それも自分以上に悲惨な目にあっている。殺されかけたのは確かに恐怖を感じたが、それよりも同情の気持ちのほうが強くなってしまう。


 肉塊はもうピクリとも動かなくなっていた。




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