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四話 少女との会遇




 少女は茶色のなめらかな髪を持ち、その身は白いパーカーに黒のゆったりとした短いズボンと、黒いレギンスを身につけている。


 泣きじゃくる少女が上に乗っているせいで優弥は身動きが取れなくなっている。少女をなだめようと声をかけようにも、彼女の泣き声によってそれはかき消される。

 どうしようかと優弥が考えていると、エナミヤの影から出てきた黒い触手のようなものが少女の体を掴み持ち上げた。そしてクッション代わりとなっている影はその間に優弥を立ち上がらせるとすうっと消えた。


「え、え、え、やだやだやだやだぁぁぁぁ!! ごべんだざい゛〜〜〜!! ごろざないでぐだざい〜〜〜!!」


 少女がエナミヤの姿を視認すると先程とは比べ物にならないくらいの声量で泣き出し、命乞いを始めた。

 小学生ほどの背丈の少女がここまで言っていてなお、エナミヤは表情を真顔からピクリとも動かさない。


「え、エナミヤさん、勝手かもしれませんがその子を離してあげてください。お、お願いします」


「まぁちょっと待てよ。なぁ嬢ちゃん、嬢ちゃんから見て俺は人間か?」


「に、にに、にっ人間じゃないでずぅ〜〜〜。絶対ぢがう〜〜〜」


 少女の言葉にエナミヤは何か納得がいったような顔をする。対して優弥は少女の言葉に驚愕した。

 彼女の言葉に嘘がないであろうことはその様子から分かるが、エナミヤの姿はどこをどう見ても長身で白髪の青年だった。容姿で言えば人間以外のものには当てはまることはないだろう。


「嬢ちゃんすげぇな、ここまで見えすぎる奴は初めて見たわ。よし天沢、ちょっとここで嬢ちゃんをあやしといてくれ。結界の中からは出ないようにしろよ。じゃ、ちゃちゃっと話付けてくるわ」


 話しながら優弥たちの周りに文字でできた円を展開させると、止める間もなくエナミヤは警察署の中へと入っていく。残されたのは困惑しっぱなしの優弥と、あまりの恐怖に腰が抜け優弥に寄りかかっている少女だけだ。


「お、お姉ざんもあの化け物の仲間なんでずが? お願いでずぅ、助げでぐだざぁい、あだじまだ死にだぐない〜〜」


「だ、大丈夫だから。落ち着いて、ね? それに君と話したいことが色々あるんだ。ね、俺の話を聞いてくれるかな?」



*****



 あの後なんとか落ち着いた少女と話して優弥は二つ分かったことがある。一つは少女は優弥と同じように気がついたらこの世界に来てしまっていたこと。また、少女も元の世界のことを言おうとした時に声が出なくなっていたため、恐らく少女も何者かにそのような術をかけられたのかもしれないと優弥は推察する。そして少女は友達の家に遊びに行く途中にいきなりこの世界に来てしまったらしい。 

 二つ目は優弥と見ている視界が違うこと。少女にはエナミヤの姿が『黒くて大きい影のようなグロい化け物』に見えているらしい。また、警察署の中でも『大きな狐の化け物』や『足や手がいくつも生えている化け物』などを見ており、それらに見つからないようになんとか外に出てきたそうだ。

 

「……すごいね君は。うん、本当にすごいよ。俺も君の強さを見習わないとね。あ、そういえばまだ自己紹介してなかったよね。俺は天沢優弥、君は?」


鍬田玲(くわだれい)だよ。あの、優弥さんホンっと〜にありがとう。あたしめちゃくちゃ不安で、でもあの化け物……あ、人なんだっけ、その人達はあたし達を殺したりしないんでしょ。それが分かっただけでも今すごい楽になってて、それに優弥さんもあたしと同じって思うと辛いのはあたしだけじゃないんだから頑張ろう! って思えるんだ。だから、マジありがと!」


 自己紹介を終え微笑み合う二人の間に黒く青い瞳を持った小さな鳥が現れた。目の前にいきなり現れた異質な存在に玲は小さく悲鳴を上げると握っていた優弥の腕を更に強く握っている。優弥は玲を庇うように少し前に出る。

 

「ちょ、待て待て、俺、エナミヤだ。天沢、すまねぇけど今から嬢ちゃん連れて中に入ってきてくれ。嬢ちゃんは目ぇ瞑って来てくれな。コイツが俺のいるとこまで案内してくれるから着いてこいよ。まぁ見失ったらそこらへんの奴に俺の名前出して五階の会議室の場所を教えてくれ、って言えば顔引きつらせた後丁寧に教えてくれるだろうな。行けそうか? よし、じゃ後でな」


 その言葉を最後に鳥から青い瞳が消え去ると、鳥は扉をどうやったのか開け放つと中に入っていく。その後ろを玲が目を瞑っているため手を繋いで追いかける。その途中、スーツ姿の猫の耳と尾が生えた者や俗に言うエルフの様な容姿をした者などを見て鳥を見失いそうになったが、なんとかエナミヤの居る場所にたどり着くことが出来た。

 黒い鳥はまるで役目は終わったと言わんばかりに、優弥達が扉の前に着くとその姿を消すとそれと入れ違いになるようにエナミヤがその扉を開いた。


「よぉ、ちゃんと来れたみてぇで安心したわ。なぁ天沢、アンタ治安良いとこと悪いとこ住むならどっちに住む?」


「え、そりゃあ良いとこのほうが良いですけど……いきなりどうしたんですか?」


「いや、別に大した事じゃねぇよ。おい聞いたかヨギリ、本人は安全な方が良いっつってんだろうが」


 優弥はエナミヤの視線の先を追うとそこには、眼帯をつけ杖をついている着物姿の金髪の女性がいた。

 ヨギリは苛ついた態度を隠そうともせずに、大きく舌打ちをした。


「ええ、ええ、そうでしょうね。確かに本人の意志は尊重されるべきです。ですが保護するといっても、危険性がなく自衛の術を持たない者に限られることはご存知でしょう。それにその理屈で言えば、君のそばのほうが余程安全です」

 

「屁理屈がすぎんだろテメェ。ガキ二人で生きてくにゃここは治安が悪すぎんだよ。んなこと言ってる暇があんなら弱者を守るっていう、テメエら警察の責務を果たせや」


「こちらにもこちらの事情があるのですよ。というより散々言っていますが貴方が守ればいいだけではありませんか。それぐらい貴方には容易なことでしょう。……これ以上同じ会話を続けるのは不毛では?」


 エナミヤはヨギリの方に近づいていき、二人は優弥達をおいて会話を続ける。見えている優弥はともかく、何も見えずにいる玲はこの場にいることが不安でたまらないのだろうか。体は小刻みに震え、ただでさえ強かった優弥の手を握る強さが強くなる。

 

 その時優弥に異変が起こった。教室にいた時のように一瞬、視界が歪んだのだ。そして、突如として現れた赤黒い肉塊が出した大きな針のようなものに、優弥の腹部が貫かれるという時にエナミヤが優弥と玲を突き飛ばした。エナミヤの腕がボトリと床に落ちる。その断面からは血がドクドクと流れ落ち、止まる気配はない。

 そこまでを優弥が認識した時、優弥の視界は元の状態に戻った。



 


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