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 城門をくぐると、綺麗な街並みが整然と続いていた。

 美しい街ね。活気があるし、通り過ぎる人が皆笑顔だわ。

 肩を組みじゃれ合う子供たち、大きな口を開けて笑う男女、自慢げに商品を勧める店主。

 目に入る全ての人が、平和で穏やかな生活を送っているように見える。

 ここの領主は上手くやっているようね。父の治める領地も悪くはなかったけれど、この街ほど栄えてはいなかったわ。

 御者台で馬の手綱を握るエドガーが振り返る。

 

「どうだ、リピラスの街は」

「良い街ね」

 

 エドガーは子供みたいに二カリと笑う。

 

「そうだろう」

「わたくしは街を褒めたのよ」

「ん? 知ってるぞ」

 

 街を褒められて自分のことのように喜ぶなんて、本当に変な人だわ。

 

「これからどこへ行くの」

「まずは市役所へ行く。倒した魔物の引き渡しをして、その後パティのことを相談するつもりだ」

「しやくしょ? そこでわたくしの相談もするの?」

「ああ。迷子でも何でも登録が必要だからな」

 

 エドガーが話終わる前に白い建物の敷地へ入った。

 正面玄関と思われる場所を通り過ぎ、裏口のような場所へ回る。馬車は大きな扉の前で止まった。

 馬車が一台通れそうな扉の前には、先に着いたアイザックが馬から降りて待っていた。

 エドガーは御者台から降りて駆け寄る。

 

「遅くなったか」

「早いくらいだな。今、イーサンがレイラちゃんを呼びに行ってる」

 

 アイザックが目線を送ると、ギイと不快な音を立てて扉が開いた。

 イーサンが一人で出て来る。

 

「皆さんお戻りが早くてびっくりしました! ちゃんと倒せました?」

 

 高い声で無邪気に失礼なことを言うわね。わたくしは関係ないから構わないけれど。

 エドガーはうんざりした顔で腕を組んだ。

 

「倒せたから戻ってきたんだろ」

「農地の被害は最小限にできたと思うよ、レイラちゃん」

「それは何よりですー」

 

 イーサンの後ろから小さな女の子が顔を出した。

 肩までの黒髪をふわふわ揺らし、花が咲いたような笑顔で馬車に近づく。

 

「それでは確認しますね。あ、あれれ?」

 

 レイラと呼ばれた子はわたくしを見て動きを止める。右手の人差し指を顎に当てて、うーんと考える仕草をした後、エドガーを振り返った。

 

「エドガーさん、何でもかんでも拾っちゃダメですよ。またフレイアさんに怒られても、私は助けませんよ」

「いつもレイラは指さして笑ってるだけだろ」

「ちょっと、わたくしを捨て猫みたいに言わないで」

 

 わたくしの言葉が心底驚いたように、レイラは目を瞬いた。

 

「この捨て猫さんは、変わった猫さんですね」

「猫じゃあないわよ!」

「パティだ。パティ、こいつはレイラ」

「エドガー、紹介するなら正確にしなさい。パトリツィアよ」

「レイラ・ブルックです。よろしくです」

 

 レイラはぺこっと挨拶をして、荷台に乗り込んだ。

 背が低いのに、軽々乗れるのね。この子もエドガーの同僚なのかしら。

 

「これですねー」

 

 レイラはダークウルフを包んでいた布を解き、じっと観察する。

 

「うんうん、思ったより大きいです。魔力はそこそこですね。えーっと、次は……」

 

 レイラはダークウルフの下にあるスカイリザードを見る。

 

「邪魔ですね」

「えっ」

 

 この子、中腰でダークウルフを軽々持ち上げたわ。

 ダークウルフが軽いはずはない。だってエドガーが荷台に入れた時、重さで揺れたもの。

 わたくしの視線に気付いたのか、レイラが振り返った。

 

「補助魔法です。パトリツィアさんもできますよ」

「わたくしが、魔法を?」

「そうですよー」 

 

 困惑するわたくしとの話は終わったらしく、レイラはスカイリザードに向き直った。

 しゃがみ込み、涼しい顔でスカイリザードを見ている。

 

「めずらしーい。火じゃなくて氷なんですね」

「そうなんだよ。オレと相性悪いから、エドガーを捕まえて手伝ってもらった」

「アイザックさん、良い判断だと思います。あそこの農地のおじさんめんどく……作物への愛に溢れていらっしゃいますから」

 

 レイラはスカイリザードの右翼を片手で持ち上げる。うんうんと何度か頷き、立ち上がった。

 わたくしの横を通り過ぎ、馬車から降りる。

 

「はーい、しっかりと確認しました。皆さんお疲れ様です。エドガーさん、このまま中へ運んでもらえます?」

「良いぞ」

「アイザックさんとはこのまま帰っても良いですよ。報告は私がしますから」

「オレ資料作りあるから帰れないんだ」

「資料作りも大切なお仕事ですからねー。イーサンくんはどうします?」

「俺はレイラを待ってる」

「ん? そうします? じゃあ、みんなで行きましょうか」

 

 アイザックとイーサンの馬を馬小屋へ預け、皆で大きな扉をくぐる。エドガーは御者台に乗らず、歩いて馬を引いている。

 わたくしは荷台に乗ったまま、エドガーを呼んだ。

 

「ねえ」

「なんだ?」

「レイラとイーサンってそう言うことなの?」

「そう言う? ……ああ、付き合ってるぞ」


 やっぱりそうなのね。

 イーサンは二十代よね。レイラは十四、五歳かしら。少し離れてはいるけれど、仲が良さそうだわ。

 二人は触れるか触れないかの距離で、馬車の前を並んで歩いている。

 

「あ、もうすぐ結婚するから婚約者か」

「あら、結婚するの。幼いにしっかりしてるようだから、嫁いでも安心ね」

「幼い? レイラは俺と同じ二十七だぞ」

「えっ!?」


 前を歩くレイラはどう見ても少女にしか見えない。

 そしてエドガーは四十前だと思っていた。


「エドガーってわたくしと十しか違わないの?」

「パティは十七か! 何でそんな偉そうなんだよ!」

 

 大人を敬え、とエドガーが叫んだ。

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