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 エドガーは広がる畑の中を飛ぶように走り、あっという間に男たちの元に合流した。

 人間の速さじゃないわね。多分、魔法を使ったのよね。

 エドガーが何か話し、一人の男が答えている。

 話し声は聞こえないし、遠くて顔もはっきり見えないわ。

 畑には様々な野菜が植えられている。点在する民家や倉庫は窓が固く閉じられ、人の気配を感じない。

 のどかな景色に一点、青黒いトカゲが空から不穏な影を落とす。

 

「気持ち悪いわね」

 

 森で見たダークウルフよりも更に異質だわ。馬ほどもある生き物が空を飛んでるなんて!

 青黒いトカゲがエドガーを含む三人を見下ろしている。

 空飛ぶトカゲとどうやって戦うのかしら。三人とも弓を持っていないようだし、剣じゃあ届かないわよねえ。

 そう思うより早く、一番離れた男が剣を投げた。

 トカゲは翼を大きく羽ばたかせ、難なく避ける。避けた体勢のまま体を反らせ、口から水を吐いた。

 トカゲの体積からは考えられない量の水がエドガーたちの足元に落ち、柱のように凍り始めた。

 エドガーは後ろへ飛び、二人の男は手綱を引き馬ごと避ける。柱の周りの土が明らかに凍って見える。

 あのトカゲは土を凍らせるの!? あれも魔法で、トカゲも魔法を使うってこと!?

 余りのことに愕然とする。

 

「に……」

 

 逃げてと言う言葉は喉で止まった。

 エドガーが氷の柱を駆け上り、跳ねる。トカゲの目の前まで飛び上がると、剣を打ち込んだ。

 トカゲは体制を崩し、左側へ傾く。

 

「やった!」

 

 ダークウルフのようにそのまま倒れると思った。けれどもトカゲは大きく羽ばたき、体勢を整える。

 攻撃が効かなかった! エドガーは着地するまで無防備なのよ!

 その時、傾く視界の端に、トカゲの背に光る剣が見えた。

 トカゲが空から落ちるなか、わたくしも荷台から落ちる。

 身を乗り出しすぎたわ。

 

 トカゲが動かないことを確認したエドガーは、男たちに何か言いすぐに馬車へ戻ってくる。

 馬車に近づくにつれて呆れた顔になる。

 

「パティ、なんで外にいるんだよ。隠れろって言ったろ」


 判断も移動もはやすぎるのよ。おかげで荷台に戻れなかったじゃない。

 

「わたくしに命令しないで」

 

 わたくしは荷台にかけた手を離し、エドガーから目をそらす。

 荷台から落ちた、なんて口が裂けても言えないわ。

 

「すぐに片付いたから良いけどよ」

「あのトカゲは何?」

「スカイリザードだ」

「魔法を使うの?」

「一般的には火魔法を使うんだが、今回は氷だったな」

「ふうん」

「質問は終わりか」

「手を貸して。荷台へ戻るわ」

「へいへい」

 

 荷台へ登ると、馬の足音が聞こえた。先程エドガーを呼んだ男が馬に乗って向かってくる。

 男は馬の足音に負けない大声で叫ぶ。

 

「エドガー! スカイリザードも馬車に乗せてくれないか!」

「ああ、良いぞ!」

 

 ちょっと、この狭い荷台にあのトカゲも乗せるの? ここには森で倒したダークウルフも乗せてるのよ。

 トカゲとくっついて座るなんて御免だわ。

 わたくしが意見するより早く、男がエドガーの近くに馬を止めた。

 

「助か……誰?」

 

 馬上の男と目が合う。茶色の瞳が好奇心で輝いている。

 

「エドガー、この美人さんは誰だよ」

「森で拾った」

「わたくしをモノみたいに言わないでよ」

 

 エドガーに抗議していると、男が馬から降りた。

 

「初めまして、綺麗なお嬢さん。僕はアイザック・ベイカー。エドガーの友人です。名前を聞いても?」

「パトリツィアよ」

「名前まで美しいのですね」

「ねえ、この人本当にエドガーの友人なの? 毛色が違いすぎるわ」

「友人っつーか、同僚だな」

「仕事仲間ってこと?」

「そうだ」

「同僚兼友人です!」

 

 先ほどの戦いでは一人だけ何もしなかったわよね。エドガーほど強いのかしら。

 アイザックはニコニコ笑っている。

 胡散臭い笑顔だわ。

 

「アイザック、行くぞ。イーサンがスカイリザードと待ってる」

「はいよ」

 

 アイザックは軽やかに馬に乗り、わたくしに向かってウインクをした後、馬を走らせた。

 軽薄そうな男だわ。

 わたくしがアイザックに気を取られている間に、スカイリザードが荷台に積まれることが決まってしまった。

 

 結論から言うと、わたくしがスカイリザードとくっついて座ることはなかった。

 代わりにスカイリザードはダークウルフと半分重なっている。スカイリザードはかなり硬く、ダークウルフを乗せても問題ないらしい。

 少し離れてはいるけれど、狼とトカゲの死体と一緒って良い気分ではないわね。乗せてもらっているから、あまり文句は言えな……やっぱり言おうかしら。

 御者台のエドガーを見ると、並走するアイザックと目が合う。満面の笑顔で手を振っている。

 アイザックが二人乗りを提案する未来が見えた。

 やっぱり文句は言えないわね。乗せてもらっているんだもの。

 チラチラとわたくしを見るアイザックを視界から外す。

 街の城壁は全貌が分からないほど近付いていた。

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