1
本当にここは居心地が悪い。
じめじめして薄暗いし、床は硬くて冷たい。窓の一つでもつけて、床には絨毯をひくべきだわ。
気怠い体を壁に預け、汚い床に座り、冷えた足をさする。手も冷たいが、気休めにはなる。
薄汚れた真紅のドレスだけでは晩秋の寒さに耐えられない。ボロの肩掛けを体に巻き付け、猫のように丸まった。
廊下にコツコツと足音が響く。わたくしを呼びに来たのだわ。
深呼吸をし、重い体で立ち上がる。
思った通り、足音はわたくしの牢の前で止まった。
「出ろ」
感情のない声が命令する。
怒りに任せて暴れても、涙を流して懇願しても、結果は変わらない。おとぎ話の魔法のような奇跡でも起こらない限り、何も変えられない。
弱った足でふらふらと牢を出た。
ここに来てからひと月の間、一日三回、パンとスープが運ばれて来た。それ以外は誰も来ない。わたくしの家族も友人も使用人も、誰一人として会っていない。
きのうの昼食が運ばれて来た時、わたくしは死の期限を予告された。
調べればあの女が嘘を付いていることも、皆がそれを知っていることもすぐに分かる。それなのにわたくしは死ぬ。
わたくしは、見捨てられたのよ。
広場には舞台が用意されている。
主役はわたくし、観客は処刑を見に来た野次馬どもね。
わたくしが馬車から乱暴に降ろされると、歓声が湧き上がる。広場を埋め尽くす野次馬のどよめきが、波のように広がった。
兵士に背中を押され、舞台へ向かう。足がもつれ、何度か転びそうになったけれど、誰にも悟られないように耐えた。
わたくしは自分の死へと繋がる道を後悔と共に歩く。
もっと好きなことをしていれば良かった。
もっとわたくしらしく生きれば良かった。
前にいた兵士はいつの間にか立ち止まり、わたくしを見た。兵士の横には簡素な階段がある。
わたくしは慎重に、確実に舞台への階段を登る。
わたくしの顔が野次馬どもに見えた時、歓声がより一層大きくなった。何が面白いのか、一様に目を輝かせている。
舞台へ上がりきると歓声が怒号となり、広場に渦巻いた。
春の木漏れ日と褒め称えられた金髪は輝きをなくし、白磁と謳われた肌は艶をなくしてしまった。それでもわたくしは顔を上げ、前を見据えて歩く。
舞台の中央に処刑人がいる。剥き出しの剣を持ち、わたくしが来るのを待っている。
晴れ渡った空は雲一つなく、太陽は全てを照らす。
まばゆい光に目を細めた。陽の光はこんなにもまぶしかったかしら。
わたくしは一歩一歩、ゆっくりと自分の死へ向かって歩く。
もしも次があるのなら
もっと好きなことをして
もっとわたくしらしく
もっともっと自由に生きるわ。