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 本当にここは居心地が悪い。

 じめじめして薄暗いし、床は硬くて冷たい。窓の一つでもつけて、床には絨毯をひくべきだわ。

 気怠い体を壁に預け、汚い床に座り、冷えた足をさする。手も冷たいが、気休めにはなる。

 薄汚れた真紅のドレスだけでは晩秋の寒さに耐えられない。ボロの肩掛けを体に巻き付け、猫のように丸まった。

 

 廊下にコツコツと足音が響く。わたくしを呼びに来たのだわ。

 深呼吸をし、重い体で立ち上がる。

 思った通り、足音はわたくしの牢の前で止まった。

 

「出ろ」


 感情のない声が命令する。

 怒りに任せて暴れても、涙を流して懇願しても、結果は変わらない。おとぎ話の魔法のような奇跡でも起こらない限り、何も変えられない。

 弱った足でふらふらと牢を出た。

 ここに来てからひと月の間、一日三回、パンとスープが運ばれて来た。それ以外は誰も来ない。わたくしの家族も友人も使用人も、誰一人として会っていない。

 きのうの昼食が運ばれて来た時、わたくしは死の期限を予告された。

 調べればあの女が嘘を付いていることも、皆がそれを知っていることもすぐに分かる。それなのにわたくしは死ぬ。

 わたくしは、見捨てられたのよ。

 

 

 

 広場には舞台が用意されている。

 主役はわたくし、観客は処刑を見に来た野次馬どもね。

 わたくしが馬車から乱暴に降ろされると、歓声が湧き上がる。広場を埋め尽くす野次馬のどよめきが、波のように広がった。

 兵士に背中を押され、舞台へ向かう。足がもつれ、何度か転びそうになったけれど、誰にも悟られないように耐えた。

 わたくしは自分の死へと繋がる道を後悔と共に歩く。

 

 もっと好きなことをしていれば良かった。

 もっとわたくしらしく生きれば良かった。

 

 前にいた兵士はいつの間にか立ち止まり、わたくしを見た。兵士の横には簡素な階段がある。

 わたくしは慎重に、確実に舞台への階段を登る。

 わたくしの顔が野次馬どもに見えた時、歓声がより一層大きくなった。何が面白いのか、一様に目を輝かせている。

 舞台へ上がりきると歓声が怒号となり、広場に渦巻いた。

 春の木漏れ日と褒め称えられた金髪は輝きをなくし、白磁と謳われた肌は艶をなくしてしまった。それでもわたくしは顔を上げ、前を見据えて歩く。

 舞台の中央に処刑人がいる。剥き出しの剣を持ち、わたくしが来るのを待っている。

 晴れ渡った空は雲一つなく、太陽は全てを照らす。

 まばゆい光に目を細めた。陽の光はこんなにもまぶしかったかしら。

 わたくしは一歩一歩、ゆっくりと自分の死へ向かって歩く。

 

 もしも次があるのなら

 もっと好きなことをして

 もっとわたくしらしく

 もっともっと自由に生きるわ。

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