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第九話


 ダリムギルド長を見ていると生前の自分を思い出してしまう。

 ネネットさんが助けてくれてはいると思うのだが、それでも仕事量が多過ぎるのではないだろうか。

 ギルド長兼鉱山長だと最初に自己紹介されているので、町の運営まで任されているのだろう。

 仕事のやり過ぎで休めないダリムさんを見ていると、営業ノルマに追われていた自分の姿と重なって見えてしまうのだ。

 疲労が表情に出ている気がするので、何とか手を差し伸べたい。

 デッパラ副所長がダリムさんの仕事を負担できれば、少しは楽になるのだろうけど……アレでは無理だろうな。

 逆に彼の存在がダリムさんの仕事を増やしていそうだ。


 しかし仕事を手伝うと言っても、子供の僕ではできることが限られる。

 それならせめて鉱山の採掘だけは、ダリムさんが苦労しなくて済むように頑張ろうと思う。

 TOPマイナー達が随分と亡くなってしまったので、採掘量が落ち込むかもしれない。

 僕が原因の一端にもなっているので、その分はカバーできるように頑張って採掘しよう。


 そんな意気込みで下層で引き籠って採掘を続け、魔人を討伐し続け、約束の十日が過ぎていった。






 「ダーダーンー! 久しぶりじゃないの、一体何処をほっつき歩いていたのよ!」

 「おはようございます、ララーさん」 


 今日は朝からギルドに顔を出していた。

 引きこもり生活も終わり、久しぶりに朝から陽の光を浴びた。

 ギルドの広場では、今からひと月分の成績発表が行われるのだ。

 舞台が設立されていて、壇上ではダリムギルド長が演説を行っている。

 本当ならこの順位発表は、デッパラ副所長が毎月仕切っていたらしいのだが、彼はあの事件以来姿を眩ませていた。

 数日後にやっと戻ってきたのでダリムさんが話を聞こうと詰め寄ると、勝手に他鉱山の視察に出て行ってしまったそうだ。

 デッパラ派として幅を利かせていたマイナー達が多数亡くなり、以前のように好き勝手に振る舞う事はできなくなるとダリムさんが話していた。

 あの手の男はそう簡単に諦めないと思うのだが、戻ったらきっちりと責任を取らせると断言していたのでギルド長に任せたいと思う。


 ララーさんと並んで広場の最前列を確保した。


 「ムフフ、アタシは今月過去最高の買い取り額を更新したからね。もしかしたらTOPマイナーとして五位以内に入っているかもしれないわよ」

 「そうなんですか? 凄いじゃないですか!」

 「へへ、ありがと。でもダダンには負けているかな。あのサファイアの買取価格を見ちゃったから、勝てる気がしないわ」


 ララーさんはサファイアを買い取りしてもらった時にすぐ横で見ていたので、おおよその僕の成績を予想しているのだろう。

 あの時点での買い取り額で負けているかも、と言っているので金貨二枚と小金貨五枚より少し多いくらいがララーさんの成績なのだろう。

 いや、普通に採掘していてその金額なら十分に凄いと思うよ? 


 ダリムさんの口から先日TOPマイナー達が事故で多数亡くなったと告げられ、順位に大きな変動が見られると発表されると、マイナー達が騒めき立った。

 

 いよいよTOPマイナーの発表が始まり、十位から順番に壇上にあげられる。

 十位に入ったのは二十代前半くらいの女性で、ダリムさんが買い取り金額の合計を読みあげる。 

 金貨二枚と大銀貨二枚で、みんなの拍手と共にその女性が壇上にあがる。


 順位の発表が続き、いよいよ五位の発表が始まった。


 「次、第五位はララー君だ。おめでとう」

 「やったー!」

 

 ララーさんは喜びのあまり、また僕を抱え上げてクルクルと回している。

 表彰されているのはララーさんなのだが? 


 「買い取り金額の合計は、金貨三枚と大銀貨三枚だ。凄いじゃないか、この金額は過去最高ではないか? よく頑張ったな」

 「へへへー」


 ララーさんが壇上にあがり、皆から拍手を受けている。

 勿論僕も大きな拍手を送る。

 TOPマイナーになりたいと言っていたので、それを見事に叶えたララーさんは壇上で輝いて見える。

 少し照れているようだが、結果に満足しているようで壇上で胸を張っている。


 これからララーさんは優遇措置を利用して、宝石を優先的に購入できるようになる。

 お財布的にはTOPマイナーには入らない方が良かったのかもしれない。


 そして第二位の発表で前回のエースだったバーラルさんの名前が呼ばれると、広場にどよめきが起こった。

 順位を下げてしまった為か、壇上にあがるバーラルさんが恨めしそうにこちらを睨み続けているからなのか、拍手は起こらない。


 「買い取り金額の合計は、金貨三枚と小金貨二枚だ。順位は下げてしまったが、これも胸を張って良い立派な金額だ。これからも頼んだよ」

 「ぅるせー!」


 こちらは結果に全く納得がいっていないらしい。

 ララーさんとバーラルさんでは金額の差は僅かだったが、ララーさんが一人で採掘しているのに対し、バーラルさんはTOPマイナーの優遇措置の一つである、契約奴隷を雇用して数人で採掘しての結果だそうだ。

 バーラルさん個人の採掘結果では、壇上に並んでいる誰一人にも勝っていないのではないだろうか。


 そして僕の方を見ている視線がもう一つ。

 ララーさんだ。ここまで僕の名前が呼ばれていない事で、僕がエースになったのだと確信しているのだろう。

 満面の笑みを浮かべている。ララーさんが壇上にいなければ、また抱えられてクルクル回されていたかもしれない。


 その瞬間が遂に訪れた。


 「今月のエースは――キミだ、ダダン君」


 ホールに居る殆どのマイナー達は『ダダン? 誰だそれ?』といった表情を浮かべている。

 僕が壇上に向かうと――


 「嘘だろ! あのガキかー!」

 「アイツだろ? 噂の頭のイカれたガキってのは?」

 「笑わせてくれるだけじゃなかったのか!」

 「どうなってやがる!」

 「マジかー! やられたぜ!」

 

 様々な野次のような喧騒が響く中、ララーさんと受付に居るネネットさんだけが大きな拍手を送ってくれている。

 やがてその拍手がどんどん周囲に広がり、遂には広場が拍手で包まれた。


 「お疲れ様。良く頑張ってくれた。ありがとう」

 「……いえ、はい」


 ダリムさんから握手されたのだが――戸惑っている。

 エースにはなれるだろうと思っていたのだが、実際にこうやって歓声と拍手を直に受けると凄い達成感だ。

 今まで前世を含めて四十年近く生きているが、仕事をしただけでこんな気持ちになるとは思わなかった。

 生前にこなしていたのは何だったのだろうかと虚無感すら覚えてしまう。

 

 仕事で次の月も頑張ろうと思えたのは初めての経験だ。


 「因みにだが、ダダン君の買い取り金額の合計は、大金貨二枚と金貨六枚だ」

 「「「「「はぁーーー??」」」」」


 再び広場にどよめきが響いたのだが、ダリムさんは正しい金額の発表を控えたようだ。

 ベースキャンプでの引き籠り生活中に、採掘して欲しい鉱石を色々とおねだりされてしまったので、その鉱石を中心に採掘しまくっていたら、とんでもない金額に膨れ上がってしまっていた。


 「魔石の位置がわかるのだから、鉱石の位置も把握できるのだろう?」


 そんなふうに言われたら、もう色々隠し通すのも馬鹿らしいと思った。


 最後はダリムギルド長の演説で締め括られて、また新しいひと月が始まるのだった。





 「……さぁ、どういうことなのかちゃんと説明してもらうわよ」


 発表が終わり解散となった後、さっさと退場したバーラルさん以外のTOPマイナー達に壇上で詰め寄られてしまった。

 十位から三位までのマイナー達が勢揃いし、その先頭でララーさんが僕の行く手を遮っている。


 「待ってくれララー君」


 その様子を見たダリムさんが助けにきてくれた。


 「ダダン君のことは私が今まで匿っていたんだ」

 「ギルド長が?」

 「ああそうだ。彼は大きな鉱脈を発見してね、その所為でTOPマイナー達から命を狙われていたんだ」

 「そんな……」

 「TOPマイナー達は事故で帰らぬ者となってしまったが、何が起こるかわからないから様子を見る為に今日まで保護していたんだ」


 ダリムさんから話を聞いていた新たなTOPマイナー達は、去っていったバーラルさんの背中に視線を向けている。

 彼らを納得させるだけの根拠がバーラルさんにはあるのだろう。


 「それで、その鉱脈って言うのは――」

 「ああ、坑道の最奥だよ。採掘優先の赤い札と妨害防止の為に警備兵を詰めさせている。とんでもなく巨大な鉱脈らしいから、暫くはダダン君のエースの座は動きそうにないかなー」

 「何よダダン! アンタ凄いじゃないのよー!」


 ララーさん達はダリムさんの話を信じてくれたようだ。

 騙しているようで申し訳ないのだが、全くのデタラメという訳でもなく――というよりも、表現の仕方が違うだけでほぼ事実だ。

 最奥から地下に進んで採掘をしているし、赤札も設置してある。警備兵の方はギルド長が用意してくれていたのだろう。


 別れ際にララーさんから今日の夕方、TOPマイナー達でお祝いをしようとお誘いを受けた。

 勿論喜んでと返事をしておいたので、今日の晩御飯が楽しみだ。 



 ダリムさんの案内でVIPルームの近くまでやってくると、バーラルさんがギルド職員から収納袋を渡されている最中だった。

 VIPルームからの退去を命じられたようで、収納袋を使用して引っ越し作業を行うらしい。

 毎月入れ替わりの機会があるので、特殊な収納袋が用意されているそうだ。

 そして作業を終えたバーラルさんが悪態をつきながら去っていく。

 彼が住んでいた部屋に住むのはちょっと嫌だな。


 「ダリムさん、あの人が住んでいた部屋に住むのは……」

 「ああそうだ、言い忘れていたけどVIPルームには他にも契約魔術が施されていて、契約者が更新されるとVIPルームの中にある物は、全て契約される前の新品の状態に戻されるんだ。防犯面でも衛生面でも心配する事はないよ」

 

 それならまあ良いかと納得する。

 あの人の怨念みたいなものも取り払ってくれる事を願おう。

 そしてさらりと説明されたが、契約魔術が使用されているらしい。

 どういった物なのか後で詳しく教えてもらおう。


 「それじゃあVIPルームの契約を行うよ。ダダン君、ここに触れてくれるかい?」


 VIPルーム入口のドアの取っ手部分のすぐ下に、掌サイズの半円形の突起物がある。

 そこに触れると、その突起物がフッと青白く光を放った。


 「これで契約は完了だ。ダダン君がエースになり続ける限り、この部屋はダダン君が許可した者しか入室できない。中で少し話したい事があるんだけど、私も許可してくれるかい?」

 「どうすれば良いのですか?」

 「そこに触れながら私を許可すると念じてくれるだけで良いよ」


 言われる通りにすると、ダリムさんがVIPルームの扉を開いた。

 中は三十畳程の広さのリビングルームと、幾つかのドア、恐らくベッドルームなのだろう。

 家具はアンティーク調の物が多く、煌びやかと言うよりも落ち着きがあり格式が高そうな物ばかりだ。

 壁の一面がガラス張りになっていて、その真下は先程まで居たギルドの広場だ。

 この場所から買取価格表が見えるので、毎日のチェックが便利になった。


 「ダダン君、少し掛けてくれるかな」


 ソファーに促され、エースの特典について詳しく説明された。

 まず僕には専属の職員が就き個室対応になるそうだが、これは今まで通りネネットさんが僕の担当として仕事してくれるらしい。

 そして先程も見た通り、引っ越しの際にギルドから特殊な収納袋が借りられるようになる。

 鉱山で使用する収納袋は、自分で取り出せない、中身がわからない、と不便なところも多いのだが、この貸し出される収納袋はその部分が解消されているそうだ。

 ただし取り扱い時には、職員の付き添いが義務付けられている。

 これは収納袋を持ち逃げさせない為だろう。

 そしてララーさんが望んでいた、鉱石の優先買い取り権がエースにも与えられるらしい。

 もし僕とララーさんが同じ鉱石を欲しいと願った場合は、まずは僕に買い取り優先権があるらしい。順位で決まるのだそうだ。

 ギルドが買い取った金額に、ギルドの利益を上乗せされた金額で買い取れるそうなのだが、普通に買うよりも断然安く買えるらしい。

 僕の場合は宝石を買ったりしないと思うのだが、一応頭に入れておこうと思う。


 「最後に優先雇用権の話をさせてもらう」


 バーラルさんも使用していた制度で、鉱山に送られてくる契約奴隷を、鉱山が契約するのと同条件で雇えるというものだった。

 仮にクルーとして半年で契約金を支払い終える者を、その金額を自分でギルドに支払う事で、その者を半年間働かさせる事が出来るそうだ。

 雇われた者が行った採掘分は、半年間全て自分の成績に上乗せできるので、TOPマイナーの座を確保しやすくなっている。

 ただしその雇われた者が使えない者だったとしても、それは雇い入れた者の責任として、ギルドは介入しないらしい。

 つまり全く働かない者だったとしても、その負債は全て雇い入れた者が被るという事だろう。

 雇う者の能力が試されるシステムだな。無駄に雇えば負債ばかりが増えてしまうだろう。

 ギルドとしては入ってくる金額そのものに変化はないので、このシステムが採用されているのだろう。

 因みに契約期間を終えたマイナーは、その後はエースに雇用されるかどうかは本人達の話し合いで決めるそうだ。

 自由に生きるのも良し、個人でマイナーを続けるのも良し、エースに雇用され続けるのも良し、とのこと。

 この制度も成績順で契約優先度が決まっているそうだ。


 「ダダン君も何人か雇ってみるかい?」

 「僕が契約奴隷を雇うのですか……責任が重いですね」

 「ギルドとしては優秀なダダン君に沢山雇ってもらって、優秀なマイナーを沢山育ててくれるのが一番有難いんだけど」

 「ハハハ、考えておきます」

 「この後、丁度何人か送られてくるんだけど、どうだい? 見に行くだけでも行ってみないかい?」


 ダリムさんから色々期待されている気がする。


 「まぁ……見に行くだけなら」

 「よし、そうと決まればすぐに移動だ」


 引っ張られるようにギルドの入り口へと連れて行かれた。



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