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第六話

ダリム視点のお話です。少し短めです。


 ――ダリム視点――


 デッパラ副所長が問題を起こしたので、出張先で酷い目に遭った。

 カルステッド鉱山そのものの評価もガタ落ちだ。

 

 カルステッド鉱山を運営するサザーランド公爵様の寄子貴族の三男坊。

 貴族出身でプライドだけが高く、平民として副所長の座に就いていても、未だに自分は貴族だと考えていて平民を馬鹿にしている。

 そんなデッパラ副所長は甘やかされて育った男で全く使えず、普通に仕事をしてくれるだけでいいのだが、それができない。

 仕事どころか邪魔をしないでくれるだけでも良いのだが、それもできない。

 じっと座ってくれているだけで、私の胃の痛みがどれだけ軽減されるのか教えてやりたい。

 私の胃の為にも、鉱山で働く全ての人の為にも、何とか排除してやりたいのだが、公爵家からよろしく頼むと言われているのでそれもできない。


 現在の『エース』を含めたTOPマイナー達が、デッパラ副所長とつるんで他のマイナー達に迷惑を掛けているのは知っている。

 優遇措置を利用して採掘現場を荒らしたり、乗っ取ったり、鉱石を横取りしたりとやりたい放題の無法地帯だ。

 報告が上がってくるので調べるのだが、デッパラ副所長は証拠を残さない能力だけは一流なのだ。

 証拠を探している間にマイナーが鉱山を去ってしまったり、不運な事故死に見舞われたりする。

 鉱山の外でもろくでもない連中と繋がっているようで、副所長に目を付けられ鉱山を去ったマイナーが、不運にも盗賊に襲われたという報告も幾つか受けている。


 コイツを何とかしないと、鉱山の運営そのものが成り立たなくなってしまう。

 しかし現時点では打開策が見当たらない状態なのだ。



 出張から戻ったらギルドで騒ぎが起きていた。

 騒ぎの中心は、報告を受けていたダダンという少年。

 デッパラ副所長が因縁を吹っ掛けて、あろうことかマイナーであるダダン少年のお金を没収しようとしたらしい。

 全く、人を悩ませることにかけては天才的な能力を発揮する男だ。


 ダダン少年から詳しい話を聞くべく、ギルド長室へと向かった。



 「どうぞ、掛けてくれたまえ」

 「はい。失礼します」


 ソファーに座るように勧めると、大人しくちょこんと座ってくれた。

 ネネット君から報告を受けていた通り礼儀正しく、貧しい農民の子としては異常とも思える。

 本当に少年なのかと疑いたくもなるが、ネネット君が用意してくれたジュースを見つめるキラキラした目を見ると、やはり少年なのだろうと納得してしまう。


 こんな少年が二十数人に取り囲まれて、軽く返り討ちにしたというから信じられない。

 特別なスキルも持たない一昨日まで契約奴隷だった少年に、そんな事ができるものなのだろうか。


 ネネット君の報告では頭の方もかなりきれるらしい。

 誰に言われるでもなく毎日買取価格表をチェックしているとか。

 しかも計算も早いのだとか。

 彼が今身に付けている装備品が、報告を受けていた装備品なのだろう。

 武具工房のモルツが言うには、考えて作られてはいるが装備そのものは普通だそうだ。

 

 よし、彼の事は少年ではなく、一人の大人なのだと思って対処しよう。


 「ダダン君、まずは君に迷惑を掛けた事を謝るよ。ウチの職員が迷惑を掛けた。本当に申し訳ない」

 「はい。謝罪を受け取りました。でもダリムさんが何かしたわけじゃなさそうだし、それに副所長も居なくなったし。このままだとちょっと不安かな。僕は一人なので寝ている間に襲撃とかされると対処できません」

 

 少年はジュースのおかわりを要求しながら、さらりととんでもない事を口にする。

 先に起こる出来事を予測して、問題点も理解しているのだ。

 本当に七歳の少年なのか?


 「ダダン君がこの後どうしたいのか教えてほしい。私の方でできる限り対処させてもらおう。まずは肝心なことから聞かせてくれるかな。この後もマイナーとして続けていきたいかい?」

 「勿論です。採掘は楽しいので、これからもずっと続けたいです」

 「そうか、そう言ってもらえるととても助かるよ」


 ダダン少年の今日の採掘量は、ギルドに戻ってすぐに聞かされた。

 何か私達が知らない特別な秘密があるのだろう。

 そこを聞き出すかどうかだが、彼はこれからも採掘を続けたいと答えてくれた。

 それなら無理に聞き出す必要もないし、寧ろ気分を害させて出て行かれるのが一番困る。

 デッパラ副所長と現在のエース達による数々の妨害行為で、鉱山の採掘量そのものが落ちている今の状況では、ダダン少年には今後も頑張ってもらわねばならないのだ。


 「ではこうしないか? ダダン君は宿の防犯面を不安に思っているんだよね? それなら暫く私の家で寝泊まりすると良い」

 「それだとご家族の方にご迷惑が掛かりませんか?」

 「ハハハ、私は独り者だよ。警備の者も就けるから、夜も安心して眠れるよ。そしてダダン君、キミはエースを狙いなさい。エースになればギルドの上のVIPルームが使えるようになる。あそこは防犯魔術が使われているから安全だ」

 「防犯魔術、ですか?」

 「ああ。知らないかな? あそこには契約者と契約者が許可した者しか入れないんだよ。キミがエースになって契約者になれば、許可してくれないと私でも入れない」

 「そうなんですね」

 「だからあそこは安全だ。それでどうだろう。暫く私の家から鉱山に通って、エースを目指してくれるかい?」


 私の家から通わせるのは、彼の普段の行動を観察して秘密を探ろうという考えがあるからだ。


 「うーん。でもそれだと何かあった時に警備の方やダリムさんに迷惑が掛かってしまいます。エースは目指しますけど、エースになるまでは誰もこられない場所に引き籠ろうかな」

 「……そんな場所で引き籠ってどうやって採掘するつもりなんだい?」

 「鉱山内に誰もこられないような場所を見つけましたので、その場所で採掘しながら生活しようと思います」

 「そんな! 月末まであと十日もあるのよ?」


 ネネット君もダダン少年の事が心配みたいだ。

 保存食を用意しても、鉱山に十日も籠るなんて無茶だ。


 ……いや、待てよ?


 「……転移魔法陣のスクロールか」

 「はいそうです。さっき二つ購入しましたので、そのひとつを誰もこられない場所に設置しようと思います。食べ物がなくなれば転移魔石で戻ってくればいいかなー、って考えていますけど、どうでしょうか?」


 真っ先に転移魔法陣のスクロールと転移魔石を購入していることにも驚かされるが、どうやら既に色々と考えているみたいだな。

 移動に転移魔石を使うということは、それくらいの金額なら採掘できると考えているのだろう。


 「その誰もこられない場所というのがよく分からないが、魔物は出ないのか?」  

 「あ、そうか。魔物が出るのか。……魔物って、何もない場所から突然湧き出たりしますか? 目の前の空間から突然パッと出てくるとか」

 「それは聞いた事がないよ。ダンジョンではどうかわからないけどここは鉱山だし、魔物が住み着いている空間を掘り当てなければ大丈夫だよ」

 「それなら良かったです。もし魔物の気配がしたら転移魔石で戻ってくれば良いのですね。魔物が入ってこられないように入り口を塞いで――」

 「送風のスクロールも準備しておこうか」

 「なんですかそれは?」

 「鉱山では奥に行けば行くほど空気が薄くなるだろ? だから長い距離の坑道を掘る場合は、途中に送風のスクロールを設置して空気の流れを確保しながら作業するんだよ」

 「へー、そんな便利な物があるのですね! 知らなかったです!」


 本当に大丈夫なのかな、この子。

 鉱山の基本が全く分かっていないのではないだろうか。


 「そもそもその誰もこられない場所っていうのは何処なんだ? 鉱山にそんな場所があるのか?」

 「はい。だれもこられないそうです。下ですよ下。真下に向かって掘ります」

 「……龍の背中が掘れるのか?」

 「今日試しに掘ってみたら普通に掘れましたので、大丈夫だと思います」


 ガシャーン


 炊事場の方からカップか何かが割れる音が聞こえてきた。

 ネネット君がミスをするなんて珍しいな。話を聞いていたのだろう。


 「ロープを垂らしても絶対に届かないくらいまで、深くまで掘り進めようと考えています」

 「そんなに深くまで掘り進めるのに、どれ程の時間が掛かると思っているんだい?」

 「そうですね……やってみないとわからないのですが、今から掘り進めて、十二時を回るくらいじゃないかな」

 

 ガシャーン


 今度はお皿かな? ネネット君、このままではギルド長室の食器がなくなってしまうので、少し落ち着いてくれるかな?

 今は晩飯時なので四、五時間ってところか。

 そんな短時間でロープが届かない距離まで掘れる、と。龍の背中を? にわかには信じられないのだが本当なのだろう。


 「ダダン君ができるというならそれでいい。でもひとつだけ約束してほしい。このギルド長室に転移魔法陣のスクロールを設置させてもらうので、最低でも二日に一度、ここに戻ってきてほしい」

 「良いのですか?」

 「ああ、構わないさ。ギルドの魔法陣に戻れば、またいざこざに巻き込まれるかもしれないからね。この時間にしよう。二日に一度、必ずこの時間に戻ってくること。いいね」

 「はい。約束します」

 「戻ってくる時間に食事も用意しておく。二日分の保存食もこちらで用意させてもらう。転移魔石と送風のスクロールは用意させてもらうが、ダダン君の実費でいいかな」


 転移魔石は彼が言い始めた事なので、こちらで負担する必要はない。

 少し苦笑いされた後でそれで良いと返事してくれた。


 「それじゃあダダン君は今からこの部屋の備え付けのシャワーを使うと良い。僕はスクロールや魔石を準備させてもらうよ。ネネット君は今から僕達の食事を準備してくれるかな?」

 「かしこまりました。三人分でよろしいですか?」

 「それで構わないよ。出張から戻ったばかりで、まだ何も口にしていないんだ。腹ペコでさ」







 ダダン君は転移魔石を少し多めに購入して、ギルド長室の転移魔法陣のスクロールと自分のスクロールにリンクさせていた。

 送風のスクロールには設置する向きがあることを説明すると、元気良く部屋を出て行った。

 この時間からの作業だというのに元気な少年だ。


 「彼の印象はどうでしたか?」

 「ネネット君の報告通りの少年だったね。いや、それ以上に驚かされたかな。でも真面目な少年だ。暫くようすを見よう。ネネット君も彼のことを詮索したりしないように。いいね」

 

 今のところ彼は鉱山にとって都合の良いところしかない。

 頑張って採掘するというなら、それを応援するのが鉱山ギルドの仕事だ。





 ~~~



 元気良く指差呼称確認をして鉱山へと入山するダダン。ギルドの隅でその様子を窺っていた一人の男が、ダダンの後を付けるように静かに入山した。


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