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第三十三話


 魔王ディラ様の接待の日から二年が過ぎた。


 十二歳になった婚約者のエリーゼ様は去年から学院に通っている。

 本当なら学院には十歳から通うのだが、病気で通えなかったので一年遅れで通っている。

 僕の婚約者だというのは国中どころか世界中に知れ渡っているので、色んな人物がエリーゼ様にすり寄ってくるらしい。

 ほぼ毎日届く手紙にも、あの人とこの人は駄目、あの人は大丈夫、などと人物総評が書き加えられている。

 エリーゼ様には使える人材を是非とも引き抜いてきてほしいとお願いしてある。


 彼女の学院での成績は常にトップを独走していて、他の追随を許さない状況らしいのだが――


 『私などまだまだでございます。今の私などではダダン騎士爵様にご迷惑をお掛けしてしまいます。ダダン騎士爵様と一緒に居るということがどれ程大変なことなのかというのは、この身をもって感じております。ダダン騎士爵様に捨てられてしまわぬようこれからも精進いたします』


 何やら物凄くやる気を見せていて、学院から戻ってきてくれるのが待ち遠しい。

 そんなに頑張らなくても捨てたりしない、エリーゼ様に会える日を楽しみにしていると手紙を書いても効果はなく、逆にやる気を出させてしまっているようだ。

 そして僕も来年から学院に通える歳なのだが、学院に通うつもりは全くない。


 「貴族たる者が学院にも通わないなんて――」


 と小言を言ってくる貴族もチラホラいるが、僕が今更学院に通って何を勉強すれば良いのだろうか。

 ここでの仕事をほったらかして遊びに行くなら良いけど、そんな事をするとギルド長のダリムさんと国王のおじさんが過労で死ぬ。いや割と本気で。

 この二人に加えてアルフィネア様には仕事が集中している。

 カルステッド鉱山の窓口である公爵家には世界中からの来訪者が、ひっきりなしに出入りしている。

 というのもここカルステッド鉱山に用事があるのならば、まずはサザーランド公爵家に話を通せと丸投げしているのだ。

 そうでもしないとこちらがパンクしてしまうので、アルフィネア様には迷惑を掛けている。

 アルフィネア様は息子のエルノー様に爵位を譲りたいと、日頃から苦労を漏らしているが、エルノー様もまだアルフィネア様に抜けられては困ると引き止めている。

 一気に増えた仕事に対して、それを回せる人材が圧倒的に足りないのが現状で、学院から戻った僕の義兄リードネルさんも仕事に駆り出されている状態だ。

 どこもかしこも人手不足である。


 ……というかエリーゼ様、早く戻ってきてくれないかな。

 仕事を手伝ってほしいのです。

 そしてそのエリーゼ様が近くに居てくれないから、『隙あらば』という状態で娘を孫をと女性を差し込まれるのだ。

 二人も三人も五人も十人も同じだろう、とかいうわけの分からない謎理論を展開するのは本当に勘弁してもらいたい。    


 「ダダン騎士爵様と同じ年の娘がおりまして――」


 今日もかよ、まったく。

 クソ忙しいのに時間を作ってくれと言うから会ったらこれだ。

 さっさと部屋から追い出してカノンさんを呼ぶ。


 「塩を撒いておけ! あいつらのしつこさは一体何なんだ!」

 「申し訳ございません。私の方でも釘を刺しておいたのですが、理解していただけなかったようです」

  

 この二年間、オーズウォル辺境伯領西側の海の向こうから、執拗に絡んでくる連中がいる。

 鉱山の利益は世界に均等に分けるべきだとか、元々この地は我ら西側諸国の土地だったのだから交易品を寄越せ、と言いがかりをつけてくるのだ。

 断っても断ってもめげずにすり寄ってきて、今日もどうしても国として外せない話だからと言われ、仕方なく会ったらコレだ。


 「一度西側諸国の王都でステルスの低空飛行でもやって黙らせてやろうか」

 「……そんな事をなさいますと更に状況が悪化すると思われます」


 だよなぁ。アイツらのしつこさは異常だからな。


 「それよりもダダン様、次のお客様がお待ちです」

   

 ……もう嫌だ。鉱山に籠りたい。




 列をなしてる訪問者を捌いていると、ギルドの方が騒がしくなってきた。


 「副所長、鉱山に魔物が出ました!」


 ネネットさんが副所長室に報告にきてくれた。助かった、ナイス魔物!


 「ホントか! よし、すぐに――」

 「ダダンはそのままで、アタシに任せて。ほら行くよ!」

 「はい。では行ってまいります!」 

 「いやあの、僕も行く……行きたい……駄目かな」


 部屋から飛び出して行ったのは、ララーさんとオーズウォル辺境伯騎士団副団長、いや元副団長でボーフム様の息子のパトリックさんだ。

 なんとこの二人が結婚したのだから世の中何があるか分からない。

 娘のフレシア様に婿を取らせるから安心してくれとボーフム様に言われ、それよりもダダン騎士爵とのつながりの方が大事だとパトリックさんがララーさんと結婚したのだ。

 ララーさんは平民だから、家柄とかの問題は何処に行ったんだよと言いたい。

 ボーフム様が言うには――


 『この地に迫る外敵を退けるのが辺境伯である我の役割だ。ララー殿との婚姻はこの国境を守る何よりの盾となるであろう』


 と、大貴族達の文句を強引に退けたそうだ。

 僕としては二人の結婚に大賛成だ。

 仕事を任せられるパトリックさんがきてくれたことで大いに助かっている。

 麓の町に屋敷を構えて仲睦まじく二人で住んでいて、副所長室ではパトリックさんがララーさんの尻に敷かれているようすを微笑ましく眺めている。   


 そしてこのオーズウォル辺境伯領の特産品が、魔族の方々の胃袋をガッチリと握っているので、領そのものが急成長を遂げている。

 広大な敷地と恵まれた気候と環境で育つ特産品の数々は、作っても作っても供給が追い付かいない状態となっていて、日々産地を拡大している最中なのだ。

 そして有難い話でどんなに品薄状態になっても、ボーフム様は僕との約束を大事に考えてくださっていて、サザーランド公爵領にはオーズウォル辺境伯領からの商品が大量に届けられているのだ。

 オーズウォル辺境伯領は時間経過を止める魔石のおかげで、王都や世界中に特産品を輸送できるようになったので、カルステッド鉱山と一緒で商会や職人がどんどん流入している。

 今まさに大きな港も建設中で、オーズウォル辺境伯領都は王都、カルステッド鉱山と並んでニーアカルド王国の三大都市になる日もそう遠くないだろうと考えている。


   

 ディラ様の訪問より数日後、北の帝国の第二皇子ノーサエール殿下がエストノーラ陛下へ面会にきたらしい。

 何でも数人の護衛のみでやってきたというから驚きだ。

 面会内容は侵略戦争の賠償内容の報告だった。

 皇帝は退位させて自分が次期皇帝になることの報告、王国が提示する賠償金額の全額支払い。

 またバルムヒュッテ帝国の帝都近くの海岸に、バルムヒュッテ帝国が自費でニーアカルド王国専用の港を建設するという。

 話だけ聞くと実質帝国が王国の属国化するようにも聞こえる。


 「今この時期にニーアカルド王国から敵対国として見られてしまうのは、今後三百年先まで影響を及ぼしてしまいます。技術力、軍事力で圧倒的に上回るニーアカルド王国の庇護下に入ることは、バルムヒュッテ帝国の繁栄にもつながることでしょう」

 

 第二皇子は謁見の間で堂々と演説したらしいが、第二皇子が言う技術力という点が気になった。

 二年前のあの時、もしかしたらオーズウォル辺境伯領に密偵が潜んでいて、僕のステルスの存在を見られてしまったのか。

 或いはもっと身近に密偵が潜んでいて僕が使うスマホの存在を知っていたのかもしれない。

 脅威となる手腕を持ち、色々と企てていた気配が感じられた第二皇子が、全ての計画を捨ててまで王国の庇護下に入ったのだ。

 何を知ったのかは不明だが、何処かで絶対的な差を見せ付けられたのだろう。


 帝国の話と並行して、サッテール教会のカッパゲ教皇と聖女ネクレが処刑された。

 暗殺者を送り込んだり、回復スキルを盾にして非人道的行為を行うのは、流石にやり過ぎだと思う。

 聖女ネクレは最後まで僕の名前を叫んでいたらしいが、僕からの言葉『全く関係ないので適当に処分してくれ』というセリフを一語一句違わず伝えられ、絶望の眼差しのまま斬首されたそうだ。

 教会の上層部は全て解体され、本当に徳を積んでいた者にのみ回復スキルが与えられた。

 今では無償で怪我人を癒しているそうだ。

 そして王都の教会でのみ重傷者には有料でエリクサーを提供するらしいのだが、これがなかなかの金額となっている。誰でも使える代物ではないのだ。

 更にエリクサーの使用の判断は一人の聖女の判断に委ねられる。

 一度この聖女様と会って話をしたのだが、これがまた驚くほどの人格者だった。

 よく今までの教会の運営方針で腐らずに我慢できていたなと感心する人物だった。

 彼女なら判断を間違えることはないだろうと、僕も陛下も判断したのだが、それでも彼女は契約魔術のスクロールを持ち出し、自分の行動に責任を持ちたいので契約魔術で縛ってほしいと頭を下げてきた。

 彼女のような人物がいるのなら、教会の運営もすぐに立ち直るだろうと確信したのだった。



 「ごめんカノンさん、ちょっと休憩させて」

 「畏まりました。お茶をご用意いたしますね」


 テーブルの上には各種お菓子や新鮮なフルーツが乗せられている。

 これは僕の努力の証だ。ボーフム様やおじさんに頼んで、カルステッド鉱山の町には王都の名店が軒を連ねるようになり、そこにはオーズウォル辺境伯領から毎日新鮮な食材が運ばれてくる。

 この名店の食べ比べなんかも商人や貴族達の間で話題になっていて、街の観光名所の一つだ。

 そして各国の名店も続々とオープンしているので、今後の各店舗の生き残り競争は激化していくだろう。

 こういう争いは僕としても大賛成だ。


 モルツさんは遂に武具工房の看板を下ろし、新たに『モルツの宝石加工工房』の看板を掲げている。

 『あの魔王様のブレスレットを作った工房』という宣伝文句は効果抜群で、客足が途絶えることはないという。

 鉱山で採掘されるそんなに価値のない宝石を仕入れて、あの時と同じようにお客自身の手で加工するお店だ。

 恋人同士で送り合うのが流行りだそうで、上手く商売を軌道に乗せたみたいだ。

 カルステッド鉱山ならではの観光名所として暫く繁盛するだろう。


 「なんじゃ? 休憩中かぇ?」


 転移魔石でやってきた魔王ディラ様がソファーに腰掛け、徐にお菓子に手を伸ばす。

 この副所長室には転移魔法陣のスクロールが設置されていて、ディラ様はいつでも遊びにこられるのだ。

 というよりほぼ毎日遊びにくる。


 「ディラ様、仕事ができる人をください」

 「アホか。そんなモンわらわが欲しいのじゃ」

 「そっちはひと段落したのでしょ? だったらいいじゃないですか」

 「人材を渡してしもたら、今度はわらわが忙しくなってしまうじゃろが」


 無理無理と手を振られたのでガックリと肩を落とす。


 「今ならディラ様がドラゴンの涙を飲んで長生きした理由がわかりますよ」

 「じゃろ? 遊びに行く為の仕事をしとったら、遊ぶ時間がなくなるのじゃ」


 本末転倒じゃとケラケラ笑っている。


 「わらわも今は忙しゅうてのぅ」

 「そうなんですか? ロボで遊んでるって言ってませんでしたっけ?」


 そう、ロボ。ロボットだ。人型のロボット。

 当然勇者産なのだが、これがまぁ……アレだ。自分が乗り込んで操縦する戦闘ロボだ。

 最下層で実機を見せられて、全体が白を基調としたカラーリングで、色々と駄目な配色だったので『アウト!』と叫んだ。

 このロボも含めた勇者産の機械は、僕が日本語で使用制限を解除したり付けたりが可能な物だった。

 ディラ様にどうしてもコレで遊びたいとせがまれてしまったので、武装はすべて解除したうえで、最下層の巨大な空間でのみ使用可能にしている。

 あの空間の魔法陣には空間維持の魔法陣も組み込まれているらしいので、最下層の壁はちょっとやそっとの衝撃ではビクともしないらしい。

   

 「まっすぐ歩けるようになりましたか?」

 「……難しいのじゃ。じゃから今は機体の塗装をしておるのじゃ。わらわとダダン、エリーゼにカノンとララーの五機を並べて、それぞれの専用機として色を塗り分けておるのじゃ」

 「遊びで忙しかったのですね」


 ホント羨ましい。仕事変わってくれないかな……。

 

 「カノンの専用機は茶色じゃ。奇麗な髪の色でピカピカにして塗っておる」

 「まぁ。ありがとうございます」

 「ララーの機体は青じゃ。そしてエリーゼの機体は金色じゃ。この機体はかなり目立つのじゃ」


 ララーさんはサファイアみたいなブルーだし、エリーゼ様はプラチナゴールドの奇麗な髪だ。


 「わらわの機体は赤じゃ。フフン、カノンよ、知っておるか? 赤の機体は三倍強いのじゃ」

 「そうなのですか?」


 ……絶対勇者の入れ知恵だ。余計な事ばっかり教えているな。


 「じゃがのぅ、ダダンの機体の色が決まらんのじゃ。金色じゃとエリーゼと同じになってしまうのじゃ」

 「髪の色は似ていますからね。……じゃあ僕のはこういう配色にしてもらえませんか?」

   

 スクロールを取り出して、配色とデザインを描く。


 「むぅ。これはなんじゃ? ちょっと地味じゃないかぇ?」

 「そうですね。みんなの機体と比べると少し地味だけど、これぞ僕だという配色なので」

 「わかった。ダダンがそう言うなら、その配色で塗ろう。ではちょっと行ってくるのじゃ?」

 「また遊びにきてください」


 お菓子を幾つかポケットに仕舞ったディラ様は、転移魔石で戻って行った。


 「さてダダン様、我々はお仕事に戻りましょう」

 「……はい」

 「今朝方ギルド長より連絡を受けておりまして、最近鉱山の採掘量が落ちているそうです」

   

 ……僕達がデスクワークで部屋に籠っているのが原因ですよね?


 副所長として働くようになってから、僕達はランキングには参加しなくなった。

 今ではエースの称号を得てもVIPルームには住めなくなったのだが、代わりに麓の町で大きな屋敷が用意されて、そこに住めるようにルールが変更されている。

 買い物が楽な町の中心に建っているので、マイナー達は以前と変わらずエースを目指してくれている。

 そして炭鉱夫スキルの指差呼称に関しては、カルステッド鉱山内部でのみ使用できるように、契約魔術で縛ってからマイナー達に公表した。

 麓の町や敷地の外で暴れられると迷惑が掛かるからだ。

 クルー達にはヘルメット、ニッカポッカ、安全靴を支給して、指差呼称も強制でやらせているが、マイナー達に強制はしていない。

 予想通り真面目に仕事をしている人は指差呼称をするし、勝手に装備も整える。

 逆に指差呼称を馬鹿にするような連中は、変なプライドが邪魔をしているのか、意地でもやらない。

 結果として両者の採掘量に大きな隔たりができているのだが、それも彼らの選んだ人生なのだから僕がとやかく言うつもりもない。

 

 指差呼称をしている者達で、龍の背中が掘れる者達には、魔族の方達の迷惑になるので赤い龍の背中には手出ししないように厳命している。もしこの命令を破った場合には魔王様からきついお仕置きが待っているぞと話してあるので、今のところ違反者は出ていない。

 赤い龍の背中の場所はクソ暑いので、違反してまで掘りに行く強者が居ないというのも理由の一つだろうと考えている。

 そして黒い龍の背中はあっちこっちで掘り返されているので、魔族の方々が再生速度を大幅に上げるように調整し直してくれたので助かっている。


 カノンさんが最近の採掘量に関する書類を手渡してくれた。


 「じゃ、じゃあ僕が今から鉱山に――」

 「いえ、ララーさんも朝の報告を一緒に聞かれてましたので、魔物の駆除と平行して採掘も行ってくれると思います。先程届いたこちらの書類にサインだけいただければ結構です」

  

 ……お願いですから僕に採掘させてもらえませんか?


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― 新着の感想 ―
[一言] ララーもあれだけ絡んできて命を救われたけれど別の人間に嫁いだのね。 年齢差を考えたら当たり前だわな。 しかしダダンの爵位が上がっとらんね?
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