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第三十二話


 一時間程掘り進めて、お目当てのルビーを回収できた。

   

 「採れたのかぇ?」

 「ええ。相当な量が取れましたよ。これで採掘は終了です。お疲れ様でした」

 「そうかそうか! 良い汗をかいたのじゃ!」

 「私もこんなに体を動かしたのは初めてでございます! どんなルビーが採れたのかとても楽しみですね!」

 「ではギルドに戻りましょう」

   

 転移魔石でギルドに戻り、周囲の視線に晒されながらネネットさんに買い取りをお願いした。


 「おいダダンよ、話が違うではないか! 採掘したルビーでブレスレットを作るのじゃろ!」

 「その通りなのですが、カルステッド鉱山のルールで、鉱山で採掘した物は一度ギルドに買い取ってもらわないと駄目なのです。そうしないと鉱山を管理しているギルドにお金が入りませんので運営ができなくなってしまいます」 

 「む……そうか」

 「勿論採掘したルビーをこのまま買戻しますので、ディラ様が採掘したルビーでちゃんとブレスレットは作れます。ご安心ください」

 「そ、そういうことははよ言わんか。……焦ったではないか」


 魔王様が恥ずかしそうにヘルメットを深くかぶり直した。


 「ではこちらが今日の買い取り額になります。お確かめください」


 ネネットさんからトレイで差し出されたのは、金貨六枚と小金貨八枚。

   

 「……凄いです。こんなにいただけますのね」

 「今日はなかなか凄い塊が採掘できましたからね。これよりも多い日もあれば勿論少ない日もありますよ」

 「自分の手で金を稼いだのは、わらわは初めてじゃ。……嬉しいもんじゃの」

 

 ネネットさんにルビーの買戻しを依頼して、採掘したルビーを自分の収納袋に仕舞う。

 当然買い戻した金額の方が高くて足が出ているわけだが、今の二人にそれを伝えるのは無粋というものだろう。こっそりと支払いを済ませておく。


 「ではお昼休憩にしましょう。カノンさん、ララーさん、二人を任せたよ」

 「はい。畏まりました」 

 「任せてよ」


 四人がVIPルームへと向かう。汗をかいたのでシャワーを浴びてもらうのだ。

 僕もシャワーを浴びるのだが、僕は副所長室で一人……。ちょっとだけ寂しい。


 「……さて、どういうことか説明してもらおうか」 


 背後から僕のヘルメットを鷲掴みにしているのはエストノーラ陛下だ。


 「仰せつけの通り、お客人の接待に勤しんでいる次第でございます、陛下」

 「何をしていたのか話せと言っている」

 「お客人の御要望通り、体を動かす為に鉱山地下で鉱石の採掘を行いました。想像以上に満足いただいております」

 「く……このやろ」


 エストノーラ陛下は跪いている僕に何もできないようだ。

 この人目がある中で僕に拳骨をくれるわけにはいかないだろう。

 小声で『後で覚えておけ』と言われただけだ。  


 「この後の予定はどうなっている?」

 「はっ、VIPルームにて昼食を済ませ、その後は採掘したルビーでブレスレットの加工を行います」

 「……うむ。それなら安心できそうだな」

 「はい、ご安心くださいませ。陛下が卒倒なされるのはもう少し後でございます」

 「は? おい、何を言って――」

 「準備がありますので、ここで失礼いたします」


 シャワーを浴びる為に副所長室へと戻る。

 追いかけてきそうになった国王様は、ガズさんとゴンズさんの会話に掴まったみたいで引き止められていた。


 VIPルームに用意した食事はサンドウィッチなどの軽食だ。

 勿論いつでも食べられるような物ではなく、名店と呼ばれているレストランのシェフを王都から呼び寄せて作ってもらっていて、軽食ではあるが種類と量は豊富に作られている。


 「……魚が食べられると思っとったんじゃが」

 「お魚は夕食にたっぷりとご用意しております。より美味しく頂く為にお昼は軽食で済ませましょう」

 「ダダンがそこまでするのじゃ。晩飯は期待させてもらうぞぇ?」

 「勿論です。最高に美味しいお魚料理を用意しております」


 ディラ様がワイングラスを片手に、サンドウィッチをモリモリと食べている。


 「ではディラ様、食べながらで結構ですのでお聞きください。この後はここカルステッド鉱山の麓の町に向かいます。まさにこれから発展する町ですので、今のところ観光できる場所もありませんが、僕達が今住んでいる町を見ていただきたいと思います」

  

 ディラ様は口がふさがっているので、コクコクと頷いている。


 「そしていつも懇意にさせてもらっている店舗にて、ブレスレットの加工に挑戦していただきます」

 「まかふぇろ」

 「この者は庶民の者ですので、もしかするとディラ様に無礼を働くかもしれませんが、そこは寛大なお心で――」

 「かもわん」


 頬張りながら喋るので、ちょっと何を言っているのか聞き取り辛い。


 「ダダンも食え! 腹ごしらえをしてすぐに出発じゃ!」

 「はい、いただきます」



 普段着に着替えたディラ様と動きやすい服装に着替えたエリーゼ様。

 二人が麓の町を歩くと違和感しかないのだが、住民の反応は凄くいい。

 作業中の職人達はこちらに気付くと手を止め、大きく手を振ってくれる。

 ディラ様も物珍しいのか、あっちにウロウロこっちにウロウロと寄り道を繰り返している。


 『モルツ武具工房』


 看板を見た魔王様は『?』と首を傾げていたが、ここは深く考えるところではない。

 ちなみに僕も武具を作っているところは一度も見ていない。

 以前顔を出した時に、ディラ様とここにくるという話は伝えてある。

 モルツさんはその時と同じで青い顔をしている。

 緊張でカチカチになっていて動きがぎこちない。


 「……この者は大丈夫なのかぇ?」

 「腕は確かなので大丈夫、だと思います」


 その後、緊張するモルツさんが幾つかのブレスレットを用意してくれた。

 今回はこのブレスレットの台座部分に、採掘したルビーをはめ込もうと考えている。

 そして今日のブレスレットで重要なのは、ブレスレットの価値ではない。

 僅か銅貨一枚分ですら宝石の価値を失いたくないとか、そういう考えではないので、プロに加工を頼む必要もない。

 みんなで採掘した記念品であり、時間を共有したという思い出の品だということ。

 少々不細工だろうが価値が下がろうが、楽しく作れたらそれでいいと考えている。

 モルツさんにもそうやって伝えてはいるのだが……大丈夫かな?


 みんなの腕にピッタリになるように、モルツさんがブレスレットのサイズ調整を行う。

 うん、作業が始まるとやっぱり職人だな。手際よく済ませている。

 ルビーの塊をゴロゴロと机の上に転がし、誰が塊のどの辺りを使用するのか相談する。


 「フフン、わらわは大きいのにするぞ! これじゃ! これをこうじゃ!」


 ディラ様はブレスレットの台座に塊をそのまま乗せようとしている。


 「ディラ様、今から作るブレスレットは使っていただけないのですか?」

 「アホかダダン。毎日着けるに決まっておるじゃろが!」

 「……そんな大きな塊を乗せたら、邪魔で仕方がないですよ」

 「あ……確かにそうじゃな。わ、わかっておったわ」


 ディラ様は手にしている塊の、赤色が濃く出ているところだけを選んでいる。

 みんなもそれぞれ選び終えたので、モルツさんにカットの方法を指導してもらう。

 大胆にカットしているので無駄も沢山出ているし、少々勿体ないかもしれないが今日はこれでいい。

 エリーゼ様もディラ様も四苦八苦しながら、カットと研磨を繰り返している。

 最後の調整の部分ではモルツさんに頼み、みんなのブレスレットが何とか形になったのは、空が赤く染まり始めた時だった。


 「なんじゃダダンのブレスレットは! 不細工じゃなー!」

 「ディラ様のだって、ちょっとしゃくれているじゃないですか」

 「アタシのルビーが一番素敵よ!」

 「いいえ、私のでございます! みんなに羨ましがられてしまいますわ!」

 「……素敵です」


 それぞれがブレスレットを装着して披露し合っている。


 「魔王ディラ様」

 「なんじゃダダン。急に改まって」

 「事前にみんなと相談しまして、今回はディラ様の髪と瞳の色に合わせてルビーを選ばさせていただきました。これで僕達みんな赤色でお揃いですね!」

 「……きゅぅー」

  

 ディラ様から何だか搾り出されたような変な声が出た。

 恥ずかしがっているみたいで、カノンさんの腰に飛び付いた。


 「嬉しいのじゃ。みんなありがとう。こんな気持ちになったのは久しぶりじゃ」


 ララーさんとエリーゼ様にも飛び込み、感謝を伝えている。


 みんなでディラ様に喜んでもらえそうな宝石を選んでいる時、『やっぱり魔王様といえば赤』という話になり、ララーさんの提案で赤が綺麗なルビーにしようと決まったのだ。

 こんなに喜んでもらえるとは。事前に準備をしていて良かった。


 「さぁ少し遅くなりましたから、急いで晩御飯を食べに行きましょう!」

 「そうじゃ、魚、魚じゃ! わらわは腹ペコじゃ!」


 モルツさんは魂が抜けてしまったように壁に寄り掛かっている。

 最後まで頑張ってくれたモルツさんに礼を告げて工房を後にした。




 「……さっききた道と歩いている方向が逆ではないかぇ?」

 「あっちだとアレが出せませんから」

 「そうじゃ! ブレスレットの印象が強過ぎて忘れておったわ!」

 「あら、私には秘密のお話ですの?」


 カノンさんやララーさんの反応を見た後だと、やっぱりエリーゼ様にも事前に教えておくべきだったかと、少々後悔している。

 麓の町から少し離れた場所に到着すると、ダリムさんとおじさんが待っていた。陛下ではないおじさんの方だ。


 「約束通り、陛下にきていただいたからね。僕は戻るよ!」

 「ありがとうございました」


 ダリムさんは逃げるようにギルドに戻って行った。

 ダリムさんには連絡用の赤い魔石を用意してもらっていたので、連絡すればこの場所までおじさんを連れてきてもらう約束だったのだ。

 オーズウォル辺境伯領での夕食は、おじさんも一緒だと事前に説明はしている。陛下ではなくおじさんにね。

 ただし転移魔石で移動するわけではなく、航空機で飛んで行くことは伝えていない。


 「おおー、お主もくるのかぇ?」

 「はい。ご一緒させていただきます」


 ディラ様には愛想よく答え、僕を見る時には愛想よくしたままこめかみに青筋を立てている。器用な人だ。


 「六人乗りなのでちょうどいいかなと思いまして」

 「「六人乗り?」」


 おじさんとエリーゼ様が声を揃えている。

 みんなには後ろで控えてもらい、収納袋からステルス航空機を取り出した。

 ズズンと地響きを起こし巨大なステルスが着地すると、エリーゼ様は腰を抜かしてしまった。

 そうなるかもと予測していて、エリーゼ様の背後にはカノンさんに待機してもらっていた。

 エリーゼ様が座り込んでしまう前にしっかりと支えてくれている。

 国王としての意地なのか、おじさんはギリギリのところで踏ん張って耐えていた。

  

 「……こ、これは何なのかなー、ダダン騎士爵」

 「ステルス航空機です」


 おじさんに一から説明していると晩御飯が冷めてしまうので、機内でララーさんに適当に説明してもらおう。


 『タラップを降ろして』

 「おおー! でかしたダダン! やはり動かせるのじゃな!」

 「はい。僕でも大丈夫でした。さぁみんな乗ってください」


 エリーゼ様はカノンさんに支えられながら、そしておじさんはララーさんに背中を押されながら機内へ乗り込む。

 助手席の位置にはディラ様が座り、その背後にカノンさん。僕の後ろにエリーゼ様が着席する。

 最後尾におじさんとララーさんが座ったところで、カノンさんとララーさんがシートベルトの説明をしている。

  

 「おいダダン! いい加減説明をしてくれ! さっきから話し声みたいなのが聞こえるが誰か居るのか?」

 「そのー国王陛下、あんまり口を開けていると舌を噛みますよ?」


 ララーさんが宥めてくれたのだろう、後ろが静かになった。


 『新しいマスター、今回は自動運転と手動運転、どちらになさいますか?』

 『自動運転で。途中で手動運転に切り替えるから』

 『畏まりました。目的地はお決まりでしょうか?』 

 『オーズウォル辺境伯家の屋敷の裏側で』

 『畏まりました。それでは安心で快適な空の旅をお約束いたします。どうぞお寛ぎください』


 機体が無音無振動で垂直離陸して、辺境伯領へと発進した。

  

 「エリーゼ様は大丈夫?」

 「……驚きの連続でございます。ダダン騎士爵様は私を驚かせる御趣味が御有りなのです。きっとそうです。でもこの乗り物は凄く素敵ですね。まさか空から大地を見る日がくるなんて……夢にも思いませんでしたわ」

  

 後ろの席なので表情などは確認できないが、声の質から感動しているようだ。

 一方おじさんはというとあれ以来終始無言を貫いている。

 これは後から全部まとめて文句を言われるのだろう。


 「なぁ、このゆっくり飛ぶのではなくてじゃな。もっとこう、グイングインと飛ばせてほしいのじゃが」

 「了解しました。えー皆さま、只今より少々運転が荒くなります」


 カノンさんとララーさんがエリーゼ様とおじさんに、バケットシートでの姿勢をレクチャーしてくれている。


 「舌を噛まないようにご注意を。それと事故はいたしませんのでご安心ください。では――」 

 『手動運転に切り替えて』

 『畏まりました。前回の設定をそのまま引き継いでおります』 


 迫り出してきた操縦桿を握ると、ズンと重力と振動を感じるようになった。

 機体の揺れがバケットシートを通して伝わってくる。


 「こ、これじゃこれじゃー! よしダダン、スピードアップじゃ!」

 「はい」


 グン、と体が後ろに引っ張られ、体がバケットシートに張り付く。


 「うおー! 急降下からの急上昇じゃー!」

 「はい」


 体が宙に投げ出されるような感覚になり、足もとがフワフワとする。

 急上昇時に掛かる重力は体に負担が掛からないように制御してある。辛いのは御免だ。

    

 「ガハハー! 回転じゃ! このまま回転するのじゃー!」


 窓から見える景色は空と大地が逆さまに描かれている。

 みんなの髪が天井に向かって伸びているみたいに見える。


 「ガハハー! ダダンよ面白い髪をしておるぞ!」

 「ディラ様もですよ」 


 ゆっくりと水平位置に機体を戻し安定させる。


 「ミサイルじゃ! あの山を核で破壊じゃ! 吹き飛ばすのじゃ!」   

 「それは駄目です。ここで生活する人々の迷惑になります」

 「……真面目じゃのぅ。ふむ感心感心」


 ディラ様は何やら納得がいっているようにウンウンと頷いている。  


 「ディラ様、目的地に到着しました。自動運転に戻します」

 「もう到着かぇ? 早いのぅ。……もっと遊びたかったが、腹も減っておる。今日はこれで我慢しておくのじゃ」

 『自動運転に切り替えて』

 『畏まりました。着陸位置を確認いたしました。到着まで十五秒です』


 広いオーズウォル辺境伯領では着陸する場所も選び放題だ。

 今回は屋敷裏の広大な土地に着陸した。

 

 みんな髪がボサボサなので少し手櫛で整えている。

 最後に降りて機体を収納するとおじさんが歩み寄ってきた。


 「凄い乗り物だなー。興奮してしまったよー」

 「そえわよがっかえふ」

 

 みんなからは見えないように頬を引っ張られている。

 かなり怖かったのだろう、引っ張る手は少し震えていた。


 随分と待たせてしまっている辺境伯家へと歩いて向かうのだが、魔王様以外の皆の足取りは重い。

 ボーフム様に到着を知らせる為に、カノンさんだけ先に屋敷へと走ってもらった。


 「今でも体がフワフワいたします。大変怖うございましたが、とても貴重な体験でした。お父様やお母様にはお話ししても信じてもらえないかもしれません」

 「今度はもっと普通に飛ばすよ。怖い思いをさせてゴメンね」


 エリーゼ様は意外と大丈夫そうだけど、少し足もとがふらついている。

  


 ボーフム様は僕達を盛大にもてなしてくれた。

 テーブルに乗り切らない程の料理が用意されていて、音楽隊の生演奏が優雅な空間を作り出していた。

 ディラ様はめんどくさいことが嫌だと通達されているので、挨拶はボーフム様が最初に行ったのみ。

 すぐにテーブルへと案内されて食事が始まった。


 「魚、魚じゃー! アレもコレも魚じゃー!」

 

 魚料理にご機嫌な様子のディラ様は、ポケットから取り出した黒い液体をジャバジャバ掛けている。

 

 「ディラ様、それ醤油ですよね」

 「そうじゃ。ダダンも使うか? ホレ」

 「ありがとうございます。コレ、交易品に加えておいてください」

 「なんじゃ、こっちには無いのかぇ?」

 「ありませんよ。ずっと欲しかったのです」


 作り方が複雑だから自分で作ろうとは思わない。

 こういうのは専門家に任せる方が美味しいだろう。

 僕の専門は穴掘りだからね。

 そしてこれを作ったのは恐らく勇者だろう。こっちの世界にも残してくれたら良かったのに。


 辺境伯家の料理人達は生魚の食べ方が分からず、どうやって用意して良いのか分からないと困っていたので、刺身の調理法を伝えておいた。

 スクロールに絵を描いて送っていたので、ちゃんと伝わっていて良かった。

 ワサビっぽいのはきちんと皿に添えられている。


 「むふぅー。ここの魚は美味いのぅ。最高じゃ」

 「はい。僕のお気に入りでもあります。交易品にも沢山入れてありますので、向こうでも楽しめますよ」

 「そうかそうか。国の者も喜ぶじゃろう」


 ディラ様は大満足といった様子でお腹をさすっている。


 「もー食えん。お腹いっぱいじゃ」

 「満足していただけましたか?」

 「ああ。食事もそうじゃが、ダダンよ。お主のもてなしも文句なしの満点じゃ!」

 「これはこれは。勿体ないお言葉をいただきました」

 「よし、残してきた二人のところに戻るぞ」

 「すぐにですか?」

 「そうじゃ。渡したいものがある」


 急いでいるようすなので、ボーフム様にお礼をして退席させてもらった。

  


 おじさんも含めた六人で転移魔石を使用してギルドに戻ってきたのだが、魔王様が言うところの『あいさつごっこ』はまだ続いていた。


 「おいガズ、アレを出せ」

 「はっ」


 魔族の一人ガズさんが収納袋からスクロールを一つ取り出してディラ様に手渡した。


 「ダダンよ、これを受け取れ」

 「はい。頂戴いたしますが……これは?」


 スクロールを開くと、契約魔術のスクロールだった。


 「ここにおる皆の者よ、跪くがよい!」


 魔王ディラ様の声がギルドに響いた。

 魔族の二人が跪いたので、僕も慌てて跪く。

 おじさんや大貴族のみなさんもその場で跪いた。


 「ダダンはわらわの大切な友人じゃ。そしてダダンの友人もわらわの大切な友人じゃ。彼らがおる限りわらわはこの世界と永遠に友好関係を結び、こちらからは一切攻撃しないことをここに約束するのじゃ。そして彼らが困っておる時には、わらわが全力で手を差し伸べることも約束し、この場にて契約を発動する! 彼らを仇なす者には一切容赦はせん。このことを一言も漏らさず全世界に伝えるのじゃ!」

  

 契約魔術のスクロールがその場で焼け落ちた。


 「この契約はダダンが死ぬまで有効じゃ」

 「……おちおち死んでいられませんね」

 「なんじゃ? ダダンは死ぬつもりなのか?」

 「そりゃ、ディラ様みたいに長生きできませんからね。あと百年もしたら土に還りますよ」

 「何を勘違いしとるんじゃ? わらわは別に長生きではないぞ? ダダンらと一緒じゃ、寿命がきたら死ぬに決まっとるじゃろ」

  

 ……え? そうなの? だって、大昔の勇者がいた時から生きてるんでしょ?


 「お主も持っとるじゃろが、ドラゴンの涙。わらわはずーっと飲んどる」


 もしかしてずっと若返り続けているのか!


 「わらわが魔王になって以降、最近漸く国が落ち着き始めたのじゃ。これからは国の為に生きるのではなく、自分がやりたいことをやる為に生きられるのじゃ。長かったのぅ」

 「羨ましいですね」

 「そうじゃ羨ましいじゃろ。やっと遊べるのじゃぞ! ダダンもおるのじゃ、簡単には死なんぞ! ダダンにしか動かせん機械が山ほどあるのじゃ、まずはそれで毎日遊ぶぞ!」

 「いや、僕も仕事がありますから毎日とか無理ですよ」

 「そんなモン、他のモンにやらせればええじゃろ! おい、お前がやれ!」

 「申し訳ございませんが無理でございます。私も忙しい身なんです」


 仕事しろと振られたのはおじさんだ。

 流石に国王陛下にマイナーをやれとは言えない。


 「でも良かったのですか、ディラ様」

 「何がじゃ?」

 「僕が生きている限り、なんて条件で。将来僕の気が変わって、沢山の機械を使ってディラ様に攻撃するかもしれませんよ?」

 「フフン、わらわを甘く見るでないわ。ちゃんとダダンの性格、考え、行動を見て判断した故の契約じゃ」


 ……どこで判断されたのだろうか。

 一日中ディラ様を振り回しただけだった気がするのだが。


 「お主のもてなしには心が込められておった。相手のことを思う心じゃ。わらわが何をしてほしいのか、何をされたくないのか。それを一番に考えて行動できる者は、本当に相手を傷つけるような馬鹿な真似はせんもんじゃ。それにわらわははっきりと申した。『核で山を吹き飛ばせ』と。お主は核が何であるかをきちんと理解しておって『生活する人の迷惑になる』としっかりと断ったじゃろ。上から命令されようが駄目なものは駄目としっかり言える強さも持っておる。そんなダダンがわらわ達を害するとは思えん。それに、じゃ――」


 ディラ様は地べたに座り込んで僕と目線を合わせた。


 「戦争なんぞ、めんどうじゃろ?」

 「はい。クソめんどうですね」


 二人の大笑いがギルドのホールに響いた。


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