第三十一話
『もしもしディラ様?』
『おおダダンよ、もう着いたのかぇ! 今すぐそちらに向かうからちょっと待っとれ!』
巨大な魔法陣の前で連絡をすると、十数秒後に扉が出現した。
現れたのはいつもの魔族の方々二人と、気合十分といった感じにめかし込んだ魔王ディラ様が飛び出してきた。
ド派手なスパンコールで彩られた、裾の長いローブだ。
「今日はおしゃれなんですね」
「頭の固いオッサン共が、この格好でないと行かせてくれんかったのじゃ」
魔族のトップの方なんだし、仕方がないのだろう。
ギルドでもウチのトップが同じ理由でめかし込んでいるわけだし。
「しかしじゃ、こんなモンすぐに着替えてやるわ」
魔王様は手荷物を持っていて、それには普段着が入っているのだろう。
ジッパーっぽいところから、少し衣装がはみ出している。急いで詰め込んだのだろうか。
何となく出発前のドタバタがイメージできてしまう。
「世話になる」
「よろしく頼む」
「この二人を連れて行けとうるさいのじゃ。ダダンにも色々と事情があるじゃろうて、どうせ上司を待たせておるのじゃろう」
流石魔王様、こちらの事情もお察しの様子だ。
二人の魔族が頭を下げている。
「こやつ等にはその上司の相手をさせる。好きなだけ挨拶ごっこをさせればええ」
「……お気遣いありがとうございます。僕の方は国王陛下を待たせていますので、今からそちらに向かっても宜しいですか?」
「構わん構わん。……ただしめんどくさいのは嫌じゃぞ?」
「はい、心得ております」
まずは持ってきた収納袋と、今回の交易品の目録を魔族の方に手渡した。
そして魔族の方が持ってきてくれた収納袋と目録をカノンさんとララーさんが受け取った。
人数分の転移魔石を用意して、ギルドの魔法陣へと移動した。
「「「おおー!」」」
転移した瞬間にギルド職員達から歓声が上がる。
魔法陣前に整列した大貴族達が一斉に跪き、最後に一番前のエストノーラ陛下が跪いた。
「ようこそいらっしゃいました。魔王ディラ様」
「「「ようこそいらっしゃいました。魔王ディラ様」」」
エストノーラ陛下の大きな声の後に大貴族達が声を揃えた。
「ああよいよい。出迎えご苦労じゃった。わらわが魔王ディラじゃ、敬ってくれてもええぞぇ」
「「「ははっ」」」
「おい、ガズ、ゴンズ、後は任せたのじゃ」
「「仰せのままに」」
二人の魔族、ガズさんとゴンズさんが貴族達へと歩み寄る。貴族達は少し委縮しているようだ。
そしてガズさんとゴンズさんは、このような場に呼ばれるような方々なのだと改めて思い知った。
人間社会で言うところの貴族のような立場の方々なのだろう。
「さぁダダンよ、わらわをもてなしてくれるのじゃろ! 何処へ連れて行ってくれるのじゃ?」
「そうですね、まずはお着替えを済ませましょうか」
「そうじゃな、この服は動きにくぅてたまらん」
ディラ様を連れてVIPルームへと向かう。
僕は部屋の外で待機して、カノンさんとララーさんにディラ様の着替えを手伝ってもらった。
中からの合図で部屋に入ると、前回同様ラフな格好をしたディラ様が、ソファーに座ってお菓子に手を伸ばしていた。
「ディラ様、一人だけ紹介したい者がいるのですがよろしいですか?」
「かまわん。すぐに済むのじゃろ?」
「はい。……どうぞ中へ」
「初めまして魔王ディラ様、エリーゼと申します」
呼び掛けると、ドアの外で待機していたエリーゼ様がやってきて、お淑やかに挨拶を済ませた。
「ああ、よろしゅうな。可愛らしいお嬢さんじゃな」
「こちらのエリーゼは僕の婚約者です」
「なんと! ダダンはちびっ子のくせに婚約しとったんかえ! はー驚きじゃ!」
ソファーから飛び上がったディラ様が、エリーゼ様に近寄り手を取った。
「ダダンの婚約者じゃ。わらわの友人と言ってもエエじゃろ」
「嬉しいです。私もお友達と呼んでいただけますのね!」
「勿論じゃ! お主も今日は時間があるのじゃろ? 一緒に行くぞ!」
「はい、是非お供させてくださいまし」
ディラ様が勢い良く部屋から飛び出して行こうとしたので待ったをかける。
「ディラ様、今日出掛ける場所にはその格好では行けませんよ」
「なんじゃ、着替えさせてからの着替えかえ?」
「二度手間ですいません。こちらにお着替えください。ララーさんとカノンさんは二人の着替えを手伝ってあげて」
衣装を渡して再び部屋の外で待機だ。
部屋の中では楽しそうに着替えをしていて盛り上がっている。
「わはは、エリーゼはまだまだじゃのー! わらわの勝ちじゃ!」
……着替えている最中に、一体何で勝負しているのだろうか。
「この格好は……お揃いじゃな」
「そうです。僕達の作業着です」
ディラ様とエリーゼ様に着替えてもらったのは、ヘルメット、ニッカポッカ、安全靴の三点セットだ。
電話で体を動かしたいと聞いた時に、真っ先にカルステッド鉱山での採掘が思いついたのだ。
というよりも、これしかないと思った。
「今日は僕達の普段の作業を体験していただこうと思います」
「……し、仕事をするのかぇ?」
「ディラ様に僕達のことをもっと知ってもらいたかったのです。だから一緒に頑張りましょう。楽しいですよ?」
「ふむ。そういう話ならいいじゃろ。楽しませてもらおうかのぅ」
「ダダン騎士爵様と一緒にお仕事をやってみたいと存じておりました!」
エリーゼ様も喜んでくれているみたいだ。以前も鉱山に入りたいと言っていたから良い機会だと思ったのだ。
今回はモルツさんにお願いして特注の装備を準備してある。
エリーゼ様の分は前回採寸を済ませているので、そちらで用意した。問題はディラ様のヘルメットだ。
迫り出した角が二本生えていてヘルメットが入らないので、穴の開いた半分サイズのヘルメットを作ってもらい、左右からカパッと合体させる仕様で作った。
ヘルメットから二本の角が飛び出しているが、頭は護れているので役割は果たしているだろう。
「では移動しますよ、みんな付いてきてください」
五人でVIPルームからギルド受付へと向かう。
僕達を見たギルド職員達からは歓迎の拍手が起こっている。
ブーッ
そして遠くで歓談中のエストノーラ陛下は、ディラ様とエリーゼ様の姿に驚いたのか盛大に飲み物を噴き出している。
何か言っているみたいだが、ここは無視させてもらおう。
「ではネネットさん。お願いします」
「本当に宜しいのでしょうか?」
「なんじゃダダン。わらわに何かするのかぇ?」
「ディラ様とエリーゼ様はここカルステッド鉱山で初めての作業となりますので、僕達と同じ『炭鉱夫スキル』を取得してもらいます。この鉱山では全ての作業員に与えられるスキルなのです」
「なるほどなるほど。これでわらわも立派な作業員というわけじゃな」
ネネットさんの指示通りにスキルを付与する装置に触れ、ディラ様とエリーゼ様が無事に炭鉱夫スキルを取得できたので、ネネットさんから受け取ったツルハシを二人に背負わせる。
「ではこちらへどうぞ」
歓談中のみんなの邪魔にならない場所へと移動して、周囲から視線を浴びながら丁寧に説明する。
「では今から、指差呼称確認という作業前の安全確認を行います。僕の言葉を復唱して、後に続いてください」
カノンさんがディラ様と向かい合い、ララーさんがエリーゼ様と向かい合っている。
「ディラ様はカノンさんの装備を、エリーゼ様はララーさんの装備の確認をお願いします」
「よくわからんがわかったのじゃ」
「大きな声で元気良くお願いしますね。声が小さければやり直しですよ?」
「う、うむ」
では始めます、と周囲に見守られながら大きく息を吸い込んだ。
「右よーし!」
腹から声を出しつつ、右側に指を差して確認する。
「? み、みぎよーし……?」
「声が小さい! やり直し! エリーゼももっと声を張って!」
「きびしいのじゃな……」
「容赦がありませんわ……」
「遊びでやっていたら怪我をするぞ! もっと真剣に!」
「「は、はい!」」
よしよし、二人の表情が少し引き締まったぞ。
「右よーし!」
「「「「右よーし!」」」」
「左よーし!」
「「「「左よーし!」」」」
「ヘルメットよーし!」
「「「「ヘルメットよーし!」」」」
「顎紐よーし!」
「エリーゼ様、顎紐が緩い。やり直し」
「……ララー様も厳しいです」
「もう一度、顎紐よーし!」
「「「「顎紐よーし!」」」」
「服装よーし!」
「「「「服装よーし!」」」」
「靴紐よーし!」
「「「「靴紐よーし!」」」」
二人の顔つきは真剣そのものになっている。
「本日もご安全に!」
「「「「ご安全に!」」」」
周囲からは何をやっているのだとどよめきが起こっている。
そして――
『指差呼称が発動しました』
普段通り脳内にアナウンスが流れた。
「なんじゃいまのは?」
「一体どこから――」
驚いている二人に転移魔石を手渡し、五人で第一ベースキャンプへと向かった。
「す、すごく素敵です!」
「おおーきれいな場所じゃのー!」
壁一面を埋め尽くしている宝石が、ヘルメットのライトに照らされてキラキラと輝いている。
「ここはカルステッド鉱山の地下四百メートルくらいのところで、僕達が採掘の拠点にしている場所です」
「ここの宝石は採掘なさらないのですか?」
「うん。お気に入りの場所だからね」
ここを壊すとララーさんが暴れそうだから手を入れないようにしているのだ。
「ところでダダンよ。さっきのはなんじゃ? 頭の中で何かが聞こえたぞぇ?」
「私にも聞こえましたわ。確か『指差呼称が発動しました』とおっしゃってました」
「はい。これが炭鉱夫スキルの力です。しっかりと安全確認を行えば、鉱山内で怪我をすることはほぼなくなります」
「勇者め。こんなものまで作っておったのか」
あくまで僕の予想だが、勇者は日本で現場作業の仕事をしていたのではないかと考えている。
それでこんなスキルを作ったのだろう。
全てのスキルを知っているわけじゃないが、他のスキルに比べて炭鉱夫スキルだけ異常に強力だ。
個人の思い入れがあったのか、それとも鉱山に送られてしまった日本人の、スキルの詳細が見られる人物への救済措置なのだろうか。
今となってはわからないことだ。
「はい、お喋りはここまでです。今日は予定が詰まっていますのでサクサク行動しましょう」
エリーゼ様とディラ様にツルハシを握らせる。
「今からみんなで採掘を行います。目指すのはこの先に埋もれているルビーです」
「ほぇー、ダダンはそんなこともわかるのかぇ?」
「はい。これも炭鉱夫スキルの力です。ディラ様と作業する為に予め見つけておきました。今から採掘するルビーを使って、今日はみんなでお揃いのブレスレットを作ろうと考えています」
「おおー、考えておるのー! 今日の思い出じゃな! 良かろう、気合を入れるぞ」
「私も負けませんわ」
ディラ様とエリーゼ様が指示した場所を掘り始める。
「何だか岩がサクサク掘れますわ」
「なんじゃこのツルハシは。聖剣でも加工してつくっておるのかぇ?」
「ギルドで貸し出しされている普通のツルハシですよ。これも炭鉱夫スキルの力です」
「ほぇー」
二人がザクザク掘り進め、カノンさんとララーさんが収納袋で廃土を回収している。
「……なんじゃろうな。こう……うまく説明できんが、からだがあついというか……たぎってくるというか――」
「私もです。ダダン様の前ですのに……高ぶってしまうと言いますか――」
二人の掘り進むペースがどんどん上がっている。砕けた岩が坑道内でガキンガキンと跳ね返っている。
こんな岩の塊が当たれば普通は死んでしまうのだが、これも当然炭鉱夫スキルのおかげで無傷だ。
「……ふふ。ふはは。もう抑えきれぬぞ。よーしエリーゼよ競争だ」
「はいディラ様! 私も負けませんわよ!」
僕達が採掘する時のように、テンションを上げて掘り始めた。
やっぱりこうなっちゃうよねー。これは炭鉱夫スキルの力なのかどうかは不明だ。
そして淑女の仮面というのは、鉱山内では不要である。
「……なんじゃ? 急に掘りにくくなったぞぇ?」
「ああ、その場所は崩れやすくなっているのだと思います。少し右側に迂回してから進路を戻しましょうか」
「そうか、わかった」
特に疑問に思うこともなく、ディラ様は一心不乱に掘り進めている。
「エリーゼ様、少し交代しましょうか? 今日は長い一日になりますよ?」
「……そうですね。お願いできますか?」
エリーゼ様を後ろに下げて、ディラ様の横でツルハシを振りかぶる。
「掘るぞディラ! 俺についてこい! ヒャッハー!」
「おのれ、ダダンには負けぬわ!」
一気に掘るスピードが上がり、後ろで廃土を回収している二人の作業が慌ただしくなった。
「私もお手伝い致しますわ!」
エリーゼ様も収納袋を持って走り回っている。
二人はもう立派なカルステッド鉱山のマイナーである。
魔王様と肩を並べて採掘するシーン。この小説で一番描きたかった場面です。
タイトルの由来でもあります。




