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第二十九話


 ギルドに戻ると、ネネットさんが対応してくれてギルド長室に向かう。


 「ねぇ、どうだったの? 上手くいった?」

 「……頭が痛くなった、かな」


 ネネットさんは首を傾げている。

 ギルド長室ではアルフィネア様とおじさんが待機していた。


 「では早速報告を聞こうか」

 「はい、まず最初は失敗した話から――」


 ナマモノを楽しみにしてくれていたのに、交易品に入っていなくて残念がられたことから話した。

 今回受け取った品のなかに、時間経過を止める魔石が大量に入っているので、これを使って魚や肉、お菓子など、ナマモノをすぐに準備してほしいと伝えた。

 魔石を取り出すと僕でも入れそうな大きな箱三つに、魔石がぎっしりと詰まっていた。

 そして次は二週間後に再び交易するので急いで準備してほしいと話すと、おじさんが手紙をスラスラと記入し、ネネットさんに手渡す。

 それを部屋の外で待機していた文官に手渡すと文官が駆けて行った。数人が部屋に入り、魔石が運び出されていく。


 「次に良かった話を――」


 回復スキルを付与する装置を含め、多数の付与装置を用意してもらえたので、これからはサッテール教会に煩わされることもなさそうだと説明した。

 付与装置は結構な大きさがあるらしく、ここでは出せないので、後で袋の中身を確認してほしいと伝えた。


 「よし、これでサッテール教会の問題は片が付いたな。帝国からカッパゲ教皇の身柄を引き渡したいと要請を受けて、今王都の方に移送している最中だ。帝国の問題も教会の問題も、後は我々の仕事だ。これ以上はダダン騎士爵に迷惑を掛けることもないだろう」


 おじさんもやっと安心できると胸を撫で下ろしている。


 「そして今からお渡しするのは取り扱いに注意が必要な物ばかりです。できれば国で管理していただけるとありがたいのですが――」


 エリクサー、結界の魔石、魔術を無効化する魔石、無印の良質な魔石、山盛りの各種スキルスクロールでギルド長室が埋め尽くされた。


 「りょ、了解した。しっかりと目録を作って管理させるとしよう」

 

 手紙を受け取ったネネットさんも足の踏み場を確認しながら部屋の外へと向かう。

 数人掛かりで荷物が外へと運び出された。


 「最後になりますが、これは非常に取り扱いが難しい物になります。世に出てはいけない物だと判断したので、国で封印してほしいです」

 「……報告で聞いていたアレか」

   

 前回魔族の二人から用意できる品を聞いた時に報告していたので、おじさんとアルフィネア様にはこれが何か思い当たっているようす。

 魅了の媚薬と幻惑の秘薬が机の上の瓶が並べられていくのだが、それを片っ端から別の収納袋へと仕舞って行く。   


 「……改めてみると凄い量だったな。これが交易の度に手に入るのか」

 「次回こちらが欲しい物は、目録と一緒に渡してあるので、扱いにくい物は送ってこないと思いますよ」

 「それでダダン騎士爵は何をもらったんだ? 今ので全部だと騎士爵の取り分がないからな。別で取り分けてあるのだろ?」

 「その前に……最後は大問題の報告になるのですが――」


 ダダンの言葉を聞いて、アルフィネア様とおじさんがごくりと唾を飲み込んで身構えた。


 「魔王ディラ様が遊びにくるそうです」

 「それを早く言え馬鹿野郎!」

 「しかも二週間後」

 「「もっと早く言え!」」


 アルフィネア様にも怒られてしまった。   

 おじさんは気持ちを落ち着けるように、二、三回と深呼吸を繰り返した。


 「……それで、魔王ディラ様というのはどんな方だった?」

 「そうですね、一言で言えば子供っぽい、かな」

 「子供の騎士爵がそれを言うんだな」

   

 ディラ様の容姿を説明し、自由な行動、言動、部下を困らせているっぽいことを話した。

 部下を困らせているのはうちの王国と一緒だと言ったらおじさんに拳骨をくらった。


 「我々は何を用意したらいい? ただ遊びにくるだけではないのだろ?」

 「そうですね。……ちょっと本人に聞いてみましょうか?」

 「ん? 聞いてみる?」 


 よくわかっていない様子のおじさんは放置して、スマホを取り出してディラ様に電話してみた。

 できれば繋がらないでほしいと願いながら。


 プル――ガチャ


 『なんじゃダダン、もう用意できたんかぇ?』

  

 ワンコール目でディラ様が出た。暇なのかな? 


 『いえ、まだ準備は整っていないのですが、ディラ様にちょっと聞きたいことがありまして』

 『なんじゃ、言うてみよ』

 『ディラ様が帰り際に遊びにくるって仰ってたじゃないですか。何処か行きたい場所とか、やりたいこととか希望はありますか?』

 『おおーそうかそうか。ダダンがもてなしてくれるのじゃな』


 はい、僕がおもてなしすることがたった今決定しました。


 『そうよのぅ。まずは美味しい物が食べたいのぅ。魚じゃな。ナマの魚が食べたいのぅ……さかな……』

 『魚料理ですね』


 ディラ様は色々と想像を膨らませているようで、さかなさかなと呟いている。

  

 『後は普段できんことがやりたいのぅ。わらわは普段は執務で忙しいから、何かこう……体を動かしてストレスを発散させたいのじゃ』

 『あー、その気持ちはすっごくわかりますよ』


 営業ノルマに追われていた時は、ずっとストレスを抱えて生きていたからなぁ。その気持ちは痛いほどわかる。


 『あと、堅苦しいのは嫌じゃ。こっちのオッサンどもで十分じゃ』

 『ディラ様の周りはお堅い人が多いのですね』


 堅苦しいのが嫌となると、王都での歓待などは避けた方が良さそうだ。


 『それとステルスの練習は怠るでないぞ。楽しみにしとるんじゃからな。最低でも宙返りくらいはできるように練習するのじゃぞ?』

 『……善処いたします』


 念押しされてしまった。最低限が宙返りなのか。ハードルが高いな。

  

 『じゃあの。楽しみにしておるぞ』

 『はい、こちらこ――』


 ブツッ   


 まだ話している最中だったのに切られてしまった。自由な魔王様だ。

    

 通話していた僕にはディラ様が見えているのかと、カノンさんに不思議そうに言われた。


 「話しながら何度もお辞儀をなされてましたので――」


 どうやら営業時代の癖が出てしまっていたようだ。

 アルフィネア様やおじさんにスマホのことを聞かれたが、ディラ様とだけ直接話せる機械だと簡単に説明した。

 僕もこれが何なのかはっきりとはわからない。

 ステルスの件は内緒にしたまま、魔王様の要望をまとめて伝えた。


 「こちらとしては王都で盛大に宴を開きたいのだが、先に断られてしまうと受け入れるしかないな」

 「貴族達の長い話では、うんざりされてしまいますよね」

 「それでダダン騎士爵よ、魔王ディラ様が所望している『体を動かす』というのはどうするつもりじゃ? 何かアテはあるのか?」


 アルフィネア様も脳をフル回転させているようすで、眉間を揉んでいる。


 「はい。喜んでもらえそうな案を思いつきましたので大丈夫だと思います。それよりもアルフィネア様にはオーズウォル辺境伯様に料理をお願いしてもらえませんか?」

 「おおそうじゃな。魚料理じゃと辺境伯領の右に出るところはないわい。良かろう、連絡しておこう」

 「それと当日はエリーゼ様にも一日同行してもらおうと考えています」

 「……そうじゃな。わかった、用意させておこう」 


 僕の考えが伝わったみたいで、アルフィネア様が納得してくれた。

 ディラ様も女性だ。ララーさんみたいな人は稀だが、ややこしいことになる前に婚約者として紹介しておこうと思ったのだ。

 自由な魔王様だから何を言われるかわかったものじゃない。


 話がひと段落したところで、漸くひと息つけるようになった。

 ネネットさんがお茶やお菓子を新しく準備してくれている。

 その間雑談として帝国の第一皇子の身柄は、バルムヒュッテ帝国側から拒否されたのでさっさと処分したと教えてくれた。

 案の定というか、僕の叙爵式後のパーティー会場で捕えた賊は、カッパゲ教皇の差し金だった。

 教皇と孫の聖女ネクレの身柄は移送中だが、僕に会わせろとうるさいらしい。

 特に孫の方がうるさいらしく『私に酷い扱いをすると、ダダン騎士爵様が黙っていない』とか言っているらしい。

 何か心当たりはあるかと聞かれるが、今でも誘惑のスキルが効いていると思っているのだろう。

 全く関係ないので適当に処分してくれて構わないと答えておいた。

   

 「本日よりダダン騎士爵の部屋は副所長室となる」


 エリーゼ様との婚約が発表されたからだ。

 カノンさんやララーさんとは何もなくても、女性と同居しているというのは対外的によろしくない。   

 職場で寝泊まりする営業マン時代へと逆戻りだ。

 ただしベッドやシャワー室を新設してくれたみたいなので、生活に困ることはないだろう。

 VIPルームは僕達の共同部屋になるみたいで、エリーゼ様や侍女さんもたまに遊びにくるようになるらしい。

 公爵家の別荘が二棟と僕の新居は、現在急ピッチで麓の町に建設中だという。 


 「じゃあ俺は帰るぞ。二週間後にまたくる」

 「お仕事頑張ってください」


 おじさんは転移魔石で戻って行った。

 おじさんには王宮に戻ってやらなきゃならない仕事が山ほど残っている。

 交易品の管理、仕分けだけでも二週間で終わるのかどうか……。


 「アルフィネア様にお尋ねしたいのですが」

 「改まってなんじゃ?」

 「何処か人目につかなくて、だだっ広い平坦な場所ってないですか? 広さは端から端まで歩いて半日は掛かるくらい欲しいのですが」

 「……ふむ。遠い場所でも良いのか?」

 「はい。できるだけ人目につかない場所でお願いします」

 「それならこのカルステッド鉱山から馬で三日ほど南下した場所に、イリアン砂漠があったはずじゃ。平坦な場所といっても確か膝の高さくらいの小さな木々が育っておるがそれでも大丈夫かのぅ?」

    

 馬で三日か、結構な距離だ。

 でも砂漠で背の低い木が生えているだけ、という場所はステルスの試験飛行にはうってつけの場所だ。


 「はい。大丈夫です。少し遠くて時間は掛かりますが、その方が人目につかなくて良いと思います」

 「フフン、ダダン騎士爵は貴族としてはまだまだじゃな」

 「……そうでしょうか?」

 「何もダダン騎士爵が三日掛けて行く必要もあるまい。別の者に行かせて転移魔法陣のスクロールを設置させて戻ってこさせれば良いじゃろう」

 

 アルフィネア様から転移魔石がゴロゴロと渡される。


 「ギルドの魔石では無理でもこの転移魔石ならスクロールとリンクさせれば大丈夫じゃ。ワシの部下に行かせるからダダン騎士爵は鉱山で採掘しておれば良い。戻ってきたら連絡を寄越そう」

 「ありがとうございます。なるほど、自分で行く方法しか考えていませんでした。勉強になります」


 僕が三日も採掘すれば、転移魔石やスクロールの代金なんて余裕で回収できてしまう。

 営業時代もそうだが、何でもかんでも自分でやろうとして苦労していたはずだ。

 それこそ部下の仕事まで自分でやって、なんとか営業部のノルマを消化していたのだ。

 それでストレスを溜めていたのに、新しい人生で同じ過ちを繰り返してどうするんだ、って話だ。  

 もっと自分の仕事を減らそう。

 周囲の人に頼ろう。

 自分のやりたい事をやろう。


 「何かに気付いたみたいじゃな。あまり無理はするでないぞ。其方はまだまだ子供なのだからな」

 「はい。お気遣いありがとうございます」


 魔石の代金を払おうとしたら断られた。


 「オーズウォル辺境伯も言っておったが、お主には返し切れんほどの恩がある。少しずつでも返させておくれ」


 そういうことならと甘んじて受け入れさせてもらった。


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