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第二十八話

 

 いよいよ交易の為に最下層へと転移した。

 いつものヘルメット、ニッカポッカ姿の僕達三人は、大きな魔法陣の前で指差呼称確認を行った。

 このくらいの時間という曖昧な時間指定しかしていなかったので、もしかすると暫く待つことになるかなと思ったが、すぐに前回同様大きな扉が出現した。

 魔族側もひと月前に会った二人がきてくれたみたいで、跪こうとしたので事前に止めた。


 「すいません、僕達は対等な立場で交易をお願いしたいのです。跪くのはなしでお願いできますか?」

 「わかった。勇者と同じだな。彼も跪かれると困っていた」


 日本人には目の前で跪かれる文化がないから、どう対処していいのかわからないのだ。

 次からはしないと約束してくれた。 


 「では、早速ですが僕達が持ってきた品を見てください」

 

 カノンさんが一人に目録を手渡し、ララーさんがもう一人に収納袋を手渡した。

 二人で覗き込むようにして目録に目を通し、時折『おおっ!』などと声を漏らしながら頷いている。

 そして色々と話し合いながら、最後まで目を通し終えたみたいだ。


 「収納袋に入っているのはその目録の通りです。良かったら中身も確かめてください。それと国中から取り寄せていますので、今回の交易品には傷みやすい食べ物は入れておりません」

 「そうだったのか……残念だ」


 どうやらナマモノを楽しみにしていたようだ。


 「前にきた時、時間経過を止める魔石を渡しておけばよかった」

 「こちらこそ、魚が欲しいと伺っていたのに、気付かなくてごめんなさい」

 「大丈夫。今回たくさん持ってきたから、次まで楽しみにしている」

 「酒がたくさん入っているから嬉しい」 


 もう一人の魔族の人は、相当お酒が好きみたいだ。


 「次はこっちの番。持ってきた物を見てほしい」


 目録を渡され、収納袋はカノンさんに手渡された。

 では確認しますねと断りを入れて、目録に目を通す。


 ……ほ、ほほう、これはこれは。想像以上にマズイじゃないか。


 「……ダダン様、この『ステルス航空機』というのは何でしょうか?」

 「さーなんだろうねー」


 勇者の野郎! とんでもねぇモン作りやがって。とぼけるしかねー!


 「ステルス航空機は勇者が作った空飛ぶ乗り物だ。『日本語』でしか動かないから我々には使えない。『日本語』でしか動かない物は他にもたくさんある。使えるなら全部ダダンに持っていってほしい」

 「まぁ空飛ぶ乗り物ですって。素敵ですねダダン様」


 カノンさんは純粋に喜んでいるが、本来の使い道を知っている僕としては全く喜べない。

 日本語でしか動かないと言っているので、動力など機体の中身は全くの別物なのだろう。

 他にも色々と作っているみたいだが、どれもこれも碌な物じゃない気がする。

 マジで要らねぇ!


 「結界魔石、魔術無効化魔石、時間経過を止める魔石、魅了の媚薬、幻惑の秘薬。この辺りは前回お話に聞いていた分ですね」


 その他にもエリクサーや宝石が多数入っている。

 スキルスクロールも大量に入っているのだが、これは管理が大変そうだ。

 おじさんに丸投げするしかないな。

 スキルを付与する装置も色々入っているみたいだが、回復スキルが付与できる装置は入っていなかった。


 「このスキル付与装置なのですが、回復スキルを付与する装置はありませんか?」

 「回復スキルは人間達も持っているだろ?」

 「ええ、そうなんですが馬鹿な大人達の所為で、回復スキルが争いの種になっているのですよ」

 「そうか。人間達は争いが好きだからな」


 魔族の方に争い好きとか言われてしまった。


 「そういう事なら、今から取りに帰って持ってきてもいいぞ」

 「本当ですか! 助かります!」

 「ちょっと待ってろ」


 魔族の一人が扉の向こうへと消えていった。

 その間カノンさんがもう一人の魔族の方に、娯楽品の使い方を説明している。

 ララーさんが媚薬を欲しがり、絶対にダメと断った。これも世に出てはいけない品で封印必須だ。

 話を聞くとスキルの付与装置も勇者が作った物だそうだ。

 これは設計図が残っているので魔界で量産できるらしい。

 待っている間に、次回用意してほしい物などを確認し合って、契約魔術のスクロールを準備する。

 魔族の方が契約内容を読み込み、特におかしなところもなかったようで、スクロールにサインをしてくれた。その瞬間スクロールは燃えてなくなった。

 実際に契約魔術を使うのは初めてだが、お互いに決めたルールを破れなくなるらしい。

 数ヶ月に一度、契約内容を更新するように書かれていたので、不都合があればその都度修正していくのだろう。

   


 「おかしいな。戻ってこない」


 魔族の方が疑問に思っている。

 扉を抜けてから結構な時間が経っているのだが、もう一人の魔族の方が戻ってこないのだ。


 「何かあったのでしょうか?」

 「わからない」


 更に数分が経過した時、やっと扉が開いて魔族の方が戻ってきた。


 「……困った事になった」


 残っていた魔族の方がため息を漏らす。

 うん。見たら分かるよ。一人増えてるね。

 戻ってきた魔族の背後に、女性の子供っぽい魔族がついて歩いている。


 「ほほう、其方がダダンか」

 「初めましてダダンと申します」

 「ハハハ、ちびっ子じゃのー」


 僕のことをいきなりチビ呼ばわりしてくるのだが、この子供の魔族もチビだ。七歳の僕と大差はない。

 二人の魔族の方が半袖の柔道着みたいな衣装を着ているのに対し、この子供の魔族はしっかりと服を着ている。

 柔道着を着る文化なのかと思ったのだが、そういうことではなさそうだ。

 この場所が暑いからこういう衣装なのだろうか。

 子供の魔族は衣装、というよりもラフな部屋着姿といった感じだ。

 真っ赤な髪のウェーブヘアーは腰の辺りまで伸びている。

 豪快に笑っているのだが、真っ赤な瞳が今にも光りそうなので少し怖い。

 二人の魔族同様ウェーブヘアーの隙間から、二本の角が伸びている。

 赤や緑といった肌の二人の魔族に対して、この子は普通の肌色だ。

 瑞々しい肌をしているので若いのだろう。


 「ダダン、こちらが魔王ディラ様だ」

 「そうじゃ、わらわが魔王ディラじゃ。敬ってくれてもええぞ」


 小さな体で踏ん反り返っているのだが、こういう時って跪いたりした方がいいのかな?

 二人の魔族の方が普通に応対しているから、しなくても大丈夫だとは思うのだが。

 背後のカノンさんとララーさんは少し落ち着かないみたいだ。


 「ディラ様はどういったご用件ですか?」

 「ふむ。勇者と同郷の者がやってきたと聞いてのぅ。話を聞けば勇者のような乱暴者ではないというからな、どんな奴かと見にきたのじゃ」

 「勇者は乱暴者だったのですね」

 「そうじゃ! アヤツめ、こちらの話も聞かずにいきなり攻撃してきおったんじゃぞ! うっかり死にかけたわ!」

 「それは……同郷の者がご迷惑をお掛けしました」

   

 頭を下げると、フムフムと何やら感心しているようすだ。


 「済んだことじゃからな。腕が取れたこととか角が折れたこととか、今では全く気にしておらん」

 「気にしてるんですね」

 「それはそうとダダンよ。交易の品々はどうじゃ? 他にも何か欲しい物はないか?」

 「はい。お気遣いありがとうございます。どれもこれも素晴らしい物ばかりでした。ひとつ欲しい物がありましたので、そちらを無理にお願いする形になってしまいました」

 「かまわんかまわん。いくらでも持って行ってよいぞ」


 魔族の方が取りに戻ってくれた回復スキルを付与する装置は、収納袋に入れて渡してくれた。


 「それでじゃ、中にステルスを入れておいたじゃろ?」

 「……はい」

 「わらわも久しぶりに飛んでみたくてのぅ。ダダンも使えるのじゃろ?」

   

 航空機なんて操縦したこともないし、ましてや勇者お手製のとんでもステルスなんて扱える自信が全くない。


 「実物を見てみないことには何とも言えません。しかも僕が知っている物と若干仕様が違うようです」

 「そうなのか、残念じゃな。次はいつくるのじゃ? 国の者が魚や菓子を楽しみにしておるでのぅ」

 「前回魚やナマモノが欲しいと伺っていたのに、持ってこられなかったので申し訳なく思っております。できる限り早く用意しますが、なにせ国中から集めることになりますので、二週間は準備期間をいただけますか?」

 「二週間か……長いのぅ。では準備が終わったら連絡してくれるか?」


 ディラ様がポイっとこちらに何かを投げたのでキャッチした。

 ……多分、いや間違いなくスマホだ。ボタンのアイコンも地球産の物と似ている。勇者産なのだろう。

 受話器っぽいアイコンをタップすると、番号が一つだけ入っていた。


 「ふむふむ、ちゃんと掛かってきたな」


 ディラ様が自分のスマホを眺めている。

 勇者め、なんかだんだん腹が立ってきたぞ。謎動力のスマホなんか作りやがって。


 「では急いで用意しておくれ。それとステルスの練習もしておくのじゃぞ? 次は妾が地上に遊びに行くからな!」

 「……え、ちょっと待って――」


 じゃあのーというディラ様は二人の魔族を従えて扉の向こうに戻って行った。



 「ねぇダダン。勇者と同郷ってどういうことなの?」


 最下層で立ち尽くしていると、ララーさんから真面目に質問された。

 日本人というのも何も説明していなかったのだが、そろそろ話す必要がありそうだ。

 カノンさんは恐らく色々気付いていて、それでも敢えて何も聞いてこなかったのだと思っている。


 「んー、最重要機密なんだけどこの話、墓場まで持って行ける?」

 「……そんな重要な話なのね。いいよ、全部話してくれる?」


 何だかんだでララーさんは信用できる女性だ。

 お酒が入っても今まで誰にも秘密を洩らしたことはない。

 良い機会だからとカノンさんにも全て話しておこう。


 前世の記憶があること。そして勇者はその前世の世界の人間だということ。

 前世では同じ時代を生きたけど、こちらの世界で生まれ変わった時代が違ったみたいだと話した。

 勇者はこの世界では様々な能力の使い手だったみたいで、その能力は僕にもわからない。

 そしてこの世界のスキルは勇者が作った物で、僕にはそういった特殊な能力は何もないと話した。

   

 「日本語っていうのは、その前世で使用していた言語だよ。だからこの世界で使えるのは僕だけだと思う」

 「魔族の人も使えないって言っていたわよね。誰にも教えなかったみたいね」

 「そうらしい。魔族の人の話を聞く限り、かなり危険な物も作っていたようだから、日本語っていう制限を掛けて、自分以外には使用できないようにしていたみたいだ」


 考えなしに好き勝手作っているようで、最後の一線だけは越えないようにしていたのだろう。


 「うーん……話を聞いた限りだと、ダダンは普通の人間なのよね?」

 「いやいや、僕のことをなんだと思ってたわけ? 普通の人間に決まってるでしょ!」

 「ダダン様、普通の人間は国王陛下をおじさん呼ばわりなどいたしませんし、初対面の魔王様と楽しそうに会話を楽しんだりいたしません」


 カノンさんに呆れられてしまった。

 だってさ、おじさんは自分でおじさんと呼んでいたし。

 魔王様はあの姿だし、話せば怖くないし、二人の魔族も普通に接していたし大丈夫だと思ったんだよ。


 ララーさんは僕が何か特別な力を持っていると思っていたようだ。

 ホッとしているような、がっかりしているような、そんな表情をコロコロと変えている。



 「とにかくそのステルスっていうの、一度ここで確認した方がよくないかしら?」


 確かにララーさんの言うとおりだ。

 ここはかなり広い空間だし、想像している航空機の大きさなら大丈夫そうだ。

 いきなり地上で出すより、ここで様子を見た方が良いと思う。

 二人には下がってもらい、収納袋からステルス航空機を取り出す。

 グインと収納袋から勢い良く飛び出した航空機が着地して、最下層の地面をドスンと揺らす。

 高さは五メートルくらいしかないけど、両翼を合わせた幅は五十メートルくらいはありそうだ。車輪を出した状態で出てきてよかった。

 重厚感のあるグレーの機体が存在感を醸し出している。

   

 ……うん。エイっぽい形だね。これ爆撃機だよね?


 二人は驚きのあまり抱き合って固まってしまっている。


 「こんなに大きな物でしたのね。驚いてしまいました」

 「コレって何? 魔物? 動物? 死んでるの? 食べられない?」

 「ララーさんは少し落ち着こう。これは機械……かな、多分。僕が知っている航空機なら機械だよ」


 三人で機体によじ登ったのだが、コックピットのガラスの向こうにはバケットシートが六脚据え付けられている。確かこういう航空機は搭乗人数がもっと少なかった気がする。

 勇者仕様に魔改造されているのだろう。

 そしてコックピットのガラスに何かが張り付けてある。


 『取扱説明書』


 久しぶりに見た漢字。見られて嬉しいような、見たくなかったような……複雑な気分だ。

 

 『これを読んでいるのが、良識のある日本人であることを願う』


 こんな書き出しの取扱説明書だ。良識のある日本人は、こんな物騒な物を作らないぞと声を大にして言いたい。

 動力エネルギーが切れているからとかいう理由で動かせない、という展開が良かったのだが、残念ながら動いてしまいそうだ。

 しかもAIが搭載されていて全自動。日本語音声入力対応で自動修復機能付き。

 素人が動かすのに必要な機能が全部盛りで搭載されている、お手軽お気楽爆撃機だ。

 一体誰がどのような場面で使うことを想像して作ったのだろうか。無限弾薬って何だよクソ。


 「これがニホンゴですか……複雑な文字ですね」

 「うん。同じ日本人でも、勉強しても読めない人がいるくらいだからね」

 「それでどうなの? 空は飛べそうなの?」

 「多分大丈夫そう。でもここでは動かせないかな」

   

 流石に壁に激突はしたくないので、動かすのは外に出てからだ。

 魔族の方からもらった収納袋ではなく、用意していたスペアの収納袋にステルスを収納して持ち帰る。


 「はぁ……戻ろっか」


 なんだか穴掘りをしているよりも疲れてしまった。


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