第二十七話
話の区切りを良くする為、少し短くなっています。
帰還した騎士団員が各々の武勇伝を語り合っている中、僕達は作戦会議室へと通された。
砦で詰めていた団員達からは拍手と歓声と尊敬の眼差しで迎えられた。
皆が円卓につくとボーフム様がグラス片手に話し始めた。
「ではトール騎士団長、報告を頼む」
「はっ! 最優先目標の第一皇子の確保に成功。また敵砦に詰めていた兵はほぼ壊滅いたしました」
「「おおー!」」
作戦会議室がどっと沸いた。
「事前の計画通り砦内の敷地に通じる扉と通路の封鎖に成功いたしましたので、砦外からの敵兵の侵入を防ぐことができました。敵将クラスの兵も数名討ち取りましたが、残念ながら全てではないと思われます。そしてオーズウォル辺境伯騎士団の被害は軽傷が二十五人、重傷者、死亡者は共に……ゼロでございます」
「でかしたぞトール騎士団長! 最高の結果ではないか!」
「勿体なきお言葉でございます」
ボーフム様から最高の誉め言葉をもらった団長は、騎士団の皆を休ませるため、指示を出しに部屋を後にした。
カノンさんとララーさんにも下がってもらい、外の宴会に参加するように伝えた。
部屋に残っているのは僕とボーフム様だけだ。
「さてダダン騎士爵よ、此度の助力、感謝してもしきれぬ」
「御手を上げてくださいボーフム様」
ボーフム様が机に両手とオデコをつけている。
「僕はあくまでお手伝いしただけです。勇気ある団員の皆さんを労ってあげてください」
「そういってくれると助かるよ。この後は我々だけで対処できるだろう。今度こそ砦で控えているだけで構わぬから、ゆっくりと過ごしてくれ」
「ホントにそうだといいのですが。ちょっとこれを見てもらえますか?」
第二皇子の密偵という人物から預かった手紙を、ボーフム様にも読んでもらった。
・この手紙を受け取っているということは、第一皇子が無事に失脚したのでしょう。身柄はご自由にお使いください。
・侵略行為に対する賠償は全て受け入れる用意ができております。
・教会が煩わしいのはバルムヒュッテ帝国でも同じ。この度回復を見合わせるという暴挙をニーアカルド王国で行い、攻めるのは今しかないと皇帝をそそのかしたのはカッパゲ教皇です。
・賠償責任の対象として、現皇帝の退位とカッパゲ教皇の身柄の引き渡しも一緒に要求していただきたく存じます。
・私第二皇子ノーサエールはダダン騎士爵様、ニーアカルド王国と争う気は毛頭ございません。それよりも互いに手を取り合い、助力し合う関係でありたいと心より願っております。
・ニーアカルド王国に呼びつけていただければ、いつでも私一人で向かう所存でございます。
・勿論ダダン騎士爵様に呼びつけていただければ、何を差し置いてでもお伺いいたす所存でございます。是非ご一考くださいませ。
「むぅ……。この手紙の内容通りだとすると、バルムヒュッテ帝国は第二皇子の掌で踊らされておったのじゃな」
「侵略が成功した場合には、密偵に第一皇子を暗殺させ、自分が次期皇帝になるつもりだったのかもしれませんね」
第二皇子はどちらに転んでもいいように行動していたようだ。
なかなか油断できない人物だ。
外の祝勝会は大いに盛り上がっている。
何度目かの乾杯の音頭が聞こえた後、作戦会議室のドアが勢い良く開いた。
「大変だ大変だダダン! 私のサファイアに傷が付いている! これは結婚だろー!」
「いや、外箱にすら傷がついていないのに、変な言いがかりをつけるのは止めてくれる?」
酒臭いララーさんを部屋から追い出し、騒がしくてスミマセンと謝る。
「ガハハ、豪快なお嬢さんだ。我らも難しい話は後にして外に顔を出そう。本日の主役がこんな場所に居ては駄目だ」
ボーフム様に抱えられ、外に連れ出された。
翌朝、落ちた橋のところに数人の使者が白旗を振っていると報告が入った。
ボーフム様もトール騎士団長を使者として出し、川の上の小舟上で会談が行われた。
停戦協議なのだが、条件が皇子の身柄の引き渡しだった時点で却下。
身柄と物資や金銭との交換なども全て突っぱねたようだ。
バルムヒュッテ帝国側もまだ強気だったようで、今の戦力差がわかっているのかと凄んできたそうだ。
それを聞いたトール騎士団長も、動かせるものなら動かしてみろと言い返したら、黙り込んだらしい。
そこは嘘でも言い返さないと駄目だと思うのだが……。
指揮官クラスを多数失った帝国側は、軍を動かしたくても動かせないのだろう。
結局後日バルムヒュッテ帝国から正式な使者を送るので、その時まで皇子を丁重にもてなせと捨て台詞を吐いて引き下がったらしい。
使者が敵軍に戻った後、五万の兵は戻る準備を始めて、今ではズラリと並んでいた数十の投石機が引き返している。
そして約束の二週間が過ぎ、いよいよ公爵領に戻る時がきた。
「ダダン騎士爵よ、今回の其方の働きは誠に見事であった。我としては褒美を出さぬわけにもいかんのだが――」
「何度もお伝えした通り、僕はもう褒美も勲章も称号も必要ありません。カルステッド鉱山で採掘に専念させてください」
「だがそれだと我は恩人に褒美も出せぬ無能者呼ばわりされてしまうのだ」
「……では、ひとつお願いがあります。このオーズウォル辺境伯領の自然の恵みは、カルステッド鉱山にはない物ばかりで羨ましい限りです。できればサザーランド公爵領との取り引き量を増やしていただけませんか?」
「うむ、それは……困ったな。我としても有り余る恵を交易品にしたいのはやまやまだが、ここ辺境伯領からではサザーランド公爵領や中央までは距離がありすぎて鮮度が保てぬのだよ」
「それは良かったです。品物は沢山あるのですよね? では恐らく大丈夫です。心当たりがありますので、アルフィネア公爵様と話を進めていただけませんか?」
「其方がそう言うのなら本当に何とかしてしまうのだろう。あいわかった。約束しよう」
よし、やった! 海の幸、山の幸、肉、極上フルーツゲット!
食事をした時に滅茶苦茶美味しかったので、どうしても鉱山でも食べたかったのだ。
これが何よりもご褒美だ。
「妹のテトナにもよろしく伝えておいてくれ。……しかしテトナは良い息子を得たな」
しっかりと握手を交わしてからギルドの魔法陣へと戻った。
ギルドに戻ると人が勢揃いしていた。
おじさんや公爵家の皆さま、ダリムさんにネネットさん。
僕達を確保するようにしてギルド長室に連れていかれた。
「よくぞ無事に戻った。そして見事な働きであった」
「僕はたいしたことはしていませんよ。ボーフム辺境伯様と騎士団の皆さまの働きを讃えてあげてください」
「聞いておるぞ、三百の兵で敵陣に乗り込み、総大将を確保後に五万の兵を退けたとな」
「しかも騎士団は無傷だというじゃないか。どんな魔法を使えばそんな結果になるんだよ」
アルフィネア様とおじさんが興奮気味に褒めてくれるのだが、もうやめてほしい。
これは功績がどうとかいう流れなので、さっさと話を切り上げたい。
「……オーズウォル辺境伯も嘆いておったぞ。アレは欲がなさすぎる。恩ばかりが溜まって返す方法がないとな」
僕が褒美を辞退したいという気持ちが表情に出ていたのだろう。
アルフィネア様も呆れているようだ。
「では交易の品の目録を見せてもらえませんか?」
「こちらになる。わからないことがあれば聞いてくれ」
目録に目を通しても、特にわからない物もなさそう。
カノンさんにも目を通してもらっているので、詳細はカノンさんが説明してくれるだろう。
二つの収納袋が用意されていて、一つは王国中から集められた交易の品の数々。
酒、娯楽品、日持ちがする食料、日用品や工具類がこれでもかというくらい詰められている。
もう一つの収納袋は空っぽだ。向こうで入れ替える必要があれば使用するスペアだ。
そして契約魔術のスクロールと契約内容の詳細が書かれた用紙をおじさんから渡される。
「あくまでこの交易の中心はダダン騎士爵だ。我々は交易の品を用意するだけという立ち位置を貫く」
「それで良いのですか?」
「構わん。騎士爵は利益を独占するような人間ではないと理解しているつもりだ。強引に取り上げるようなやり方をせずとも、自由に任せていれば十分王国の利益になるだろうと判断した」
「そんな言い方をされたら、持ち帰った物を渡さずにはいられませんよね?」
「だろ? 騎士爵がそんな男だからだ。自由にやってよし。そしてどうせトラブルも一緒に持ち帰るのだろう。それも乗り越えてみせるよ」
おじさんは少し疲れているのかうんざりした様子で、机に置かれたお菓子に手を伸ばした。
でもそういうフラグを立てるのは止めてほしい。
もうトラブルなんてこりごりだ。僕は頑張って採掘してこの町を大きくしたいのだ。
「ホレ、俺みたいのとばかり喋っていないで、もっと話をしなきゃいけない娘がいるだろう」
おじさんの言葉の後、アルフィネア様がエリーゼお嬢様を前に押し出した。
「ダダン騎士爵様。ご無事で何よりでございます」
お淑やかに礼をしてくれたのだが――
「ですが、あんまりですわ。おじいさまにはお手紙を出されたのに、私にはくださらないなんて」
「へ?」
……しまった。忘れていた。
密偵から文書を預かったので、ボーフム様に頼んでアルフィネア様に報告の手紙を送ったのだが、よく考えたらエリーゼお嬢様にも送るべきだった。
心配を掛けていたのだし、無事を知らせる手紙だけでも出しておくべきだったか!
「ごめんなさい」
「ハハハ、いいぞいいぞエリーゼ嬢よ。もっとダダン騎士爵を虐めてやれ!」
おじさんがここぞとばかりに揶揄ってくる。
くそ、覚えていろよ。
ダダン騎士爵は将来エリーゼ嬢の尻に敷かれるなー、等と揶揄われながら平謝りするしかなかった。




