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第二十六話


 その日の夜、事態は急変した。

 バルムヒュッテ帝国を偵察していた密偵が戻り、会議室に飛び込んできた。


 「敵方増援あり。数約五万。大型投石機五十。破城鎚五。工作兵器多数。総大将は帝国第一皇子、ニクーツカーメル皇子のようです。三日後には敵陣要塞に陣を構えられる速度で進軍しております」

 「馬鹿な! どうやって!」


 報告を受けて作戦会議室に罵倒が飛び交った。

 こちらの戦力は千五百がやっとで、周辺貴族の応援が駆け付けても四千から五千。

 戦力差十倍は攻城戦のセオリーだそうで、いつもの睨み合いではなく今回は本気で攻め込んできたのだろう。

 しかし帝国側の動きはお見事としか言いようがない。

 これだけの兵器や兵士を、こちらの軍や密偵に悟られることなくこの戦地に投入できたのだ。

 作戦を担当している者は相当な切れ者かもしれない。


 以前鉱石の買取価格表を見ていた時に、ここの戦況が本格化するかもしれないとは思っていた。

 この帝国側の動きを察知していた者が、資産を宝石類に変えていたのかもしれないな。


 「落ち着け、それでも最強のオーズウォル辺境伯騎士団の一員か!」


 トール騎士団長が喝を入れているが、どうしようもない状況に隊長クラスの兵士達も混乱して浮足立っている。

 ボーフム様は椅子に腰掛け腕組みをしたまま、一切動きを見せない。

 指揮官が動揺を見せたら軍はお終いだ。

 危ない時こそどっしりと構えろと聞いたことがある。


 「スミマセン。ちょっとボーフム様と団長と三人で話したいことがありますので、他の方は少し席を外していただけませんか?」

 「このような時になにを――」

 「構わん。皆スマンが外してくれ」


 ボーフム様の言葉で、隊長クラスの面々が退出して行く。

 僕達三人とボーフム様とトール騎士団長だけになった。 


 「……無理ですよね」

 「ああ、無理だな。普通でも厳しいがこちらは回復手段に限りがある」

 

 皆は知らない情報だが、エリクサーは十本しかない。


 「この戦争の落としどころは何処ですか?」

 「それもないだろう。奴等はこの機に本気で攻めてきたのだろう。その後この地を拠点にして、王国侵攻を本格化するつもりなのだろう」

 「つまり退けないのですね」

 「ああ、我らが退けばそこで終わりだ。領は蹂躙され、準備が整っていない王国は敗北するだろう。我らの役割はこのことを中央に知らせ、少しでも準備をさせる――時間稼ぎをすることだな」


 ボーフム様は諦めているのか、グラスをグイッと飲み干した。

  

 「ダダン騎士爵は今の内にサザーランド公爵領へ戻られよ。若い命をここで散らせてしまったとなれば、それこそ我が辺境伯家の恥となる。我の顔を立てる為に退いてくれ」


 アルフィネア様やおじさんに無傷で返すように頼まれているのだろう。

 僕も死ぬつもりは全くないのだが。


 「では質問を変えます。こちらの勝利条件は何ですか?」

 「勝利? そうだな……少しでも長い時間、この地で足止めさせることだろう」

 「ボーフム様、それは勝利ではありませんよ。僕が聞いているのは勝利条件です。敵の全滅ですか? 退却させることですか? 現状維持ですか? 敵要塞の制圧ですか?」


 ボーフム様から何を言っているんだという目を向けられたが、お酒のせいなのか、子供の戯言として捉えているのか、少し笑いながら話し出した。


 「ハハ、そうだな……最高の結果は、敵軍総大将第一皇子の確保、および敵軍幹部の殲滅。一般兵の退却だな」

 「あれ、退却なのですか? 全滅ではないのですか?」

 「そうだ。五万を全滅させたとなると、帝国の生産力は確実に落ちる。そうなると現在輸入している食料が入ってこなくなるばかりか、帝国で大量の餓死者が出て、ニーアカルド王国に難民が押し寄せてくる。そうなると戦で勝利しても王国も共倒れになってしまうのだ」

 「なるほど、戦争って難しいのですね」

 「ワハハ、こんな時じゃなければダダン騎士爵にはもっと色々と教えてやりたいんだがな!」


 少し上機嫌になったボーフム様は、新しいワインボトルの栓を抜いた。


 「それと話は少し変わりますが、僕の推測だと第一皇子が出てくるなんて、少し違和感を感じるのですが普通なのですか?」   

 「ふむ。今までの小競り合い程度なら皇子が出てくることはないだろう。しかしこの戦は規模が違う。そして帝国からすれば負けるはずのない戦だ。恐らく皇子に功績を積ませて、現皇帝はそのまま皇帝の座を譲るつもりなのかもしれないな。……ふむ、そう考えると皇帝は何かしら退位を急ぐ必要があるのか――」


 なるほど、帝国側にも何か理由があるのかもしれないのか。

 絶対に勝てる戦で皇子に功績を与えてすぐに退位したい理由、か。

 相手側にも理由があるとしても、こちらとて負けるわけにはいかない。

 確かに戦力差を考えれば、帝国側が負けるはずがない。


 僕達がいなければの話なのだが。


 「ボーフム様の仰る最高の結果で、この戦争を終わらせられるような策があるのですが、お聞きいただけますか?」


 僕の言葉を聞いたボーフム様はグラスに注ぐ手が止まり、ワインが溢れ続けている。


 「……冗談の類ではないのだな?」

 「勿論ですよ」


 ボーフム様もトール騎士団長も何か言いたそうだが、その言葉は口もとで勢いを失っているようだ。

 できるものか! とでも言いたそうだが、僕の言葉に賭けてみようと思ったのだろう。


 「ちょっと色々と用意してほしい物がありますので、団員のみなさんで準備してもらってもいいですか?」







 「いやー、凄い凄い。こんな景色はなかなか見られないよ!」

 

 物見台から見えるのは、川向うに並ぶ数十基の巨大な投石機。

 そして後方で準備している破城鎚と工作兵たち。


 「あの、ダダン騎士爵様、本当にこんなことしていて大丈夫なのでしょうか?」

  

 パトリック副団長が心配している。

 

 「はい。もう準備は全部終わっています。後は夜になるのを待つだけですよ。僕も今からちょっと仮眠しますので、パトリックさんもちゃんと寝ておいてください」

 「はぁ。あの、作戦の肝心な部分を教えていただいておりませんが……」

 「パトリックさんには……教えても良いかな。最後までナイショにしておこうと思ったのですが――」


 今回の作戦は極秘に進める必要があったので、ボーフム様とトール騎士団長だけにしか教えていない。

 密偵の類にバレれば作戦が失敗してしまうからだ。

 絶対に秘密ですよと念を押して、パトリックさんにも作戦を説明した。


 「ダダン騎士爵様が扉の奥で、何か作業をなされていたことは存じていたのですが……」

 「うるさかったですか? 申し訳ない」

 「いえ……なんだかダダン騎士爵様達が楽しそうに盛り上がっていらっしゃったので――」


 この三日間食事の時以外、カノンさんとララーさんの三人で砦の地下にずっと籠っていた。

 何をしていたのかというと、ただひたすらに穴を掘っていた。

 久しぶりにツルハシを握ったらテンションが上がってしまったのだ。

 別に遊んでいたわけではなく、目的地に向かって掘っていた。

 その目的地というのが敵の砦。

 夜中に敵の砦に侵入して皇子を掻っ攫い、幹部クラスを殲滅させるのが今回の作戦だ。

 どんなに人数が多くても、砦で休めるのは精々数百。

 一気に雪崩れ込めば数的優位にも立てるだろう。

 二列縦隊で進めるように、二人分の幅で余裕を持って掘った。

 内側から砦の扉を塞いでしまえば、敵は砦内に入ってこられなくなるだろうと考えたのだ。

 ボーフム様達に用意してもらったのは、敵の砦の大まかな設計図と砦に侵入する為の、最後の縦穴を登る梯子。

 あとツルハシを一振りでもすれば、砦の中庭に穴があく、という状態で工程をストップさせている。

 ボーフム様の部下には優秀な密偵が居るので、砦に潜入してもらった後、中庭の目立たない場所にララーさんの大切にしているサファイアを置いてきてもらった。


 「傷をつけたりしたら結婚してもらうから」


 真顔で言われてしまったので、絶対に傷が付かないよう梱包をしっかりとしてから小箱に入れてある。

 このサファイアを探知で確認しながら掘れば、ピッタリの位置に掘り進められたというわけだ。


 色々と問題もあった。

 そもそも皇子が砦で休息を取らなければこの作戦は成立しない。

 僕達は穴を掘り続けて密偵の方の連絡を待っていた。

 そして読み通り砦で皇子の出迎え準備が始まり、皇子が砦で一夜を明かすという情報を密偵の方が持ち帰ってくれた。

 如何やら帝国側は砦に女性を用意していたらしい。何ともまぁ、戦だというのにお気楽なものだ。


 そして僕達は静かに掘る、という作業をしたことがなかった。

 いつもの発破するような穴掘りができなかったので、最初はイライラしたのだが――


 「誰が一番静かに掘れるか競争しようよ」


 ララーさんの提案により、楽しく穴掘りを進められた。

 僕は二人に負けたので、カルステッド鉱山に戻ったら手料理を振る舞うという罰ゲームが待っている。

 楽しく作業できたので良しとしよう。


 夜が更けた作戦開始一時間前、各隊長を作戦会議室に集めて最終確認をする。


 「団長、我々の作戦は理解しております。各自指定された扉の閉鎖、および各個撃破。砦の図面も頭に入れました。しかし肝心の砦に向かう方法を教わっておりません!」

 「そのことだが、ここにおられるダダン騎士爵様が敵の砦に通じるトンネルを掘ってくださった」

 「……はい? あの……え? 砦、までですか?」

 「今そう伝えたが?」


 騎士団の各隊長達は顔を見合わせている。納得がいっている様子ではない。


 「ダダン騎士爵様が到着なさってから、まだ三日しか経っておりませんが、一体どうやって――」

 「あー、なんだ、そこは……俺にもよく分からん。騎士爵様が仰るには『専門家ですから』だそうだ。しっかり敵の砦まで掘り進めてあるそうなので、心配する必要はない」

 「は、はい」


 二キロ程の距離を三人で三日で掘ったって言われても、普通は理解できないだろう。

 廃土も何処にも見当たらないので当然である。


 「私は騎士団の一番槍として真っ先に敵の総大将のもとに向かう。この役割は誰にも譲れん」

    

 団長としてのプライドもあるのだろう。

 怪我をされても困るので、僕が行きますと伝えたのだが、頑なに譲ってもらえなかった。


 「パトリック副団長は私と共に」

 「はい! ついてまいります!」 


 パトリックさんもトール騎士団長に続いて最前線へと飛び込むそうだ。

 ボーフム様はというと、複雑そうな表情を浮かべている。

 息子であるパトリックさんにも頑張ってもらいたいけど、一番危険な場所でもある。


 「僕もサポートにつきますので、安心してください」

 「ふむ……パトリックを頼む」

  

 小声でそっと伝えると、ボーフム様も安心してくれた。


 「ボーフム様、一言お願いできますか?」

 「此度の作戦は如何に静かに、如何に迅速に行動できるかが成功の鍵となるであろう。日頃の鍛練の成果を存分に発揮せよ! 成功の暁にはこちらで大騒ぎができるように準備しておく。皆の者、頼んだぞ!」

 「「おう!」」


 皆が揃って立ち上がり騎士の礼を取る。そのまま部屋から出て行った。


 「……ダダン騎士爵よ、其方らは本当にその格好で良いのか?」

 「はい。僕達はこれが戦闘服です」


 僕達はいつもの作業着姿だ。

 これが一番しっくりくるし、実際に強いのだから何も問題はない。





 「……こんなもの、いつの間に掘ったのだ?」


 地下の侵入口に到着した兵士達は驚いている。

 結構広く掘ったので移動も楽にできるはずだ。

 先頭は僕とカノンさんとララーさん。

 その背後には組み立て式の梯子を持つ団員の方々。

 最後の出口の回収があるので、それが終わればトール騎士団長達が飛び出す。

 密偵からの情報で、第一皇子の居場所はある程度絞れている。

 この奇襲作戦に参加するのは、オーズウォル騎士団の精鋭三百人だ。

 犠牲者を出さないように細心の注意を払いながら行動する。


 いよいよ作戦決行である。


 ツルハシで天井を突くとポロポロと土が落ち始め、収納袋を構えているカノンさんが廃土を回収する。

 ララーさんのサファイアも問題なく回収できたので、三人でサッと穴から飛び出る。

 砦の外は騒がしいようすだが、砦の中は静かなものだ。

 寝静まっているのだろう。

 塔の上の歩哨は騒がしい砦の外にばかり気が向いている様子なので、暫くは気付かれそうにない。

 団長達に合図を送ると、次々に梯子を駆け上がってくる。

 梯子を登り切った人数が三十人に達したところで、一斉に作戦を決行する。

 ララーさんの役割は遊撃。

 砦の各扉を閉めてまわり、鍵を掛けてと伝えてある。

 そして敵兵は見つけ次第蹴散らしていいと説明してある。

 生死不問で構わないと伝えてあるが、なるべく殺したくはないかなと言っていた。

 カノンさんにはこの侵入口の死守を命じてある。

 この穴はボーフム様が待つ砦まで続いているので、敵を通す訳にはいかない。

 そして僕はトール騎士団長に同行、カノンさんとララーさんの二人にもエリクサーは渡してあるので、遠慮なく使うようにと言ってある。  


 「て、敵襲だー!」


 遂に誰かが見つかってしまったようだ。

 見つかるまでかなりの時間を稼げているので、もう三百人全員が穴から出て行動に移っている頃だろう。

 トール騎士団長も目星を付けていたドアを開け、中で眠っている人物を確認している。

 三つ目のドアを蹴り破った時、遂に目当ての人物を発見したらしい。


 「な、何者だ貴様ら!」


 肉塊がベッドに女性を侍らせている。

 コイツが第一皇子か。見たくないから服を着ろ!


 「賊だ! 誰かおらんのか!」

 「パトリック副団長、アイツを拘束しろ」

 「はっ!」


 皇子は荒事はからきしのようで、パトリックさんに二、三発殴られただけでヒィヒィ言いながら床に這いつくばっている。

 あっという間に拘束は済んだのだが、皇子の体が大き――超デブなのでパトリックさん一人では運ぶのが大変そうだ。

 トール騎士団長と二人掛かりで引きずっていると、敵兵が部屋に雪崩れ込んできた。


 「パトリック行け! ここは俺に任せろ!」

   

 団長が突進して兵士達を部屋の外まで突き飛ばした。

 しかし兵士の数は多く、とてもじゃないが団長一人で相手にできる人数ではない。


 「トールさん、もう一番槍の大役は果たせましたよね? 助太刀します」

 「騎士爵様、かたじけない!」

 「パトリックさん一人ではあの巨体は無理ですよ、トールさんも手伝ってあげてください」

 「しかし――」 

 「僕の周囲にいられるとちょっと危ないのですよ」 


 僕が振り回しているのはツルハシ。

 横薙ぎで一振りすれば敵兵が数人まとめて吹き飛ばされ、窓を突き破って飛んでいく。


 「……ああ、そうみたいだな。俺は作戦を最優先させるよ」

 「お願いしますね、っと」

   

 さらに一振りすれば、今度は砦の壁の瓦礫が消し飛び、破片を浴びた敵兵に甚大な被害が及ぶ。


 「な、なんだあのガキは!」

 「あいつだ! あいつをなんとかしろー!」

 

 敵の指揮官っぽいヤツが叫ぶと、重装備の敵兵数名が襲い掛かってくる。


 「さて、この戦には個人的な恨みもあるんでな。ちょっとテンション上げて行くぞ! ッシャオラー!」



 ~~~~~



 第一皇子を運ぶ団長と副団長の遥か後方から、ドカンドカンと豪快な破壊音と共に地響きを感じる。


 「……騎士爵様が味方で良かったですね」

 「まったくだ」

   

 退路は騎士団隊員達が確保してくれていたので、侵入口まで何事もなく到着できた。


 「各員、現状の報告を!」 

 「はっ! 砦内部の兵は全て殲滅に成功。今ララーさん達が最後の扉を閉めに向かってくれています」

 「カノンさん、こちらに皇子を置いて行きますので、見張りを継続していただいても宜しいですか?」

 「はい、構いませんよ。応援に行かれるのですね」

 「すぐに戻ります。各隊員、撤収準備を始めろ!」


 トール騎士団長とパトリック副団長も最後の扉を閉めに向かった。

 侵入口付近はカノンと、地面に転がされた第一皇子だけになってしまっている。


 「……おい女、俺を解放しろ。俺は帝国の第一皇子ニクーツカーメルだ。俺を逃がせば報酬は思いのままだぞ?」


 カノンはその言葉を聞いて、冷たい視線を皇子に向け見下している。


 「しかもなかなかの美人じゃないか。どうだ、俺の愛人になれよ! 帝国を好き勝手にできるぜ?」


 カノンは何も言わずにスッと立ち上がると、地面に落ちている土の塊を拾い、皇子の口に無理矢理押し込んだ。


 「おご、おご――」

 「まだ喋りますか?」

  

 皇子は無言で首をブルブルと振る。

 これで漸く静かになったと、ダダンが暴れている場所を気にしつつ、周囲に視線を配っている。



 ~~~~~



 「……な、何なんだお前は」

 「最近まではただの鉱夫だったのですが。最近は色々と役職が付いてしまいまして――」


 ツルハシを横薙ぎに一振りすると、兵士の首から上が廊下の奥に転がっていった。


 「騎士爵で魔族領交易大使でカルステッド鉱山ギルド副所長でエースのダダンと申します……ってもう誰も聞いてないか」


 周囲には兵士の死体が山積みにされている。

 人を殺めることに抵抗はなかった。もう少し躊躇するかと思った。

 戦争なのでやらなければやられる。そんなふうに頭で割り切れるものではないと思っていたのだが、ツルハシを振る手は普段通りに動いたし、今も死体を見ても特別な感情を抱かない。

 スキルの何かが影響しているわけではないと思うので、生前の倫理観が今では変わってしまったのだろうか。

 それとも今は大丈夫でも、後から込み上げてくるものがあるのだろうか。

 その時はその時で仲間に弱みを見せて頼ろうと思う。

 今は一人で営業ノルマに追われているわけではない。

 困った時には助けてくれる仲間がいるのだ。


 一人で思い耽っている時、壁の影からこちらに近付く人物に気付いた。

 ポケットに忍ばせた魔石が震えていないので敵意はないようだ。


 「えっと。密偵の方ですか?」

 「流石でございますダダン騎士爵様」


 男が目の前で跪いた。


 「しかし、恐らくダダン騎士爵様がお察しの密偵ではございません」

 「そうなんですか? ボーフム様の密偵ではないのでしょうか?」

 「私はバルムヒュッテ帝国第二皇子ノーサエール殿下に仕える密偵でございます。この度は殿下よりダダン騎士爵様に手紙を預かっておりますので、こちらをお受け取りいただきたく存じます」

 「第二皇子殿下ねぇ……」

 「手紙をお受け取りいただければ私の役目は終わりでございます。後は煮るなり焼くなりご自由に」


 男は頭を下げたまま懐から手紙を差し出している。


 「いやいや、ただの郵便配達ですよね? 殺しませんよ。僕をなんだと思っているのですか?」

 「騎士爵様で魔族領交易大使様でカルステッド鉱山ギルド副所長様でエースのダダン様、でございますね」

 「聞いてたんかい! 恥ずかしいから誰にも言わないでください」

 「承知いたしました」

 「手紙は確かに受け取りましたから。もう帰っていいですよ」

 「左様でございますか。では失礼いたします」


 男は壁まで移動すると、影になじむようにして姿を眩ませた。

 この世界には色んな変わった奴が居るみたいだ。


 侵入口まで戻ると、騎士団の皆が続々と梯子を下っている最中だった。

 

 「騎士爵様、ご無事でしたか」

 「うん。問題なく片付きました。怪我人はいますか?」 

 「いえ、軽傷者のみです。エリクサーは三本だけ使用させていただきました。大変申し訳ございません」

 「いいですよ三本くらい。そろそろ砦の外が騒がしくなってきましたので長居は無用です。僕達で最後ですよね? 急いで戻りましょう」


 何故か土を食わされている皇子を侵入口に放り込み、梯子を収納袋に回収する

 地下通路の大体中間地点まで戻ったところで、僕とカノンさんだけを残して皆を先に急がせる。

 この地下通路を破壊する為だ。

 天井に穴を開けると、川底に開いた穴から水が勢いよく降り注ぐ。

 大急ぎでオーズウォル辺境伯領側へと戻り、待機していたカノンさんが収納袋から廃土を放出して穴をふさぐ。

 これで流れる水は敵側にのみ流れるだろう。

 後はこちらの穴を塞ぎつつ戻ればいいだけだ。

 砦の地下室に戻ると大歓声で迎えられた。

 

 「ダダン騎士爵!」


 待ち構えていたボーフム様が僕を抱え上げ高く持ち上げた。


 「本当にやり遂げるとは! ガハハー! 貴殿は凄い漢だ!」

 「ボーフム様、落ち着いてください!」


 子供をあやすように高い高いされてグルグル回されている。

 ララーさんがよく僕を回していたが、あれよりも凄い勢いです。


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