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第二十五話



 「……本当にきた」


 転移先では熊のように大きな男性が待ち構えてくれていた。

 ライオンのたてがみのようにワイルドな髪型で髭も立派に蓄えられている。

 身体つきも王都で見た貴族達とはまるで別物で、常に戦いの中に身を置いている戦士のように立派だ。


 「ダダン騎士爵で間違いないのだな?」

 「はい。ダダンと申します。失礼ですがオーズウォル辺境伯様でいらっしゃいますか?」

 「そうだ。ボーフムと呼んでくれ。よくきてくれたな、宜しく頼む」


 大きな手でがっちりと握手された。

 少しおっとりされているテトナ様と、本当に兄妹なのかと疑ってしまうレベルで凄い迫力だ。


 「……まさか本当に叙爵したばかりの七歳の騎士爵が、応援に送られてくるとは思わなかった」

 「僕も同じ気持ちです」

 「サザーランド公爵様から其方の話は聞いておる。武勇の方も長けておるそうだな。しかし今の其方達を見ていると――」

 「全く信用ならない、ということでしょうか?」

 「すまない、気を悪くしないでくれ」


 普通はそうでしょうね。

 子供が一人と少女が二人。

 しかもヘルメットにニッカポッカの鉱夫スタイルだ。

 疑問に思わない方がおかしいと思う。


 「本当に前線の砦に連れて行っても良いものなのか、この後少し試させてもらえぬか?」


 オーズウォル辺境伯様、ボーフム様からしても、サザーランド公爵様や陛下から送られてきた僕に怪我をさせるわけにもいかないのだろう。

 名前だけが先行したただの子供なら、エリクサーだけ借りて屋敷で待機させておくことも考えているかもしれない。

 僕としてはそれでも全然かまわないのだが――


 「構いませんよ。こちらからもよろしくお願いします」


 戦線を受け持つオーズウォル辺境伯領の訓練を受ける兵士達相手に、僕達がどのくらい戦えるのか知りたかったのだ。

 辺境伯領では常にいざこざが起こっているので、兵士達の練度も高いはずだ。

 戦闘系のスキル所持者もいるかもしれない。

 そんな方達と手合わせをするチャンスだと思った。


 「おおそうか。ではこれから訓練場まで行こうか」


 転移魔法陣の部屋から出て屋敷を歩く。

 窓から見える外の景色は、なんというかまぁ……長閑だ。

 辺境伯領は自然豊かな土地なのだろう。

 屋敷の裏手側には広大な土地が広がっている。庭なのか牧草地なのかはわからない。

 辺境伯様に案内されて辿り着いた訓練場では、僕達が近付くと全員が素早く整列した。 


 「統率が取れている素晴らしい方々ですね」

 「ハハハ。こいつらはまだまだひよっこ共ですぞ」


 訓練途中の新兵といったところかな。


 「少し訓練の邪魔をするぞ。パトリック、こちらへ」

 「はい!」


 パトリックと呼ばれた青年が僕達のところまで駆け足でやってきた。

 ビシっと立つ姿は立派な兵士で、整った容姿と均整の取れた体格の持ち主だ。


 「ダダン騎士爵、こちらはパトリック。我の息子だ」

 「はじめましてダダン騎士爵様、パトリックと申します」


 驚いた。辺境伯様の息子さんだった。

 

 「今からこのパトリックと手合わせしてもらえんか? 他の者よりは腕に覚えがある分、怪我の恐れも少ないだろう」

 「……手合わせ、でございますか?」 

 「はい。宜しくお願いします」


 呼ばれた当の本人は困惑している。

 七歳の少年で騎士爵の僕と、いきなり手合わせしろと言われれば当然だ。

 そしてスキル鑑定士で見ると、パトリックさんは剣術と格闘術のスキルを所持されている。

 剣術スキルは剣を装備すると攻撃力とスタミナが上がるスキルで、装備した剣の耐久値が上昇する。

 格闘術スキルは、無手で戦うと攻撃力とスタミナ、素早さが上昇する。これはネネットさんも所持しているスキルだ。


 「では僕達は少し準備させていただきます」

 「準備? ああ良かろう」


 ボーフム様に断ってから、カノンさんとララーさんで輪になって指差呼称確認を行った。

 整列している訓練兵からはクスクスと笑いが起こっている。


 「本日もご安全に!」

 「「ご安全に!」」

 『指差呼称が発動しました』

 「……騎士爵よ、今のは何だ?」 

 「僕達はマイナーですので、毎日事故のないように作業前には安全確認をしているのです」

 「そ、そうか」


 ツルハシのみカノンさんに手渡し、代わりに用意された木剣を手に取った。


 「パトリックさん、よろしくお願いします」

 「こちらこそよろしくお願いします」


 訓練が始まり、二、三度木剣を打ち合う。

 僕の方から手を出し、パトリックさんが受けてくれた。

 剣を振るスピードを少しずつ上げていくと、パトリックさんの剣裁きが間に合わなくなってきた。

 今ではすっかり余裕がなくなってしまったようで、パトリックさんは肩で大きく息をしている。

 剣術スキルを所持していても、炭鉱夫スキルの指差呼称を発動させれば、問題なく対処できそうだ。

 少し距離を取って、木剣を地面に置いた。


 「近接格闘も試してみたいので、組手もお願いしていいですか」


 パトリックさんは木剣を投げ捨てて殴り掛かってきた。

 僕の言い方がちょっと挑発的だったのかもしれない。

 我を忘れている感じがする。

 格闘術スキルの素早さ上昇が効いているのか、木剣の時よりも動きにキレがある。

 スタミナを消耗している今でもかなり動きは早いが対処はできそうだ。

 態勢が崩れたところで足を払い、拳を振り下ろしたところで止めると『それまで』と声が掛かった。


 「「ありがとうございました」」


 お互いに礼をすると、ボーフム様を含めてみなが驚きの表情を浮かべている。

 カノンさんとララーさんは拍手を送ってくれた。


 「……まさか副団長がやられるとは」

 「俺達が束になっても勝てないのに」


 そんな声が訓練兵達から聞こえてくる。

 なるほど、パトリックさんは副団長なのか。

 それも普通の兵士達よりも断然強いのだな。

 これなら砦に向かっても、迷惑を掛けることはなさそうだ。


 

 「……騎士爵よ、試すような真似をして本当に済まなかった」

 「いえ、こちらこそ手合わせしていただいてありがとうございます」


 ボーフム様と話している間、カノンさんとララーさんが新兵達をボコボコにしている姿を眺めている。

 

 「……一体どうなっておるのだ」

 「カルステッド鉱山の女性は逞しいのです」


 逞し過ぎるだろう、と言われそうだが事実なので仕方がない。

 二人の戦う姿を眺めつつ、ボーフム様に戦闘時に使用される魔術のことを詳しく尋ねていた。




 訓練後には夕食に誘われた。

 ボーフム様とご婦人のセイ様、パトリックさんと妹さんのフレシアさんだ。

 食事中はカルステッド鉱山の話が中心だ。

 今王国中で話題のカルステッド鉱山の話は貴族達にも人気らしい。

 セイ様やフレシア様も興味津々で聞き入っている。というのも――


 「アタシが持ってるこの宝石もダダンが採掘した物なのよ」

 「素敵ですわ!」


 僕が最初に採掘したサファイアやネックレスにしたダイアモンドは、ドレスに着替えると目立つのだ。

 女性達は当然のように食いつくので、ララーさんは羨ましがられている。



 「ダダン騎士爵よ、今更聞くのもはばかれるのだが、其方はエリクサーを所持しておるのか?」

 「……まぁ今更ですよね。はい。所持しております」


 エリクサーを前線へ運ぶために僕が送られているのだ。

 今更隠す必要もないだろう。

 

 「我は戦線を抱えていて、しかもここオーズウォル辺境伯領は王都から遠く、叙爵式には参加できなかったのだ。武勇もあり、功績もあり……七歳でも叙爵されるはずだ」


 ワハハとボーフム様は豪快に笑っている。

 娘をどうか、と言われるのは困るので、なるべくその話題にはならないように誘導していて、フレシアさんの方は見ないようにしている。

 エリーゼ様と婚約したので、流石に辺境伯様の娘さんを娶るわけにはいかない。

 話題の誘導先は――


 「しかしボーフム様、ここのお料理は最高ですね」   

 「ワハハ、そうだろう? ウチは自然が豊かだからな!」


 テーブルに並んでいるのは、山の幸、海の幸、肉、果物、どれも新鮮で、全て辺境伯領で採れたものだという。

 ここではカルステッド鉱山で欲しい物が全て手に入るのだ。


 「羨ましい限りですよ」

 「ワハハ、いつでも遊びにきてくれて構わんぞ!」


 果物にかぶりつけば果肉の甘みが口いっぱいに広がる。最高だ!





 食事が終わり、いよいよ本題へ。

 戦況は川を挟んで睨み合いが続いているが、密偵の報告では北のバルムヒュッテ帝国の兵が、日に日に増加しているという。

 こちらは辺境伯騎士団が築いた砦に留まり対応中だそうだ。

 アルフィネア様達に聞いていた通り、回復スキルを所持しているサッテ―ル教会の者は、戦場から離脱していて要請しても断られているらしい。


 「ワハハ! ダダン騎士爵には砦に詰めてもらう約束だが、今日の動きを見る限り最前線で敵を蹴散らしてくれても構わないぞ」

 「ご勘弁ください。僕達は戦場では素人ですので邪魔にしかなりませんよ」

 

 きちんと断っておかないと、本当に連れて行かれそうだ。


 周辺貴族達に呼び掛けている兵が集まるのは、もう少し時間が掛かるだろうと話された。

 砦の要塞化を済ませてあるので、数日で落とされることはないという。

 ただし北のバルムヒュッテ帝国も砦を築いているので、こちらが攻め落とすのも難しい。

 城攻めには十倍もの兵力が必要だと聞いたことがあるので、何年もの間現状維持が続いているのだろう。


 ボーフム様には聞いておきたいことがあった。


 「ボーフム様、今回の争いとは関係のない話なのですが、お聞きしたいことがあります」

 「なんだ? 言ってみよ」

 「昨年のことだと思うのですが、北のバルムヒュッテ帝国と大きな衝突があったと聞いております。その衝突は何故起こってしまったのでしょうか?」

 「ああ、あの時の。始まりは貴族の三男坊が功績欲しさに焦ってな、こちらの命令を無視して突っ込みおって。その三男坊の家が部隊を勝手に動かし、少なくない犠牲者が出てしまったのだ」

 「貴族の暴走、ですか」

 「そうだな。そんな家に部隊の一部を与えていた私達の責任と言われれば何も言い返せん」

 「その貴族の方はどうなりましたか?」

 「その争いで三男坊と当主が亡くなり、次男は戦場に残っておったはずだが、命令違反で多大な犠牲を出した為にお家取り潰しになったわい」


 そうか。その貴族ももういないのだな。

 

 「その衝突がどうかしたのか?」

 「実はその争いで僕は父を亡くしています」

 「なんと……言葉も出んわい。申し訳なかった」

 「いえ、僕の中ではもうけじめが付いていることです。ただどんな状況で父が亡くなったのか知りたかっただけですので」

 「そうか。ダダン騎士爵はそれでも私に力を貸してくれるというのだな?」

 「勿論です。父の無念を晴らす、というのとは少し違いますが、一つの区切りになればいいかなと思っております」

 「心中お察し致します」


 パトリックさんが僕のところまできてくれて、両手を握ってくれた。




 翌日、セイ様とフレシア様に見送られ砦へと馬を走らせた。

 オーズウォル辺境伯家のお屋敷から半日で行ける場所だそうだ。


 僕は馬に乗れない。


 カノンさんが馬を操ってくれて、カノンさんに背後から抱えられるようにして馬に乗っている。

 そしてパトリックさんが操る馬にはララーさんが乗っている。

 しかし昨日の夕食の時から、パトリックさんはカノンさんに視線を送っていることが多かった。

 できればカノンさんと一緒が良かったのだろう。 


 「カノンさんと一緒の方が良かったですか?」

 「いえ! な、何を仰いますかダダン騎士爵様!」

 「コラ! アタシも美人だろうが! アタシで我慢しろ!」

 「いや、流石にあんな豪快なお酒の飲み方をされる女性はちょっと……」

 

 辺境伯家での食事であんな飲み方してたら、そりゃ引かれる。

 辺境伯家の長男のパトリックさんに結婚しろ! を連発するのは駄目だと思うぞ。

 ボーフム様にはウケていたが、アレはなぁ……。


 ここオーズウォル辺境伯領は貴族の女性達に人気がないらしい。

 戦争中だということに加えて、王都から遠い田舎だというのが不人気の原因だ。

 パトリックさんは二十歳だそうで真面目で人柄も良い、容姿家柄も申し分ないのに勿体ない。

 こんな話になっているが、カノンさんは馬に僕を乗せるということを一切譲らなかった。

 カノンさんは子供の頃から乗馬の練習をさせられていたそうだ。


 食料などを積んだ荷馬車は後からくるそうで今日の夕方には砦に到着するらしい。

 僕達が昼過ぎに陣営に到着すると大歓声で迎えられた。

 そしてすぐにボーフム様の手で壇上へ連れて行かれた。

 

 「中央で話題のダダン騎士爵が応援に駆けつけてくれたぞ!」

 「「ぅおーー!!」」


 兵の士気はかなり高い様子だ。

 

 「もう教会の手の者に煩わされる必要もない! ダダン騎士爵がエリクサーを用意してくれている!」

 「「うおーー!」」

 

 地鳴りのような歓声が壇上の僕達に浴びせられる。

 

 「昨日のうちに駆け付けた者から話は聞いていると思うが、ダダン騎士爵はこう見えて武人でもある。援軍が到着するまで守りを固めよとの命令だが、勝機があれば敵を蹴散らしてくれようぞ!」


 更に兵士達のボルテージが上がっている。

 全然蹴散らしに行ったりはしないのだが、士気を上げる為にはパフォーマンスも必要だろう。


 「我がオーズウォル辺境伯領の誇りを掲げて戦に臨もうぞ!」

 

 最高潮に盛り上がったところで演説は終わり、僕達三人は最後に手を振って役目を終えた。


 その後トール騎士団長が詰めているという部屋に案内されると、今後の予定を説明された。

 説明してくれているトール騎士団長は、ボーフム様と同じく歴戦の戦士という風貌だ。

 ボーフム様が熊のようなライオンとだとすると、トール騎士団長は熊のような虎といった感じで、髪は短く刈り込まれている。


 その説明ではおじさんから事前に話されていた通り、僕達は砦で待機、重傷者が出た時のみエリクサーを使用すること。

 貴重な品を使わせることになり大変申し訳ないが、宜しく頼むとトール騎士団長に頭を下げられた。

 そして会議が終わった後に、要塞化された砦の高い場所に連れて行かれ、敵陣の全容を見せられた。

 二キロほど離れた場所で、敵側の要塞も完成している様子。

 その砦と砦の中間位を幅百メートル程の川が流れている。

 流れは穏やかだが水深は深い場所で二メートル程あるらしい。

 その河には過去に橋が一本架けられていたようだが、現在は破壊されて残骸が残っているだけである。

 周囲は何もない開けた場所なので、お互いの戦力は丸見えだ。

 敵方に見える戦力はこちらより少し多いかなという程度なので、川を越えて城攻めをするのは不可能だろう。

 これだと今回は僕達の出番はなさそうだ。


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