第十六話
「ごめんくださーい」
「はいよー、すぐに行くよ」
翌朝、ララーさんも連れて三人でモルツさんの武具工房にやってきた。
ララーさんのヘルメットやニッカポッカ、安全靴を作る為だ。
炭鉱夫スキルを理解してくれているので、格好に不満はないそうだ。
「おはようございます」
「ダダン君、待ってたよ!」
待ってた? どうかしたのだろうか?
「今回はララーさんの装備を作るのかい?」
「そうです。お願いしてもいいですか」
「ちょっと待っててくれるかい?」
モルツさんは工房へと引っ込むと、すぐに戻ってきた。
その手には何故かヘルメット、ニッカポッカ、安全靴が既に用意されている。
「ダダン君を見ていて、多分他にも連れてくるだろうなって思っていたからね。予め幾つかのサイズを作っておいたんだよ。勿論ダダン君以外の客には売るつもりはなかったから、そこは安心してくれてもいいよ」
「別に販売してもいいですよ?」
何だろう、結構時間に余裕があったのかな?
でも僕の為に準備してくれていたことには感謝しかない。
ララーさんに一度装備してもらい、モルツさんは微調整を繰り返している。
「はい。これで完成かな。もし本当に他の方にも販売してもいいなら、ダダン君は大銀貨三枚でいいよ」
「凄く値下がりしましたね」
「空いてる時間に作れるし、数を販売して利益が出せるからね。大銀貨八枚くらいで売れば充分利益が出せると思うよ」
「僕は全然問題ありませんので、沢山販売してください」
「そう言ってくれると助かるよ。じゃあこれからも面白いものがあれば教えてよ」
全然武具を作っているところを見ていないので、色々と心配になる。
普通だったら考案者としてロイヤリティ的な物を要求しても良さそうだが、今は別にお金は必要ない。
モルツさんにはこれからも頑張ってもらいたいので、どんどん販売してほしい。
ギルドに顔を出すと、そのままギルド長室へ案内された。
「おはよう、ソファーに掛けてくれるかい? ちょっとダダン君達にお願いがあってね」
「ダダン君とカノンさんも、それにララーさんも、お茶をどうぞ」
「「「いただきます」」」
ネネットさんが淹れてくれたお茶を飲みながら、ダリムさんが鉱山の状況を説明してくれた。
崩落が酷くて現状では手が付けられないそうだ。
「それで……ダダン君は採掘できそうかい?」
「はい。いつも通り問題ないと思います」
「本当かい! いやー助かったよ!」
ダリムさんはホッとしたようにお茶に手を伸ばした。
というのも採掘ができないとなると、鉱山や麓の町の経済が完全にストップしてしまう恐れがあるとか。
鉄や銅、ミスリルを中心に、できる限り多くの鉱石を採掘してきてほしいとお願いされてしまった。
そうか、採掘ができないとなると、商人達がこの町にきてくれなくなるからか。
物資もお金も流れなくなるのは困る、ということだな。
「わかりました頑張ります」
「頼んだよ!」
「今日からはララーさんも一緒に採掘してくれますので、採掘量は期待しておいてください」
「……ダダン君だけが掘るんじゃないのか?」
「はい。今日からララーさんにもお願いします」
「……」
ダリムさんは複雑な表情をしている。
どうやら採掘できるのは僕だけだと考えていたようだ。
普段のカノンさんは僕の手伝いや、雑用のみをしているだけだと思っていたのだろう。
ここにきてララーさんも採掘できると聞いて、考えを改めているのかもしれない。
「ダリムさん、僕からも色々とお願いさせてもらっても良いですか?」
「どうしたんだい? ダダン君からのお願いなんて珍しい」
「ダリムさんもお願いを聞いてもらってばっかりだと色々心苦しいかな、と思いまして」
「ああそうだね。借りばっかり貯まっていくからね。ハハハ、返せる時に返しておきたいよ」
ダリムさんが笑いながら答えてくれた。
「色々とスキルスクロールを入手してほしいと思っています。でもスキルスクロールは入手が難しいと聞いていますので、無理にではなくていいです。このスキルが欲しい、などの指定もありません」
「……つまり、種類は何でも良いからスキルが欲しい、という事かな?」
「そうです。僕は炭鉱夫スキルとスキル鑑定士のスキルしか所持していませんので、単純に他のスキルも使ってみたいと思っただけです」
「そういう事なら探してみるけど――」
「ダリムさんならきっと見つけてきてくださると信じていますから」
「不安になる圧を掛けないでくれるかい? わかったよ、でもあまり期待はしないでくれよ?」
「ありがとうございます」
スキルの事は見つかればいいかな? という程度でしか考えていない。
というのも、カノンさんの『エアコン』のように、使い方のわからないスキルスクロールなら、世に出回る可能性があるかもしれないと考えたからだ。
期待はせずに気長に待つとしよう。
ギルドの広場に出て、三人で輪になって指差呼称確認を行った。
「遂にララーまで始めたぞ!」
「ぎゃははー、三人に増えてる!」
「このままだとどんどん増殖していくんじゃないか?」
周囲の人達は笑っている人、戸惑っている人が半々くらいだ。
一緒に指差呼称確認をしてくれてもいいんだぞ?
転移魔石を使用してベースキャンプへと向かった。
「キャー! なによここはー!」
ララーさんが地べたに倒れ込んだ。
このベースキャンプは一面宝石や結晶が散りばめられている空間だ。
宝石大好きなララーさんにとっては天国なのかもしれない。
「もう死んでもいいわ。ここから動きたくない……」
「何を言ってるのですか。ホラ、仕事しますよ!」
「アタシ、ここに住むわ」
「馬鹿なことを言っていないで、採掘しますよ!」
ララーさんを引きずってミスリル鉱石へと向かった。
このミスリル鉱石は以前需要が高まるだろうと予想していて、採掘する手前まで掘り進めていたところだ。
「まずはツルハシを振り下ろしてみてください」
「わかったわ」
ララーさんが普段通りにツルハシを振り下ろすと、龍の背中の黒い岩が爆散した。
カノンさんが収納袋を広げてくれているので、瓦礫と土煙はあっという間に吸い込まれれた。
「……凄い。自分の体じゃないみたいよ」
「みんなそう思うみたいです」
「それと……何だか涼しく感じるわ」
「それはカノンさんのおかげです。彼女はずっと手放せない唯一無二の存在です」
「……あまりそういう事を女性に言っちゃ駄目よ。でも色々と凄いわね。収納袋にこんな使い方があるなんて思いもしなかったわ」
「ではこの辺り一帯のミスリルは今日中に採掘します。二人掛かりでなるべくお互いが離れないように距離を保ちながら掘りましょう」
あまり離れ過ぎると収納袋が吸い込んでくれないので、カノンさんが間に合わないからだ。
「っしゃ! 行くぞー!」
気兼ねなく採掘できるのは久しぶりな気がする。
自由に採掘できるのは素晴らしい事だ。
二人掛かりで掘ると、岩壁が解けるようになくなっていく。
「ねーダダンー!」
「何だ!」
「何かね、おかしいのよ! 体の内側から、気持ちが爆発しそうになるわー! もっと掘るわよー!」
「フハハ! 俺も負けないぞ!」
掘り始めるとちょっとテンションがおかしくなるのは僕だけではないらしい。
「ダダン様お待ちください! 私が間に合いません!」
カノンさんを振り回す勢いで採掘していると、お昼前には一帯のミスリル鉱石を取り尽くしてしまった。
相当な量があったはずなのだが、ちょっとやり過ぎたかな。
「ふぅ、少し早いですがお昼休憩にしましょう」
「了解よ。こんな馬鹿げた採掘は初めてよ。時間が経つのも忘れていたわ」
ララーさんも自分の採掘量に満足しているようだ。
「これからもこんな感じで採掘していきます。それでこの後ですが、お昼休憩後に一体だけ魔物を倒しに行きましょう」
「……そうね。アタシはまだ魔物と戦ったことがないから、練習も兼ねてってことよね」
「はい。それもありますが、下層に設置した転移魔法陣のスクロールの近くに、エリクサーをドロップする虹色魔人の魔石の反応があります。ララーさんにもわかりますか?」
強い反応を示している魔石に向かい、下方向に指を指す。
「この魔石の反応がエリクサーをドロップする魔物に変化するのね。覚えておくわ。でもこの反応は近くにはこれしかなさそうね」
「はい。更に下層に向かえば沢山ありますが、転移魔法陣のスクロールの周辺ではこれだけです」
もしもの時の為に、一つは手もとに残しておきたい。
あのしぶとい魔人も三人掛かりなら苦労せずに倒せるだろう。
お昼休憩後、第二のベースキャンプと言ってもいい、オリハルコンを採掘している転移魔法陣のスクロールに移動した。
ララーさんは周囲の壁が赤いことに驚いていたが、問題なく掘り進められることを確認すると、特に気にしなくなった。
カノンさんが居ないと、暑くて作業なんてやってられない場所だと説明する。
「どのくらい暑いの?」
「どのくらい……ちょっとカノンさん、少しずつクーラーを弱めてもらえますか?」
「畏まりました」
カノンさんがエアコンの調整をはじめてくれたのだが――
「暑っつ! なんだこれは!」
サウナの熱気を遥かに越えていた。
ここはこんなに暑かったのか。
「今でどのくらいの強さですか?」
「まだもう少しクーラーを利かせている状態です」
「それでこの暑さなのですか……ありがとうございます。戻してください」
カノンさんが居ない場合はここでは作業しないでおこうと決めた。
ララーさんと二人で掘り進み、魔石に到達すると虹色魔人が襲い掛かってきた。
初めての戦闘でもララーさんは冷静で、動きも全く問題なかった。
炭鉱夫スキルでステータスも上昇しているので、魔人の動きも良く見えるし、攻撃されても瞬時に対処できる。
早々苦戦することはないだろう。
ララーさんの様子見が終わると、三人掛かりで核を破壊して無事にエリクサーを入手した。
その後はダリムさんの依頼通り、鉄や銅を中心に採掘を繰り返し、ララーさんが宝石も採掘したいと言えば、偶に宝石も採掘する。
そんなサイクルで三日間採掘を続けて、僕達は毎日採掘終わりにギルド長室に呼ばれていた。
「あのダリムさん、僕達毎日仕事終わりにここに呼ばれている気がしますが、そろそろここに転移魔法陣のスクロールを常設してもらえませんか? どうせ呼ばれるならギルドの魔法陣ではなくて、ここのスクロールに転移しようと思います」
「……すまないね。検討しておくよ」
ネネットさんにも色々と手間が掛かっているので、そっちの方が都合が良さそうだと思ったので提案しておいた。
そうして平和に採掘を続けて更に三日が過ぎた。
定時で採掘を終えギルドの魔法陣へ戻ると、顔色の悪いネネットさんが魔法陣の前で待ち構えていた。
「どうされましたか?」
「アルフィネア公爵様がギルド長室でお待ちです」
……もしかして、長い間待たせていたのかもしれない。
アルフィネア様の待ち時間がネネットさんの顔色を悪くしているのだろう。
「アルフィネア公爵様、お待たせして申し訳ありません!」
「いや、良い良い。ワシが勝手にきたのじゃ。忙しいのにスマンのぅ」
ソファーに座るように言われたので、僕だけが座りララーさんとカノンさんは後ろで待機してくれている。
「これがダダン君から頼まれていた、カロイ村の調査結果じゃ」
書類の束を渡されて目を通したのだが――まぁよくこれだけ悪事が働けたものだと感心させられる。
「スマン、ワシの目が届かんかったばっかりに、ダダン君には迷惑を掛けた」
「アルフィネア公爵様、御手をお上げください。今までの村での生活はそれは辛くて……両親も亡くなりました。でも今ここで充実した生活が送れているのは、アルフィネア公爵様のおかげです。悪いことばかりではありませんので、過去を受け入れて生きていこうと思います」
「ダダン君は強いのぅ。そう言ってくれと助かる」
調査結果では、僕の大金貨五十枚の件も書かれている。
商人達が村の開拓物資として、作物や種、苗や家畜や食料などを送ったのは本当。
ただし物資を村に運び入れる道中で、村長と裏で繋がっている盗賊に襲わせ、盗賊が奪った物資を再び商人達に返していたらしい。
盗賊に襲われ村には物資は届かず借金だけが残るという手口。
あのクソ村長が考えたにしては手が込み過ぎていると思ったら、デッパラ副所長がクソ村長に話を持って行ったらしい。
他の鉱山の視察という名目でカルステッド鉱山から出張していて、カロイ村に行っていたそうだ。
そして浮いた金で役人に巨額の賄賂を贈り、契約奴隷の書類を強引に通していたようだ。
それでネネットさん達が書類に目を通しても不備が見つからなかったのだろう。
今回の一連の事件で捕まったのは、村長、カロイ村周辺で巣食っていた盗賊、加担した商人、賄賂を受け取り不正を行った役人数名、前エースのバーラルとバーラルの手下、そしてデッパラ。
税の着服、横領、贈賄、公文書偽造、強盗、殺人、窃盗、暴行、傷害、これでもかと言った具合に罪状が並んでいる。
「そこに載っておる奴らは本来であればまとめて極刑の後晒し首じゃが、ダリムから聞いておる。鉱山で人手が足らんのじゃろう?」
「はい。崩落事故の後処理が終わっておりません」
「だからこいつらは終身奴隷じゃ」
終身奴隷は一番キツイ奴隷だ。
自我も何もかも奪われて、命令されたことのみを死ぬまでやらされる奴隷だ。
崩落現場の処理は事故がつきものだ。終身奴隷達にやらせるのだろう。
「カロイ村の村長トドーと盗賊達はこちらに護送中じゃ。こいつにはダダン君も思うところがあるじゃろう。自由にしてもいいぞ」
「ありがとうございます。両親の仇を取らさせていただきます」
「それとじゃ、ダダン君の父親のガイエン殿にはオーズウォル辺境伯から見舞金が支払われておったが、それもトドーがくすねておったわい」
ギルド長室の机の上に置かれていた風呂敷が解かれると、山積みにされた金貨が眩い光を放つ。
「ダダン君が支払った大金貨五十枚はそのまま返却、ダダン君が売られた金額金貨二枚も返却、ガイエン殿の見舞金として金貨三枚を改めて支給、サザーランド公爵領としての不手際、膿を吐き出させてくれた功績、ワシが溺愛する孫を救ってくれた礼として大金貨十枚、合計大金貨六十枚金貨五枚を収めてくれ」
「……最後の方のオマケ部分みたいなのが、凄い多い気がしますが、確かに受け取りました。ダリムさん、これギルドに全額貯金でお願いします」
「わかった。全て預からせていただこう」
お金がカートに乗せられて運ばれて行った。
僕の背後からは『ああ……』と声が漏れていたので、恐らくララーさんだと思う。
「さて、これで辛気臭い話は終わりじゃ」
「アルフィネア公爵様、お手を煩わせてしまい申し訳ありませんでした」
「ハハハ、良い良い。それでのぅダダン君よ、病気が治った孫のエリーゼがの、どうしてもダダン君にお礼が言いたいらしいのじゃ」
「エリーゼお嬢様がですか?」
「そうじゃ。ただしずっと病床で寝込んでおったエリーゼの体調を考慮すると鉱山にくるのはまだ無理じゃ」
「そうですね。お体を大切にされた方が宜しいかと思います」
「カルステッド鉱山も忙しい時期じゃ。これが収まるまで待たせようと思うがそれで良いかのぅ?」
これはつまりさっさと崩落現場を片付けろ、その後でご対面で良いか? という意味だ。
「はい。勿論で御座います。すぐに片付けますとエリーゼお嬢様にお伝えください」
「ハハハ、ああ、伝えておこう。それとじゃな、先程の金額とは別でな、ワシからダダン君にどうしてもお礼がしたいのじゃが。何か欲しい物はないのか?」
「あります、欲しい物があります! しかもアルフィネア公爵様にお頼みしたい案件です」
「ほほぅ、それは何じゃ?」
「このカルステッド鉱山や麓の町には、娯楽が全くと言ってもいいほどありません。お金の使い道がないのです。そして甘味処がありません。大問題です! 甘味処です、こちらを大至急手配していただきたいと思います」
「プッ……ハハハハ! わかった、わかったぞぃ。ああ、準備させてもらおう。大急ぎでな」
やったぞ! 遂にお店ができるんだ! 今までここでは外食イコール酒場、だったのだ。
子供の僕にはやっぱり甘味処が欲しいんだよ。
「ふむ、ダダン君よ。そなたが採掘を頑張ってくれれば、商人達も集まってくるし、街も大きくなる。結果として様々な店が増えることにもつながるので、これからも採掘を頑張ってほしい。頼めるかのぅ?」
そうか。僕が採掘を頑張ると町が大きくなるということか。
ちょっと目から鱗だ。全然そんな考えは浮かばなかった。
自分が採掘で裕福になることは考えていたけど、街を裕福にするということは考えていなかった。
町が裕福になれば、自然と僕の欲しい物も町に集まる、ということだ。
よし、新しい目標ができたし、採掘を頑張るぞ!
「はい! これからも精一杯頑張らせていただきます!」




