第十五話
カノンさんが指示してくれた場所から斜め下方へと掘り進める。
真下に掘るとこの奥で閉じ込められた人が居ても、戻ってこられない可能性があるからだ。
普段通り龍の背中をぶち抜いて暫く進み、今度は湧水が出ているという方向に向かって坑道と平行に掘り進めている。
「ダダン様、このあたりで大丈夫です。上に向かって掘り進めましょう」
地図を眺めているカノンさんの指示に従って、斜め上と掘り進めた。
ボコン!
再び坑道へと戻ってきたのか、広い空間へと抜け出た。
この場所が男性から聞いていた、湧き水が出ている広場なのだろう。
僕達が出てきたのは広場の隅に位置するところだったみたいで、周囲には誰もいなかった。
しかし広場の奥ではいくつものライトやランタンが設置されていて、明かりが確保されていた。
僕達のヘルメットについているライトに気付いたのか、何人ものマイナー達がこちらに駆け寄ってきた。
「おおエースじゃないか! 一体どこからきたんだ?」
「地下の龍の背中を突き進んできました」
「「「おおー!」」」
大勢のマイナー達が集まっているようだが……ララーさんの姿は見えない。
「どなたかララーさんを見ませんでしたか?」
「ララーなら奥で宝石を見つけたとかで張り切っていたが、どこを掘っているのかは詳しくは知らねぇな」
「ああ、奥の方だが崩落で坑道が塞がっていて先に進めねぇし……」
男性が指さす方向は崩落している。
この先だと言うのか。
「怪我をされている方はおられますか?」
「大丈夫だ。怪我人は出ていねぇよ」
「僕たちが掘ってきた道を戻れば鉱山の出口に辿り着けます。申し訳ありませんがこのまま自分達だけで戻って頂けませんか?」
「そりゃ勿論いいが……おめぇさん達はどうすんだ?」
「このままララーさんを探します」
マイナー達と別れて崩落している場所へと向かう。
ただし場所がわからないので、闇雲に掘り進めてもララーさんが見つかるとは思えない。
「……ララーさんがエメラルドを発見するのが、昨日でなければこんなことにはなりませんでしたのに」
カノンさんがポツリと呟いた。
……カノンさん天才!
「それですよカノンさん! エメラルドですよ! ララーさんは言ってましたよね、巨大なエメラルドだって!」
「え、ええ。それがどうかなさいましたか?」
「その巨大なエメラルドの反応を探知で探せば――」
「その場所にララーさんが居られる、ということですね! 凄いですダダン様!」
いやいや、凄いのはカノンさんです!
べた褒めしたいのだが、今はそんなことをしている場合でもないので、さっさと探知でエメラルドの反応を探す。
……見当たらない。小さな反応しかない。
「……ララーさん、既にエメラルドを回収し終えていたみたいだ」
収納袋に入れれば探知の反応が消えてしまうのは確認済みだ。
ララーさんがもう少し回収に手間取っていれば居場所がわかったのに。
「くそー!」
岩壁を殴ると瓦礫が弾け飛んだ。
「ダダン様、落ち着いてください。きっとまだララーさんを探す手が――手が――」
「どうしたのですか?」
カノンさんが話しながら動きを止めてしまった。
「……あります。御座いましたよ」
「ホントですか? どうやって?」
「ダダン様、以前の宴会の時に、ララーさんの宝石をご覧になっていましたよね?」
「うん。僕が採掘したっていうサファイアだよね?」
「あの時にダダン様はご確認されていらっしゃいませんでしたか?」
「し、してたー!」
探知で確認した! 間違いなく確認した!
同じように探知でサファイアを確認すると、この先で強い反応を示している。
こんなに力強い反応は滅多にある物じゃない。
よっしゃー見つけた! 間違いなくララーさんだ!
「カノンさんホント天才! 最高! 美人! 超有能!」
「あ、あのダダン様落ち着いてくださいませ! 今は急いでララーさんを救助に向かわないと――」
カノンさんの腰に抱き付いていたのだが、そうだ、こうしちゃ居られない。
「行くぞ! 待っててくれよララーさん」
再び龍の背中を突き進み、ララーさんのサファイアが放つ反応の傍で坑道へと抜け出た。
その先ではララーさんが頭から血を流してうつ伏せに倒れていて、そのすぐ傍には収納袋と転移魔石が転がっていた。
「ララーさん!」
大声で呼んで近寄ったのだが意識はないようで、ピクリとも動かない。
こういう時は動かさない方が良かったのだったか、それとも気道を確保した方が良かったのだろうか。
僕が手間取っている間にカノンさんがララーさんを抱き抱え、仰向けに寝転がせた。
「ララーさん、目を覚ましてください!」
カノンさんが懸命に呼び掛けていると――
「あ……れ、……カノ……ンちゃん?」
薄っすらとだがララーさんの声が届いた。
良かった、まだ息があった!
「カノンさん!」
「はい! 只今」
カノンさんからララーさんを受け取ると、カノンさんはバックパックから小瓶を取り出して、僕に渡してくれた。
ララーさんからの反応が消えてしまったように体が重くなったので、小瓶の中身を無理矢理ララーさんの口の中に流し込んだ。
「ララーさん、聞こえる? 返事して!」
「ララーさん! まだ逝っては駄目です! 私達を悲しませないでください!」
二人で懸命に呼び掛けているのだが……反応はない。
「嘘だろララーさん。エメラルドを採掘したのでしょ? この後宴会の約束をしたじゃないか!」
宴会、の言葉でララーさんがピクリと反応した。
「……そうだった。今日はアタシのお祝いだった」
目を開いたララーさんは、頭部に輝きを放ちつつムクリと起き上がった。
「僕達が必死に呼び掛けても反応しないくせに、どうして宴会の言葉にだけ反応するのですか……?」
「アハ、ハハハ……どうしてかしら?」
本人もよくわかっていない様子だった。
僕もおかしくなって笑いが止まらなくなり、カノンさんも怒っているように笑っている。
でも三人とも涙が溢れて止まらなかった。
「揺れが起こった時にね、これはマズイと思って転移魔石を使用しようと思ったのよ。そしたら岩か何かが頭に落ちてきて倒れて……。ますます危ないと思って転移しようとしたのに体が全く動かなくて――多分そこで意識を失っていたんだと思うわ」
「本当に危ないところだったのですね」
「ホントに、ね。アタシもダダン達みたいにヘルメットをかぶっておけば、こんなことにはならなかったかもしれないわね」
「そうですよ。ヘルメットは大事ですよ?」
お互いが少し落ち着くまでは、もう少しこのままで居ようという事で、ララーさんが倒れていた場所から移動していない。
僕も酷い顔をしていると思うので、ギルドに戻るまでもう少し時間を開けたいというのもあるが、ララーさんは色々と思うところがあるようだ。
「ダダンさ、多分だけど……さ。使ってくれたのよね、エリクサー」
「はい。使いました」
「だよね。頭の痛みもないし、何だか体も調子が良いわ」
ララーさんは改めて行儀よく座り直した。
「ダダン、カノンちゃん、助けてくれてありがとうございました」
丁寧にお礼を言ってくれた。
「友人が困っていたから助けにきた。それだけですから普通の事をしただけですよ」
「普通の人はこんな場所まで助けにこられないし、死にかけていたアタシを助ける事なんてできないわよ……」
ララーさんはまたボロボロと涙を溢し始めた。
「エリクサーの事は気にしなくて大丈夫です。ここだけの秘密にしておきましょう」
「そ、そんな事できないわよ」
「本当に気にしなくて大丈夫ですから。カノンさん転移魔石の準備をお願いします」
「はい。畏まりました」
「ちょっとダダン、全然大丈夫じゃないってば!」
「詳しい話はVIPルームに戻ってから話しますよ」
全然納得がいっていない様子のララーさんも一緒に、ギルドの魔法陣へと戻った。
「「「うおー!」」」
ギルドでは大歓声で迎えられた。
「戻ってきたぞー!」
「ララーも救出したみたいだぞ!」
「奇跡だ! スゲーぞエース!」
「「「「エース! エース!」」」」
ギルドにエースコールが鳴り響き、周囲に人だかりができていて、なかなか受付まで辿り着けないのだが、その人だかりをかき分けてダリムさんが迎えてくれた。
「ダダン君よくやってくれた、ありがとう!」
「はい。ちょっと頑張りました」
「カノン君もありがとう!」
「全てはダダン様のご指示です」
ダリムさんとしっかりと握手を交わす。
「ダダン君達のおかげで、この大崩落の事故で一人の死者も出なかった。まさに奇跡だよ。本当にありがとう!」
周囲のマイナー達も一緒になって僕達を讃えてくれた。
カルステッド鉱山で真面目に働く仲間が事故で亡くなるのは、僕としても不本意だ。
みんなが助かって本当に良かった。
ここから後の仕事はダリムさんに任せよう。
鳴り止まないエースコールの中、僕達はVIPルームへと戻った。
ララーさんも収納袋の中身を処理した後、僕達と一緒にきてもらっている。
カノンさんは食材の買い出しに走ってくれたので、ララーさんと二人でVIPルームへ入った。
「ここがVIPルームか……凄い部屋ね」
「どうぞ、ゆっくりしてください。カノンさんが戻ってくる前に、僕はシャワーを浴びてきます。ララーさんも奥の部屋が空いてるので、良かったらそちらでシャワーを使ってください」
「え? シャワーが各部屋に付いてるの?」
「そうみたいです。じゃあまた後で」
シャワーを浴びてリビングルームに戻ると、カノンさんが料理の準備をしてくれていた。
「カノンさんもシャワーを浴びてきてください」
「はい。もう少しで作り終えますので、これを済ませてからいただきます」
気は利くし手際は良いし、ホントに良い子を雇えた。
カノンさんが居なければ、今日の事故は乗り切れなかったと言っても過言ではないくらいだ。
ララーさんはポカンと口を開けたまま、カノンさんの流れるような手際を眺めている。
そしてテーブルに次々に用意される食事を、ずっと視線で追い続けている。
「ダダン達は毎日こんな食事を食べているの?」
「そうですね、最近は……はい。カノンさんが用意してくださるので、美味しい料理が食べられます」
「ま、毎日カノンちゃんが作っているの?」
「僕は料理なんてこれっぽっちもできませんので」
「これくらいは当然です。ダダン様には栄養のある物を食べていただかなくてはなりません。私が役に立てるのはこれくらいしかありませんので、毎日全力で作らさせていただいております」
「はぇー」
ララーさんは変な声で感心している。
「ではお食事の準備が整いましたので、私はシャワーをいただいてまいります」
「ありがとうございます。ゆっくりしてください」
失礼致します、とカノンさんが部屋へと戻っていった。
別にカノンさんを除け者にしているとか、そういう事ではない。
恐らくカノンさん自身が、僕達がこの後色々と話し合いやすいように気を遣って席を外してくれたのだろう。
いつも一緒に食べているし、僕達の話が終わった頃合いを見計らって顔を出してくれると思う。
「……ホントにできた子ね」
「はい。カノンさんはとても優秀です。僕の自慢です」
二人でいただきますをして、料理に手を付けた。
「……色々聞いても良いのよね?」
「はい。今更隠すこともないと思いますので、何でも聞いてください。話せることは話します」
「話せない内容もあるってことよね」
「どうでしょうか」
流石に転生者だとか、地球の話などは話せないかな。
でもそれ以外なら特に問題ないと思う。
「ダダンって採掘の成績が良いじゃない?」
「そうですね」
「毎朝やってる『よーし!』ってのが、関係しているんじゃないかしら」
「気付きましたか。ララーさんだけですよ。ギルドの方ですら今でも笑っていたりしますから」
「実はね、最近は私も毎朝やってるのよ」
え? いつの間に?
そうか、僕達以外に誰が指差呼称を始めるのかと思っていたが、ララーさんが一番最初だったか。
「ダダン達みたいにギルドの広場でやる勇気はないから、部屋でこっそりやっていただけよ?」
「そうでしたか。毎朝僕達と一緒に指差呼称確認をすれば良かったのに」
「恥ずかしいじゃないのよ。でもね、特に変わったことは起こらなかったのよ。何が駄目なのかしら」
「簡単ですよ。恥ずかしがっているからです。大きな声ではっきりとやれば必ず効果は出ます」
「ホントに?」
「何なら今から一緒にやりますか?」
ご飯を食べながらというのは少し行儀が悪いが、許してもらおう。
「右よーし!」
「右よーし!」
「駄目です。声が小さい。やり直し! お腹から声を出してください」
「これでも駄目なの? 厳しいわね」
「右よーし!」
「右よーし!」
ララーさんの声がVIPルームに響いた。
うん。この声なら間違いなく指差呼称が発動するだろう。
「本日もご安全に!」
「ご安全に!」
『指差呼称が発動しました』
脳内にアナウンスが流れると、ララーさんが一瞬ビクッと反応した。
「今のは……」
「炭鉱夫スキルの指差呼称です」
指差呼称で得られる効果を説明すると、ララーさんが納得するようにウンウンと頷いている。
「だから龍の背中が掘れるのね?」
「そうです。じゃないと僕みたいな子供が、みんなよりも採掘できるわけないじゃないですか」
ララーさんは何かを深く考え始め、暫く経つと床に正座した。
「ダダン、お願い。私もカノンちゃんみたいに雇って……ください」
「へ? どうしてですか? ララーさんなら今のままでも十分に稼げると思うのですが?」
「部屋も余ってるみたいだし、こんなに美味しいご飯が毎日食べられるなんて、こんな幸せなことはないじゃないのよ!」
あー、成程。そっちの理由ですか。
……部屋が余ってる? ここに住むつもりなのか?
「あの、別に住み込みじゃなくても良いのですよ?」
「そんなこと言わないでよ。鉱山から帰って何も食べる物がなかった時の悲しい夜を思い出させないで!」
あ、その気持ちはわかります。
僕も深夜まで残業していた時に、同じ思いをしていました。
「それにダダンには助けてくれた恩返しもしなきゃ駄目なのよ。アタシも精一杯ダダンの為に働くわ。お母さん的な位置付けだと思ってくれていいわよ!」
「お母さん的な位置付けなら、毎日のお酒は遠慮していただきますが――」
「親戚のお姉さん的な位置付けで頼ってくれてもいいわよ!」
すぐに言い直したぞ。
まぁほどほどに飲むくらいなら別に構わない。
……ほどほどで済むかなぁ、無理だろうな。
「じゃあご飯が済めば、すぐに引っ越しするわ」
「荷物はどうされるのですか?」
「それはアレよ。TOPマイナーの特典で、収納袋を借りるわよ」
そういやそんなこともあったな。
前エースのバーラルさんが収納袋で引っ越しをしていたのを思い出す。
そんな話をしていると、湯上りのカノンさんが部屋から出てきて食事の席に着いた。
やっぱり頃合いを見計らっていたようだ。




