第十話
僕が契約奴隷で連れてこられた人達を見学にきたのには理由があって、スキル鑑定士を所持する方でも使用方法がわからず、詳細が不明なスキルを所持している契約奴隷の方がいるかもしれないと考えたからだ。
特殊なスキルを所持しているが、そのスキルが詳細不明。
そういう人が結構居るそうで、スキルの使用方法がわからないまま生涯を終える人も居るらしい。
全く期待していなかったのだが、エースになって一回目の契約奴隷の案内で大当たりを引いてしまった。
ダリムさんは僕がスキル鑑定士を所持していると把握しているので、契約奴隷の方々のスキルをチェックしていても何も言わない。
「……あの方、スキルを所持されていますね」
「そうみたいだね。ただしアレはハズレスキルだよ」
「ハズレスキル、ですか?」
「うん。スキルの使用方法が世間に公開されていない特殊なスキルで、恐らく本人も使用方法がわかっていないのだと思うよ」
そうだよな。この世界には存在しない種類のスキルなのだろう。
「それにしては契約金額が高く設定されていますね」
「使用方法がわからなくてもスキル所持者だからね。それに――少し可哀相な容姿だけど、教養があるそうだから」
ダリムさんが可哀相な容姿と言葉を濁したのは、別に不細工だと言っているわけではない。
貫頭衣を着用しているのだが、上半身の見えている部分が全て包帯でグルグル巻きにされているのだ。
「あの怪我で採掘などできるのでしょうか?」
「どうだろう。彼女――カノンさんはもともと麓の町の娼館に売られたらしいけど、あちらでも全身に大怪我を負っている者は要らないと断られたらしいよ。それでこちらに連れてこられたのだろう」
流石の娼館でも体が使えない者は迎えられないのだろう。
金貨六枚という金額も、断られた理由の一つだ。
金額も体も僕には全然問題がない。
それらを全て帳消しに出来る程のスキルを所持しているからだ。
「ダリムさん、あの方を雇いたいのですが――」
――カノン視点――
一年程前、商会を営む両親と馬車で隣町へ向かっている最中、盗賊に襲われ御者が操る馬車が崖から転落し、両親はその時に亡くなってしまいました。
私は奇跡的に一命を取り留めましたが、全身に大怪我を負ってしまいました。
そう、身内が私の事を化け物と呼ぶ程の大怪我です。
父の叔父が商会を引き継ぎましたが、私は気付いてしまいました。
襲ってきた盗賊の頭と呼ばれていた男性は、叔父と普段から一緒に行動していた男性だったのです。
叔父が商会を乗っ取る為に、両親と私を亡き者にしようとしたのです。
商会の人員は叔父の都合の良い部下に挿げ替えられ、私の存在は邪魔だと奴隷商に売られてしまいました。
将来の事を見据えて、両親から商売の知識や教養に関する英才教育を受けてきましたが、それらを役立てる機会すら与えてもらえませんでした。
しかしこの体です。いつまで経っても買い取り手は現れず、遂には娼館にすら断られてしまう始末です。
最終的には何も特技を持たない契約奴隷の者が行きつく先、鉱山へと送られ、私はこの世界で誰にも必要とされていないのだと、改めて思い知りました。
自分の体の事です。この先が長くはないだろうという事は想像できます。
いつ患部が悪化してしまうかもわかりません。
どうやって生きろというのでしょうか。
もう楽になりたい。両親に会いに行きたい。
全てを諦めていると、いつの間にか別室へと移動させられていました。
目の前の男性が自分はギルド長だと名乗り、隣で姿勢よく立っている少年が、私と契約したいのだと説明している。
白く硬そうな帽子を着用している少年は、その瞳で真っ直ぐに私の事を見ていました。
誰かに必要とされたいとは思いましたが、まさか少年に契約したいと言われるとは思いませんでした。
何故私なのか。
化け物と罵られ、女としても役に立たない。
何故私なのか。
知識と教養を披露する場も与えられない鉱山で、契約金額も安くないと聞いている。
これ以上痛めつけるつもりでしょうか。
ええ、その時は潔く死んでやりますとも。
全てを不信に思っている私には、少年が話す言葉は全く頭に入っていませんでした。
適当に頷きサインをしていると、ギルド長を名乗っていた男性が部屋から出て行きました。
するとどうでしょう。少年が私を大喜びで迎えてくれています。
それこそ待っていましたと言わんばかりにです。
自分にはその理由が分からず、遂に声を荒げてしまいました。
「どうして私なのですか! こんな姿で! こんなに役に立たない私なのに!」
それでも少年は落ち着け落ち着けと、まるで子供を宥めるような態度で接しています。
「私を……私を夜の相手にと考えているのなら、更におぞましい物を見ることになりますよ」
声色を変えて脅してみせると、何故か感心したように驚かれた後、クスクスと笑われた。
「女としても使えず、傷を付ける場所もない。痛めつける為に雇ったのならこのまま死んでやる!」
更に脅すと、そんな事をする意味がないだとか勿体ないだとか言い、尚も喚き散らす私に対して少し真面目な態度で接するようになりました。
「では雇用主として命令します。自分のスキルボードを見てください」
商人の娘として育てられた私が雇用主の命令に背く訳にもいきません。
大人しく命令通り、自分のスキルボードを開きました。
そこには何度も私を苦しめて来たスキル名が表示されています。
使用方法も意味も全くわからず、見当もつかないスキル。
叔父が私を無能扱いした理由でもあるスキル。
せめてこれが一般的な戦闘スキルであれば、両親を亡くさずに済んだのにと恨みすら持つスキル。
これから説明する事はここだけの秘密だと命令され、表示されているスキルが何なのかを説明された。
「カノンさんが持つスキル『エアコン』では、周囲の温度調節が可能なのだそうです」
「……は?」
「『クーラー』を使用すれば、カノンさんの周囲の温度を冷やせるそうです。『クーラー』を使うように意識してください」
「は、はい」
言われるがまま『クーラー』という、温度が冷やせる物を意識してみました。
……し、周囲がひんやりとしています。本当なの?
少年が私に近付いてきたので少し身構えましたが、温度の変化を感じ取ったところで――
「よっしゃー!」
全身で喜びを表現しています。
「よーし! 温度の強弱も調節可能だそうです! もっと冷やしてみてください!」
「は、はい!」
もっと冷えろもっと冷えろと『クーラー』を意識してみました。
寒いです。凄く寒くて凍えそうなのに……嫌な気分ではありません。
「まだまだ! 今度は『ヒーター』を使用してください。周囲の温度を温めるつもりで! アッツアツでお願いします!」
「はい!」
今度は砂漠のど真ん中で立ち尽くしているような暑さです。
「暑い! すっごく暑いー! 最高ですが、もう良いかな戻してください」
戻せと言われましたが、少し冷やすくらいにしておきました。
……しかし、何故なの?
幼い頃から教育されてきた自分でも知らない言葉を、何故こんな少年が知っているのでしょうか。
「……どうしてスキルの使い方がわかるのでしょうか?」
「うーん、秘密かな」
先程までと口調が変化して、子供っぽく――いえ、あざといと表現した方が良さそうな言い方で誤魔化されてしまいました。
それでも諦めきれずに尋ねましたが、教えてはくれませんでした。
「教えないと辞めてしまいますか? 辞めてほしくないな。ずっと一緒に居てほしいなー」
また演技を見せられてしまいました。
勿論私自身辞めるつもりは全くありません。
雇用してもらった恩も当然ありますし、何よりこの少年の可能性を目の当たりにして、商人魂に火が点いてしまいました。
涼しい、温かいというたったそれだけのスキルに、金貨六枚をあっさりと支払う少年に興味があります。ただの少年ではないのでしょうか?
「金貨六枚くらいなら一日二日で稼げるので大丈夫です」
あっさりと言われてしまって言葉を失ってしまいました。
「私のこの容姿でも良いのでしょうか?」
「全く問題ありません」
間髪入れずに答えられました。
「これでもですか?」
少年の目の前で、包帯を解いて見せました。
しかし傷口を見て驚くどころか、全く目を逸らそうともしません。
「問題ないってば。というか女性が簡単に肌を見せては駄目です」
少年に呆れられてしまいました。
そしてそんなふうに言われて、漸く恥じらう心を思い出してしまいました。
このカルステッド鉱山は寒暖の差が異常に激しいそうで、私が居るだけで快適に作業ができると喜ばれました。
それだけで存在価値があると言われたのですが、逆にそこにしか存在価値がないのかと落ち込みます。
今まで受けてきた英才教育は何だったのでしょうか。
「まぁ……なんだろう。僕も両親が死んで一人で生きてきました。同じような境遇で、こうやって話し相手ができるのは嬉しい……かな」
演技する様子でもなく、照れている様子を隠しながら話してくれました。
この時に漸くこの少年と一緒に過ごす事になるのだと気付き周囲に視線を配ると、私は凄く立派な部屋に呼ばれていたのだと理解できました。
「何ですかこのお部屋は? 鉱山ですよね?」
「え、今更? VIPルームだって説明しましたよね? 嘘でしょ、全然聞いてなかったの?」
申し訳御座いませんと平謝りした。
こんな私でも必要としてくれる少年に感謝の念を抱きます。
用済みになって捨てられるその日まで、忠誠を尽くさせて頂きます。
「……ところで、お名前は――」
「ダダンです! 全然話聞いてないし!」




