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第一話

 突然書きたくなったので書きます。良かったら最後までお付き合いください。

 


 ガタタンガタタンと振動の激しい荷馬車に揺られて目を覚ました。

 ああそうだった。僕は売られてしまったのだと思い知らされる。

 同じように売られたと思われる体躯の良い男性や、この荷馬車の揺れで死んでしまうのではないかと心配させられる、色々とギリギリなご老人。

 総勢八人が狭い荷馬車で腰と足首と手首を鎖でつながれていた。

 

 生まれ育った村は本当に貧しかった。

 両親は農民として畑を耕し、収穫物の殆どを税として納めていた。

 僕の目から見てもその量は異常だったと言わざるを得ない。

 税を納めた残りだけでは到底生活が出来ず、口に入るものなら何でも食べていた。

 母親のマリーはその少ない食事を更に僕に分け与えてくれていて、やせ細った姿しか記憶に残っていない。


 こんなにも村が貧しかったのには理由がある。

 村の周辺に盗賊が居座っていて、その盗賊達と村長が裏で手を組んでいたのだ。

 税という名目で村から多く巻き上げていた収穫物の一部を盗賊に渡し、住処を提供する代わりに、盗賊達が近くに寄った行商人を襲ったりすると、村長は分け前を受け取っていた。

 その現場を見ていた者は盗賊に始末され、村から逃げ出そうとした者も始末され、見せしめに村の敷地内で吊るされていた。

 村長と盗賊に飼い殺しにされていたのが僕が育った村だった。


 いよいよ村の末期が近付いてきた時、更なる悲劇が起こったしまった。

 隣国との戦争で父親のガイエンが徴兵されてしまい、あろうことか戦死してしまったのだ。

 体の弱った母だけでは畑も耕せず、食べ物も底をつき母親も亡くなってしまった。

 両親が残してくれたのは、僕のこの体のみ。

 ダダンと名付けられて、七年間で育ったこの小さな体のみだ。


 そして七歳にして生きる気力を失った。

 それがたとえ、前世の記憶を持っていたとしても、だ。


 三歳になって半年が過ぎた頃、何かの拍子に前世の記憶をハッキリと思い出した。

 本当に突然だった。岩男堀道(いわおほりみち)として、現代日本で生きた三十五年の記憶が蘇ったのだ。

 年齢的にも仕事を辞めるにも辞められず、毎月の営業ノルマに追われる薄給のサラリーマンで、結婚という華も山場もない平凡な人生だった。

 それでも仕事は出来た方だと自負している。

 個人のノルマを達成した後は、営業部としてのノルマを達成する為、自分のノルマを越えた分の成果を、後輩の手柄に変えたりなんてほぼ毎月の出来事だ。

 後輩に休みたいと言われれば代わりに出勤して、前回自分が休んだのは確か季節が変わる前だった、なんて事もあった。

 そうしてギリギリでノルマをこなして、上司から言われるのが『来月はもっと頑張れ』の一言。

 やり甲斐も生きている意味も感じられず、死んだように生きている生活を続けていれば、そりゃストレスの一つや二つも溜まるというものだ。

 屋台で酒を浴びるように飲み、チンピラに絡まれたその時で岩尾堀道としての記憶が止まっている。


 小説などでは転生した子供が無双するなんて話がゴロゴロあったが、そんな展開は僕には不可能だった。

 毎日のご飯がない。腹が減って動けない。特別な力もない。周囲に頼れる力もない。周囲に全く余裕がない。 

 そんな状況では知識無双なんて出来るわけがなかった。

 勿論ただの三歳児ではないので、何とかしようともがいた。

 村の唯一の娯楽と言ってもいい、御伽噺の本で文字の読み書きを覚えた。

 勇者が岩石で出来た赤く巨大なドラゴンを倒して、お姫様の呪いを解くお話と、勇者が地上を征服していた魔物を殲滅して星になるお話。どちらも子供が読むには少々難しい話だが、親が読み聞かせる物語として定番の御伽噺なのだそうだ。


 他にも何とか飢えを凌ごうと考えた結果、森に入って動物を捕まえる為の罠を作って、本当に猪が取れた時には感動した。両親にも凄いと褒められた。

 しかしそれだけでは生活を一変させるのは不可能だし、人の良い両親は取れた獲物を村の住人達に分け与えていた。

 両親は困った時はお互いさまだと言い、僕達は毎日困っているじゃないかと怒鳴った時もあった。

 そうしてもがき苦しんでいた時に父が帰らぬ人となってしまったのだ。

 

 これはもう駄目だと心が折れてしまった。


 母が亡くなった三日後、家に奴隷商がやってきた。

 村の税が領主に納められないからと、村長が僕を契約奴隷として売り払ったのだ。

 契約奴隷の事は村の住人から聞いた事があったし、他所の村でも税が払えない場合は、村民が差額分を契約奴隷になって稼ぐ事はよくある事らしい。

 ただし僕が住んでいた村は違う。税は必要以上に払っていたはずだ。

 最後まで抵抗してやろうかとも考えたが、契約奴隷として村から出られさえすれば、何とかなるのではないかと思ったのだ。

 奴隷商に鎖でつながれて荷馬車に乗せられた、あの時の村長の下卑た笑いは一生忘れない。


 絶対に復讐してやる。母の仇を取ってやると心に誓った。


 

 御者をしている奴隷商のおじさんはなかなか話せる人だった。

 僕達が向かっているのはカルステッド鉱山という場所で、村から一番近い鉱山だった。

 特別なスキルを所持していない契約奴隷は、鉱山で働いて稼ぐのが一般的らしい。

 この世界にはスキルというものが存在しているのだと、おじさんの話を聞いたこの時に始めて知った。

 剣術や魔術、格闘術や料理など種類は様々。

 そういうスキルを所持している人は特別な職に就いている事が多いそうだ。

 ちなみにカルステッド鉱山というのは、サザーランド公爵領にある少し特殊な鉱山で、一風変わったビジネスモデルを試験的に採用しているらしい。

 その一つとして、作業員全員に『炭鉱夫スキル』が付与されるという。

 どんな効果があるのかと尋ねると、ツルハシで岩が掘りやすくなるらしい。

 あと体が鍛えられるそうだ。何とも微妙なスキルである。

 全員に配布するようなスキルだし、特別何かを期待するようなものではないのだろう。 


 御者のおじさんは奴隷の種類についても色々と教えてくれた。

 契約奴隷と犯罪奴隷、終身奴隷の三種類があり、僕が売られた契約奴隷はその名前の通り、契約分の金額を支払えば奴隷から解放されるというもの。

 カルステッド鉱山では奴隷紋という魔法の紋を押されるが、契約分を支払い終えるとこの奴隷紋は綺麗に消えるそうだ。

 しかも手枷も足枷なく、普通に暮らせるらしいが、奴隷から解放されるまで鉱山の敷地からは出られないらしい。


 前世では奴隷のように毎日働かされていたが、まさか本物の奴隷に昇格するとは思わなかったぞ。


 「……じゃあ僕も契約分を支払えば、自由になれるのですね?」

 「そうだ。……まぁ長い期間鉱山で働く事になると思うけど頑張るんだぞ」


 よし、あの村で生活するよりかは希望が持てるぞ。


 因みに荷台から御者のおじさんに話し掛けているのは僕だけだ。

 後の七人は一切口を開かないし、動きもしない。そろそろ六人になっているかもしれない。


 そしてかれこれ三日ほど荷馬車に揺られているが、未だに鉱山に辿り着く気配はない。





 漸く鉱山に辿り着いたのは、村を出てから六日目のお昼だった。

 カルステッド鉱山には麓に小さな町があり、その街中を荷馬車で揺られながら眺める。

 今まで住んでいた村に比べると断然マシなのだが、娼館以外は必要最低限が揃っているだけという少し寂れた感じの町だった。

 そこから荷馬車で坂を上り、揺られる事数分、到着した鉱山ギルドの入り口で降ろされた。

 この世界で初めて見る石造りの立派な建物で、扉を開けた建物の中はかなりの広さだ。

 奴隷商のおじさんがギルドの職員相手に手続きを済ませている間、炭鉱夫達だろうと思われる体躯の良いグループにジロジロと見られている。

 何か品定めをするような眼つきだ。気分の良いものではないのだが、この後で絡まれたりしないだろうかと心配になる。

 その後はギルドの職員に服を脱がされて、背後から背中に掌を添えられた。

 これが話に聞いていた奴隷紋というヤツなのだろう。背中に少しチクッとした痛みが走ったが、それだけで特に違和感はない。

 奴隷紋が押された後は、白い貫頭衣に着替えさせられ、木靴が与えられた。


 あれ、何故だろう。今まで着ていた服よりも身綺麗になった気がする。

 今までの生活は奴隷以下だったのだな。


 着替えが終わると一列に並べられ、整列して歩かされる。

 そして歩いている先頭の者が大きな岩の塊のような物に触れるように指示され、岩に触れた者から順番に受付を済ませるようで、ギルドカウンターに案内されていく。

 僕も同じように岩に触れると職員がギルドカウンターで対応してくれた。


 「宜しくお願いします」

 「あら、よろしくね」


 僕の受付担当は、二十代前半くらいの知的な印象を受ける小柄な女性の方だ。

 品のある茶色の髪をアップにして後ろでまとめた髪型と、大きなブラウンの瞳が印象的だ。

 背筋もスッと通っていて清潔感もあり、挨拶をすると気軽に返してくれた事から、彼女は仕事に取り組む姿勢も良さそうだ。

 愛想良く返してくれたのは、僕が子供だからなのかもしれないのだが。


 「ではここカルステッド鉱山の説明をするわね。いい? しっかりと聞いておくのよ?」

 「はい。お願いします」

 「じゃあまずは色々と確認させてもらうわね――」


 彼女の手元の資料は、奴隷商から預かった僕の個人情報なのだろう。


 「……ダダン君、七歳。農民夫婦の子で、スキルは無し。健康状態は栄養失調による衰弱のみ、半年分の税が払えず契約金額が、え、……金貨二枚? 二枚?」 


 彼女は僕と手元の資料を何度も見比べている。そして今度は僕の事をじっと見つめている。


 「……うーん。おかしいところはないわね」

 「どうかしたのですか?」

 「少しねー。ちょっとダダン君の契約金額が多いのよね……でもお役人様の書類も揃っているし――」


 なるほどなるほど。僕は普通の契約奴隷よりも高値で売られたのか。

 

 ……あのクソ村長。最後の最後まで僕から毟り取っていたのだな。

 ヤツはぶっ殺すまえに、少ない前髪を全部毟り取ってやる! 覚えていやがれ!


 「僕は金貨なんて見た事もないのですが、そんなに高いのですか?」 

 「そうよ、金貨一枚なんて大金よ。大人が普通に生活すれば金貨一枚で半年は生活できるもの」


 金貨二枚で大人が一年間生活できるのか。物価はわからないが、金貨一枚で百万円前後くらいの価値ってところかな。

 ……農民の子供が半年分の税で二百万だと? ふざけやがって!


 「ちょっと私は書類に間違いがないか確かめてくるわ。ダダン君はスキルの確認をしておいてね」

 「スキル、ですか?」

 「そうよ、さっきあの機械に触れたでしょ? アレは『炭鉱夫スキル』を付与する機械なの。スキルボードを意識すれば見られるから。じゃあちょっと待っててね」


 お姉さんは書類片手に奥の扉へと向かった。

 スキルボードを意識、スキルボードを意識……と。

 言われた通りに意識すると、顔から三十センチ程離れた場所にスキルボードが浮かび上がった。



 ――ダダン――


 ・炭鉱夫スキル














































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― 新着の感想 ―
[良い点] …皮肉なことに…主人公は、奴隷になったことで却って救われる…か! …主人公!頑張ってあの薄毛クズな糞村長にザマァを叩き込めー!!! [気になる点] …しっかし、御者をしている奴隷商のおじさ…
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