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事実はラノベよりも奇なり  作者: 蒼月 紗紅
第一章:そんなものただのファンタジーだって
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行き当たりばったりの人探し

「……まぁ、それは置いとくとして。とりあえず妹ちゃんの容姿についての特徴とか教えてくれないかな?」


 よかった。話を逸らしてくれて助かった。いっそ出来ることならそのまま忘れてほしい。


「ええと、見た目は大人しそうで、黒髪で、背丈はだいたい俺の肩くらいの高さで、鼻はスッと通っててかわいくて、口もいつも笑顔でかわいくて、目は大きくてかわいい、とにかくかわいい、そんな感じです」


 自分でもビックリするくらいかなり抽象的な説明だったけどこれで伝わっただろうか。どうだろう。


「所々主観が混じってるけどまあいいや、分かるよ。分かった。了解」

 良かった、なんとかちゃんと伝わったみたいだ。



「あの方もあの方で大概ですわね。お姉さんと同じくらいのレベルの方なんて初めて見ましたわ」

「所々どころかほとんど主観でしたね。ほんと伝わったのが奇跡だと思いますよ」

「うにゃ、もう取り返しがつかないところまでいってるよ」

「……ああ、やっぱり変態だ……」


 なんか後ろで色々と言われているような気がするが気にしないでおこう。ていうか伶、お前祈莉と仲良かっただろ。ほとんど主観とか言うな。事実だろ。お前が向こうに帰るための魔術の使い手じゃなかったら思いっきり正面から殴ってたぞ。



「あはは……じゃ、ちょっと手がかり探してくるから待っててくれ。よっと、<風の精よ・あたしを手がかりに導いて>」

 その瞬間、一颯さんは音も立てずにすっとどこかへと消えてしまった。


「な、え、一颯さん? 一体どこへ、え!?」

「うにゃ、落ち着いて。お姉ちゃん魔術使っただけだから」

「ええ、お姉さんは瞬間移動の魔術の使い手ですの。それも凄腕中の凄腕ですわ」

「なぁ周也、それくらいで驚いてたら多分ここで生きていけないよ」


 なるほどそんな魔術もあるのか。なんでもアリなんだな。……癪に障るが確かに伶の言うとおりかもしれない。いちいちビビッてたら心臓がもたない気がする。徐々に頑張って慣れよう。




 そして数分後。それまでそよ風程度しか吹いてなかった辺り一面にいきなり物凄い暴風が吹き荒れた。


「な、なんだこ、の、飛ばされ、一体どうなっ、てぐあっ」

「落、ち着いて、くださ、いまし、お姉さ、まが、帰ってきてるだけでひゃっ」

「う、にゃ、いつものだけどやっぱり慣れな、い、うぐっ」

「い、つも思うんで、すけどこれ、どうに、かならな、あがっ」

「……木が……折れ、ちゃ、う、どうし、よ、飛ばされきゃっ」


 木がたわんで揺れるわ葉っぱがバサバサ散るわ、もうそれはそれは滅茶苦茶だった。立っているのがやっとなレベル。ていうか顔が痛い。普段の台風なんて比じゃない。ダメだ本当に飛ばされてしまう。



 ――十数秒経った頃だろうか。さっきまでの嵐が嘘みたいに風がピタリと止んだ。と同時に一颯さんがニコニコしながらこちらに歩いてきた。


「たっだいま~、さて、妹ちゃんの足跡見つけてきたよ。……ってあれ? みんなどうした?」


 颯爽と登場した一颯さんはこちらを見てポカンとしていた。俺を含めて全員髪の毛はボサボサ、髪の長い咲織ちゃんや雅美なんてもう顔が見えないくらい。二人に比べたら髪が短いアンでさえ大変なことになっていた。そして伶の眼鏡に至っては外れて足元に落ちてしまっていた。いきなりここを通りかかった人がこの光景を見たら何かしらの事件を疑うだろう。


 いやあなたの魔術が……なんて協力してもらってる立場だから口が裂けても絶対に言えないが。全員がそれを言いたそうにして飲み込んでる、何とも言えない表情をしていた。



 それにしてもこんな短時間で足跡が見つかるものなのか。さすが、何でも屋と呼ばれているだけのことはある。

「ええと、君の妹さんはここ、『金剛堂』っていう武器屋にいるみたいだね。ちなみにあたし達が今いる場所は大体ここら辺」

 そう言って一颯さんは地図を見せてくれた。なるほど、距離的には割かし近めだった。


「ちょっと待ってくださいまし、そこには近いうちに行こうと思ってて。アンの身を守るための武器の作成を依頼していたんですの。そろそろ完成してるはずですわ」

 雅美の髪はすっかり元通りになっていた。お前いつの間に。その辺りの手際の良さは流石お嬢様、と言ったところか。

「じゃあちょうど良かったじゃないか、今からみんなで行こうか」




 まさか祈莉探しがこんなに賑やかになるとは思いもしなかった。こんなにあっさり事が進んでも良いのだろうか。まぁ上手くいくことに越したことは無いが。


 ところで、まだ目的地までは少し時間がかかりそうなので少し気になっていたことを一つ質問してみる。


「そういえば、どうして一颯さんは何でも屋をやってるんですか?」

 言い終わると一颯さんは少し表情を曇らせた。……あれ、なんかマズいことを聞いてしまっただろうか。



「聞きたい? そっか、いいよ教えてあげる。――私はただ大切な人を探してるだけなんだ。少し前にいなくなった父親と、かつていなくなった親友、をね。何でも屋をやっているのは少しでも多くの情報を集めるためだよ」

 かなり重い理由だった。軽々しく聞くんじゃなかった。


「えっと……」

「ああ、そんなに暗い顔しなくても大丈夫。――そう、突然いなくなったんだ。ウチの家族は色々あってさ。父親だけが唯一の頼りだったんだ。

 でもある日私と咲織ちゃんを残してどこか行っちゃったの。このあたしの手と情報の伝手を以ってしても何も見つからなかった。そしてまだ何も分かっていない」


「えっと、お姉ちゃん……ごめんね、わたしが……」

「咲織ちゃんのせいじゃないよ、大丈夫。あたしがただ探したくて探してるだけだから」


 そんな事があったなんて。だから一颯さんは咲織ちゃんのことを特別かわいがっているのか。……話を振ったのは自分の責任だけどどうしよう。何か別の話題は無いものか。



「ああ、そしてもう一人が私の昔なじみで」

 そこまで言って一颯さんはピタッと口と足を止めた。一体どうしたんだろう。


「おっと、話の途中だけどここまで。敵襲みたいだ。しかもいっぱいいる」

「え? 敵なんてどこに?」

 露店がたくさんあるから通行人はそれなりにいるものの、そんな怪しげな人物なんてどこにもいないが……




 その瞬間、今まで人間だと思っていた者たちの目つきが変わった。そして足を引きずらせながら近づいてくる。なんなんだこれは。

 奴らはヴヴヴ、と呻きながらこちらに向かってくる。人ではあるんだけど人じゃないというか。まるで機械。



「うわっ! なんなんだこいつら! さっきまで普通に歩いてたじゃないか!」

 目を合わせたら襲われそうだ。でも四方を囲まれてどうすることも出来ない。まさか携帯している剣をいきなり使うことになるとは思わなかった。でもこれどうやって使えばいいんだろう。ていうかこいつら一体何者なんだ。


「周也、この人たちは通称、機械人間オートマタ。西部陣営の駒達だよ。その中でもかなり下っ端の奴らだ」

 表情を読み取ったのか、伶が教えてくれた。なるほど敵か。でもさっきまで同じ人間としての形を保っていた物を攻撃するのはなんだか気が引ける。なんて甘いこと言ってたら生き残れないんだろうけど。どうしよう。とりあえず剣を抜いて……



「あーえっと、じゃ。<風の渦よ・こいつらちょっとやっちゃって>」

 その瞬間、ごうう、と周囲の空気が集まってうなりを立てた。ものすごい音がする。正直、鼓膜が痛い。恐らくこれだけでもさっきの暴風よりも威力が高いんじゃなかろうか。


 そして一箇所に集まった風が機械人間とやらを攻撃する。風の渦と言いつつもそれはもはや鋭利なナイフのようなものであった。

 数秒も経たないうちにそいつらは為す術もなくされるがままに薙ぎ倒されていった。


 そうだ。一颯さんは凄腕の魔術師なんだった。属性魔術もそりゃ強いよな。俺の出る幕なんてそもそも無かったんだ。ああ良かった。



「よし、これで一旦は大丈夫だろう。さ、行こっか。もう見てるよ」

 どうやらここが目的地の武器屋みたいだ。他の石造りの建物と比べて、全体的に古びた木造建築なのが少し目立っている。


 ここに祈莉がいる。そう思うとめちゃくちゃ緊張してきた。一つ深呼吸。――よし。落ち着いた。さあドアを引いて……


「……どうしたの? 体全体がガタガタ震えてる……」

「アンさん、大丈夫です。ほっといたら治りますから」

 ……こんな醜態、祈莉に見せる訳にはいかない。どうしよう。止まらない滝のような手汗のせいで下手したらドアの取っ手が錆びそうだ。



「どうしたんですの? 開けないのなら私が開け」

「待て待て、待って、待ってくれ。俺が開けるからほら」

「なら早く開けてくださいまし」


「うにゃ、なんだか君、凄くかっこわるいよ。今のその姿を君の妹さんが見たらどう思うんだろうね」

「こら、咲織ちゃん。彼は至って真面目なんだから笑ったらダメだよ」


 ぐっ……でも確かにそうか、そうだよな。ここまで来たんだから覚悟を決めないとな。今はその毒舌もなんだかありがたかった。


 震える手をなんとか抑えつつ、俺は金剛堂のドアを開けた。

大人数を動かすのは楽しいんですがやっぱり大変です。

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