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事実はラノベよりも奇なり  作者: 蒼月 紗紅
第三章:どうかフィクションであってくれ
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回顧録:ふたつの祈り

お盆休み連続投稿五日目(四日目)です。

 これは、祈莉が捕らえられてすぐの頃の話。



「さぁ、立ってください。ほら早く、『マリー』」

「あの、さっきからずっと思ってたんですけど、私の名前は祈莉で」


「ごちゃごちゃ言わないで下さい。ここの人たちは皆、お互いにそのような偽名で呼び合っているんです。本名を知られてはいけません。もし口に出したら……分かってますね?」


 その優しそうな笑顔に含まれたとてつもなく鋭い視線に、思わず心臓が口から飛び出そうになる。それと同時に、先ほどまでの激痛を思い出して体が震える。

 ……そういえばこの人、最初はフードを被っていたからよく分からなかったけど、怒ってないときは優しそうな顔をしてるんだよね。こんなことしてないで先生とかになればいいのに。向いてそうなのにな。


「……何か言われましたか?」

「あ、い、いえ! 何でも無いです」

 ビックリした。頭の中でも見られたのかと思った。この人の前では迂闊に何か物事を考えることすら難しい。


「そういえば、気になってたんですがあなたのことはなんて呼べばいいんですか?」

「ああ、名乗ってませんでしたね。私のことは『アリア』とでもお呼び下さい。皆さんからはそう呼ばれています」

 きっとこの名前も本当の名前じゃないんだろうな。まぁそんなことどうだっていいけど。



「さて、では最初の任務について説明します。こちらに着いてきてください」

「……行こっか、マリー」

 マリーはずっと、怯えた様子ですみっこでじっとしていた。私が抱きかかえてあげたら少し安心してたみたいだけど。


「あはは、これじゃどっちがマリーなんだか。分からないね」



 *



「さて『マリー』。まず貴女にはこれと錬金術を使って土人形ゴーレムをつくっていただきます」

「え、錬金術ってそんなことまで出来るんですか?」


「ええ。本来ならば相当手馴れた方しか使えませんが、今の貴女は魔術を最大限にまで使える状況にしているのでそれくらい容易いはずです」

 私は『アリア』さんから土の塊のようなものを手渡された。いきなりぽんと手渡されてもどうすればいいのか分からない。


「でも、そんな。どうやって」

「詠唱してください。……はぁ。そんなこと、考えなくても出来るはずですが。詠唱は魔術の基礎、当然でしょう」

 向こうは段々イラついてきたようだった。なにかしらアクションを起こさないと、従わなかったらまた痛い目にあってしまう、もしかしたら今度こそマリーに危害が及ぶかもしれない。それだけは嫌だ!



「えっと……<大地の恵みよ・そこに眠る凶悪さと共に・その力をもって体をなせ!>」

 なんか昔アニメかなんかで聞いたセリフみたいに、それっぽいことをそれっぽく言ってみた。だってどうしたらいいのか全然分からないし。


 ……その瞬間、わずかだけど地面が震えた気がした。直後、持っていた土の塊がまるで生きているかのように動き出す。思わずビックリしてしまって落としてしまった。そして段々と丸みを帯びたような形になっていく。もしかしてちゃんと成功した?



「まだまだ全然ですが。まぁ及第点っていったところでしょうか」

「え、あ……よかった、できた……」


「これから回数を重ねていきましょう。最終的にはちゃんとした人型の物を作れるように」


「そういえば、さっき一緒にいた人って、誰なんですか?」

「さっきの人……とは?」


「あ、えっと……さっき『アリア』さんと一緒にいた、もう一人の……今どこにいるんですか?」

「あぁ、あの方は中々外に出られませんからね。普段は私が代理で色々させて頂いています。どうかされましたか?」


「あの、私、いつかは分からないんですけどあの人とどこかで会ったことがあったような」

「まさか。あの方はここから出られたことがありませんし。他人の空似でしょう」

「でも」

「あぁそうだ。部屋の案内がまだでしたね。着いてきて下さい」

 聞こうとしても無理やり遮られる。これ以上追求したらまた怒られそうだからやめとこう。きっとただの気のせいだろうし。



 *



 案内された個室はいつも泊まっていた宿舎よりも薄暗かったけど、少しだけ広かった。食堂はちょっと行った先にあるらしい。いつでも使ってもいいらしいので、ちょっと行ってみることにした。ちょうどお腹も空いてたし。



 食堂には既にちらほら人がいた。ええと、注文するにはどうすれば……なんて考えてたら誰かにぶつかった。


「……きゃっ、ごめんなさ」

「……邪魔、もっと周りちゃんと見てよ」

 相手は、髪の毛がぼさぼさで目が見えるか見えないかくらいだった。でもこっちを睨んでいることだけはよく分かった。


「あ、えと……すみませんでした」

 その人は何も言わずにどこかへ行ってしまった。見てなかったこっちが悪いとはいえ、なんか感じが悪い。



 注文を済ませ、空いていた席に座る。メニューは何かの肉を炒めたものとパン。中々美味しい。それになにより、最近は食事をおざなりにしていたのでちゃんとしたものを食べるのは久しぶりだった。後でマリーの分も持って行ってあげよう。



「あら、あなた。見たこと無い顔だけど新入り? 横に座っていいかしら」

「きゃっ。あっ、えっと、そうです。えと、どうぞ」

 食べていたら、急に誰かに話しかけられてビックリした。相手は少し年上っぽい感じ。


「私は『ルゥ』。よろしくね」

「あ、私は、いの……『マリー』っていいます。よろしくお願いします」

「そんなに緊張しなくって大丈夫よ。ここではみんな仲間なんだから」


「え、あ……ひぐっ、うぐっ」

「ちょっと、どうして泣いてるの!?」

「だって、だって……」

 ここに連れて来られて誰かに優しくされたのが初めてで、凄く嬉しくって。みんな怖い人ばっかりなんだって思ってたから。だから。


「とりあえず。今は美味しいものでも食べて落ち着きなさい。そしたらきっと元気になるわ。なにか分からないことがあったらいつでも聞いてちょうだいね。出来る限りのことは答えるから」

「……! ありがとうございます!」



 食事を済ませ、『ルゥ』さんと別れてから部屋に帰る途中。なんだかこのまままっすぐ帰る気にはなれなくて、私は少しだけ寄り道することにした。

 個部屋があるところを抜けた先は物置だとか、ほとんど使われてない部屋ばかりだったみたいで、元々薄暗かった廊下がいよいよ真っ暗になっていった。不気味だな。帰ろうかな――


 なんて思っていたら少し先にぽつんと、電気がついてる部屋を見つけた。中には誰かがいる。『アリア』さん? と……昔どこかであったことあるような、例のあの人がいた。


「……破壊……はどうかしら?」

「順調……でしょうか?」


 隙間からちらっと覗いてみると、奥にはなにやら、機械やら管やらに繋がれた人間の姿があった。その人はやけに色白で銀髪で。まるで全てがSF映画に出てきそうな。見てはいけないものを見てしまったような気分。ところで破壊って一体、何なんだろ――


「……それで」


 まずい! 『アリア』さんと目が合った! 逃げなきゃ!


 私は自分の部屋に向かって全速力で走っていった。特に追いかけてくるようなことは無かったから良かったものの、もし追いかけてきてたらどうすればよかったんだろう。怖い。



「はぁ、はぁ。ただいま。マリー」

 マリーは私の帰りを待っていたかのように、ドアの前に立っていた。


「そうだ、晩ご飯。もらってきたから、食べよ、うか……」


 マリーの前にご飯を置こうとした瞬間。どうやら自分が思っていた以上に疲れがたまっていたみたいで、私はいつの間にか床の上で眠ってしまっていた。そのまま深い眠りに落ちていく。




 ――これから自分の身に何が起こるのか、今の私には当然知る由も無かった。

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