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永遠の命で世界を救えたら。  作者: 渡利慶次
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第8話 すれ違う心

 


 避難してから今日で6日が経った。誰よりも早く目を覚ました僕は辺りを見回す。

いつもと同じ薄暗くてじめっとしたこの防空壕の雰囲気にため息が出るがここでの生活も慣れたため何も変わらないことに対して少しの安堵感もある。


 それにやけに静かだと思ったら起きてから一度も地響きが鳴ってない。もしかしたら一旦連合軍が撤退したのかもしれない。

外は雨が降っているのか広間の天井からは所々水が滴り落ちている。老朽化のため雨漏りしてるのだろう。


 僕は水をもらいに立ち上がり、隅にある食糧庫へと向かう。


 いや、待て。何かがおかしい。


 そうか、いつもなら先におじいちゃんが目を覚まして騒いでるはずなのにそれがないんだ。僕は先程まで寝ていた辺りを見回す。左から右へと視線が流れ再び左へと戻る。いない。おじいちゃんがいない。



「みんな起きて!大変だ!」


 父とバリーさんが起き上がり周囲を見渡す。他のみんなは何事かと目をこすりながら起き上がってくる。


「どうしたウィル、何事だ。」


「いないんだ!おじいちゃんがいない!」


 入り口付近の椅子で寝ていたメーガンさんも騒ぎに気づいてこちらに駆けてきた。


「どうしたんですか?」

「おじいちゃんがいないんです!あれ?おばあちゃんもいない。おばあちゃんもいないよ!」


 メーガンさんはハッとした顔をしたあとどんどん顔が青ざめていった。


「なにか、なにか知ってるんですか!?」

 

 バリーさんはメーガンさんの肩を揺さぶりながら詰め寄った。


「昨夜は上の見張をしてたのですが、おばあさんが上にきて…神父さんに交代の伝言を頼まれたと。

今思えばおばあさんに呼ばれること自体おかしな話なのですが…

私より先におばあさんが降りて行き、すれ違わなかったのでもう戻ってるとばかり…。」


 バリーさんは話を聞き終わる前に入口へと走り出していた。その後を父が追いかける。

鉄の扉が勢いよく開かれそのまま二人は階段を駆け上がって行く。



 僕もなにか、なにかしないと。少し遅れて僕も二人を追いかける。

開かれたままの鉄の扉を抜け階段を登ろうとした時、ふと横にあるトイレの扉が気になった。なんだかとても嫌な予感がした。

確認だけ。確認だけだ。すぐ終わる。少し確認してすぐ追いかければいい。


 僕は木製の扉の前に立ちドアノブを捻りゆっくりと押す。

なんだ?重くてこれ以上開かない。10cmほど開いたところで止まってしまった。何かがつっかえているのか?ゆっくりと視線を下ろしていく。


「おばあちゃん?おばあちゃん!」

わずかな隙間から見えた足を叩くが反応がない。

なんとか扉を押し開けようと全体重をかけるがびくともしなかった。


 僕は走った。転げ落ちそうになりながらも手も使ってなんとか階段を登り切る。地上に上がった父を呼ぶのが最善だ。僕はそう信じ駆け上がる。


 階段を登り切ると教会内部を探してたのか父の背中が見えた。


「お父さん!!」

 

 僕は呼吸を整える。すぐ父は駆け寄ってきた。


「どうした!?いたのか!」


「トイレの扉の前におばあさんがもたれかかってるみたい!重くて少ししか開かないんだ!声もかけたんだけど反応がなくて!」


 そう言うと父はすぐ走りだした。


「ウィル!外にバリーさんがいるはずだ!呼んできてくれ!私は先に下に行く!」


 返事をする前に父はもう見えなくなっていた。


 




「母さん!父さん!どこにいるんだ!」

 教会の周りを叫びながら走ったのだろう。教会の外に出ると雨に濡れてずぶ濡れのバリーさんがいた。


「バリーさん!おばあちゃんが見つかりました!トイレで倒れてます!」


「本当か!!分かった!すぐ行く!」

 

 二人で地下へと急ぐ。


 しかしバリーさんは階段の前までたどり着くと急に立ち止まりこちらを振り返った。


「どうしたんですか!?急がないと!」


「いや、なんとなくだが分かってしまった。母はトイレのどこに倒れてたんだ?」


 なんでそんな事を?何を言ってるんだろうこの人はこんな状況で何を。


「何を言って…」


「答えてくれ!」


「と、トイレの入口の扉に座り込んでもたれかかっているみたいです…足は見えたんですが重くて少ししか開かなくて、声もかけたんですけど反応が…」


 バリーさんは天井を見上げていた。バリーさんの目から大粒の涙が溢れ頬に伝わる。

「ウィル君。ウィル君は…ウィル君は間違ってなんかいない…もしもなんてのは詭弁だ。」


 僕には理解できなかった。もしもってなんだ。そんなことよりおばあちゃんが倒れてるんだ早く行ってあげないと。


「バリーさん!話はあとです!おばあちゃんが倒れてるんですよ!?早くバリーさんが行ってあげないと!」


 バリーさんは涙を拭いながら顔を振る。


「君は本当に優しくて純粋な子だ。だがもういいんだ。」


 バリーさんの涙は止まらない。なのに彼は微笑んでいる。こんな、こんな悲しい笑顔は見たことがない。


「…私は下へは向かわない。ここでお別れだウィル君。私はこのまま父を探しに行くよ。君たち家族には世話になった。

どうやら先ほどからずっと爆発音は聞こえない様だしそろそろ救助隊も動き出す頃だろう。見かけたらここの場所を教えとくよ。」


 そう言うとバリーさんはすれ違い様に僕の肩を叩き過ぎ去って行く。


「バリーさん!!僕には分からない!何故なんですか!何故会ってあげないんですか!」


 僕は叫ぶ。バリーさんは足を止めたが振り返りはしない。


「これはもう私たち家族の問題だ!!」


 そう言うと再び歩き出し教会の扉を抜ける。雨に打たれるその後ろ姿は酷く寂しそうに見えた。

いま彼を引き止めないともう二度と会えないのだと分かっていても僕の身体は動かない。



 そのまま姿が見えなくなるまで見つめるしかできなかった。


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