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永遠の命で世界を救えたら。  作者: 渡利慶次
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第42話 病室

 終始無言のまま車は走り続ける。別に話すことがない訳ではない。話そうとすればいくらでも話題はある。

だが5分程で到着すると言われたため、キリ良く終われる話がないのだ。

それにこうも狭い空間で銃を向けられたままでは話す気も起きない。

警備兵の方は4名乗り込んでおり、前方の運転席と助手席。そして僕らのいる対面式の後部座席には僕の正面と左隣に座っている。

ミラー長官は僕の左斜め前だ。

 

 この正面の警備兵は視線を真っ直ぐこちらに向け、銃を構えたまま僕の一挙一動を監視している。

流石に正面を向き目線を合わせたまま黙って到着するのを待てるほど僕の心は強くない。

仕方なく視界が空いている右側の窓を眺めるがそちらもそちらで心が痛んだ。

バーンズ・レイモンが通った跡だろうか、所々地面は抉れ数軒の建物は一部が崩壊していた。

軍の人が瓦礫を撤去したり現場検証を行なっているのが見える。

遠目だが遺族と思われる方も数人確認できた。

戦争が始まり避難したあの教会の出来事を思い出し居た堪れない気持ちになる。

大切な誰かを亡くし、悲しみに耽る姿は目に入ればすぐに分かるものだ。

あれほど悲痛な背中はない。


 ミラー長官は人は変わると言った。なら僕は僕を見失わない為に、この時速60kmで駆け抜けて行く景色を。気にするなと、忘れてしまえと言わんばかりに過ぎて行くこの景色を胸に焼き付けよう。

僕が初めて人を救う為に戦い、救えなかった人達なのだから。



 しばらく外を眺めているとカチカチとハザード音が鳴り、車がゆっくりと止まる。


「着いたぞ。」


 助手席、運転席の順番に警備兵が車から降り後部座席のドアが自動で開く。

警備兵の方に促されるまま外に出ると1階建ての黒くのっぺらとした鉄製の扉しか無い小さな建物が視界に入る。

建物の扉の上には申し訳程度の赤い十字マークが取り付けられており、辛うじて病院であることを主張してるようだった。

そうかここは特別な施設だと言うことだ。

地表部分はこれだけで地下に一体どれほどの空間が…。

「ここは軍上層部や政府関係者専用の病院でな。医療環境は我が国でもトップレベルだ。入口はここのみで避難用の出口は各所に繋げられておる。まぁ平たく言うとV.I.P専用だな。」


「そうですか。父をそんな最高峰の施設に…ありがとうございます。」


 当たり前のことだが病院にも格差はある。仕方のないことだとは思うがやはり命は平等ではないんだと突きつけられている気がした。

そしてそこに入ることによりそれを是としている気がして少し心が騒つく。


「さぁ、トミーも君が来るのをきっと待ってる。早く声をかけに行こう。」


「はい。」


 警備兵の方がインターホンを押し、誰かと通話し網膜スキャンをすると最初に上下方向に扉が開閉し、その1m奥に現れた扉が左右に開く。

促されるまま中に入ると床がガコンと鈍い音を鳴らした後下降して行く。

再び何かに着地したような音が鳴り、床が静止すると目の前の扉が開く。

2日前の事件のせいだろうか、慌ただしく駆け回る病院のスタッフでごった返していた。

なんとか脇を抜けて行きエントランスを抜け父の病室と思われる場所まで一直線に進む。


 あと数分後には確定する事実だが、やはりあの強くて優しい。そしてなんでもできてしまう父が意識不明だなんて信じられなかった。

実は嘘で病室のドアを開けるとベットで上体を起こし「少しヘマしちまった。」なんて言いながら僕に笑いかけてくれる姿が脳裏に浮かぶ。

その方が自然だ。そうやって今までやってきたじゃないか。


 段々と近づくにつれ重くなる僕の足取りを無視して警備兵の方達は僕を挟んでグングン進んでいく。


「ここだ。」

 先頭を歩いていた2人の警備兵が立ち止まり1人が上下左右の安全確認、もう1人が扉に異常がないか調べている。


「流石に父と息子の再会を邪魔するほど無粋ではない。私たちは別に君が憎いわけではないからな。君の処遇には同情するよ。だがこちらも仕事だ。申し訳ないが面会時間は15分だけだ。さぁ入るといい。」

 調べ終わったのか後方にいた警備兵も合流し、扉を挟んで左右2人ずつ立っている。

「私もここで待つとしよう。昨日会ったばっかしだしな。トミーも私がいると気が散るだろう。家族4人だけの方が良かろう?」


「はい。そうして頂けると助かります。心遣い感謝しますミラー長官。」

 ミラー長官はドアの向かい側にある簡易的なソファーに座る。

僕はドアに向かって一歩前に進み立ち止まる。


「それと警備兵の方々もここまでありがとうございました。まだ信用するしないの段階ですらないのは存じていますが僕は精一杯頑張ります。帰りもよろしくお願いします。」


 僕の言葉に警備兵のリーダー格と思われる人物が軽く手を挙げる。

「ああ。それが仕事だからな。さぁさっさと行った行った。」

 ぶっきらぼうな言い方だが顔は少し緩んでいる気がする。それを見て自然と僕も微笑んだ。


 さぁ行こう。受け入れる覚悟はできた。もう進むしかないのだから。


 ドアに手をかけゆっくりと左にスライドさせて行く。まず目に飛び込んできたのは見慣れた2人の後ろ姿だった。ブロンドの肩甲骨まである長い髪。そして前より小さく感じるが暖かさも感じる懐かしい背中。アナと母だ。


「お兄ちゃん!!」

 アナが僕の胸に飛び込んできた。

「本当に、本当に心配したんだよ!私言ったよね?これでお兄ちゃんにも何かあったらって…」


「ごめんね、アナ。でもほら!傷一つないし!」


「そう言う問題じゃないよ!ベンは事情聴取、ドリィは検査入院とかなんとかで何が起こったのか全然分からないし……それに……チャドが……目に見えない痛みもあるんだよ?…本当に大丈夫なの?」


 そうかベンとドリィもまだ……。あの日から状況が異常なスピードで進み続け悲しむ暇すらなかった。そうだ。そうなんだ。チャドはもうこの世には…。

僕は酷く冷たい人間なのだろうか。

アナに言われるまで考えようともしなかった。


「ごめんね、アナ。母さん。心配かけました。」


 僕の胸で涙を流すアナ。僕がどれだけ無力なのかを実感した。母も椅子から立ち上がりアナと僕を包み込むように抱きしめる。

母は何も言わなかった。でもこの暖かさは何よりもの慰めだ。気付けば僕の頬に涙が伝っていた。

でもこれも今日で終わりだ。明日からは僕は父のため、そしてこの国の為に非情にならなければならない。

きっといつかこの温もりを思い出さなければならない日が来る。そのためにも強く、強く抱きしめ返した。






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