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永遠の命で世界を救えたら。  作者: 渡利慶次
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第41話 もうひとつの力

「おい!立ち上がる許可は出してない!壁から手を離しすぐに座れ!」


「いい!お前たちは少し下がっておれ。」


「し、しかし。」

 警備兵はお互いに顔を合わせ戸惑っている。それもそうだ。彼らは元帥及びこの部屋の人を守るのが仕事だ。なのに得体の知れない化物が分厚いガラスで阻まれているとは言え、この部屋の最重要人物の目と鼻の先で未知の力を使おうとしているのだから。


「なら!ならせめて私どもを元帥の前に!」

 

 ウォーレン元帥はため息を吐き渋々頷く。

「分かったわかった。まぁ君らの忠誠心を無碍にもできんしな。」


 4人の警備兵は駆け足で僕とウォーレン元帥の間に入り再び僕に銃口を向ける。


「じゃあ見せてくれるかな。」


「はい。」


 僕は鉄の枷を付けられた両手の手の平をガラスの壁に付き、意識を集中させる。


 ミシッ


 静かな部屋に小さな破砕音が響くと瞬く間に分厚いガラスはその形を保てないほどに細かく崩れ塵と化し、その塵さえ目に見えないほど散り散りになり空気に馴染み、やがて何もなくなった。

この間約2秒の出来事だった。

元からこの部屋にガラスの箱などなかったかの様にその僅かな痕跡すら消えていた。


「ははは!素晴らしい!どんなトリックだ!見えないだけか?それとも目に見ぬほど…そうだな、原子サイズまで分解したのか?」


「元帥!危ないので離れてください!!」


 警備兵はあまりのことに自動小銃を持つ手が震えている。

「そのまま椅子に座るんだ。早くしろ!」


 僕は両手を上げたままポツンと取り残されたパイプ椅子に再び座る。

頭では分かっていたしどうなるかも感覚的に分かっていたが実際やってみるのとでは大違いだ。

それに少し疲労感がある。やはり無限に使える力ではなさそうだ。


「いえ、恐らくですが消滅です。比喩ではなく文字通り消え去った様に感じます。実際どうなのかは調べてもらわなければ分かりませんが。」


「ふむふむ。なるほど。この力なら他の連中を確実に仕留め得るんじゃないか?例え再生能力があろうとここまで完全に消滅できるなら流石に体の再構築など不可能だろう。」


「それはどうでしょう。実際試してみなければ分かりませんが。あと、この身体になってから違和感があります。目が覚めてからまるでこの身体が自分ではない様な…説明し難いのですが体の中に一つの点が存在している感覚があります。」


 ウォーレン元帥は徐ろに立ち上がり今日1番の笑顔を見せる。

「つまりそれが本体………なるほど。その点を壊せばやつらを倒せる可能性があると。つまり君の場合、敵の全てを消滅させるかその一点を消滅させるかすれば勝てるんだな!正にやつらを倒すための力の様じゃないか!ははは!期待以上だよ君は!」


 そう。元帥の言う通りだ。都合が良すぎる。出来すぎている。これは現実だ。やはりおかしいのだ。何故謎の男は僕にこんな力を与えた?普通は自分より強い力、ましてや自分を殺し得る力など他人には与えない。

味方じゃないなら尚更だ。


 謎の男は僕がこんな力を手に入れると知っていたのか?それとも知らなかった?

そもそも何故父を狙い僕を生かしたんだ。これは偶然ではない。父とバーナード博士は確実に標的だった。バーナード博士は殺され、父は意識不明…状況から見てトドメを刺せた筈だ。なのに……この差は何だ。

この部屋に来るまでにバーナード博士やここ数日の父の行動をミラー長官から聞いた。

そこから導かれるもっともな理由は……口封じか?なら何故中途半端に生かし…そもそも父から全てを聞いているミラー長官が無事なのだから口封じ自体も中途半端じゃないか。

父は他の理由で狙われたのだろうか。


 それにあの夢も気になる。あれは現実だったのか?だとしたらあの声は一体。

 …たしか……

『神に近づかんとする者よ、お前は何を求める。 さぁ見せてみろ。お前をお前たらしめる心の奥底ににある感情を、願いを、そして魂を。』

…と問われたはずだ。

神に近づかんとする者……こんな言い回し自分が神だとでも言っているようなものじゃないか。

仮に僕の『人類を救える人になりたい』と言う願いが届けられ、この力を授かったならこの神はとんでもなく場当たり的な発想しかできない無能だ。


 僕以外の化物に対しては最も有効的な力であるのは間違いない。

…だがこの力を使い奴等を倒し、戦争を早く終わらせたとしても人類の抱える問題は何一つ解決できていない。元の日常に戻るだけだ。大きな傷跡と憎悪を残して。

そして数年も経たずして再び同じ過ちを繰り返すだろう。決着がつくまで。その前にこの星が滅ぶだろうが。

この力を与えた神は一体何を考えているんだ。

こんな力では人など救えなどしない。

寧ろ神の名を語る悪魔が僕の願いを嘲笑うように真逆の力を与えたと言う方が納得がいく。


「大丈夫かい?ウィリアム君。」


 考え事をし過ぎていたみたいだ。気付けば部屋のざわつきは無くなり皆僕に視線を向けていた。


「すみません。少し疲れただけです。」


「うむ。そうだな。今日はここまでだ。今後の活動や作戦は後日話すとしよう。ミラー長官!」


「はい。」


「彼に地下牢で1番大きな部屋を与えよ。家具や家電など生活に必要な物は全て運び入れて良い。」


「了解しました。元帥殿。」

 ミラー長官はそう言って席を立ち上がる。


「ウィリアム君。すまないが君をまだ完全に信用した訳ではない。当面の間は主に地下で生活してくれ。警備の者が同行するのが条件だが面会や外出も随時許可するので安心してくれ。」


「分かりました。安心してください。もう自分の立場と言う物を理解したので。それで早速なのですが父とは面会できませんか?」


「…うむ。そうだな。まずそれが第一だろう。分かった。ミラー長官と警備兵はそのまま同行してやってくれ。」


「はい。」

「了解しました。」


 僕も席を立ち上がり周りの方に一礼して柩を返す。

警備兵の方が鉄製の両開きの扉を開けミラー長官と共に部屋の外に出る。

しばらく長い廊下を歩くとミラー長官が口を開いた。


「ウィル。私は君が心配だ。この2日間での君の心境を思うと…友を一人亡くし、父が意識不明。そして突然、訳もわからないまま力を手に入れた。

君は君のままだと言ったがそれは違う。経験や記憶が人という物を形成する。

自分では気付かぬうちに人は変わるものだ。

変わることは悪ではない。だが変わらないことも大事だ。心に嘘を吐き続け行動と感情に矛盾が生じた時には今日の君の言葉を思い出すといい。それが信念と言う物だ。

何度も言うがどんな状況になろうと私は君の味方だ。何かあったらすぐ言うんだぞ。隠し事や嘘はなしだ。分かったな?」


「はい。ありがとうございます。」


 隠し事…唯一言ってないのは目覚める前の夢の話だ。今思うと確実にあれが何か影響している。

だがこんな話誰が信じる。経験した僕自身が半信半疑なのに。

それに神を信じる者は減少傾向にある。滅亡に瀕しも尚、救いの手を差し伸べない神より人類の培ってきた科学を信じる者の方が圧倒的に多い。

冠婚葬祭などの行事や祭り事には未だに宗教絡みが多いが長年の風習として根付いているだけで形だけのお遊びに過ぎない。


 この先戦うことになる僕と同じ化物。そして必ず再び出会う事になる謎の男。僕が生き残り進み続ければ彼らから何かしら情報は得られるだろう。これ以上考えても無駄だ。ひとまずこの話はここで終わりにしよう。




 どのくらい無言のまま歩いたのだろう。気が付けば正面玄関前まで来ていた。

「玄関前に車を回してある。車に乗れば病院までは5分とかからないだろう。アナ君やデイブ、そして君の母も待っているようだぞ。」


「そうですか。それは良かった。」


 警備兵が扉を開けると陽の光が一気に射し込む。

一体何ヶ月ぶりだろう太陽を見るのは。一日中地下に居たせいもあってか、やけにキラキラと眩しく感じる。

「この戦争の影響だろう。ここ2日前から雲一つない晴天でな。目が眩むようだろう。さっさと車に乗るとしよう。」


 ミラー長官が外へ一歩踏み出しそれに続いて僕も光りの中へと歩き出す。


 やはり僕はこの神が嫌いだ。

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