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永遠の命で世界を救えたら。  作者: 渡利慶次
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第40話 議会

「ウィリアム・オブライエン連行しました。これより入廷します。」


 鉄製の巨大な両開きのドアが開けられ中へ促される。両手足に付けられた重い鉄の枷のせいでぎこちないがゆっくりと、だけど確実に小さな歩幅で歩き出す。

それに合わせて僕を取り囲む4人の警備兵も前に出る。勿論照準は僕に向けたままだ。


 中に入ると真っ白な壁に真っ白な天井。コの字型にきれいな彫刻が施されたテーブルが設置されており、恐らく軍や政府のお偉い様方だろう。10人程が僕を注視している。表情はあまり良いものではない。そしてこの部屋にはあまりに不釣り合いな無機質な分厚いガラスの箱が中央に置かれており警備兵に催促されその中に入る。


 中に入りドアを完全に施錠したのを確認すると警備兵はドアに空けられた小さな穴に銃口をを差し込み引き金に指をかける。真っ平らなガラスの箱に何故穴が空いてるのかとは思ったがこういうことか。

きっと変な動きをすれば射殺して良いとの命令が出ているのだろう。

今の僕が銃弾で死ぬとは到底思えないが。これも彼らにとっての一つの安心材料なのだろう。


 正面の真ん中に座る髪が完全に白く染まり無精髭を生やした60代くらいの男性が最初に口を開く。

「初めましてウィリアム・オブライエン君。私はこの国の元帥…まぁ要するにこの国の軍で一番偉い人物だ。名をブラッド・ジョー・ウォーレンと言う。」


「初にお目にかかりますウォーレン元帥。」


「まぁそんな固くならなくてもよい。とりあえず椅子に座りたまえ。」


 僕は言われた通りこのガラスの牢の中央に置かれているパイプ椅子に座る。


「さて、なにから話そうか。」


 僕が座ったのを確認してミラー長官も1番端の席に座る。

「うむ。全員聞く姿勢になったな。まずは君の今の心境について聞こうか。」


 ウォーレン元帥はそう言って少し微笑む。


「単刀直入に聞こう。君はバレンチア帝国の味方か、それとも敵かな?」


「分かりません。今回の件で久しぶりに1人で考える時間ができました。父の教えや母の願い、そして周りの願望。僕はそれに応えるべく正義と言うものに他人より考え、触れる機会が多かった様に感じます。その上で理想を語れば誰にも殺し合って欲しくない。だけどそれはもう無理なところまで来てるのは承知です。」


「うむ。そうだな。私たちも今でこそ侵略者に成り下がったが数年前まで我が国も同じ考えだったからな。何故そうなってしまったのかも理解はしてるかな?この人類の業も含め。」


「はい。理解してます。」


「愚かと言う言葉で片付けられる話でもないが人は生きている限り生にしがみ付くものだ。いずれ死ぬことを理解していてもな。自分の命と関係ない知らない国の人の命を天秤にかけた場合は尚更だ。」


「はい。そうですね。でもそれを語って僕に何を言いたいのですか?」


「ははは。君は察しがいいな。まず先に言っておく。これは脅しではない。第3者の目線で聞いてほしい。」


 第3者の目線…ああ、そうか。嫌な予感はこれだ。


「我が国は早くこの戦争を終わらせたいのだ。侵略者に成り下がったとは言え無駄に命を奪いたくはない。それに誰が糸を引いているかも分からないがこの間引きを匂わせるこの戦いは癪に触る。私達も人類が生き残る道を捨てたわけではないからな。」


 噂では聞いていたがやはり間引きの様なものなのかこの戦争は。そして嘘か本当かは分からないが元帥はこの件に関わってはいないと…。


「それでだ。君には我が軍を助けて欲しい。まだ確定ではないが敵の連合軍にはバーンズ・レイモンやその謎の男、そして君のような人類を超越した力を持つと思われる人物が複数確認されている。そして君は味方では初だ。こちらも感情エネルギーの出現により個人で圧倒的な武力を持つものも現れているため完全に押されている訳ではないがやはり心許ない。ミラー長官から君と言う人物をおおよそは聞いている。君の理想とはかけ離れてはいるがこの戦争を一日でも早く終わらせることが人類を最も多く助ける手段だと私は思う。元々敵側の連合軍とこちらでは圧倒的な軍事力の差がある。やつらさえ落とせればこの戦争はすぐ終わるんだ。」


「なるほど。理解しました。」


 ウォーレン元帥は目の前に置かれていたカップを口にする。


「ただ。あなたたちは僕のことを完全に信用はしていない。回りくどい話はもういいのでハッキリしましょう。僕に一体どんな枷をはめるのですか?」


 ウォーレン元帥はカップを元の位置に置き少しざわつき始めたこの部屋に咳払いをし静けさを取り戻す。


「そうだな。先ほども言ったがこれは脅しではない。この戦争が長引き負傷者が増えればどうなる?」

 

 ああ、そう言うことか。やっとわかった。これが僕が裏切らない為の枷か。


「勿論治療する。しかしベットの数も医者の数も限りがある。末期患者や延命措置なしで生きられないものは少しずつ切り捨てなければ救える命も救えなくなる。」


 机を叩きミラー長官が立ち上がる。

「それのどこが脅しじゃないと言うのだ!まだ17歳の少年だぞ!意識不明の父親の治療を打ち切られたくなければ前線に立ち大勢の人を殺せと言っているようなものじゃないか!この子にどれだけの業を…」


 ミラー長官。やはりあなたは…


「大丈夫です。ミラー長官。ウォーレン元帥の言った通りです。僕も愚かな人間の1人ですから。知らない誰かより父の命を選ぶだけです。」


「し、しかしそれでは君の心に離叛している。いつかその矛盾に君自身が壊れてしまうぞ!」


 僕はミラー長官の方を向き軽く微笑む。


「選択肢は他にはありませんから。それに地下牢で言ったように僕は僕のままです。人々を救いたいと言う気持ちは変わりません。」


 そうだ。特別扱いなんて間違っている。命は平等だ。父も自分の延命のために誰かが死に他の誰かが悲しむのは良く思わないだろう。

それと同時に父のために僕が前線に立ち人を殺すのも。

これに正しい答えなどない。

もう僕は否応なしにこの戦争の主要人物の1人になってしまった。

僕が戦わなければ大勢の人が死ぬ。

僕が戦っても大勢の人が死ぬ。

そしてどちらを選択したとしても父は死ぬかもしれない。

なら戦うことで一分でも一秒でも長く父が生きられる方を僕は選ぶ。

答えはないと言ったが合理的に考えれば一人の命より百の命。百の命より千の命なのは間違いない。

例え一億の命と父の命を天秤にかけられても僕は父の命を選ぶだろう。

その後父に罵られ失望されようが。

僕の憧れていたヒーローならどうしたのだろう。

あんなものは所詮フィクションだ。きっと両方救ってハッピーエンドなのだろう。

そんなことありえない。そんなものは存在しない。

現実にヒーローが存在し得るならきっと一億の命を選ぶ。

だがそれが憧れていたヒーローなら僕はヒーローになどなりたくはない。

今日初めて僕はヒーローと言うものに疑問を抱いた気がする。


「よし。決まったな。よろしく頼むよ。ウィリアム君。」


 ミラー長官が頭を抱えながら座り、それとは真逆にウォーレン元帥は晴れ晴れした顔で立ち上がり椅子を持って歩き出す。皆その行動に疑問符を浮かべながら眺めているとコの字に組まれたテーブルを迂回し僕の入れられたガラスの箱の前に椅子を置くとそこに座った。


 「ウォ、ウォーレン元帥!流石にそれは危険です!」


「ははは!もう大丈夫さ!これからは親睦を深めなくては。」


 そう言って警備兵やミラー長官などにその場に留まるよう軽く手をあげ僕の目をまっすぐ見て微笑む。


「それに私は再生能力以外の能力とやらに興味津々でな。君にも何かあるんだろう?使い方は分かるのかい?見せてくれないかな。」


 もう一つの能力…。目覚めた時には既に気づいていたがこれのことだろう。不思議だ。ほんの数十時間前に手に入れたはずの力なのにまるで産まれたときから既に持っていたような気がするほど馴染んでいる。


 僕らの弱点。この身体に感じる一つの点。敵も弱点が同じならきっと僕は彼らを殺すことが可能だろう。


 僕はパイプ椅子から立ち上がり僕を閉じ込めているガラスの箱に手を添える。


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