第39話 決意
隔離されて24時間が経過した。外の状況が全く分からない。父はどうなったのだろう。アナや母は大丈夫なのだろうか。
隔離されてから会ったのは朝昼晩と食事を運んでくれる警備兵の方のみで会話はこの地下牢に入れられた時に「君の処遇を上官が今話し合ってる。」と言われたのが最後だ。
それは構わない。こうなる事は察していた。逆の立場になれば僕だってそうするだろう。周りから見れば僕はあの敵と同じ化け物なのだから。
この状況は小説やコミックスでよく見る展開だ。
コミックスなら話し合った結果、僕を全面的に信用しヒーローのように扱うのだろう。だが現実は違う。
勿論あれはフィクションであり、それに正論や現実を叩きつけたところで意味はないが。
実際は皆僕を恐れ信用などしないだろう。確定ではないがバーンズ・レイモンと全く同じなら、きっと僕は四肢をもがれ頭が吹き飛ぼうとも瞬時に再生する。そんなものはもう人間とは呼べない。それをなんと呼ぶかはその人次第だが。
悪魔か化け物かエイリアンか。それとも神か天使かスーパーヒーローか。
どちらにせよ待ち受けている運命は永遠に解剖され続け研究材料にされるか、もしくは裏切られぬように枷をはめての軍事利用だろう。
隔離されている間に色々試して分かったことがある。いや、分かったとは言わないか。違和感だ。どうもあの時あの夢から目覚めてから身体に違和感を感じる。まるでどこか自分の体ではない様な。そして目を閉じ集中すると分かる1つの点。そこに自分と言うものがある気がする。
ベンはその黒いローブを纏った男が液状金属で僕を覆った後こうなったという。何処をどういじったのか分からない。もし脳をいじられているならその男に洗脳されていないとは言い切れない。
しかし今分かっているこの身体に感じる1つの点。これがもしかしたら僕たち化け物を倒すヒントになるかも知れない。
そしてやはり一番気になるのは身体の再生能力以外の力だ。バーンズ・レイモンは高速移動。そして謎の男は体を液状金属に変えられるようだ。2人しか例を見てないから確定ではないが…皆バラバラなのだろうか。そもそも何を基準にしてどう選定されているのか。ランダムなのかそれとも選べるのか。
ダメだ考えれば考えるほどドツボにハマっていく。
「すまない。遅くなってしまった。」
僕はどれ程頭を抱えていたのだろう。気付けば外との世界を遮る真っ黒に塗られた鉄格子の前にはミラー長官が立っていた。
最初に来るのがミラー長官だとは思っていたが素直に喜べない。嫌な予感がする。
「いえ、大丈夫です。」
僕はなるべく気丈に振る舞った。この暗い空気が更に話を悪い方向へと向かわせる気がしたからだ。
ミラー長官は頭を少し掻いた後地べたに座り込む。僕もそれに合わせて地べたに座り目線を合わせた。
「まず君が一番気になってることを話そう。
………トミーは一命を取り留めたよ。」
「本当ですか!良かった。本当に良かった……」
少なくとも一本。胸に刺さった棘が抜けた気がして涙腺が緩む。だが抱えてる問題はまだ沢山ある。僕は両頬を叩き再び話を続ける姿勢をとる。
「それで僕はいつ父と面会できるのでしょう?」
「…君が望むならいつでも可能だよ。ただ。」
「……-ただ?」
「まだ意識が戻らないんだ。医者曰く一生このままの可能性もあると。」
ショックだった。勿論驚き悲しみが溢れる。だけど何故か冷静な自分がいた。覚悟していた…いや…知っていた?…違うな。表現の仕方がわからない。
ただ自分が酷く冷たい人間になってしまった様に感じてしまう。
「そう……ですか。」
僕は俯く。こんなに悲しいはずなのに涙は一滴も溢れてこない。
「なるべく早く面会できる様に手配しておくよ。
トミーも君が来てくれた方がきっと回復も早くなる。」
「ありがとうございます。ミラー長官。それでアナと母の様子は…」
「ああ、今はデイブが付いててくれてる。あの子は優しく包容力のある子だ。」
「そうですね。デイブが付いててくれるなら僕は安心です。」
ミラー長官は地面に両手をつき立ち上がる。
「さて、ここからは私は帝都第4支部長官として君に問う。」
ミラー長官の表情が重々しいものに変わる。
「君はあの日、所属部隊を決めた日に『現在進行形で傷つこうとしてる人を救いたい。』と私に言った。君はあの時のままかい?」
あれが夢だったのかどうなのかは分からない。だがあそこであの声に対して願った事は間違いなく心の底からの僕の気持ちだ。例えどんな状況だろうとこれからどんなドン底に叩き落とされようともその願いは変わらない。
「はい!僕は僕のままです!」
ミラー長官の口角が少し上がる。ここへ来てやっとミラー長官の顔が緩んだ気がする。
「いい返事だ。やはり君はトミーの息子だな。」
ミラー長官は通路の端に立っていた警備兵に声をかけ牢を開けさせる。
「これから軍の上官が集まる中で君のこれからに対して最終的な決定をする。」
「はい。」
「だが他の連中は臆病でな。すまないが1階に上がり次第拘束具を両手足に付け、特殊な防弾ガラスの箱に入ってもらう。私は大丈夫だと言ったんだが。」
僕は軽く微笑む。ミラー長官が僕のことをとても気に掛けてくれてるのが純粋に嬉しかった。
「いえ。問題ありません。それで皆が安心して話を聞いてくださるなら。」
「ありがとうウィル君。これから会議室へと向かう。君はそこでありのまま、今分かっていること全てを語りなさい。少なくとも私は君の味方だ。」
「はい!」
牢のドアが鈍い音を響かせ開かれる。
僕は警備兵4人に銃を向けられながらも一歩前へ出る。大丈夫。僕は僕のことを。そしてミラー長官を信じるだけだ。




