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永遠の命で世界を救えたら。  作者: 渡利慶次
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第38話 目覚め

 ここはどこだろう。目に映る全てが真っ白で、暖かくて、なんだかとても懐かしいような。

……そうか。これが幸せな気持ちと言うものなんだろう。でもなんで僕はこんな所に…。

今まで何をしてたんだっけ。




………………。




 そうだ、僕はバーンズ・レイモンを追っていて……。

…思い出した。最後に見たのは右腕がもぎ取られ噴き出す僕の真っ赤な血。

そっか。僕は死んだのか。でも死がこんなにも暖かいなんて…。

チャド…ベン…君たちもこっちに来ちゃったんだろうか…。

離れていたドリィは上手く逃げられただろうか。


 結局僕は父と約束してから誰一人助けられなかったな。



…父さんは助かったんだろうか……。

それとも……もしダメなら…………。



 いや、何を考えてるんだ。あっちにはアナも母さんもいる。生きている方が幸せに決まってる。こっちで一緒になんて…。





 ドクン。



 なんだ?なんの音だろう。僕は上を見上げる。なんだろうあれは。この真っ白な空間にまるで黒い塗料を零したような。


 なんだ?急に寒気が……怖い。あれが何かは分からないけど…なにか…良くないものだと言うことはすぐ分かった。


 絶望だ。あれは。


 ……そうか。僕は地獄に行くのか。


 おじいちゃんやおばあちゃん。そしてバリーさん。あそこでなにがなんでも引き止めないとどんな結果になるか分かってたはずだ。

…ほら。また目を逸らして言葉を濁してる。結果じゃない。僕はバリーさんを諦めたんだ。

分かってたんだ。あの時バリーさんがこの世界に絶望してしまった事を。引き止めなければきっとバリーさんも自殺してしまうと。なのに僕は…


 白い世界はどんどん黒のそれに侵食されていく。


 これは目を背けた僕への罰なんだろうか。



 ドクン。




『神に近づかんとする者よ、お前は何を求める。 さぁ見せてみろ。お前をお前たらしめる心の奥底ににある感情を、願いを、そして魂を。』



 誰だろう。僕の心の奥底?願い。魂…。生まれ変わったらと言うことだろうか。なら…


「もし、もしも生まれ変われるなら僕は…

僕は友達を、家族を、そして人類を救える人になりたい!!」


………………。



 僕のその言葉に返事はない。願いは聞き入れて貰えたんだろうか。これは心からの僕の願いだ。どうか、どうか…きっと。


 黒く、黒く染まっていく。もう白という物がなんだったのかも思い出せないほど。

完全に染まりきってしまった。でもこの地獄を耐えればいつか再び…



『ウィル!ウィル!!』


 

 誰だろう?さっきの声とは違う。聞き覚えのある声だ。


『ウィル!起きて!ウィル!お願いだから目を覚まして!』



 真っ暗な世界に一筋の光が漏れる。そうだ。僕は行かないと。あの声がする方へ。

僕は走る。走って、走って。

光がどんどん広がり僕はその光に包まれて……



「ウィル!!」


 目の前には僕の顔を覗き込むドリィとベンがいた。そうか、僕は夢を…。


 両手を地面につき、上体を起こし辺りを見渡す。右側を見ると血の水溜りができていた。あれ?右手はある。なのにこれは一体…。

理解が及ばず混乱しているとドリィが僕の胸に飛び込んできた。


「よかった。本当によかった……。」

 ドリィの目からは涙が溢れていた。それを見てベンも少し泣いているように見える。

僕が意識を失ってる間になにがあったんだろう。

まずは状況を把握しなきゃ。

僕はドリィの背中をさすってあげ、ドリィが落ち着くのを待つ。

「大丈夫だよ。二人ともありがとう。」


 ドリィは微笑みながら僕から離れた。顔は少し赤らめている。


「それよりバーンズはどうしたの?それと最後の記憶だと僕の右手は……。」


 自分の右手を見つめ手を握り締める。これは確実に僕の手だ。じゃああの血溜まりは…最後に見たバーンズのいた位置に視線を向ける。

そこにはあってはならない物が転がっていた。急に湧き上がる吐き気を抑えながらもそれに目が釘付けになってしまった。そうだ。あれも僕の右手だ。


「大丈夫だ。あいつらはもうどこかに行った。」


 ベンはそう答え、続けて僕にこれまでの経緯を教えてくれた。








「………ってことで後からきた男がドリィの何かのデータを取るって言ってドリィの頭を液状金属で覆ったんだ。2〜3分だったかな。終わったらドリィも意識を失ってて。」


「そっか…ごめんね。僕のせいでみんなを危険に…ドリィは大丈夫なの?」


 ドリィは綺麗な銀髪の上から頭を触り異常がないか確認する。

「大丈夫みたい。頭を覆われてる時はものすごい頭痛だったけどすぐ意識をなくしちゃって。気付いたらついさっきだったし。今のところ後遺症?みたいなのも無さそう。」


「そっか…一先ずはよかった。でもドリィのなんのデータが欲しかったんだろう?帰ったら身体に異常がないかもそうだけど色々調べないとだね。」


 ドリィは頷く。


「じゃあ続けるぞ。んでこっちに来たと思ったらウィルの身体をその男がまた液状金属で覆ったんだ。こっちも2.3分でウィルから離れて、したらまるで魔法みたいにウィルの身体が綺麗に治っていった。いや、違うか…治ってたと言うよりあいつらみたいに再生していったんだ。」


「…そっか。じゃあ僕もバーンズみたいな…化け物に…」


「化け物なんかじゃない!私たちはあなたを知ってる。ウィルはウィルのままだよ!」


 ドリィはそう言って僕に微笑みかける。


「ありがとう。でも僕も帰ったら色々調べてもらわないと。あいつらを倒す手掛かりが分かるかもしれない。そう言えばバーンズもあの身体になって1時間も経ってないって言ってたよね?僕は見てないけどその男が裏でなにか暗躍してるのは間違いなさそうだ。」


 ベンは頷く。


「そうだ!チャドは?チャドはどうしたの?」


 ベンは少し右の方を向き俯く。ベンの視線の先を見るとチャドは横たわっていた。


 僕はゆっくりと立ち上がりチャドの元へと向かう。目は閉じられ手が胸の上で組まれていた。

こうしてみるとただ眠ってるように見える。だがお腹にぽっかりと空いた穴がそうではないと訴えている。

「チャド…ごめん。きっと。きっと仇は撃つから。」




「おい!お前ら大丈夫か!」

 後ろを振り向くときっと正規隊員の人達だろう。10人ほどがいつのまにか現れていた。

正規隊員の人たちは僕ら一人一人に視線を向け最後にチャドが横たわっているのを見つけ俯く。

「ここで戦闘があったんだな。おい。救護班を呼べ。」


 その言葉に一人の正規隊員が少し離れて無線を飛ばす。

「……死者1名。負傷者3名救援を………」

 僕らに気を遣って小さな声で伝えられたその言葉が僕にはとても重くのしかかった。これが僕達の初めての戦闘の結果だ。死者1名。負傷者3名。ただの数字として表された結果に後悔の念が心の深くに突き刺さる。


「おい!お前らこれは一体…。」

 正規隊員の一人が地面に転がる右手を見つけたようだ。

「これはバーンズの物か?」


 ベンが少し面倒な顔をしたあと前に出る。

「俺が説明してくるから二人は少し休んでてくれ。」


「ごめん。ベン。ありがとう。」








 …なんだってんだ。ウィルもドリィもそれにチャドまで。俺だけが特別じゃないってのか。

ウィルを助けた後この場を去ろうとしたあの男に俺はチャドも救ってくれと懇願した。

しかし男は「残念だけどもう死んでる人間はどうにもできないよ。惜しい男を亡くした。彼はもっと…いや、もう過ぎた事だな。」と言った。

そして去り際に「ウィルとドリィによろしく。そう遠くない将来また会うだろうから。何もできないベンジャミン君にも伝言係くらいできるよね?よろしく。」と………。クソッバカにしやがって。

あいつは何を知ってるんだ。何故俺だけ。俺だけが……。


 だけどあいつの言う通りだ。俺は最大のチャンスを逃したのかも知れない。あの渡された箱にはもう一本注射器が入っていた。どうなるか分からなかったからそのまま返したがその後ウィルがバーンズのように身体が再生して行くのを見て後悔した。あれさえ。あれさえ俺も打てば特別な存在に…。

そこからはあまり覚えてない。口が勝手に動き気付けばウィルとドリィに嘘を。俺は最低だ。

だがもう取り返しがつかない。一度吐いた言葉はもう…。

 そうだ。これで注射器の存在を知ってるのは俺だけだ。あの男は近い将来再び会うと言っていたじゃないか。このままこの班に所属していれば必ずあの男とぶつかる。少なくともあと一本はあるんだ。なんとかしてあれを手に入れれば。


「ベン!ベン!!ベンってば!!」


 ウィルが呼ぶ声に我に帰る。そうだ。俺は特別な存在に。それまでは悟られぬようにしなくては。


「ごめんごめん!どうした?」


「救護車両が着いたみたいだよ!」


「そうか!悪い!今行く!」


 屋上から道路に降りると2台の車が停まっていた。


「ベンジャミン・ヒルとドロシー・ワグナーはこっちだ。ウィリアム・オブライエンはこっちに乗ってくれ。敵の手によって再生したと言う右手の件もある。どんな異変が起こるか分からない。申し訳ないが少しの辛抱だ。一応隔離しろとの上官命令だ。」


「ちょっと!何勝手な事を!ウィルは平気よ!」


 ドリィが庇うように叫んでくれたがそれをウィルは手を前に出し抑える。


「大丈夫。ありがとうドリィ。またすぐ会えるから!」



 こうして初の戦闘は終わりを迎えた。非道で残酷な結果だけを残して。


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