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永遠の命で世界を救えたら。  作者: 渡利慶次
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第35話 会敵

 僕らは基地を抜け西の再開発地区へと走る。

ここからは住宅地だ。元々この地域に住んでいた人は徴兵をうけてもここに住み続けているため人が多い。


「闇雲に探してもきっと見つからない。脱獄犯が行きそうな場所ってないのかな?」


 ヘッドギアの通信機能を使って問いかけるが返事は芳しくない。


「チャド!お前隣町の出身じゃなかったけか?」

 ベンが問いかける。

「そうだけど脱獄犯の気持ちなんてわからないし…」


「うーーーん。あ、ヘッドギアの生体反応はどーだろ?」

 

「だめじゃないかな?あくまでヘッドギアを付けてる人が青、付けてない人が赤で表示されるだけだからここには今避難を開始したばかりで混乱してる住人も大勢いるし赤マークだらけでどれが脱獄犯かなんてわからないよ。」


「そっか……」

 ドリィは僕の隣で肩を落とす。


「いや、まてよ。」

 前を走っていたベンが急に立ち止まる。

「教官が異常なスピードで目的を果たして基地から逃走したようなこと言ってなかったか?」


「なるほどね。でもそれって言葉通りとてつもなく速く動けるってことなのかな?」


「どうだろ、15分でってのは確かに速いけど緻密に計算して強力な武器もあれば出来なくもない気はする。」

 チャドの言う事は一理ある。ベンの考察通り、ただ単に速く動けるだけなのだろうか。


「まぁ確かにそうだな。」

 ベンはうーんと唸り声を上げながら必死にどうするべきか頭を抱えている。

「でもこのまま走り続けても運次第だ。例えバズれだったとしても試してみる価値はあるんじゃないか?」


 確かにその通りだ。ならここは…


「分かった!ヘッドギアのMAP機能はたしか半径500mだったよね?一度ここから四方に広がってお互い500mの距離を取りつつ探すのはどうだろう?」


「おっけー!!」

「了解!」

「よし!分かった!」


「じゃあ確認するよ?見逃しがないようにちゃんとMAP機能の範囲を交わらせるようにして西方向へ進もう!赤マークは沢山あるけど変な動きをしてるのを見逃さないようにね。なにかあったらすぐ連絡!もし敵に見つかったら中央に逃げてみんなと合流!これでいいかな?」


「「「了解!!」」」


 各々が配置へと急ぐ。ここからは道路に沿ってだと真っ直ぐ進めなくなるため反重力システムを使い建物の屋根へと登る。


「みんな位置についたね。じゃあ進むよ!」


 皆一定の速度で進む。警報を聞いた住人達が避難を開始しているため赤い反応はそこら中でひしめきあってる。


「赤マークがそこら中で動き回ってるしこれじゃあやっぱり難しいかな?」


「いや、仮説が正しいなら絶対に変な動きをしてる反応があるはずだ。」


 僕らは一定の距離を保ちつつ再開発地区へと進み続ける。


「あれ?」


「どうしたチャド!」


「ちょっと待ってね………やっぱりそうだ!」


「見つけたのか!?」


「もしかしたらただのバグかも知れないけど反応が消えて西方向に急に現れる赤マークがある!」


 なるほど、ベンの仮説が合ってるのかも知れない。だが人口衛星が追えないほどの速度だとでも言うのだろうか。


「よし!とりあえずチャドに合流しよう。チャドはそのまま反応を追って!」


「了解!!」




 


 チャドと合流し、最初に口を開いたのはベンだった。

「で、どの反応だ?」


「あの向かって右斜め前の5つの反応が集まってる内の1つだよ!あ、今2つ消えた。」


 チャドの言葉と同時に残りの3つの反応が四方八方へと動く。

そしてその反応も消え少し離れた場所に赤い反応が再び現れる。

「おい、まさか。」


 そうだ。反応が消えるなんて一つしか理由がない。殺されたんだ。

目視ではまだ確認できていないが助けられるかも知れなかった命が失われた事に後悔の念が押し寄せる。


「みんな急ごう!これ以上被害者が増える前に!」


「私が正規隊員に連絡しておく!」


 反重力システムをフルで使い現場へと急ぐ。

赤の反応は歩いているのかゆっくり進み続けている。沸々と怒りが湧き出てきた。


 逃走中に邪魔をされたならそのまま走って現場から逃げるはずなんだ。

なのにこいつはゆっくり進んでる。

こいつはきっとただ通りすがりに人がいて気まぐれで命を奪ったんだ。許せない。




「おい!止まれ!脱獄犯だな!」


 ベンがエモーションビロウィを構えつつ怒鳴る。

道路を歩いていたオレンジ色の囚人服を着た男は面倒臭そうな顔をして振り返った。

 

 その姿に僕らは言葉を失う。

男に両腕はなく足は皮膚が剥がれ真っ赤に染まっていた。

そして足に皮膚が張り巡らされ何もなかった腕から骨が生え、血管が這って行き、筋肉、そして皮膚。最後にオレンジ色の布まで再生していった。

僕らの足は完全に止まりその様をただ眺めることしかできなかった。


「みんなどうしたの?もう脱獄犯と接触したんだよね?なんで無言なの?」

 正規隊員に連絡を取っていたためまだ後方にいるドリィからヘッドギアを通じて声が届く。


「やばい、身体が再生しやがった。化け物だ。」



「化け物は心外だな。これでもまだこんな身体になって1時間と経ってないんだが。」


 どう言う事だ?こんな身体になった?


「ドリィ!ハンブルブラッグのスコープでこっちの様子は見える?」


「うん!今確認した。」


「了解!そこから援護をお願い。」


「おいおい。折角会話でもしてやろうと思ったのに無視してんじゃねえよ。」

 男は不機嫌そうにこちらを睨み付ける。


「抵抗しなければ無闇に傷つけたりしない。大人しく捕まれ。」

 ベンは決まり文句を口にするがそんな事に応じる相手ではない事くらい分かっている。


「はははは!お前面白いな!殺すのは最後にしてやる!」


 そう言い切った次の瞬間に男は消えていた。一体どこに…。


「ゴホッ……なん……ガハッ……だ……これ…」


 その声に右を見るとチャドの腹を男の右手が貫いていた。


「チャド!!」


「ク………ソッ……」


 チャドは腹を貫通した手を左手で掴む。

右手のエモーションアンビヴァートからは今まで見たことのない半透明で紫色の感情エネルギー体が出現していた。

もう意識が朦朧としてるからなのか、そのエネルギー体は辛うじて包丁の様な形をしていたがノイズが入り乱れ今にも消えてしまいそうだ。

しかしチャドはそれを貫通した男の右腕に振り下ろす。


 男は苦痛な表情を一切見せずに切られた右腕を眺め数歩後ろに下がる。まるでトカゲの尻尾切りの様だった。

「お前、さっき俺が腕を生やしてたの見てなかったのか?」




 僕とベンはチャドの元へ一気に駆け寄り2人で担ぐ。

「とりあえず距離を取る!ドリィはそのまま監視を!確実に当てられる時以外撃たないで!居場所がバレたら確実に狙われる!」

 

 僕とベンはチャドを担ぎ反重力システムをフルで使いこの場から離れる。

近くで見るとやはりやばい状況だ。男の右手が栓の代わりになってなんとかなってるが…どちらにせよもう長くないかもしれない。


「了解。チャドは大丈夫なの?」


「分からない。やばそうだ。」


 男は追いかけてこないでこちらを見てニヤニヤ笑っている。なんだ?


「いいことを教えてやろうか?私の身体は私より一定の距離を離れると消えるから気をつけろ。はははは!」



 消える?どう言う意味だ?その言葉を理解するのにはあまりに時間がなさすぎた。

今はビルとビルを飛び越えている真っ只中だ。

空中では止まることも引き返すこともできない。

もうそのままビルに飛び乗る以外の選択肢がない。

なのに『身体が消える』の意味が分かったのはその時だった。

 

 チャドのお腹を貫通していた男の右腕が消えていく。何か見えない境界線でもあるかの様にその位置を越えると垂直線上に消えていく。

こんなにスローモーションに見えたのは初めてだった。指先、手の甲、手首、そして前腕。

その先からは酷かった。チャドのお腹に空いた穴は栓を失い血が噴き出る。

ビルに着地する頃には僕らは赤く染まっていた。


 ベンは僕の方を見る。目がしっかりと開けられ怒りなのか悲しみなのか何も言わない。ただ少し頷くとそっとその場でチャドを床に寝かす。

とっくに死んでいた。

僕の判断ミスなのだろうか。


 男は辛うじて見える距離まで離れている。だが何をしているかは分かる。あの男は僕らを指差して笑っていた。


 ベンは顔を拭い僕の方を見る。

「どうする?」


 僕が返事をする前にベンはそのまま続けた。


「俺はこのまま逃げるなんてごめんだ。それに逃げても確実に殺される。どうせ死ぬなら戦って死ぬ道を選ぶ。」


「ああ、そうだね。分かった。覚悟を決めよう。」


 チャドごめん。仇は必ず取るから。僕はエモーションシニックを構える。


「僕が前に出る。奴の言葉を信じるならベンは最後だ。そして居場所のわからないドリィと僕なら僕を狙うはず。ベンは援護をお願い。ドリィはそのまま隠れてて。いざと言うときはお願い。正規隊員が来るまでなんとか時間を稼ぐよ。」



「……了解。」


「ああ。了解。後ろは任せろ。」



 

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