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永遠の命で世界を救えたら。  作者: 渡利慶次
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第32話 トミー・オブライエン

 −地下1階通路−


 流石にこのまま逃してはくれなそうか。ヘッドギアの通信機能は壊されていたようで誰かに連絡しようとしてもノイズ音しか聞こえない。

呼吸を整えつつ後方を確認すると銀色の軟体が壁を伝ってこちらに移動してきていた。

速度は格段速いわけではないが…身体の再生能力があり液状金属に変化できる奴にスタミナの概念なんてあるのだろうか。

…まぁ少なくともこの老いぼれよりあるのは確かだろう。

そろそろ条件の良い場所を見つけなければまずいか。


 それに武器も調達しないとまずい。今はエモーションシニックしか手元にない。

確定ではないが8m〜10m以内が間合いの相手に最大射程3mは流石に短すぎる。こちらが1人じゃなければシールド性能もあるため有用だがあの男の攻撃は速すぎる。全て掻いくぐり懐へ潜り込めるとは到底思えない。仮に潜り込めたとしても一撃で倒せる保証はない。だが防いだり避けてるんだ、必ず弱点があるはずだ。



 走り続けると十字路に差し掛かる。

案内板には左が仮想訓練場。右には格技場。正面は階段と武器庫となっていた。普通に考えれば真っ直ぐだが…ツッ。

こめかみを抑える。

どうやら違うらしい。なら格技場か。そこそこ広く、運が良ければ何らかの武器も置いてあるかも知れない。


 それにしてもここに来るまで人っ子一人見かけなかったがここ以外で何か起きてるんだろうか…。


 そうか、バーンズの脱獄は当たってたのかも知れない。この男が何か裏で手引きして、大きな…ここより目立つ事件を起こしてる可能性は高い。バーンズは囮として使われたのか。


 重厚な両開きの木製のドアを開け中央へ向かう。何か武器は………。

あった。エモーションアンビヴァートだ。グローブの形をしたそれが左隅の壁に数組かかっているのを見つけた。

肉弾戦の練習に用いたものだろうか。


 しかしエモーションシニックかエモーションアンビヴァート、どちらかしか持てないのか…。

ヘッドギアの演算能力の問題で一つしか感情エネルギーの供給ができないらしい。他の装備に変える場合、持ち替えてから約1分程ラグが発生するとの事だ。戦闘中の1分は流石に長すぎる。

使い慣れた自動小銃があると嬉しかったが仕方ない。

少し考えエモーションアンビヴァートを装着する。こちらの方が応用力が高いし範囲もエモーションシニックよりは長くできる。


 私は中央へ戻り呼吸を整える。奴が来ればもうどちらかが倒れるまで戦いは終わらないだろう。


「いいねえ。いいねえ。」


 男が入り口から歩いて入ってくる。


「適切な場所選びに…」

 

 男は私の手を見てニヤリと笑う。


「…もう武器の調達もしたのか。こちらもやりがいがあって嬉しいよ。」


 男が両手を広げると見る見るうちに全ての指が伸びていく。約1m。どうやら肉弾戦を希望のようだ。しかし10本の剣と相手にするようなものか…


 私は両手に力をこめ、あれに対抗できうる物を想像する。

左手に棘がついたスパイクシールド、右手にノコギリ状に歯がついた1.5m程の剣が半透明な薄緑色のエネルギー体として出現する。


「堅実だねぇ。」


 男はニヤリと笑うと一気に加速し体をくねらせ下方から私に切り掛かる。

それをスパイクシールドで防ぎ棘に男の伸びた指を絡めそこを軸に薙ぎ倒す。

男はすぐ体制を立て直すが少しゆらめく。

一瞬できた隙をつこうと右足を踏み出した瞬間にいつもの頭痛に襲われ慌てて後方へ飛ぶ。


「やっぱりこんな手には乗ってくれないか。」


 危なかった。狙いが分かった上での突撃か。スパイクシールドを構え直し男を注視する。


「このままだとデータの計測には不十分だな…そうだ!こんなのはどうかな!」


 男の両腕が銀色になりランスのような太い円錐状に変わる。


「じゃあ行くよ!」

 再び加速しての突進だ。左からくるランスをスパイクシールドで弾き右から来たのを剣でいなす。

しかし攻撃は止まない。左右左右と連続して突き出される攻撃をギリギリのところで防いでいく。どんどん速度が…クソッ間に合わない!

右からきた攻撃を防ぎきれず顔の横を掠める。咄嗟に男の左手のランスを頭と腕で挟み込みスパイクシールドを男の腹部に叩き込む。男はそのまま右手のランスを突き刺そうして来るが予想の範囲内だ。

男の腹を蹴飛ばして再び距離を取る。

流石にあれを掴まれるのは予想外だったのかスパイクシールドの棘が男の腹部に突き刺さった様だが血は一滴も流れず穴は瞬時に塞がっていく。

なんだ?何か違和感が…叩いた感触がすごく軽かった。


「うーーーん。違うんだよなぁ。もっとこう。怒りとか憎しみの感情を見たいんだよね。ちょっと冷静過ぎるよトミー君。」


 こいつは何を言ってるんだ。データとはなんだ?感情エネルギーの出力とかそう言ったものか?何故そんなもの欲しがる。


「仕方ないな………面白いことを教えてあげるよ。君を殺した後、そんな遠くない将来にウィル君も殺すことが決まってる。どうだい?少しは熱くなれるかな?」


 な、なぜウィルを?この様子だと問いただしても答える気はないだろう。だがこの男が私を怒らせたいなら正解だ。最悪情報を持ち帰るために逃げることも考えていたがここで確実に仕留めなくてはならなくなった。


「あれ?何か質問してくるかと思ってたけどいいのかい?」

 男の口が耳付近まで裂けケタケタと笑う。

「でもとてもいい顔だ。それだよそれ!」


 男の頭が蛇のように細くなり頭が8つに分岐し、ものすごい速度で私に伸びてくる。

私は後方に距離を取りつつ右手の剣もスパイクシールドに変えなんとか弾いていく。

クソッもう下がれる場所が…。

 迫り来る鋼鉄の蛇を弾き続けるが流石に8本相手だと厳しいものがある。先程から段々といなしきれなくなり全身に切り傷が増えていく。

1.2.3.4.5.6.7…8本目がいない!下か!視線を急いで下に向けると地面すれすれを物凄い速度で這っていた。

全行動をスパイクシールドを地面に叩きつける事に専念する。が、ダメだ!間に合わない!これからくるであろう衝撃と痛みに身構えるが何故かギリギリのところで止まり縮んでいく。


「あれ、距離を見誤ったか。運がよかったね。ちなみに今みたいな時は頭痛は起きるのかい?」


 こいつ…頭痛のことも知ってるのか。一体何者なんだ。だが今ので分かったことがある。

こいつは身体の体積分しか変化させられないんだ。だからさっき両手を太い円錐状に変形していたときに叩き込んだスパイクシールドはあんなあっさり突き刺さり、感触も軽かったのか。身体の皮一枚残して全ての体積分を両手のランス分に使用していた。だがなぜ皮一枚は残した?体内にやはり弱点でもあるのか?


「トミー君。少しは会話をしようよ。さっきから独り言みたいで寂しいじゃないか。まぁでも君の表情を見る限り頭痛は起こらなかったんだね。やはり君の能力は脅威だなあ。早めに消しておくので正解だ。」


 男が左肘を上げると手の甲からホログラムが浮かび上がる。ここからでは何を見ているのか分からない。


「うーーん。やっぱり9割方同じパラメーターなんだよなぁ。なんで同じにならないんだろ。」


 戦闘中なのを忘れているかのように隙だらけに見えるが一歩踏み出そうとすると頭痛が起きる。こんなのは初めてだ。圧倒的な戦力差。今までのは所詮人対人なだけだったと思い知らされる。

戦争に置いて個人個人にそこまで差なんてない。

鍛え上げられた身体だから強いわけではないし小さいから弱いわけでもない。生き残るには知識と経験を踏まえた技術と運が必要だった。

だがこいつは違う。圧倒的に身体能力が違い過ぎる。



「まぁいいや、今回の分はデータ取り終わったしそろそろ終わりにしようか。」


 

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