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永遠の命で世界を救えたら。  作者: 渡利慶次
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第29話 声

  私のその言葉に男はニタァと不器用な笑みを浮かべる。先程からこの男の作る表情は極端なものが多い。


「ありがとう!じゃあ早速だけど、君は復讐に興味はあるかな?」


 復讐…か…あの息子を撃ち殺したトーマスと言う若い男。無駄な正義を振りかざすトミーと言う中年。そして基地で聞こえてきたあのヘッドギアを作ったというバーナードと言う男。確かに殺してしまえるなら…少しはこの気持ちも安らぐのだろうか。


「ゼロではないが全てでもないと言ったところか。それに見ての通り私の左足はもうダメだ。とてもじゃないが戦闘なんて無理だぞ。」


 男は怪訝そうな顔をする。


「そうかそうか、人の感情はやはり難しいな。あ、でも足はすぐ治るから平気だよ!」


 そう言ってローブの内ポケットから小さな箱を取り出し開ける。

中には黒い液体の入った注射が3本入っていた。


「これは私の……上司…、違うか…父………いや…神……うん。私の神。これがしっくり来るな。私の神がお作りになられた細胞が入ったものだ。」



なんだ?どう言うことだ。神だと?


「細胞?先ほどの発言と言い…人間ではないのか?」


 男はわざとらしく頭を抱え唸る。


「うーん…説明が面倒だな……要約すると私の神が私たちを作り、私たちを元に量産したのが君たちだ。だから君も私も似た存在だが少し違う。」


 訳の分からない情報が多すぎる。


「と言うことは君は天使か、それとも私たち人類の進化した姿なのか?」


「ははは!違うとも!そんな大それた者ではないさ!ただの失敗作だよ。少なくとも私の神は私にそう言ったしな。」


 失敗作…余計に訳がわからない。


「…先程から君の神と言ってるが私のとは違うという意味か?」


「半分正解で半分ハズレかな。確認できているのだけだが別にもう1人いるみたいなんだよね。神と呼ばれる様な存在が。」


 私は宗教には疎い…突然神だのなんだのの話をされてもとてもじゃないがついて行けそうにもなかった。


 男は私が話についてこれないのを察したのか話を続ける。


「まぁいいじゃないか!利害が一致してることだし!それにもう1人の方は注射を打てばわかるよ。」


 細胞を体内に取り込むと分かると言うことか、そのもう1人の神とやらは何が目的なのだろう。


「…君が私を殺さないと言う言葉は信用しているが…最後に打ったらどうなるかだけ教えてくれ。」


「説明するより打っちゃった方が早いんだけどな…まず君と言う存在は一つの細胞に収束される。

そしてそれを守るため仮の身体が生まれ、実質的な不老不死になる。

そのタイミングで『声』が聞こえるはずだ。僕の時は聞こえなかったけど、細胞を体内に取り入れた人はみんな同じ様なことを言うんだ。多分それがもう1人の神かなにかじゃないかな。この細胞を作ったのは私の神だが授かる力はただの副産物でね。」



「ははは。君の言う通り打った方が早そうだ。よろしく頼むよ。」


「だから言ったろ?ははは!」


 先程からずっとこの男の顔を見てるが何故記憶に留めるのが難しいのかが今わかった。

最初見たときと明らかに顔が違う…分かるか分からないか程度の速度で少しずつ顔が変わってるんだ。鼻の高さや顎の幅。目の角度から口角の位置、全てが微かに…

やはりこいつは人間ではない。

だがこいつが悪魔でも天使でもなんでも構いやしない。どうやら私もこれから人間を辞めるのだから。


 私は鉄格子の隙間から腕を差し出す。


 男は注射を箱から出し、圧をかけ空気を抜く。


 しかし不老不死か…笑える。どんどん私の願いからかけ離れた場所に向かっているな。

 

 神か悪魔か。呪いか祝福か。


 「君は本当によく笑うね。あ、そう言えばお願いの内容を話しそびれちゃったけど先に打っちゃって本当にいいのかい?」


 男は私の腕を掴み注射を構える。


 「ああ。大丈夫だ。君がこれから愉快な場所へと導いてくれるのだろう?」


「ははは!違うとも!君が作っていくのさ!」


「そうか!そりゃいいな!」


 私の腕に針が触れる。


「ひとつ言い忘れてたが約3秒程今までの人生できっと最大の激痛が走るけど頑張って耐えてくれ。その3秒を耐えれば痛みとは無縁の身体になるから一生分だと思えば余裕だろ?」


 男は不敵に笑い、私の返答を待たずに一気に私の腕に針を刺し込み体内へ黒い液体が注入する。


 腕の血管が黒く浮かび上がり内側へ内側へと身体が…ッツ…あああああ!!!


 全身を激痛が駆け巡る。


 身体が…身体が圧縮され…ぐああああああ!!



 


『神に近づかんとする者よ、お前は何を求める。 さぁ見せてみろ。お前をお前たらしめる心の奥底ににある感情を、願いを、そして魂を。』


 生きたまま溶かされる様な、全身を燃やされてる様な、全方位からプレス機で潰される様な。例え難い痛みに耐える。


 これが『声』か…また随分と偉そうな……クソッ…意識を…保てな…



 ハッッ!

 私は辺りを見回す。


「お目覚めかな!おめでとうバーンズ君。晴れて僕らの仲間入りだ。」

 男の声に我に帰り自分の体を確認する。指を動かし握りしめ、屈伸をし身体を伸ばす。何も問題はなさそうだ。それにどうやら若返ってる様に感じる。


「さて、まずは意識を自分に集中させてみてくれ。」


 私は言われ通り意識を自分に向け目を閉じる。

体内の一点に自分という存在があるのが分かる。

「ああ、これが私か。」


「うんうん。分かるかい?それが君だよ。君はその核が傷付きさえしなければ死なない身体になったんだ。ただ留意すべき点はひとつ。」

 男は人差し指を上げる。


「感情エネルギーによる集中砲火を浴び続ければ流石に再生速度が間に合わないから気をつけてね。」


 なるほど…完全なる不死ではないのか…

そして自分に意識を向けた時に感じた力。これが副産物とやらか。


「で、本命の力の方はどうかな?君の心の奥底にある願いはなんだったんだい?」


「ああ、一言でまとめるなら…後悔だな。もっと早く気づいていれば。もっと速く辿り着けば。あの時、あの場所に…それが今の私の根源らしい。」


 私は脚を開き正拳突きの構えをとる。


「ハッ!!!」


 目に見えない速度で拳が放たれその衝撃で鉄格子が容易く破壊される。辺りにはコンクリートと鉄の棒、そして、肉片が飛び散っていた。

放った右手を見ると肘から先が弾け飛び無くなっている。本当に痛みは無くなった様だな。


 鉄格子を破壊したからか不快感を煽る大きなサイレン音が地下牢に響き渡る。

 



「おいおい。力に身体が耐えきれてないじゃないか。」


 そう悪態をついて男を見るとどこにもいない。

地面を見ると先ほどの注射器の入っていた小さな箱が転がりその下に銀色の水たまりができていた。


「力を試すなら先に言ってくれよ。僕は汚れるのが好きじゃないんだ。」


 銀色の水たまりが浮かび上がり男を形成していく。これがこいつの能力か…


「さっきも言ったけど授かる力と不老不死は別々の神が作った物だからたまにこう言うことが起きるんだよね。だがいい能力じゃないか。使うたびに自分が傷付くのは難だが。」


 男は辺りを見回し聞き耳を立てる。


「他にも色々説明しようと思ってたんだけど時間があまりないみたいだ。で、君はどっちに行くんだい?」


 …どっち………ああ。復讐の相手か。


「…バーナードだな。」


「そうか、そしたら僕はトミーの方へ行くよ。

始末し終わったらここから西に5kmほど行ったところの再開発地区に高い建設中のビルがあるからそこで待ち合わせだ。よろしくね。」


「ああ!了解した。」

 

 私は脚に力を込め一気に加速し辺りに肉片を撒き散らしながら進む。早くこの力に慣れなくては。この感覚だと核だけになるまでにこの速度で走って約1分というところか。そして全身の再生に5秒。

それにしてもすごいスピードだ。すれ違う警備兵が皆止まってるように感じる。

一度全てを失ったが、この力さえあれば…きっと…。








 地下牢に1人残された男は液状金属に身体を変える。

「なかなかに強そうな能力だけど辺りを汚してくのは頂けないな……にしても…似た様な深層心理にしても同じ能力にはならない…か。かといって人生の経験や抱く印象を全て操るのは不可能に近い……まぁいい。」


 身体を紐状に変形させ換気ダクトに入っていく。


「とりあえずトミー君だな。情報収集も含め少し遊んでやろう。」



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