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永遠の命で世界を救えたら。  作者: 渡利慶次
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第2話 偽りの平和

 


 朝起きて父、母、妹の4人で食卓を囲み朝ごはんを食べる。それから妹と一緒に学校に行き、終わったら友達と遊び、帰ってお風呂に入り父の帰りを待つ。そしてみんなで今日あったことを話しながら夕食をとり眠りにつく。こんな毎日がいつまでも続くと思っていた。






 目覚まし時計の音が鳴り響く。


「んーーー!もう朝か…」

 そう言って僕は伸びをし、アラームを止める。ここでモタモタすると布団から出れなくなるのを嫌ほど経験してるため一気に布団を捲り、立ち上がる。


「うう、寒い。」


 いつも通りまずは1階に降りて洗面所で顔を洗い寝癖を治す。しばらくすると階段を降りる音が聞こえ扉が開けられた。


「あ、お兄ちゃんおはよー」


 アナが目を擦りながら入ってきた。今日はまた格段に寝癖がひどい。


「うん。おはよー」


 一言だけかわし僕は先にリビングに向かう。


 あれ?なんだろう。おかしいな。いつもならこの廊下で既に今日の朝食が何か分かるんだけど今日はなんの匂いもしないな。

少し疑問を抱きながらリビングの扉を開けると深刻な顔でTVを見つめる父と母がいた。


「おはよー。どうしたの2人とも、そんなTVに見入っちゃって。」


 父と母はこちらを向き「おはようウィル。」とだけ言ってまたTVの方へ向き直した。やはり何かあったみたいだ。


 こんなことは初めてだったので戸惑っていると後ろからアナがやってきた。

「どうしたのお兄ちゃん。早く入りなよー」

そう言って僕の背中を軽く押す。


 とりあえず食卓に座り2人がTVの前から離れるのを待つことにした。

アナも頭に疑問符が浮かんでるようだが何かを察したのか黙って食卓につく。

TVから聞こえるキャスターの声は重々しく、内容はよく分からなかったがいつもより暗いニュースなのはすぐ分かった。



 ようやく終わったのかTVを消した父と母はゆっくりと立ち上がり食卓に座る。


 父は真剣な顔をして僕らと向き合った。


「これから話すことはとても大事なことだからしっかりと聞いてくれ。」


 父がこんな深刻そうな話をするのは初めてだった。僕とアナはただ頷き父の次の言葉を待つ。


「政府による情報統制が行われていて学校やTVではロクに語られないが、環境汚染はここ20年で特に悪化しててもう手の施し用がないところまできてしまった。

私たちの住むこの国がたまたま他の国々より条件が良かっただけで、もうこの星の半分は長期の滞在ができないほどに悪化している。

このままだとウィルたちが私たちの年齢になる頃には人類はこの星に住めなくなるんだ。」



 汚染が進んでいることは知っていたけどそんなに酷いなんて。どこか遠い、僕の知らない世界の問題程度にしか考えてなかった。



「気づいていると思うがこの国はみんな人種がバラバラだろ?みんな逃げてきたんだ。

今のように独裁国家になる前は移民を受け入れ、助け合い。なんとかみんなで生きていける道を探そうと必死にやってきたんだ。

だがもう手遅れだと知った5年前から排他的な独裁国家になってしまった。

今までこの国が、そして国民が、こんなに大勢いるのに平和に過ごせていたのはなんでだと思う?」


 僕とアナは顔を合わせるが皆目見当もつかなかった。


「私たちの住むバレンチア帝国は元々世界でも三本の指に入る軍事国家だったからだよ。

他の国々を侵略して奴隷のように扱い、物資を奪い、育った作物を搾取してきたからなんだ。

今まではそれでなんとかなってきたがそんなことがいつまでも続くわけがない。

やはり許されることではなかったんだ。

さっきのニュースは私たちの住むバレンチア帝国や

、その同盟国に対してそれ以外の国々が連合を組み宣戦布告が行われたことを伝えるニュースだ。

要するに今日から世界の国々は2つに別れたんだ。」




 いきなり他の国の話をされてもよく理解ができなかった。僕の生まれる何十年も前に海外旅行とやらもなくなり外国のことをほぼ習わなくなった現代において政府や軍関係者以外、他の国々とは関わりがないのだから。



…だけど今の話で一つ分かっていることがある。これはどうしても訊かないといけない。



「お、お父さんは確か軍のお仕事をしてるって前に言ってたよね?僕たちの国が悪い事をしてたのをお父さんは知ってたの?」


 父は下を向き黙ってしまった。しばらく沈黙が続いた後、覚悟が決まったのか顔を上げる。


「知っていた。知っていたがもうこの国は、この星は治療の範囲を超えて延命しか道がないんだ。

最後にはみんな滅びる運命だが、せめてこの国。

いや…お前たちと一日でも長く平和にすごしたかったんだ。」


 父の声からは後悔と懺悔の気持ちが溢れていた。

母はそっと父の肩に手を置き目を赤くしている。

僕はそんな父を見ることができなかった。

 

 いつも優しく理解のある父親。何をしても勝てる気がしなかった尊敬する父親。そんな父親の弱いところを初めて見た気がする。


「弱い父親ですまない。」


 父は深く頭を下げている。


「だがとりあえず。ウィル、そしてアナ。今日からの生活は以前とは違ったものになる。早ければ今日にもこの国の本土へ攻撃が始まるだろう。

私が軍関係者だったのが唯一の救いだ。軍のシェルターがある。まずはそこに向かう。

学校に行く時に使うリュックに必要最低限の物を詰めてきなさい。さぁ急いで!」


 僕とアナは何の整理もついていない頭で階段を駆け上がる。

「お兄ちゃん、私たち大丈夫なのかな?」


「ああ、父さんがいるから大丈夫さ!心配することなんて一つもないよ!」


 僕はなんの根拠もないままそう答える事しかできなかった。

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