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永遠の命で世界を救えたら。  作者: 渡利慶次
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第25話 3年半前



「ゔーーーさっむいな…」


 身体の芯まで凍りそうだ。温度計は氷点下24℃を指している。


「所長!コーヒー入りましたよ!」


「おお!ありがとう!」


 基地から出てきたアンから湯気が沸き立つコーヒーを受け取り一口飲む。極寒の中で飲むコーヒーはなんでこうも美味しいのだろう。


 今日で北極に到着して52日目。政府の奴らに北極基地の使用許可を貰うのに3ヶ月近く要し、そして許可がおりていざ来てみれば建物はほぼ半壊しており最低限人が住めるようにするのに1ヶ月近くも要してしまった。スタートから散々である。

役人も役人だ。こんなオンボロを貸すのに何故3ヶ月もかかる。これだから公僕は…


 私は双眼鏡で現場を眺める。


「…汚染の影響がなく空気が綺麗でガスマスクが要らないのは喜ばしいことだが、こうも寒いと付けてる方がマシだな。君の顔の包帯が羨ましいくらいだよ。」


 ただでさえ静かな北極の大地に掘削の機械音が響き渡っている。


「はぁ…」

 アンのため息がこの凍った空気にやたらと響く。


「所長。流石にブラックジョークがすぎますよ?ホーカムさんも引いてるじゃないですか。」


「い、いえいえ!引いてなど!」


「このくらいで引いてたらこの先大変だぞ。」


「何を誇ってるんですか。反省して下さい。」




 北極には私とアンと研究所の若いのを5人連れてきている。アン以外なんの知恵も働かない無能だがこんな場所だ。人手はいくらあっても足りない。


「ホーカム。掘削業者のところに温かい飲み物を持って行くがてら進捗状況を聞いてこい。」


「は、はい!」

 

 ホーカムはすぐ後ろにある重たい鉄製の扉を開け、急いで基地に入っていく。


 北極に着き早速アンが地図に示した場所に行ってみた。だがそこには何もなかった。

何もなさすぎたのだ。その地点を囲む様に半径約100mを高さ4m程の高台が囲んでおり、まるで噴火口のようになっていた。

そこだけほぼ凹凸のないまっさらな分厚い氷の層があるだけ。

ここと指摘されれば気になるが何も知らなければスルーしてしまうような場所。そこに興味を惹かれた。地表に何もないなら地下しかない。

そう私は判断し発掘業者を呼び出し今は氷に穴を開けてる真っ只中である。


 だが既に私の胸は高鳴っていた。北極の観測史上最大の氷の厚さは10mだと言う。

だと言うのに昨日の時点で20m近くまで掘り進んでいる。

この時点で大発見だ。まぁ滅亡しかかってるこんな時代ではなんの賞賛もないだろうが。




 金属と金属の擦れる不快な音を鳴り響かせながら扉が開きホーカムが基地から出てくる。本当にこの音は不快だ。建物が傾いており扉の建て付けが狂ってるのだがこんなところまで直す予算がない。


「あ、私が閉めておきますのでそのまま行っちゃってください!」


 ホーカムはアンに感謝の言葉を告げ、魔法瓶とコップを持ち現場の方向へ駆け出していく。


 再び不快な音がなり基地の扉は閉められた。


「この音はなんとかならんのか?」


「なりませんね。所長の実費でなら考えますけど。」


 お互い顔を合わせてため息をつく。


 ただでさえ毎年減らされていく予算をどうにかするべく自分の給料を上乗せしているんだ。毎日生きていくための食事代すら勿体ないと思い始めてるのにそんな金はない。

何の実りもない会話をやめ本題に入ろう。




「今日で掘り始めて10日になるな。」


「そうですね。予算ももうギリギリなのでそろそろ結果が出てほしい頃ですが…」


「そうだな…だが頼んだ発掘業者が金にガメツクて困る。」


「仕方ないですよ…こんな時代に北極まで来てくれて作業してくれる業者なんて限られてますから…」


「分かってはいるがどうも足下を見られてる気がしてあいつは嫌いだ。」


「まぁまぁ。そう言わずに。いざと言うときはまだ手をつけてない半分があるじゃないですか。」


「…そうだな。何か見つかれば予算の全てをつぎ込んでも構わんしな。」


 




「所長!スタンレー所長!親方が呼んでます!」

 ホーカムがこちらに駆けてくる。


「お!早速何かあったか!いい話だといいん…だ…が…」

 ホーカムが近づくにつれ、あまりいい表情ではないのが分かる。

「確実にこれはいい話ではないな。ははは」

「…の、ようですね。」


 私はコーヒーを飲み干してアンにカップを渡し、ホーカムが向かってくる方へと向かう。


「あ、あの業者が…」


 業者の言葉を伝えようとするホーカムを遮る。


「もう直接聞きに行くから大丈夫だ。基地で暖でもとってろ。何かあれば呼ぶ。」


「はい!ありがとうございます!」


 そう言ってホーカムは走って行く。私の足取りは重い。こんなに金を注ぎ込んで何もなければ、またあの低脳なバカ記者に何を書かれるか分かったもんじゃない。







「いやーすみませんね!所長自ら来て頂いて。」


 こいつは発掘業者のリーダーで名前はショーン…だったかな。肉体労働者で体が資本のはずが肥満もいいところだ。

まぁほぼ重機に乗っての作業のようだし問題はなさそうだがやはり見た目の印象は大事だと改めて思う。

それにこんな気温なのにダラダラと汗を流していて暑そうだが寒そうというパラドックスを体現している。


「で、話はなんだ?」


「それがですね!今約30m地点まで来たのですが…」


「30m!?一体どれだけ分厚いんだ…」


「そうなんですよ。その時点で異常なんですが…」


「なんだ?早く言え。何かあったのか?」

 先ほどから勿体ぶった発言の続くショーンに腹が立ってきた。


「ドリルの音が少し変わりまして高音が響く様になってきました。なので私の勘だとそろそろ大きな空洞があると思われます。」


「おお!!本当か!最高じゃないか!早く開けてくれ!」


「いやね、スタンレーさん。私も肉体労働者だから頭は良くないが、北極の氷の空洞には数万年前の空気が残っていて未知のウイルスがーって話を聞いたことがありましてな。危険手当てでも貰わにゃ割に合わないなと…」


 クソッまた金か…本当にこいつは…


「ああ、分かった!見積もりの1.5倍払うからさっさと開けてくれ!」


「へへ!すまないね所長さん!今日中には開けられますんで!」


 そう言うとラリーは半分スキップしてるくらいの軽い足取りで重機へと戻っていく。

もう少し抑えられないのかこの馬鹿は…


 こんな場所だ人1人消えても誰にも分からない。掘り終わったら殺してしまおうかと頭をよぎるが冷たい風がすぐ冷静さを取り戻してくれる。


 一瞬の感情のためにそんなリスクは負うものではない。人間の命にそんな価値はないのだから。


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