第24話 バーンズ・レイモン
私とトーマスは民家の裏側にあった庭に穴を掘る。
捕虜にした男は男の子の手を握りしめ俯いていた。
本来なら敵国の遺体は回収班により一箇所に集められ一気に火葬するのが普通である。
疫病を発生させないようにするためとコストの問題だ。
理屈は分かる。だが私はどうしてもゴミでも捨てるかの様なあの光景が受け入れがたかった。
この男への償いだけではなく、この子をあの中に混ぜてしまうのが自分の中で許せなかった。
「そろそろいいか?」
「ああ。」
男はそれだけ言うと名残惜しそうに手を離す。
ここに今埋めなければもう墓は作れないことを察してるのか男は素直に応じている。
私とトーマスとでゆっくりと遺体を穴に置き土をかけていく。
「すまない。こんなところで…」
トーマスは唇を噛み締めていた。自分のしたことへの後悔か、ぶつけようのない気持ちが溢れそうなのだろう。
私たちは戦争をしている。軍人をやっていれば事故で意図せず人を殺してしまうことはある。
そのくらいは覚悟を………いや、違う。これは覚悟なんかじゃない。慣れてしまっただけか…。
だがこれはそのどれとも違う。わざとそうなるように仕組まれている。この男がバレンチア語を話せなければきっとこの男も殺してしまい何も気付かなかった。
だが何故だ。
何故そこまでして人を殺させたい。
本当に世界は間引きを始めたとでも言うのか…
こんなこと許されてたまるか。
私は捕虜の男を見る。
「まだ名前を聞いてなかったな。私はトミーでそっちはトーマスだ。」
「……そうか…。息子を殺したやつの名前はトーマスか…よく覚えておくよ。」
「ちょっと!隊長!」
「すまないトーマス。だが必要なことだ。で、あなたの名前は?」
男は俯いたまま黙り込む。
トーマスが何か言おうとするが手で止める。
「……バーンズ……バーンズ・レイモンだ……」
「そうか、レイモンさん。悪いが君には証人になってもらう。今となってはバレンチア語を話せるノセリアス人は貴重だ。」
バーンズは鼻で笑う。
「はん!なんの証人だ!お前らがどう愉快に私の息子を殺したか。のか?笑わせるな。」
私は自然と手に力が入る。怒りからではない。
これは悔しさからだ。平和に終わるはずだった。それが一体これはなんだ。
「違う…必ずこんな装置廃止させてやる。こんなすれ違いで人が死んでいい訳がない!」
「はははは!随分と身勝手だな!バレンチアらしい!
お前たちはいつもそうだ!自分達がバレンチアに生まれたからって人類として格が上かなにかだと思ってやがる!
俺たち後進国の人間を馬鹿扱いしてな!
自分らの国の発明だろ?認めろ!喜べ!褒め称えろ!!
その方がお似合いだぞバレンチアの悪魔め!
そんな装置がなくたってノセリアスでは飢えや病気で沢山人が死んでいる!
ガスマスクすら買えない奴がわんさかいるからな!
私の妻もお前たちに奴隷の様に働かされて最後は病死だ!
考えたこともないだろ?殺し合わなくても人は死ぬんだぞ!
不当に殺されてしまうのは許されない?バレンチアより圧倒的に多い餓死や病死は正当だと?
ふざけるな!
私から妻も息子も奪って今度はそんな茶番に付き合えだと?
ごめんだね!この世界にも人類にももう興味はない!本当に私のことを思うならばここで殺せ!」
私は言葉につまる。知っている。見て見ぬフリをしている。私たちは悪に違いない。
やはり本物のヒーローには程遠い。
自分が守れるのはほんの一握り、いやひとつまみ程度なのだと突きつけられた。
「落ち着いてくれレイモンさん。私も人の親だ。きっと同じ状況になれば殺してくれと願うだろう。だがそれはできない。確かに見えないフリをしていたことは認める。だが私には私の正義があるだけだ。せめて自分の手の届く範囲だけでも守りたい。協力してくれ。頼む。」
私は頭を下げる。
「なら話は終わりだ。さっさと牢屋にでもぶち込んでほっといてくれ…」
「トミー!遅かったじゃないか!何かあったのか?その捕虜は1人だけか?先に帰った君の部隊からは2人いたと聞いていたが…」
私はジェフの胸倉に掴みかかる。
「お前は知ってたのか!!」
ジェフは驚いた顔をしている。
「何をだ!?どうした!落ち着けトミー!」
私はジェフを前後に揺さぶりながら怒鳴る。
「本当に知らないのか!このヘッドギアのことだぞ!」
「ヘッドギアがどうした!?何があった!?とりあえず落ち着いて話を聞かせろ!」
本当に知らない…のか?
「…すまない。少し感情的になった。」
指揮官に掴みかかると言う異常事態に周りの連中が野次馬の様に群がっている。
「ここでは難だ。ジェフの部屋で話そう。」
「分かった。」
ジェフの部屋に入り私はこれまでの経緯を説明した。
「申し訳ない…そんな装置だとは思ってもいなかった…そんな説明誰からも受けてない。まさか本当に間引きでも…」
「お前も噂は聞いていたか。」
「ああ、上層部ではこの噂でもちっきりだからな。」
「上層部でも噂程度なのか?真相を知っていそうなのはいないのか?」
「うーむ…私も中佐止まりだからなんとも…会議で中将までは会うことがあるがそこまではみんな噂話の域を出ていなそうだったな。」
「そうか…ラウルのやつも中将だったな…」
「そうだな。で、お前はこれからどうする気だ?」
「このヘッドギアを作ったやつに接触したい。私の勘が正しければ何か知っていそうだ。」
「そんなところだと思ったよ。ちょっと待ってくれ。」
そう言ってジェフはタブレットを操作する。
「作ったのは帝都第4支部の武器開発部門の所長だな。名前はランディ・J・バナード教授だ。」
「ありがとうジェフ。だが第4支部か…元いた場所だな。それで頼みがあるんだが…」
ジェフが分かりやすくため息をつく。
「ああ、分かった。君が連れてきたのを含めると捕虜がいま5人いる。そいつらを第4支部の地下収容所に連行する任務を明日与える。それでいいな。」
「ああ、話が早くて助かるよ。」
「このくらいしかできないがな。とりあえずここの部隊にはヘッドギアの装着を見送らせる。後はお前次第だ。」
「任せておけ。」
「だがあまり無茶はするなよ?感情エネルギーの登場から武器開発部門も権力を持ち始めたからな。」
「ああ、分かったよ。」
私は部屋を出て自分の部隊のテントへと向かう。
これは私のしなければならないことだ。前線に立ち続け何の権力のない私でなければ直接乗り込むことなどできない。どれだけ自分の国が腐っていてこの戦争に勝つためだと言っても私には私の正義がある。




