第23話 フォックスマン
トーマスと私は半壊した建物の間を走る。少し振り返りトーマスの表情を伺うと少し不安げな顔をしていた。だが敢えて無視する。戦場は少しくらい不安があった方がいい。変に馴れ合うのは間違いだ。
「オブライエン隊長!」
「どうした!トミーでかまわんぞトーマス。」
「で、ではトミー隊長。」
「どうした?」
「失礼にあたるかも知れませんが聞かせてください。何故人を助けることにそこまで重きをおいているあなたが軍人などやっているのですか?」
私は一度足を止めゆっくり歩き出す。目に映るマップによると負傷兵と思われる反応まであと200mだ。一応罠の可能性も考え周囲を警戒しながら進む。
「一秒でも早く戦争を終わらせるためさ。それに家族を守りたいから…だな。まぁあとはやはり昔見たコミックのヒーローに憧れたのも大きい。」
「コミックのヒーローですか…あ!もしかしてウルフマンですか?かっこいいですよね!」
「違う違う。作品は合ってるがそんな派手なのじゃないさ。稀に登場するフォックスマンの方だよ。」
「なぜですか?フォックスマンなんてどっちつかずな気まぐれな奴じゃないですか。憧れるならウルフマンが普通じゃ。」
「ははっ!お前は何も分かってないな!見た目の派手さや強さはもちろんウルフマンの圧勝だがフォックスマンはフォックスマンにしかできないことをしてるのさ。何だと思う?」
「わ、わかりません。」
「自分の正義を貫くことさ。彼は敵だろうと味方だろうとちゃんと話を聞く。
自分が正しいと思うことをしようと必死なだけさ。それで何度も失敗してるが、それで何度も命を救っている。フォックスマンは何度でも立ち上がるんだよ。地味だったがその姿に憧れてね。」
赤い反応が出てる場所まで約50m地点で足を止める。
「トーマス。無駄話はここまでだ。多分あの民家だな。」
私が指示を出すとトーマスは左の建物沿いを警戒しながら歩く。私は右手側だ。
何事もなく目標がいるであろう民家の前まで辿り着く。罠ではなさそうだな。
扉には無理矢理こじ開けた跡がある。確実にここだろう。
トーマスが扉を開け私が自動小銃を構え突入する。
クリア。
玄関と廊下の安全を確認してトーマスをハンドサインで呼ぶ。
ゴトン。
微かだが1番奥の扉から物音がした。私はヘッドギアの同時翻訳機能をONにして扉の前まで向かう。トーマスもONにし、再び私の指示を待つ。
ゆっくりそして深く静かに深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。何度やっても慣れないな。
この時が1番緊張する。
トーマスに目で合図を送り一気に扉を開け突入する。
「無駄な抵抗はやめ、武器を捨てて手を上げろ!お前たちを捕虜にする!」
部屋にいたのは50代と思われる男とまだ14〜15歳くらいの男の子だった。
50代の男は足を負傷してる様だ。きっと逃げられずこの子が守っていたのだろう。
男の子が立ち上がりこちらに近づく。手にはハンドガンが握られていた。
何故近づく?疑われているのか?
「銃を地面におけ!負傷しているのは父親か?捕虜にするとは言ったが治療もするしそこまで酷い扱いはしないと約束する。信用してくれ。」
私の言葉を聞いて男の子は一瞬足を止めたが銃を置く素振りもせずまたすぐ歩きだした。
男の子が小さな声で何か言ってるようだが聞き取れない。なんだ?何故捨てない。
「止まれ!止まれと言っているんだ!」
トーマスが怒鳴る。しかし歩みを止める気配はない。
ん?なんだ視界が…一瞬。
近くで見た男の子は目が血走り憎悪に満ち溢れた顔をしていた。
「殺してやる。殺してやる。」
こんな憎悪に満ちた顔は初めて見る。それほどまでにバレンチア帝国の搾取は酷かったのか…いや、何かがおかしい。
「そうだ!殺せ!殺すんだ!!」
負傷した男が叫ぶ。
その言葉にトーマスがハンドガンを男の子に向け構える。
「それ以上近づくと撃つぞ!止まれ!」
「よせ!トーマス!なにかおかしい!」
身を乗り出しトーマスの手を逸らそうとするが私の右手は空を切る。ら
狭い部屋に銃声が鳴り響き静寂に包まれる。
男の子のお腹は血で滲んでいく。何が起きたのか呆気に取られた顔をしたまま崩れ落ちる。
「何故撃った!」
男の子の元へ左足を庇う様に匍匐前進で男が近づく。
「バレンチアの犬ども!息子はずっと助けを求めてたじゃないか!!クソッ!おい!クリフ!しっかりしろ!逝くな!俺を置いていくな!!」
私はトーマスに銃を降ろさせる。クソッ何かおかしい。何が起きてる。
「お前バレンチア語が喋れるのか…?」
「それがなんだ!黙れ!悪魔め!クリフ!おい!クリフー!!」
「お…お父さん…」
「喋るなクリフ!きっと助けてやる!クソッ!血が止まらない!」
「お父さん…ごめんね…先にお母さんのところで…」
男の子の目から涙が一筋流れ握られていた手が力なくこぼれ落ちる。
どうやら逝ってしまったようだ…クソッ訳がわからない。何が起きてる。
「おい!バレンチアの犬ども!!俺も殺せ!この子を殺したように!どうした!さっきまでの威勢は!!殺せー!!!」
男が手を大きく広げこちらを睨み付ける。
トーマスは銃を構え私の指示を待っているのかこちらを伺う。
「よせトーマス。何かおかしい。矛盾している。」
トーマスは警戒しつつ銃を下ろす。
「息子さんのことはすまない。君は捕虜にする。トーマス。その子の遺体を運んであげろ。」
「ふざけるな!!なんなんだ!お前らの行動は支離滅裂だ!殺すと言ったり助けようとしたり意味がわからない!何がしたい!」
「殺すと言っただと?」
何を言ってるんだこの男は、最初から私たちは助けようと…
「トーマス!今すぐヘッドギアを外せ!」
「は、はい!」
私はヘッドギアを外し地面に叩きつける。こいつが原因か!沸々と怒りが湧き上がる。
「お前にいくつか質問をする。何故バレンチア語が喋れる。そして何故私達が入ってきた時はノセリアス語で返した。」
「8年前まで出稼ぎで家族と共にバレンチアの田舎に住んでたからだ!それにお前らがノセリアス語で話してきたからノセリアス語で返したまでだ!それがどうした!」
「分かった。次の質問だ。トーマスは周辺の警戒をしててくれ。」
私はハンドガンを一応この男に向ける。こうしなければトーマスは私1人置いていくことはしないだろう。
予想通り構えられたハンドガンを見た後軽く頷きトーマスは部屋の外に出ていった。
「この部屋に入って来た時ノセリアス語で私は何と言っていた?」
「は?お前何を…」
私はハンドガンを更に男に突きつける。
「早く答えろ!」
「じゅ…銃を置いてそこに並べ、1人づつ殺してやる…そうお前は言った…」
やはりだ。
「そうか、私にはお前たちからの言葉が憎悪がこもった声で殺してやると聞こえていた…」
「なんだと!?息子は武器はこれだけだ、今そちらに渡すから殺さないでくれと…」
男は天井を見上げる。
「そうかそういうことか!ははははははは!バレンチアらしい悪魔の発明だな!ははははは!」
男は高笑いしながらも瞳からは涙が溢れでていく。
「そんなことで息子は死んだのか!ははははははは!」
「すまない…」
私は男に向けていたハンドガンをしまう。
「謝って済むことではないのは百も承知だ。だが…本当にすまなかった。こんな…こんなはずでは…
バレンチア帝国がここまで腐ってるなんて…。」
男の流す涙が男の子の顔に零れ落ちる。まるで男の子も泣いている様だった。男はそのまま狂った様に笑い続けた。




