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永遠の命で世界を救えたら。  作者: 渡利慶次
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第16話 膨れ上がる憎悪

「お待たせ。オレンジジュースしかなかったが大丈夫かな?」


「ありがとう。大好物だ」

 ラウルは知っていると言わんばかりの懐かしい笑顔をしている。防衛大学時代に自販機でこればかり飲んでたのを覚えてたみたいだ。


「本当に君の口はお子ちゃまのままだな。」


「ハハハ!まだまだ若い証拠さ!」


 そう言って私はオレンジジュースを口に運ぶ。

オレンジジュースと言ってもオレンジは1mmも入ってなく、100%人工甘味料で作った紛い物だが。

今ではオレンジ自体が高級すぎてなかなか手に入らないのにわざわざ絞った果汁だけ飲むものなどいない。だがこれも慣れてしまえばなかなか美味しいものだ。やはり飲みなれたものが一番だ。





「さて話に戻ろうか。」

 そう言ってラウルはタブレットを出してきた。


「もしも、の話だ。」

 そう前置きをして話を続ける。


「この感情エネルギーの発見により例の移住計画が進み始めたとする。」


 私は頷く。


「だが移住計画の話が始まった当初から議論されていた事が問題になってくる。」


「ああ、有耶無耶になっているがこの星に住めなくなる前に本当に間に合うのかってのは言われてたな。それに確実に置いてけぼりにされる人間は出てくる。」


「そうだ。この星に人類が住めなくなるのは早くて約40年後と言われている。ここまではいいかな?」


「ああ、それがどうした?」


 ラウルはタブレットを操作し、この星を模したホログラムが浮き出る。


「この戦争の結果この星はどうなると思う?」


「そりゃ核だのなんだのの撃ち合いに、それによる自然破壊が続けば確実に環境汚染は進行するだろ?」


 ホログラムは私の言う事を予想していたように各国から核が打ち出され被弾する様が映し出されていた。


「ああ、そうだ。計算上の話だから誤差はあるだろうが5年は早まるそうだ。」


 そう言ってラウルは新しく入れ直したコーヒーにミルクを注ぎかき混ぜる。


「だがな、現在進行しているこの戦争、世界が2つに別れたこの戦いで半分の国が消滅すれば30年は環境汚染の進行を遅められるとも出ている。

まぁ極端な話だがな。

結論から言うと核だのなんだのはこの星にとって大した事ではないんだ。諸悪の根源は増えすぎた人類なんだよ。」


 私は絶句した。間引きするとでも言うのか?


「これを何度も繰り返せば自然と人口は減少して行き、争いなく移住ができるだけでなく移住先の整備や宇宙船の開発の時間も稼げる。」


 ホログラムには戦争を何度も繰り返すその過程とそれによる環境汚染の進行度の試算グラフが映し出されている。


「いや、まさかそんな。本当にそんな馬鹿な事を…」


「あくまで仮定だ。私もあり得ないと思っている。

今回は元々ある国家間のいざこざや憎悪なんかを利用して国民を煽動できているが例え上手くいくとしても今回の戦争だけだ。半分になった国がまた争いの火種を作り戦争を始めるには時間がかかる。そんな短期間では国民の心に火はつかないんだ。」


 沈黙が続く。


「そうか、そうだな。流石にあり得ない。」


 私より格段に頭のいいラウルが否定するんだ、疑念は残るが…一応私の方でも探りを入れてみよう。


 私はオレンジジュースを口にし、もう一つの違和感を思い出す。


「そうだ、あと一つ気になることがあった。」


「なんだい?」


「何故バレンチアは徴兵令を敷いたのに部隊は選択の自由があるんだ?無理矢理に軍に入れるんだ、そんな人々がわざわざ危険度の高い攻撃部隊を選ぶとはとてもじゃないが思えないんだが…」


「ああ、それか。私も上からのお達しで詳しい説明は受けてない。だが今現在、各地域のデータが届く限りでは6割は攻撃部隊希望だな。」


「そうなのか!?流石に多すぎるだろ。なんでなんだ?」


「ニュースは見たか?」


「いいや、宣戦布告のニュース以来まだ見れてない。」


「そうか…ザヴ島は覚えてるか?」


「小さい頃に何度か行った。今じゃ廃れてるが元リゾート地だろ?」


「ああ…そこが消えた。」


「は?消えた?文字通りの意味か??」


「そうだ。どんな兵器が使われたかは不明だ。軍もまさかそんなところ攻撃されるとは思ってもなかったようでな、一瞬の出来事だったみたいだ。」


「そう…なのか…」


 私は言葉に詰まる。一体何人の人々が死んだんだ…確か段々と寒くなるにつれて客が減り、一年中冬のようになってしまってからは観光地としては完全に廃れてしまったが住人は下手な都くらはいたはずだ。


「その件と、宣戦布告から僅か2時間後の本土への攻撃。これがあまりに非人道的だと大々的にニュースは取り上げていてな、国民の憎悪が膨れ上がってる。その影響だろう。」



「そうか……それでか…。こうして連鎖は続くんだな。私たちはなんて愚かなんだろう。」

 私は天井を見上げる。個人、家族、民族、そして国。この悲しみの連鎖を始めたのは誰なんだろう。もう知りようもない事だが。


 この人類に纏わりつく鎖は今までで一度でも解けたことなどあるのだろうか。


「私もそう思うよ。」


 しばらく無言が続く。

その静寂を断ち切ったのは扉をノックされた音だった。



「どうぞ!」


 ラウルが呼びかけると扉が開かれ秘書さんが入ってくる。


「長官。流石にそろそろ書類を進めないと終わりませんよ。」

「本当だ!もうこんな時間か!」

 ラウルは慌てて立ち上がる。


「トミーまた話そう。」

「ああ、ラウルまたな。すまなかったね秘書さん。」


 私はオレンジジュースを一気に飲み干すとソファーから立ち上がり歩き出す。

扉のドアノブに手を掛けたところでふと聞きそびれた事を思い出し立ち止まる。


「そう言えばデイブには話したのか?」


 ラウルは首を振る。


「いや、こんな時代だ。知らなくていいこともあるだろう。」


「そうか。」


 ラウルが話す気がないなら私もそうするべきだ。


 扉を開け廊下に出る。


 まずは私のできる範囲で探ってみよう。やはり気になるのはスタンレー教授だ。

もう既に消されてしまった可能性も否定できないが何かを知ってしまいどこかに隠れてる可能性もある。

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