第10話 正義って
「なんだ待ってたのかウィル。」
「うん。少し話がしたくて。」
「そうか。」
父は僕の隣に腰掛ける。
僕の次の言葉を待ってくれてるのだろう。この沈黙に父の優しさを感じた。
「…僕は、僕は何か間違えたのかな。」
「いや、間違えてなんかないさ…」
そう言うと僕の手の上に父の大きい手が添えられた。
「僕は今まで人を助けるのに理由が必要だったり、
助けない方がいいことがあるなんて知らなかったんだ。」
「ウィル!それは違う!そうじゃないんだ。」
父は首を振った。僕の手を強く握り締めなおし話を続ける。
「私はこの国の軍人として汚い事も沢山してきた。だから正義を語る資格なんてないかもしれない。
でも聞いてくれ、今お前は大人になる一歩手前で色んなことに悩み、もがき苦しんでるだろう。でも答えなんてないんだ。
それにいかに立ち向かうかが大人になることだと私は思う。」
「うん。」
「何が正義なのか、何が正しいかなんて人それぞれで、結末まで見なければ正解なんて分からないものだ。
だが…だからこそ人はその瞬間瞬間に自分が正しいと思うことをするしかない。
本来正義ってのはもっと単純だったんだ。なのにきっと大人が歪めてしまった。
困ってる人がいたら助けたい。
傷ついてるなら寄り添ってあげたい。
一人で歩めなくなっているなら肩を貸してあげたい。
本当はそんな単純で些細なことなんだ。
それを綺麗事や偽善だと騒ぎ立てられ、次第にそんな簡単なことができなくなる。
助けられる側の人も人を信じれなくなって人を頼る事をしなくなってしまうんだ。
きっとそんな単純な事がみんなできていたらこの星もこんなことになってはなかったのだろう。
だからお前は間違ってなんていない。
お前が正しい。ウィルにはそれを忘れないでいて欲しいんだ。お父さんと約束してくれ。人を助ける事をやめないと。」
数日前に母にも同じことを言われた。あの時はよく分からなかったが今やっとその意味が分かった気がした。
僕の膝を涙が濡らしいく。あんなに泣いたのにどこから出てくるのか不思議なほど溢れてくる。
でもどんなにみっともない鼻声でもいい。ちゃんと返事をしようと思った。これは父との約束だから。そして弱い僕との訣別のため。
「うん!わがっだ!ぼぐはぜっだい!だすけるのをやべない!」
僕の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
「本当にお前は泣き虫だな!」
そう言って父は笑いながら僕の頭を激しく撫でる。
「ゔるざい!」
僕は父の胸を借りひたすら泣き続け、父はその大きな身体で僕を包み込んだ。
次の日の朝。
メーガンさんの慌ただしく大きな声で目を覚ます。
「みんな!起きてください!救助隊の方達が来たわよ!」
そう言い切るとメーガンさんは膝に手を当て呼吸を整える。きっと教会の外から急いで僕らに教えようと駆け降りて来てくれたのだろう。
「本当か!」
「私たち助かるのね!」
次々と喜びの声があがる。
そこからは早かった。出発の準備をみんなで手伝い合い、急いで済ませる。そしてみんなで列を作り階段を上がっていく。
ミセス・プルマンの葬儀に参列しなかった人たちは久しぶりの外だ。みんないい顔をしている。こんな汚いはずの空気でも外の方が気持ちよく感じるのだから不思議だ。
教会の外には既に父がおり軍関係者として先に救助隊のリーダーと話をしていた。
「そうか、やはりな。彼の様子は?」
「いや、一言二言しか交わしてないならなんとも。」
「…そうか。ありがとう。」
なんの話をしてるんだろう。
周りを見渡すと救助隊の人らが10名ほど来ていた。何人かは銃も所持している。
「アナ!ウィル!!」
聞き慣れた声に振り向く。少し赤みがかった茶色の短髪がよく似合う好青年。間違いなくデイブだ。
僕の名前も呼んだ割には僕には目もくれず一直線にアナへと駆けて行く。
「デイブ!!!」
アナとデイブは抱きしめあう。好青年と美少女だ。絵になっている。久しぶりに見た温かな光景に心が少し安らいだ。
デイブの存在に気づいた父と母もこちらへと向かってくる。父はここからでも分かるほど笑顔だ。
「おお!デイブ!デイブもいたのか!無事で良かった!親御さんも無事か?」
「はい!父と母は今軍の施設にいます!」
「そうか!それは良かった!それはそうと、何故デイブは救助隊と一緒にいるんだ?」
「2日前になんとか戦線を国境まで押し退けて救助隊を派遣することが決まったと父に言われたので僕も参加させて欲しいとお願いしたんです!
オブライエンさんがいるので無事だとは思ったのですが所在が分からなかったので不安で…いてもたってもいられず…」
そう言ってデイブはアナの方へ視線を送る。
「そうかそうか!本当に頼りになるな君は!」
そう言ってデイブの肩を強めに叩く。
「アナの事は頼むぞデイブ。」
「ちょっ!やめてよお父さん!!」
アナが父を叩こうとするが父は軽くいなす。
「こう言う時は素直に叩かれろー!!」
「ハハッ!ごめんだね!」
子供のような笑顔で逃げる父をアナが追いかける。そのやり取りに家族みんなが笑っている。
デイブが来たらすぐこれだ。流石にはしゃぎすぎ……いや、このくらいの方がいい。こんな時だからこそか。
久々にみんなの笑顔を見た気がする。
「やっぱデイブには敵わないや。」
デイブは僕のその言葉にキョトンとした顔を見せたがすぐ声をあげ笑う。
「はははは!やっと分かったのかい?君は僕には敵わないのさ。」
はしゃぎながら笑うデイブに僕はヘッドロックをかける。感謝の気持ちをこめて。
「調子に乗りやがって!」
「ちょっ!やめ!!ギブギブ!!冗談だよ!冗談!!」
それを見てまたみんなが笑う。
本当にデイブには敵わないや…
「みんな揃ったか?そろそろ出発するぞ!」
救助隊のリーダーがそう言うと空の景色が歪み大きな飛空艇がゆっくりと姿を現した。
僕は初めて見る技術に目を白黒させた。周りを見ればほぼ全員が同じ反応をしてる。
「こ、こんな技術があったなんて…光化学迷彩ってやつだよね??知らなかった…」
「技術は力だからね!独占するからこそ価値がある!ってやつだ。」
そうデイブは誇らしげに言う。
「科学技術国家と呼ばれてるビケイノックくらいじゃないかな?一般人も技術の発展の恩恵を得られてるのは。大体のものは軍事転用から始まって一般人が触れられる様になるのはだいぶ先だからね。でもあそこはどうせ滅ぶと知ってからやりたい放題らしいからなぁ…」
「デイブって本当に物知りだよね!」
なぜだかアナが誇らしげにしてる。調子のいいやつだ。
プシューと言う大きなエアー音が鳴り、船の腹部分にある円形のハッチが開く。
「さぁみんなハッチの真下へ!初めてで驚くかもしれないが力を抜いて身を任せれば平気だ!」
リーダーの体が浮く。だがそれに驚く暇もなかった。自分の体も浮いたのだから。
みんな言われた通り力を抜いて身を任せる。
やがて皆が船内に入るとハッチは閉められた。
「反重力システムだね!これは僕も今日初めて経験したんだけど本当にすごいよ!胸が高鳴って止まらないよ!」
デイブは今日何度も経験してるだろうにとても興奮している。
いや、実は僕もだが、これを経験して興奮しない男子などいない。
「とは言ってもまだ想定していた実用化までは至ってないがな。」
後ろを振り向くと髭を蓄えた体格のいい年配の男の人が立っていた。左腕は鉄製の義手になっている。
「計算がとても難しくてね、光化学迷彩も反重力システムも、未だに静止してる時しか使えないんだ。ハッハッハッ!」
大きな笑い声に船に乗ったみんなの視線が集まる。
「初めまして!この船の船長、クロウニーだ!これから帝都にある軍の施設に向かう!
急に戦争になってみんな大変だったと思うが、これからのがもっと大変だぞ!ハッハッハッ
まぁ着けば分かるさ!とりあえずは安心して休んでいてくれたまえ!到着は1時間後だ!」
こうして僕らの避難生活は終わった。




